SNSのプロは、日頃どのようにInstagramをビジネスに活用しているのでしょうか。今回は企業向けにSNSマーケティングの支援事業を展開する「ライスカレー製作所」でソーシャルメディアマーケティング事業部長を務める辻馨さんに、Instagramを使ったリサーチや情報収集のコツを伺いました。
──はじめに、辻さんの普段のお仕事内容を教えてください。
〈PROFILE〉辻馨|つじかおる
株式会社ライスカレー製作所 ソーシャルメディアマーケティング事業部部長。「世界中の“体験”をつなぎ、新たな“体験”を生み出す。」をコンセプトに、企業のInstagramアカウント運用代行やコンサルティングに従事。大手自動車メーカー、外資系外食チェーン、鉄道会社、リゾートホテルなどのInstagramコンサルティングや運用を手がける。幼少期から18年間続けたフィギュアスケートでは、シングル・アイスダンスの部で全日本選手権に出場したほか、カリブ海をクルーズする豪華客船内のアイスショーに出演した経験も。
辻馨さん(以下、辻。敬称略):企画提案から運用保守まで、Instagramを中心とした企業のSNSマーケティングのお手伝いをしています。お客さまの業種は多岐にわたりますが、中でも多いのは旅行・観光関連と食品関連ですね。というのも、Instagramで活性化しているジャンルは主婦の方の興味・関心と結びついていることが多いんです。自社媒体に『シンプルホーム』というキュレーションメディアがあるのですが、こちらも洗練された住まいや暮らしに役立つアイデアなど主婦層に響くコンテンツで、現在フォロワー数27万人を達成しています。
──Instagramの運用に携わるうえで、重視されていることはなんでしょうか。
辻:ユーザーをどう巻き込んでいくか、またどのようにユーザのメリットを生み出すかを重視しています。企業がInstagramを始めるときって、どうしても商品カタログのようなアカウントだったり、コアファンしか入っていけないようなアカウントを作りがちなんですよ。それではフォロワーは伸びませんから、お客様には“新しいファンを作りたいのか?”、“今いるファンをもっと深いところに導きたいのか?”、“潜在顧客をフォロワーとして貯め続けたいのか?”など、Instagramを活用するうえでの目的を伺い、それに合った施策を提案しています。
──ユーザーのメリットというと、具体的にどのようなことでしょうか?
辻:たとえば、企業側がリポストして、公式アカウントにユーザーの写真を掲載することで、ユーザーの承認欲求が満たされることもひとつですし、Instagram上でプレゼント企画といった実益を伴うものや、コアファンに向けたコミュニケーションの場を作ることもそうですね。
──なるほど。まさにInstagramのプロ中のプロですね。そんな辻さんですが、ご自身はいつInstagramを見ていますか?
辻:僕の場合、仕事とプライベートでアカウントを分けていないんです。ですから仕事中はもちろん、朝起きてすぐにストーリーズを開いてみたりと、公私の区切りなくずっとInstagramを見ていますね。フォローしているアカウントは実はそれほど多くなくて、360程度。うち200くらいはプライベートで気になってフォローしているものです。
検索に気になるキーワードの写真がでるように、フォローする内容をコントロールしている。
──フォローする・しないはどのように決めているのですか?
辻:ストーリーズの使い方が上手なアカウントはフォローするようにしています。ストーリーズって、アンケートに対するコメントが多かったりと、ユーザーからのアクションの確率が高いんですよ。ただ24時間で消えてしまいますから、気になるストーリーズはスクリーンショットを撮って、旅・食・ファッションなど、カテゴリーごとにフォルダを分けて保存しています。それから最近はIGTVが面白いアカウントもよく見ていますね。IGTVの動画は今後、コンテンツの大きな軸になってくると思います。
──ではInstagramをリサーチや情報収集などビジネスに役立てるにはどうしたらいいでしょうか?
辻:まずはプライベートとは別に、分析用のアカウントを立ち上げるといいですね。というのも、Instagramでは検索ボタンを押すと、日頃よく見ているジャンルの投稿が優先的に表示されますから。次にいいアカウントの探し方ですが、まずは競合企業から探すのがポイントです。実際、私も競合アカウントやそのジャンルのメディアのアカウントはほぼフォローするようにしています。
──いいアカウントを見つけるために、チェックするべきポイントは?
辻:コンテンツはもちろんですが、キャンペーンの内容、インフルエンサーの使い方。さらにユーザーからうまく情報を吸い上げられているか、ユーザーをうまく動かせているか、という点に着目しながら見るといいと思います。
Instagramを公私の垣根を越えて活用している辻さんが、現在注目しているアカウントを3つ教えてください。
1.JR東日本『行くぜ、東北』(@ikuzetohoku_official)
【注目ポイント】
このアカウントの特徴は、すべての写真が一般のユーザー投稿からの転載だというところです。アカウントを立ち上げた当初から、東北が好きな人たちに#行くぜ東北というハッシュタグを付けて投稿してくださいとお願いし続けていて、フォロワーが徐々に増えている。Instagramでユーザーをうまく巻き込んで、文化を作ることに成功しています。
2.ファッション動画マガジン『MINE』(@mineby3m)
【注目ポイント】
フィードではユーザー投稿からおしゃれなコーディネイトを紹介するなど、ファッションメディアとしての世界観を大切にしていますし、逆にIGTVには食やコスメ、お悩み相談などフォロワーの楽しめるコンテンツを盛り込むなど、目的に合わせた使い分けがとても上手。ストーリーズから外部コンテンツに遷移させる使い方も参考になります。
3.『ケンタッキーフライドチキン』(@kfc_japan)
【注目ポイント】
以前は美しくスタイリングされた写真が投稿
Instagramマーケティングというと、投稿件数や時間、ハッシュタグの付け方など、エンゲージメントを高めるためのテクニックに話が終始しがち。けれど、辻さんによると、それ以上に重要なのが“コンセプト設計”。アカウントの目的は明確か、それを達成できるコンセプトになっているか。またフォロワーへのメリットは何か。そうした企画力の優れたアカウントを参考することで、Instagram施策がワンランクアップするはずです。
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テキスト/小川尚子 撮影/山本彩乃