ブランディングを成功させた企業にその背景を聞くこの連載。
「ナチュラグラッセ」は、100%天然由来原料にこだわり、自然派志向の女性たちに支持されているメイクアップブランド。2017年9月にパッケージビジュアル全般と各アイテムの成分配合も含めフルリニューアルを行いました。
「ナチュラグラッセのデビューは2008年9月。国産ナチュラルコスメの先駆けのブランドで、“naturaglacé”という名前は、自然素材を使っている意味での“natural”と、砂糖衣で覆いツヤを与えるお菓子作り工程の”glacé”を合わせてデビュー時に誕生した造語です。食べられそうなほど安全なナチュラルコスメで“ひとツヤかけて”という思いが込められています。
発売後、ナチュラルコスメブームとともに業績は伸びていきました。が、ユーザーリサーチをすると、品質の評価は高いのに、パッケージがカジュアルすぎてそのよさが伝わりにくかったんです。そこでブランド10周年という節目に向けて、全てを見直すリブランディングを行いました」(ブランドマネージャー新岡育子さん)
このリブランディングは、1ブランドの概念ではなく、ナチュラルコスメ市場をさらに拡大させたいという意気込みで、全社挙げてのプロジェクトになりました。
「プロジェクト始動は2015年。マーケティングや営業の担当者のみならず、名古屋にある自社工場の研究開発担当も含め、部署を超えて約10名のメンバーが集結し、リニューアル委員会を発足しました」(商品企画 浦井理恵子さん)
「まず行ったのは社内の現状把握です。部署ごとに付箋を使ったワークショップ形式のブレストを行い、現状のいい点や問題点、残したい点を洗い出し、社内でブランドの目指す方向を明確にしました。さらに、具体的なターゲットペルソナを設定。名前や年齢、家族構成、性格、趣味などを細かく想定し、社内だけでペルソナを作っていきました。
社内だけでなく同時に市場調査も行いました。その結果、ナチュラグラッセの購入層は、29〜35歳がボリュームゾーン。購入きっかけは、自然成分や肌に優しいからという意見がほとんど。パッケージから購入に繋がることは少ないことがわかりました。既存客にも継続購入してもらいながら、新規顧客を増やすには、容器や化粧箱といったビジュアル刷新が必須と確信し、リブランディングもその点を重視して行いました」(ディレクション担当 坂本有希さん)
現状把握、市場調査を重ね、かわいくて洗練されたブランドの方向性を目指しながら、「ナチュラグラッセ」という“ブランドが持つ意味”も新たに捉え直すことに。
「元々、菓子作りの用語から取った“glacé(ツヤをかける)”ですが、リブランドではかわいすぎるお菓子のイメージから離れて、ナチュラグラッセは、お客さまにどんな“ツヤ”を与えられるのかという視点で再考しました。そこで導き出したのは、メイクだけにとどまらない、女性のライフスタイルを輝かせる“ツヤ”。
つまり、ナチュラグラッセのコスメを使うと、日々の肌も心も輝ける。今のコンセプトでもある“植物とミネラルの力で、日々を彩るスキンケアメイク”を提供したいという結論に。100%自然由来で肌に優しい成分であるという機能的価値。そして使うことで気持ちも前向きになる情緒的価値。この2つを高めるブランドとしてリブランディングを進めることになりました」(新岡さん)
実は、女性のライフスタイルに寄り添うコスメであるために、見直したのはコンセプトやパッケージばかりではありませんでした。
「ナチュラグラッセは“100%自然”をキャッチフレーズに、植物が本来持っている力をそのまま活かし、メイクしながら肌のスキンケアができるのが強みなんです。なので、スキンケアしながらメイクできる、肌に優しい商品を重点に置いてバージョンアップさせようと研究開発担当とも相談。世界観を商品からも体感できるように、見えない部分の配合成分に、新たなルールを取り入れていきました」(浦井さん)
「以前は商品それぞれにその都度、いい成分を配合していたんです。ですが、リブランド後は、ナチュラグラッセ独自の成分ピラミッドを考案し、配合成分からも“スキンケアメイク”というブランドの世界観を確立していきました。
その成分ピラミッドというのが上図です。全ブランド共通に入っている“ベースオイルミックス”という共通成分。その上にファンデーションやアイメイクなどのカテゴリーごとに配合されている共通成分、そしてアイテムごとに変えて配合する成分の3段階の配合ルールです」(坂本さん)
なかでも重視したのが、すべての商品に配合するベースの共通成分だとか。
「ベースオイルミックスは、皮脂組成を再現するオリーブ果実とホホバ種子のオイルの組み合わせに、抗酸化成分が豊富なサジー果実油を加えることで、酸化ダメージを防いてくれます。肌荒れの原因となる皮脂の酸化を防ぎ、“理想の皮脂”を実現。ブランドとしてもっとも重きを置いた成分です。このベースオイルミックスが、全商品に配合されました」(浦井さん)
数多くあった商品ラインアップを整理するとともに、使用する原料の見直しもユーザー目線で行ったそう。
「リブランド前は100アイテム程度あったのですが、社内で議論を重ね、アイテムのラインアップをシンプルにすることに。その代わり、ベースメイクに重点を置いて、その人に合った仕上がり、使用感で選ぶことができるようバリエーションを増やしました。
たとえば、下地とファンデーションの機能を併せ持つ『メイクアップクリーム』という人気アイテムも見直しました。実は定番の人気商品だったので見直していいのかという不安もあったのですが……。手を入れるならと、100以上の試作品を作って徹底的に吟味し、本当に納得できる商品にしていきました。色も今までは1色だったのを2色展開にし、その人に合わせて選べるように。さらに、使用する原材料はオーガニックもしくは無農薬栽培に徹底。原料をイチから見直し、植物がどんな環境で育ったのかにもこだわってセレクトしています」(坂本さん)
「リブランドしたことで、高いハードルを作ってしまったと言いますか、新しい基準を満たす成分を調達するのには苦労しました。ですが、コンセプトを軸に、原料や成分にこだわったことで、今までよりもいい商品ができたと自信を持って言えますね」(浦井さん)
業界全体の発展を視野に入れて取り組んだリブランディング。時間をかけて目指すべき方向性とコンセプトを構築したのが、成功の秘訣でした。また、リブランドの内容を、全社員に配布して共有したのも見習うべきポイント。今でも迷ったときは、ブランドとしての初心を振り返るために読み返すそう。リブランドの会議を通してブランドへの思いや理想を見つめ直す過程が、今の社員のモチベーション向上にもなっているようです。
テキスト:吉永美代 撮影:猪飼ひより(amanaphotography)
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