印象的なグラフィックで支持を集めるデザインオフィス・れもんらいふ。同社で活躍する永瀬由衣さんはアーティストのアートワークや広告ビジュアルを手がけ、独自の世界観を築いています。彼女が制作の合間に足を運ぶという水族館で、絵作りへのこだわりやインスピレーションの源について伺いました。
——永瀬さんは学生の頃ファッションを勉強されていたそうですが、そこからアートディレクターを志すようになったきっかけを教えてください。
永瀬由衣さん(以下、永瀬。敬称略):もともと大好きだったアーティストのYUKIさんの衣装を作りたくてファッションデザイナーを目指し、女子美術大学のファッション科に入りました。入学後、卒業生でアートディレクターの野田凪さんと吉田ユニさんの作品を見たときに、「この魅力的な作品をつくる職業は何だろう」と衝撃を受け、あとからアートディレクターという職業を知りました。中でも、凪さんがディレクションされたYUKIさんのCDジャケットを見て、自然と“YUKIさんの衣装をつくる”という夢から、“YUKIさんのCDジャケットをつくる”という夢に変わっていきました。
——ビジュアル制作のもっと広い部分に関わろうと思ったということでしょうか。
永瀬:そうですね、アートディレクターという職業を知ってから、ファッションを含めコンセプト決めなど制作全体に携わりながら、インパクトのあるビジュアルを作りたいと思ったんです。
——そこから、なぜれもんらいふに入社しようと思ったのでしょうか?
永瀬:アートディレクターについて調べていくうちに、れもんらいふ代表である千原徹也の名前を知りました。ちょうど「れもんらいふ」という屋号ができたばかりの時期で、会社を設立するために社員とアルバイトを募集していたんです。当時千原が手がけていた『装苑』(文化出版局)のビジュアルやラフォーレ原宿の広告が好きだったこともあり、アルバイトの応募メールを送りました。学生の間はインターンとして働き、卒業後は社員としてあらためて入社することになったんです。
——れもんらいふでは、どのような形でお仕事をされているのでしょうか?
永瀬:れもんらいふの基本的な仕事の進め方は、千原がアートディレクターを担当し、そのときの状況に応じてデザイナーが入り、2人で仕事を進めるという形。私の場合はアートディレクターとして仕事を担当するようになってから、デザイナーとアートディレクターを1人で兼任しています。
——永瀬さんがアートディレクションをされていたルクア大阪×『装苑』の、「LUCUA EXPO~LUCUA osaka 4th Anniversary~」のビジュアルは躍動感があってハッピーで、とても素敵でした。
永瀬:ずっと憧れていた『装苑』さんからお仕事をいただけて、とても嬉しかったです。「ガンバレルーヤのお二人が春の海を泳ぐ」というテーマでビジュアルを決めていき、最初はスイムウェアを着て春の海を泳ぐイメージだったんですが、どんどんブラッシュアップして今の形になりました。
永瀬:広告のお仕事は、多くの一般の方々に見られている意識を持って作らなければいけないので細かい調整が必要です。制限に悩むこともありますが、このときはクリエイティブに対する現場の意識が高く、たとえ変更があっても、その中でいいものを作ろうという雰囲気がありました。
特に、撮影をお願いした磯部昭子さんとは同じ方向を一緒に目指せる方。彼女が作り出す豊かな色彩と立体的な色合いや構図が理想的なんです。好きなものが一緒なこともあってイメージも伝わりやすく、絵作りの相談がしやすいです。ルクアの現場はスタッフ全員の呼吸が合っていて、磯部さんもすごく楽しかったと言ってくださったことが、とても印象的でした。
——広告制作のお仕事と並行して、永瀬さんは音楽アーティストのビジュアルも多数手がけられていますよね。アーティストの魅力、作品の魅力を表現するために考えていることはありますか?
