レシピ動画のDELISH KITCHENが“ユーザー目線”を徹底する理由

レシピを約1分の動画で見せる『DELISH KITCHEN』は、月間再生回数6億回と、料理好きには欠かせぬサービス。Webのみならずスーパーなどの小売店にもサイネージで導入され、タイアップ企画も広がりつつあります。なぜユーザーとクライアントに響くのか?その理由を編集長の菅原千遥さんに伺いました。

料理を作る人に寄り添う『DELISH KITCHEN』の原点とは

——強い競合もいるレシピ動画コンテンツの中で、『DELISH KITCHEN』はどのように差別化を図っているのでしょう?

菅原千遥さん(以下・菅原。敬称略):いくつかありますが、特徴的なのは「チーズとろとろ」「クリームふわふわ~」といった、いかにもおいしそうなシズル感を演出し過ぎないようにしています。

——おいしそうに見せるシズル表現は、料理動画に見せるには不可欠に思えますが……。

菅原:シズル感はある程度必要ですが、『DELISH KITCHEN』のコンセプトは「誰でも簡単においしく作れる」。つまり、あくまで料理を作るためのツールとして使ってほしいと思っています。

<PROFILE>菅原 千遥|Chiharu Sugawara 2012年慶應義塾大学を卒業後、グリー株式会社に入社。 事業責任者として女性向けネイティブゲームに従事し、その経験を活かし戦略部門にて子会社や投資先会社の事業管理基盤構築を推進。その後、新規事業の立ち上げを主導。2015年9月、株式会社エブリーを共同創業。2018年に執行役員に就任。

菅原:過剰にシズル感を演出すると、リアルな見た目とのギャップが生まれ、レシピ通り作ったユーザーの方に「動画と違うかも」「失敗したのでは?」「料理って難しい」と思わせてしまい、料理離れにつながる可能性があります。もちろんおいしそうに映すことは考えていますが、やりすぎないことも意識しています。

——なるほど。ただ楽しむ動画コンテンツではなく、ユーザーに「動画のとおりに作れた!」という体験をしてほしいわけですね。

菅原:そうです。2015年のサービス立ち上げ前にリサーチを行ったとき、料理に関する困りごとについては、「今日、何の献立にしていいかわからない」という主婦の方からの意見が一番多かったんです。具体的なわかりやすい動画レシピの提案で、その悩みを解消したい。それがミッションのひとつになりました。

また、料理をしない家庭が増え、家の中で食文化を伝承する機会が減っていることは、社会の課題でもあると感じています。レシピに「千切り」と書いてあっても、千切りするところを見たことがない人が増えている今、動画でしっかり見せることで、食文化の伝承の役割を担いたいという思いもあって。エンタメ性を押し出した料理やレシピ動画ではなく、「料理を作ってもらうための動画を作る」という思いが強いんですよ。

271のルールで作られる、徹底的なユーザー目線

——「作ってもらう動画」にするため、他にはどんな工夫をしていますか?

菅原:真俯瞰から撮るアングルは最たるもので、一番作業が見えやすいんです。あと、早送りを使わないことも工夫のひとつ。代わりに、千切りならば「最初の1、2回の包丁さばき」を見せたうえで、間はカットして「最後の1回の包丁さばき」を見せる。すると「こういう切り方をここまでする」という一連の動作が見え、早送りせずとも短尺で済みます。食材を切ったり、具材を混ぜたりして、料理が変化していくタイミングが伝わるように意識しているんです。

また、実は『DELISH KITCHEN』の動画制作上のルールは日々増えていて、切り方、焼き方、混ぜ方や説明の入れ方など、今や271個もあります。一貫しているのは調理の流れを見て違和感を覚えさせないこと。何をしたのかわからない状況を作らないよう気をつけています。

早回しを使わず、料理の変化の過程をしっかりと見せるDELISH KITCHENのレシピ動画。

——ユーザーの属性に特徴はありますか?

菅原:9割ほどが女性で、年齢層は20~40代が多いです。既婚が7割、お子さんがいる方が6割ほどですね。うれしいのは「毎日料理する」と答えている方が8割もいること。なんとなく観ているのではなく、毎日の献立づくりや実際の調理の参考にしていただけている証拠かなと。

——FacebookなどのSNSとスマホアプリ、二通りのスタイルで配信していますが、両者で人気動画に差はありますか?

菅原:ありますね。最初にお話ししたシズルを演出しすぎないことと矛盾するようですが、SNSではやっぱり「とろーり」「サクサク」など音が聞こえてくるようなシズル感ある料理が人気なんです。

一方アプリでは、SNSではほぼ観られない「油揚げとほうれん草の和え物」のような、派手ではないけれど実用的なレシピが人気。「副菜」というキーワードもすごく検索されます(笑)。毎日の料理に役立ててもらっているからでしょうね。

(左)Instagramで人気な“とろ〜り感”伝わるチーズを使った動画、(右)アプリで人気のある副菜動画

カメラマンは0人。月数百本のレシピを撮るための体制と仕組み

動画は月にどれくらい制作されますか?

