海外進出も果たしたペット動画メディア『PECO』の共感戦略とは

『PECO』は2017年より動画配信をスタートしたペット動画メディア。今では月間利用者数1000万人を突破し、ペット動画を主軸に中国への海外進出も進めています。今回は、『PECO』の編集ディレクター友部竜太郎さんに、ペット動画の編集の際に重視していることや、海外進出について伺いました。

動画配信にとどまらないユーザーを巻き込むPECOの施策

——ペット動画メディア『PECO』のメディアやユーザーについて教えてください。

友部 竜太郎|Tomobe Ryutaro 株式会社PECOの編集部ディレクター。新卒で入社し、Web記事を中心とした編集業務を担当。動画がメインコンテンツとなった現在は、“かわいい動画”の編集ディレクターとして活躍している。

友部竜太郎さん(以下、友部。敬称略):“世界中のうちの子に、永く幸せな暮らしを”というコンセプトのもと犬・猫・小動物などの飼い主さんに向けて、動画や記事を配信しています。昨年からは季刊の雑誌も通販のみですが販売もスタート。いわば『PECO』は、ペット総合メディアです。現在では、Webサイトの月間利用者数が1,000万人、SNSフォロワーは総数300万人に達するなど、ファンも増えてきています

今の日本において、ペットは非常に大きな存在となっています。一般社団法人日本ペットフード協会「平成30年(2018年)全国犬猫飼育実態調査結果」によると、犬と猫の飼育頭数は1800万頭と推測されているのですが、これは15歳未満の子どもの人口よりも多いんです。こんなデータからも家族の一員として、ペットに愛情を注ぐ家庭が増えていることがわかります。
そこで『PECO』では、動画や記事といったコンテンツを通して、ペットを愛する人たちが“うちの子”とさらにいい関係を築き、幸せに暮らせるお手伝いをするメディアを目指しています。

——具体的にどのようなコンテンツを発信しているのでしょうか?

友部定期配信している記事コンテンツは、獣医監修の役立つ知識やペットに関する最新イベント情報などを扱っています。動画コンテンツは、ペットの飼い方やしつけ方など、飼い主さんにとってためになる“お役立ち動画”と、ペットのかわいい姿が見られる“かわいい動画”の2軸で展開しています。

また、アプリやWebサイトのほか、Facebook、Twitter、InstagramといったSNS、外部のニュースサイトにも記事や動画を配信。特にInstagramでは、犬・猫別、PECO TVと複数のアカウントを作ったり、「#ペコねこ部」「#ペコいぬ部」とハッシュタグを活用し、それらがユーザー同士のコミュニケーションの場にもなっているんです。

『PECO』のアプリ。「ねこ」「柴犬」「子犬」「子猫」といったカテゴリーに分けられ、好みの動画が見られる。気づくと何本も動画を視聴してしまうことも。

このような接点を増やすだけでなく、ユーザー視点での使いやすさも工夫をしています。たとえば、アプリのUIです。以前は、動画を新着順で配信していたのですが、犬だけ、猫だけなど、ユーザーが好みのペット動画を見られるように、犬猫でタグ分けすることで、見たい動画を探しやすくしました。
すると、ユーザが連続して視聴する本数が増え、アプリ全体の利用時間も延びる結果に。ちょっとの工夫ですが、ユーザーがペット動画をどういう気分でみたいのかを想定して変えたのが功を奏したのだと思います。

長尺動画を最後まで視聴してもらうカギは“かわいい”という共感

まずは、『PECO』で人気の犬と猫の動画を見てみましょう。

——すごくかわいい犬猫の動画ですね。優しさにあふれていて、みているだけで和みます。これらの動画は動画は自分たちで作っているのでしょうか?

友部:今回紹介しているのは“かわいい動画”と弊社では呼んでいるのですが、このジャンルは、PECOファンである飼い主さんから提供してもらった動画や、弊社のペットタレント事務所「PECOプロダクション」に所属する子を中心に、ユーザーにかわいいと共感してもらえそうなものを探して、編集し、掲載しています。
この“かわいい動画”を作る上で大事なのは、何と言ってもコミュニケーション。
取り上げたい動画の投稿者にまずコンタクトを取り、ペットとのエピソードやその子の個性を取材するのですが、そのときにどれだけ深くコミュニケーションを取れたかで、動画の構成内容にも大きく影響してきます。

それから動画だけでなく、写真も追加で提供していただき、動画と写真を使って全体のテンポを作り、取材で聞いたエピソードを踏まえたテロップや音楽を入れて1つのストーリー性のある動画を作っていきます。
この“かわいい動画”の尺は、短いもので1分程度、長尺だと3分以上の動画もあります。

このほか、もう1つ“お役立ち動画”というジャンルがあります。このジャンルは、ペットの飼い方やしつけ方、病気など、飼い主さんが知りたい情報を盛り込んでいて、編集部で動画制作をしています。だいたい30秒程度に収まるように作っていて、社内には、家のリビングを再現したスタジオがあります。

本社の地下にあるスタジオ。家のリビングの雰囲気を意識したセットになっている。

——ちなみに、3分の長尺動画は最後まで見られているのでしょうか?

