「トーキョーバイク」のInstagramが統一感を出すためにした工夫とは

ブランディングを成功させた企業に、その背景を聞く本連載。今回は、複数のアカウントを使い分けながらもブランドの世界観を統一して発信している、「トーキョーバイク」のInstagram運営の工夫について紹介します。(トーキョーバイク・コンセプト編はこちらから)

アカウントを使い分けることで、目的とトンマナを明確に

今や企業のブランディング手段としても活用されているInstagram。東京と世界8都市に店舗展開する自転車ブランド「トーキョーバイク」も、2015年にアカウントを開設しています。

トーキョーバイク代表取締役の金井一郎さん。

Instagram開設の一番の目的は、トーキョーバイクの世界観を広め、ファンを獲得すること。単に商品を紹介するだけでなく、“トーキョーバイクの自転車があるとどんな暮らしができるか”というイメージと、私たちのモットーでもある自転車に乗って日常を“楽しむ”ことを伝えていきたいという思いがありました」(代表取締役 金井一郎さん)

現在のトーキョーバイクの投稿写真を見ると、日常に自転車が溶け込んだセンスのいい写真が並び、伝えたいことがしっかりビジュアル化されていることがわかります。

tokyobike_jpのアカウント

tokyobike_shop_jpのアカウント

tokyobikerentalsのアカウント

“tokyobike”でアカウントを検索すると、海外店舗のものなどトーキョーバイク関連のアカウントが複数出てきますが、現在日本で更新しているのは、「tokyobike_jp」(以下、jpアカウント)、「tokyobike_shop_jp」(以下、shopアカウント)、「tokyobikerentals」(以下rentalsアカウント)の3つ。

「開設して間もない頃は、日本のアカウントは1つしかありませんでした。内容はというと、トーキョーバイクの自転車が写ったおしゃれな写真もあれば、最新アイテムやイベントの告知もあったりと、フィード画面のトンマナはバラバラ。“世界観が合っていない”と、海外のパートナーから苦情が届くほどでした。

そこで、複数のアカウントを作り、それぞれに目的を設定することに。

jpアカウントは、トーキョーバイクを代表するいわばメインのアカウント。とにかくトンマナを大切にし、トーキョーバイクの世界観を表現することを徹底しました。shopアカウントは、国内4店舗のスタッフが誰でも更新できる、自由度が高いものに。リアルなお客様を意識して、新商品や各ショップのイベント情報、実際のイベントの様子などをメインに発信しています。rentalsアカウントでは、トーキョーバイクが各地で展開しているレンタサイクルについて紹介。レンタサイクルをするお客様に楽しんでもらえるようにと、店舗周辺のおすすめのお店やグルメなど、ローカル情報を多く紹介しています。

アカウントを分けたことで、トンマナがそれぞれ統一され、トーキョーバイクの世界観や情報をしっかり届けられるように。shopアカウントを見たお客様から“お店の雰囲気が伝わってきて見ていて楽しい”と言ってもらうなど、嬉しい反応もいただくようになりました」(金井さん)

スタッフの顔を見せる投稿を増やし、日本人に合わせてローカライズ

現在、Instagramの管理・運営をしているのが、マーケティング担当の谷澤弥恵子さん。もともと中目黒店のスタッフとして2017年6月入社した谷澤さんですが、金井さんにマーケティングの才能を買われ、2019年からInstagramを任されることになりました。

Instagramの管理・運営を担当している谷澤弥恵子さん。

「主にjpアカウントの管理や投稿をしています。管理するときに一番気をつけていることは、トンマナを統一させること。アカウントが1つだった頃の、“告知情報がフィード画面に出ると世界観が崩れる”という反省点を踏まえ、告知系の投稿をする場合は、複数枚投稿できるスワイプ機能を使い、1枚目はトンマナが合った写真を、2枚目以降に告知用のイメージを入れるようにしています」(マーケティング担当 谷澤弥恵子さん)

トンマナを意識すると、フィード投稿では告知を大々的にできないというデメリットが出てきました。それを解決したのが、フィード投稿とは別枠で動画や写真を投稿できるストーリーズ機能です。

「告知系の投稿はストーリーズ機能を使って発信。ストーリーズの投稿はタップしないと見られないので、フィード投稿の世界観を邪魔することもありません。ストーリーズ機能は、アップするとフォロワーのフィード画面に通知が出るため、フィード投稿よりもユーザーの目にとまる機会が多くなり、より“Now”な情報を届けられるという利点も。