菅原:月によって変動しますが、多いときは1000本ほど作っています。すでに掲載しているストック数は2万9000本(※2020年1月末時点)で、すべて社内のスタジオで撮影しています。カメラマンはおらず、キッチンスタジオの調理ブースひとつひとつにカメラを固定。調理を担当するフードスタイリストが自ら録画ボタンを押すんです。

フードスタイリストは、モニターを見ながらグリッドに合わせて食材などの位置を調整。一人で撮影と調理ができるような仕組みに。

調理スペースとは別に完成カットを撮影するスペースもある。現在フードスタイリストは30名ほど。彼女たちが撮影した動画データは、社内の編集スタッフに送られ、271のルールに従ってチェックし、レシピ動画が完成する。

——レシピはどのようなプロセスで決めているのでしょう?

菅原:配信の2ヶ月くらい前から企画を考え、食材や和洋中のジャンルなどが偏ってないか、また、季節ごとのニーズはどのようなものがあるかを考えて方向性を決めていきます。そのあと、実際に調理を担当するフードスタイリストにレシピを考えてもらい、そのあとさらに4段階のチェックを通していくんです。

——4段階のチェックとは? 

菅原:まず1つ目は、管理栄養士が栄養のバランスと衛生面をチェック。次に料理研究家でもある副編集長が家庭の調理器具で再現できるか」「調理に無理がないか」といった目線でチェックし、そのあとレシピの表記をチェック。そして最後に、調味のチェックをします。その場にいるフードスタイリスト同士で味見をし、ちゃんとおいしく作れるかを確認するんです。一貫して、「ユーザーの目線」を意識して、作りやすさ第一で考えています。

レシピを考え、作るスタッフ、それをチェックするスタッフなど、みな管理栄養士などの資格を持っていて、プロが栄養バランスや実現性を考えたうえで、おいしいレシピを提案している。他社と違う『DELISH KITCHEN』の大きな強みだと考えています。

サイネージ導入で売り上げ30%増。店頭施策の強みとは?

——食品メーカーや調理家電メーカーと組んだタイアップ広告としてのレシピ動画も反応がいいそうですね。

菅原:はい。クライアントのブランドムービーを撮るのではなく、あくまで『DELISH KITCHEN』の世界観の中にタイアップ商品が組み込まれるので、タイアップであってもユーザーの方々に違和感なく観てもらうことができます。加えて、レシピ動画への視聴反応や、検索ワードといったデータから、毎日のように料理を作っているユーザーの方々のニーズを分析できることも、企業の方に評価されている点です。

——そのデータは具体的にどのように活用されるのでしょう?

菅原:タイアップ企画では、まずクライアントの商品の特性や、どんな層に発信したいのかをヒアリングし、レシピを提案するのですが、このときの根拠や仕掛けとして『DELISH KITCHEN』に蓄積されたデータを活用します。

たとえば正月明けの季節なら「お餅」のレシピがよく観られることがわかっているので、「クライアントの食材×お餅」のレシピを作ると、多くの方に試していただけます。夏場であれば、コンロを使わず電子レンジで作れるレシピの需要が高まるとか、「チーズ」や「卵」は汎用性が高くて常に人気ですよ、とか。

単に商品だけを「認知」してもらうのではなく、レシピ動画を通して、使い方まで「理解」してもらう。結果として購買意欲につながりやすいことも支持されている理由です。

——最近はスーパーなどの小売店の店頭にデジタルサイネージを置き、そこで動画コンテンツを流す施策も積極的に行われていますね。 

菅原:小売店、あるいはメーカーとのコラボレーションで、店頭のデジタルサイネージにレシピ動画を流し、販促効果を狙っています。着想のきっかけになったのは、「新日本スーパーマーケット協会」が2014年に実施したユーザー調査です。来店前に、何を作り、何を買うか決めている方は全体の3割ほどで、5割の方が「店頭に来てから何を買うか決めている」ことを知りました。

つまり店頭でレシピ提案をすることは、多くの方々の手助けができるということ。私たちのミッションである「献立を考える煩わしさをなくす」ことにつながります。スーパーやメーカーのマーケティングコストも最適化できると考えました。

店頭施策の様子。

——具体的な事例で教えてもらえますか?

菅原:あるメーカーとのタイアップ施策で、売り場の前にデジタルサイネージを置き、そのメーカーの商品を使ったレシピ動画を流しました。サイネージを置いて、各店舗ごとに売り場づくりを行った結果、メーカーの商品と関連商品の販売売り上げが前年比で約30%向上した事例もあります。

在は、小売店の会員カードと連携させたり、サイネージからBeacon(Bluetoothの発信機)でレシピをスマホに飛ばしたり、さらに精緻なOMO(オンライン・マージズ・ウィズ・オフライン)の仕組みを作りあげるため、実証実験を実施しているところです。

——まだまだ想像以上に可能性がありそうですね。

菅原:はい。動画に限らず「誰でも簡単においしく料理が作れる」機会を生み出していけたら、と考えています。多くの方々の面倒を減らしながら、日本の食文化を継承するお手伝いをしていきたいですね。

まとめ

「料理を作る人」に寄り添い、徹底的なユーザー目線でコンテンツを制作・配信するDELISH KITCHEN。本当に参考になる動画にするためには、ユーザーのインサイトを汲み取ったうえであらゆる視点でプロのチェックを入れ、手間をかけて1つ1つの動画を制作する必要がある。一長一短には実現できない制作フローがあるからこそ、多くの「料理を作る人」の日常を手助けでき、積み重ねたデータが企業との取り組みでの大きな強みとなっているのですね。

インタビュー・テキスト:箱田高樹 撮影:劉怡嘉(Kelly Liu/acube)デザイン:下出聖子(amana design studios)

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