永瀬:そのとき発売するアルバムなど、作品ごとのコンセプトだけでなく、アーティストそのもののコンセプトを大切にするようにしています。一緒に仕事をするうちに、アーティスト本人の表現したいことや、事務所側の制約のボーダーラインもわかってくるんです。そういったアーティストと関係を築く中で知った、守らなければいけないところは崩さないようにします。
中でも、学生の頃からの友人であるMICOちゃんの音楽プロジェクト・SHE IS SUMMERのビジュアル作りは少し特殊ですね。デビューのときからアートディレクションを担当しているのですが、MICOちゃんは旅行をしたりして、さまざまなことを吸収してくる人なので、一緒に作品をつくるたびにマイブームが違うんです。MICOちゃんとつくるときは、まず旅の話を聞いたり、お互いにはまっているものを話したりするところからスタートします。
永瀬:彼女自身デザインに興味があるので具体的にやりたいことがある場合も多くて。ミニアルバム『hair salon』のときは「茂みの中でアー写を撮りたいよね!」と話したのですが、そうしてMICOちゃんの意見が出たときは必ず書き留めて、イメージを広げるようにしています。
——MICOさんと一緒に作った作品の中でも、印象に残っているものはありますか?
永瀬:今年作ったアーティストブック『TRAVEL FOR LIFE』です。MICOちゃん第2弾のアーティストブックなのですが、内容については何度も話し合いを重ねながら制作しました。
永瀬:MICOちゃんはすごく旅が好きで。いろいろな国に行ってエッセイを書いているので、せっかくなら「旅」と「生活」をテーマに、海外で撮影をしたいという話になったんです。第1弾よりページのボリュームを増やし、私がカメラマンも兼任してタイのバンコクで撮影をしたりもしました。
——ご自身で思う、自分らしいテイストとはどのようなものですか?
永瀬:そうですね、学生の頃は好きな広告を参考にしていたので、いざ自分がディレクションする案件が来たときは悩みました。真似は真似にしかならないので……。でも、悩みながらも作ってきた作品を振り返って共通していたのは、“見た人がそこに1つでもストーリーを感じられるような作品が作りたい”という想いです。あとは色に対して強いこだわりがあって。
——こだわりというのは?
永瀬:たとえばBSテレ東のドラマ「まどろみバーメイド」のビジュアルを作ったときは、「夜の青」と「バーテンダーの白と黒」という単調な色の中に、差し色として赤・青・黄色のカクテルを入れました。でも、それだけだと単なる色彩構成のようなペタッとした絵になってしまうと思ったので、カメラマンの磯部さんと相談して、フィルターを使って紫の光を入れました。こういった感じで細かい色の調整にこだわっています。
——たしかに、紫色が入ったことで全体が立体的に見えますね。
永瀬:そうなんです。グラフィックは二次元ですが、立体的に見えるよう意識しています。あとは、どこかに“透明感”を感じられるようにしていますね。
——”透明感”、ですか?
永瀬:昔から海や水族館など水が関係しているものが好きなので、自分がつくるビジュアルも、水のような透明感を持った作品が作れるといいなと思っています。インスピレーションを得るために、時間があるときは水族館に行ったりもしますね。まずは自分自身が透明感を感じられる作品を作って、いつか見ている人にも気づいてもらえれば、と。でも、自分らしさについてはまだまだ考え中で、いつかひと言で表現できるようになりたいと思っています。
——水族館の他には日々どのようなことからインプットをしていますか?
永瀬:映画が好きなのですが、できるだけ映画館で見るようにしたり、舞台やミュージカルもよく見に行きます。あと、時間がなくて動けないときはInstagramからインプットします。気になったアカウントはジャンルを問わずにどんどんフォローして、気になるものがタイムラインに流れると、片っ端から保存して見返しています。
——今後はどのような活動をしていきたいですか?
永瀬:もともと好きだったファッションのお仕事を増やしたいと思っています。先日ファッション関係のお仕事をしたのですが、カメラマンさんなどがいつもとは違うスタッフの方々だったので、話していることが普段の現場と全然違ってとても刺激的でした。あとは、ずっと好きな水族館の空間のプロデュースもしてみたいですね。
——永瀬さんは昔から好きなことやものをずっと大切にされていますね。
永瀬:そうですね。水族館もそうですが、YUKIさんと仕事がしたいという目標もずっと変わりません。彼女のつくる音楽からとてもパワーをもらっていますし、彼女から発信されるものすべてが好きなので、書体などのデザイン要素からも、ものづくりのヒントをもらっています。自分なりにYUKIさんとお仕事ができるようにまっすぐ進んできたつもりなので、「これで何もなかったらおかしいぞ!」くらいの気持ちでこれからも制作を続けていくつもりです。
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