年々増加するBtoB企業における動画の需要。どのように活用すればビジネスの成長を後押ししてくれるのでしょう? BtoB企業における動画の役割や効果、意識すべきことについて、企業のビジネス価値向上と向き合うアマナの社員3名が語りました。
——なぜ今、BtoB企業での動画の需要が増えているのでしょうか?
プランナー鈴木陸(以下、鈴木):動画需要が増えた背景には、2つの理由があると思っています。1つ目は、音楽やナレーションを入れることによって、説明的になりがちなプロダクトやサービス・企業の情報をエモーショナルに表現できること。
たとえば、就活生が企業のことを知りたいと思ったとき、ネットでちょっと調べればいくらでも情報は得られますが、企業側の熱い想いや突っ込んだストーリーはなかなか表に出てこない。こういった目に見えない想いやポテンシャルを引き出し、短時間で伝えることができる訴求力の高さが動画の特徴です。
鈴木:2つ目は理解の手助けができること。文字ベースのコンテンツだけで物事を表現するのはどうしても難しいですが、そこに動きや音声が組み合わされることで、格段にわかりやすくなります。物事の理解のハードルを下げられるという利点があるんです。
だからこそ、僕たち制作側には、企業のソリューションや業界の知識に対する理解力が求められていると感じています。写真、映像、CG含めたクリエイティブのクオリティーを提供することはもちろんですが、クライアントのみなさんが使っている専門用語や意味を理解しつつ、彼らの顧客が理解できる形へ丁寧に引き上げ、アウトプットする能力も必須条件です。
ムービーディレクター渡邊慶将(以下、渡邊):以前に比べ比較的安価で動画が作れるようになったことも大きな要因ではないでしょうか。最近は商品プロモーションに限らず、社員のモチベーションアップまで、何から何まで動的になってきている気がします。特に採用サイトや、製品・サービスを発信する展示会での利用が増えていますね。
——BtoB企業の動画を制作するうえで意識していることはなんですか?
プロデューサー山根尭(以下、山根。):動画制作の依頼が来ても、やみくもに受注するのではなく、なぜ必要なのかをきちんとヒアリングして、その目的と動画本来の役割が合っているのかを確認するようにしています。課題やゴールを洗い出して明確化し、クライアントに伝えることが僕たちの役割だと思っているからです。
渡邊:CEOや役員、さらには実際に現場で働く人の話をとことん聞いて現状を把握し、企業の特徴を見出していくことから動画制作は始まります。企業の強みを見出せたら、その部分を動画に落とし込んでいくんです。
鈴木:必ずしも「いい機材で撮った動画=いいもの」ではない。スマホで撮った動画にもぐっとくるものはあるし、アマチュアの方でも“それっぽいもの”ものは簡単につくれてしまう時代。だからこそ、僕たちがこだわるのは、オリジナリティがありつつ、本質を捉えた“リアリティのある動画”です。
渡邊:ただかっこいいだけの映像は、かっこいいだけで終わってしまいます。そこにどういうストーリーがあって、どう表現すれば共感を得られるのか、リアリティにどれだけ向き合えるかが大切。クライアントも制作側も含め、みんなの「よりよいものを作りたい」という気持ちが強ければ強いほど、いい動画が作れると信じています。
——では、リアリティのある動画をつくるためには何が必要なのでしょうか?
渡邊:「忖度のない誠実さ」ではないでしょうか。クライアントから彼らの顧客に対してはもちろん、僕たち制作側もクライアントに対して誠実さが必要だと感じます。
たとえば、ブランディングムービーの場合、企業が次のステージに上がるためのメッセージを見いださなければなりません。実際にブランディングムービーをつくるときは、忖度なしにいいところと悪いところ、課題を見つけ出し、残すべきものと変えるべきものを誠実に伝えるようにしています。そしてコピーライターによって言葉のメッセージが見えてきたら、それにひもづく素材をかき集めて動画に落とし込んでいくんです。
山根:ブランディングムービーはオーダーメイド。素材同士は点と点ですが、動画でつないでいくために、ストーリーをどう描くかをクライアントと一緒に考えていきます。僕たち制作側が企業と本質で向き合えているかどうかも、リアリティのある動画を作るために欠かせないことなんですよね。
鈴木:日本人は謙虚すぎるし、組織が大きければ大きいほど、自社の評価が低いケースが多いと感じます。だからこそ企業側が気づいていないポテンシャルを言語化し、引き出してあげることが必要です。今は、最終的に動画を見るお客さんたちはみんな目が肥えてるし、綺麗事を見抜く時代。どこまで本気でサポートできるかが我々の役目です。
——企業の課題に直面して感じる、動画が有効な場面とはどのようなものがあるのでしょうか?