友部:長尺なものでも実際、最後まで見てもらえています。
ただ、動画をそのまま流すだけでは離脱されるので、長尺の場合は、ちゃんとストーリーとして展開し、吹き出しを入れてペットが話しているような演出をしたり、写真と動画を組み合わせて緩急をつけるなどして、「かわいい」と共感しながら最後まで見てもらえる工夫をしています

——メディアとして発信するペット動画で気をつけていることはありますか?

友部:ユーザーと飼い主さんが、動画を見て「かわいい」と共感できるかどうかは意識しています。特に、“うちの子らしさ”があり、「そうそう、うちの子ってこんな子なんだよ」と飼い主さんに共感してもらえることも大事ですね。

それから、もう1つは安心感。ペット動画は、ペットを飼ってるか飼ってないかで見る視点が違うんです。ペットは大切な家族の一員ですから、飼い主さんは常にペットの周りに危険がないかを注意しています。これは動画をみている時でも同じで、自然と、そのシチュエーションなどが気になったり、心配になったりしてしまいます。そのため、『PECO』では、飼い主さん目線を大切にして、常に飼い主さんが安心して楽しめる動画コンテンツを届けるようにしているんです。そんな安心感も、飼い主さんやユーザーに共感される背景になっているではと思います。

共感視点でいうと、2019年の12月から『MY DOG』という季刊誌を発行しているんです。この雑誌の特徴が、“うちの子”を表紙にできるということ。うちの子が表紙になるって、自分も柴犬を飼っているんですが、多くの飼い主さんに共通する夢なのではと感じています。“うちの子”が表紙になった世界に1つだけの雑誌を手にしたときに感動や共感が生まれるのではないでしょうか。ユーザーを広く巻き込めているのは、Web動画だけでなく、雑誌やSNSなどを複合的に活用できるメディアだからこそなのかもしれません。

かわいいの共感は、海を越えて世界へ

——動画で海外進出をしようと思ったのはなぜですか?

友部:ペットへの愛情は世界共通だと思っているからです。そのため、『PECO』が展開しているペット動画のコンテンツはグローバルにきっと受け入れられるのではと、考えていました。それは、半分正解でしたが、残り半分は日本のやり方が、そのまま通用しませんでした。

というのも、動画素材自体は日本と海外で人気の傾向に差はなかったのですが、動画の編集の仕方については日本人との感覚と大きく違っていたんです。

そんななかでも、海外進出の第一歩に中国を選んだのは、SNSでグローバル向けにコンテンツ配信を行ったところ、中国の飼い主さんの反響が大きかったから。そこで、本格的に中国に向けて動画コンテンツを制作し、配信しようと決めました。
ただ、先ほども言ったように人気の動画素材は日本と同じでも、日本向けに編集されたものをそのまま翻訳して、配信してもなかなか現地の人になかなか受け入れられなかった。中国に進出した当初にぶつかった壁ですね。

——では中国のユーザーに共感を得てもらうために、どのような施策を行ったのでしょうか?

友部:そうですね。海外進出は初めてでしたし、すべてが手探り状態でした。実際にやってみてわかったのは、中国でのペットの飼育環境や接し方は、文化的視点からみてけっこう違いがあったんです。これは現地の人の感覚を掴むことが必要だと考えました。でも日本にいながらその感覚を掴むことはかなり困難なので、現地でリサーチをすることにしました

実際に中国在住のフォロワーさんのお宅を訪問しインタビューしたり、街中で見かける飼い主さんとペットとのコミュニケーションの取り方を観察したり、なるべく多くの現地情報を集めていきました。
現在は、そのリサーチ結果を踏まえ、現地の人に受け入れてもらえるよう再編集して中国向けに配信しています。

——国内外問わず、PECOの動画は今後どのような展開を目指していますか?

友部:飼い主さんが持つ“うちの子が一番かわいい”というペットへの愛情は、どの国でも同じものだと考えています。そんな思いに応えて、飼い主さんから信頼を寄せられるメディアとなるべく、飼い主さんとペットのことを第一に考えた動画を配信していきたいです。
世界中の全ての人にペットのかわいらしさを共感してもらい、ペットとの暮らしを楽しんでもらいたいと思います。

まとめ

動物の動画は比較的、共感を得やすいジャンルです。ただ、飼い主さんやーザーの心に寄り添うことで、共感レベルを上げることが、支持されるポイントのひとつ。一方、動物の動画素材そのものは、世界共通でかわいいと共感できても、編集の仕方しだいでは、その国の人に受け入れられない可能性もあるようです。海外で動画施策を行う場合、大切なのは、現地に実際に足を運んで現地の人を観察したり、リサーチをして現地情報をどれだけ多く集められるか。そうすることで、ユーザーの共感を得られる動画が作れるのではないでしょうか。

テキスト/成田千草  撮影/猪飼ひより(amanaphotography)

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