このように、ひとつのアカウントでも、フィード投稿とストーリーズ機能で投稿内容を変え、役割を分担させています」(谷澤さん)

「投稿する写真は、主にトーキョーバイクのスタッフが撮影。谷澤さんが担当になってからは、海外店舗の写真を借りたり、国内外のユーザーのステキなUGC投稿(※1)を紹介するようにもなりました。最初は、さまざまな人が撮影した写真を投稿すると、トンマナがバラバラになるのではと心配でしたが、トーキョーバイクのアカウントはそれがしっかり守られています」(金井さん)
※1…User Generated Contentsの略。一般ユーザーが作成したコンテンツのこと

「もちろん意識して写真をセレクトしているからというのもありますが、トーキョーバイクのファンやユーザーが投稿してくれる写真は、不思議と世界観が似ているものが多いんです。
トーキョーバイクに乗って“街を楽しむ”という感覚は世界共通。トーキョーバイクユーザーの価値観は、住んでいる国は関係なく、きっと似ているのだと思います。遠く離れた場所にも同じ感覚の人がいるということを、写真を通して感じてもらいたいです」(谷澤さん)

また、海外店舗のアカウントとの差別化も意識しているのだそう。

「トーキョーバイクは、自転車のかっこよさやキレイさだけではなく、“自転車がある暮らしの楽しさ”を伝えていきたいと考えています。

海外の方からは、ほかにないカラーやフレームの美しさに魅力を感じてもらっていますが、私たちが伝えたいのは、“自転車があることでこんな風に生活が楽しくなるんだよ”ということや“自転車に乗るとこんな風に街の見え方が変わるんだよ”ということなんです。

そこを伝えたいのに、自転車のかっこいい写真だけを投稿していては、全体感が無機質になってしまい“自分ごと”になりづらいですよね。なのでjpアカウントでは、私たちがおすすめする街のスポットの紹介や、働いているスタッフの顔が見える投稿も多くしています。実際にトーキョーバイクの店舗に来られない遠くの方にも、お店に来たときと同じような雰囲気を伝えていきたいと思っています」(谷澤さん)

Instagramがユーザーと価値観を共有する場所に

今まではフィードやストーリーズで投稿をするだけでしたが、最近ではInstagramならではの機能を活用した新たな取り組みにも挑戦しています。

7月には、公式ホームページのリニューアルに合わせ、Instagramの投稿からECサイトに飛べる“ショッピング機能”を連動させました。その結果、ECサイトでの売り上げがアップ。まだはじめたばかりですし、増税のタイミングもあったので何とも言えませんが、これから効果をしっかり分析していきます。

また、8月からはフォトグラファーの鈴木心さんを招いたカメラ講座を社内で行い、スタッフの“写真で伝える技術”の向上を図っています。このように、新しいことを取り入れたり、写真のクオリティを上げることで、Instagramでの可能性をもっと広げていきたいと思っています」(谷澤さん)

中でも、谷澤さんが特に力を注ぎたいと考えているのが、お客様とのコミュニケーション。これまでのInstagramでのコミュニケーションと言えば、コメントにお返事するぐらいだったと言う。

ストーリーズでQ&Aを行うなどInstagramを通していろんな取り組みを行なっている。

「この夏、ストーリーズ機能でQ&Aを行ったり、テーマを決めてUGCの投稿を募集し、その写真を公式アカウントでアップするなど、お客様とコミュニケーションが取れるような施策を行いました。ユーザーから好評もいただきましたし、私も楽しみながらできたので、またこういう企画ができたらと思っています。

もうひとつ考えているのが、ユーザー間での自転車以外の情報交換。トーキョーバイクという共通点でつながっているファン同士、自転車のネタに留まらずに、好きな映画やおすすめの本を共有してみるのもおもしろそうですよね。

ただ情報を発信するだけでなく、スタッフとユーザー、またユーザー同士をつなげ、価値観を共有できる場所にしていきたいです」(谷澤さん)

まとめ

Instagramは過去の投稿を一覧で見られる特性があるので、トンマナを整えしっかりと世界観を作り上げていくことが、成功へのカギとなります。そのため、1つのアカウントでは伝えたいことがまとまらないというのなら、ブランドのアカウントを複数作って目的別に発信していくのも手。また、国民性やユーザー層によっていいと感じる写真は違います。自社のユーザー層の好みを把握して、ローカライズしてあげることが、Instagramを運営する際のポイントになりそうです。

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撮影/堀内彩花   テキスト/石部千晶(六識)

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