山根:1つは、同業他社が一同に介する展示会です。ここで求められる動画の役割は、次のプロセス(=対面営業)に導く水先案内人のようなもの。ブースの内外で商品やサービスの紹介動画を流すことにより、参加者たちに効果的に商材をアピールすることができ、営業スタッフの手助けにも役立つんです。
鈴木:採用サイトも動画の効果が発揮される場だと思います。というのも、今、ものづくり業界は圧倒的に人手不足で、優秀なエンジニアは中途新卒含めて引っ張りだこなんですよね。BtoB企業における人材確保は大きな課題であり、企業をどのように見せるのか採用ブランディングが問われる時代。動画を活用した採用サイトは、紙の資料を読むより社風や働く姿がダイレクトに伝わりやすいというメリットがあります。
渡邊:視聴者の興味を喚起させ、気持ちを盛り上げる。そういう意味で採用サイトは有効的な手段ですよね。もう1つ、インターナルブランディングでも動画は有効だと思います。今、とある企業の社員のモチベーションを上げるプロジェクトを手がけていますが、ここでも動画を活用しています。クライアントと一緒にビジョンを整理し、経営方針を整理して、創業者のビジョンを共有するためのツールとして動画を使うんです。「リブランディング」というと大げさに聞こえてしまうかもしれませんが、動画制作のプロセスはある意味、コンサルに近いのかもしれません。
――では、企業が動画を発注したいとき、どのような準備が必要でしょうか?
山根:まずは、シンプルに担当者に強い想いがあるかどうかが大切です。決裁権のある人と制作側が早い段階で直接会えることも重要。直接会えないと、どうしても距離感はありますからね。
渡邊:特にインタビューやドキュメント動画は、事前に会ってコミュニケーションが取れていないといいものは作りづらいです。担当者から直接コンセプトを引き出すインタビュー動画は、よりリアルな空気感が伝わるので、シンプルな作りでも強力なコンテンツになるんです。協力体制が乏しい企業と、包み隠さずぜんぶ撮っていいですよ、と体制が万全だった企業の動画は、仕上がりに大きな差が出ます。企業と制作側の信頼関係がいいクリエイティブを作るのだと思います。
鈴木:優先順位を決めることも大切です。営業部とマーケティング部、技術部といったように立場や見ているものが違えば、伝えたいことも異なる場合が多い。そのため、必ず伝えなければならないことの優先順位を決める必要があります。限られた尺の中で情報を整理してシナリオをつくるとき、社内だけでやろうとすると収集がつかないこともありますが、そこに第三者であるクリエイターが入ることで、みんなが同じ方向を向くことができます。動画制作のプロセスには、カウンセリング効果もある気がしています。
——動画制作では金銭面も気になりますが、実際の制作にはどのくらいコストがかかりますか?
渡邊:細かい話ですが、モデルを入れる場合は、そのレベルに応じて10~20万程度変わってきますし、僕の場合は天候予備日の費用まで、リスクも含めて1つ1つ説明するようにしています。予算が200万円なら、その予算内で毎回ベストなものを考えて提案する。動画だけでなく、グラフィックも同時に制作できるようにすることもありますし、少し編集を加えるだけでリクルートやIRなどにも使える動画も喜ばれます。
最近は企業のリテラシーも高くなってきているので、コスト面はオープンに話しますね。いい動画制作はクライアントとの協力体制があってこそ。見積もりを上乗せするアイデアに時間を使うのではなく、とにかく密にコミュニケーションをとった方がいいと思います。
——クライアントと接して感じる、いま求められていることはありますか?
渡邊:単に「かっこいいから、エモいから」じゃ通らなくなってきていて、どうしてそれを作るのか、なぜその表現なのかを言葉で語ることができないと、受け入れてもらえないと感じています。その辺り、二人はどうですか?
山根:そうですね。企業にとって動画はあくまで目的を達成するための一つの手段でしかない。KPIとなるPV数やCV率はもちろん、動画を作る理由や、この表現を選択した経緯なども言葉にしてきちんと根拠を示し、説明する必要があります。最終的なアウトプットも大切ですが、いま置かれている状況を整理して、企業のビジョンを明確にしていく、そのプロセスも重要。これができなければ企業と一緒に仕事をするのは難しいし、企業側も動画の必要性に気づいてくれません。
鈴木:僕たちはクリエイターという立ち位置ですが、動画に限らず、企業と深く関わるパートナーとしての姿勢が今求められているんですよね。
山根:“担当者”と“担当者”ではなく、“会社”と“会社”の付き合いができるからこそ、いいものが作れることもたくさんあります。アマナとして企業と仕事をするとき、ディレクターやプロデューサー、プランナーといった“限られた分野のプロ”という意識だけではなく、社内の横のつながりを活かして、職種の垣根を超え、企業の課題を俯瞰して見るようにしています。それが組織でクリエイティブに向かう僕らが強みとすることだからです。
「動画の時代が到来した」と言われてから数年、あらゆる企業が動画の活用に注力し、その波はBtoB企業にも広がりました。短い時間でも多くの情報を伝えられる動画ですが、プロセスからアウトプットに至るまで、完璧に使いこなせる企業はまだまだ少ないのが現状。労力やコストがかかるからこそ、まずは目的を明確化し、動画によってもたらされる効果を認識して制作に取り組む必要があります。そのうえでパートナーとして並走してくれる制作チームとタッグを組むことができれば、動画は企業にとってより強力なツールとなってくれるのではないでしょうか。
テキスト:川口ゆかり 撮影:小澤塁(acube)
イラスト:諸橋南帆(amana)デザイン:下出聖子(amana design studio)