映像監督・福村昌平に聞く、クライアントからの“制約”を味方にするには

2018年の動画広告の市場規模は1,800億円超。数多ある動画の中で、人の心に刻まれるものはどのように生み出されるのでしょう。一瞬の美しさを映し出し、企業の想いを伝える映像監督・福村昌平に、映像制作に向かう姿勢について聞きました。

伝えたいこと・ものを直感的にとらえていく

――福村さんは、ドキュメンタリー的な映像表現を得意とされていますが、まずは映像制作のルーツをお聞かせください。

福村昌平(以下、福村):キャリアはテレビ番組の制作会社からスタートしました。その後CMプロダクションに移り、PMプロダクションマネージャー)を経て、少しずつCMディレクターの仕事をさせてもらっていました。そのプロダクションにはテレビのドキュメンタリー番組を作っていた方も在籍していて、その方のアシスタントもしていたので、ドキュメンタリーに影響を受けたのはその時期です。

――その後、アマナにディレクターとして入社されます。今の作風は、いつ頃確立されたのでしょうか?

福村:現在のスタイルは、徐々に確立された気がします。ドキュメンタリーが好きなので、企画もそういった要素を含むものを出すことが多くて。ただ、そういうテイストの企画は不確定要素も多いし、制作時間もコストもかかります。だから企画が通りづらいんですが、最近はうまくいったケースが増えたので、それを見てまた依頼が来て……ということが多いです。

<PROFILE>福村昌平|Shohei Fukumura 映像ディレクター / 番組制作会社からCMプロダクションを経て、 2015年からアマナ所属、2020年独立。 ドキュメンタリーをバックグラウンドに持ち、 様々な企業広告を演出。 レンズを通して本質を描写し、ストーリーを描くことを演出の心情とする。

――画作りへのこだわりはありますか?

福村:ドキュメンタリーの要素を含む仕事ばかりではないし、いわゆるコマーシャル的な表現をすることもありますが、基本的にスタンスは変わらなくて。伝えたいこと・ものを「撮る」というより、「とらえる」という感覚があります

コンセプトやコンテをもとに撮り方を決めたりと、事前準備は大事にしますが、撮影現場に入れば直感的にものごとをとらえます。離れた場所でモニターをチェックするというよりも、常にカメラマンの真横にいて、本番の前後含めて、被写体の魅力が引き立つ瞬間を見逃さないように心がけています。すると、ふとした瞬間が訪れる。たとえば、照明技師がライティングチェンジするときの、少しライトを振った瞬間が、それまでのどのテイクよりもよかったりする。そういうものも逃したくないんです。

BOTANIST」の映像は、モデルメインのカットの他に植物やガラスを使った静的なセットを被写体としていますが、現場では光の作用とカメラの動きの中で、どの瞬間を、どのようにとらえるかを常に考えるようにしていました。

コマーシャルの制約の中でいいものを作るため、何にこだわるか

――コマーシャルの世界では、クライアントからの要望や制約なども多くありますが、そうした条件をどうとらえているでしょうか?

福村:制約があるからこそ、いいものが作れることもあります。たとえば、セイコーウォッチさんのプレザージュシリーズ。これは製作工程をきっちり見せるという決まりがありますが、1つ1つ工程を追っていくと説明的になってしまうので、いつもバランスを考えています。毎回そのせめぎ合いですが、結果として職人さんのこだわりを丁寧に描く映像になったと思います。もし制約がなかったとしたら、もっと映像表現に振ってしまい、職人さんのこだわりが伝わりにくいものになっていたかもしれません。

また、この映像ではCGを一切使わないようにしています。効率を追い求めると、ストック映像を使うことや、CGで代替するという手段も考えられますが、この映像では現場でしか感じられない熱量が大事なので、なるべく現場でとらえて、画面からにじみ出るようにしたい。そうすることで、製品に対してのこだわりも伝えたいと思っています。

――福村さんの映像は、音も印象的で、映像と音が相乗効果を生み出しているような、一体感があります。特に「2019 New York Festivals」で入賞したシマノ「STELLA SW」の映像は、現場の音とインタビューの声、BGMが絶妙なバランスでした。

福村:音へのこだわりも強くあります。この映像に関しては、現場での臨場感や気配、海中をイメージする釣り人の感覚的な部分を音に落とし込みたいと思いました。映像に対して、単にいい音楽を付ければいいというわけではないんですよね画に音がついているのでも、音に画がついているのでもなく、映像1カット1カットが音と等しく印象に残るものにしたいと思っています。

このシマノさんの映像は、きっちり計算して撮るフィクションの要素と、現場のリアルを描写するノンフィクションの要素をうまく融合させることができたので、かなり自分の理想のイメージに近いところまでいけた気がしています。

残ったものしか、自分を助けてくれない

――撮影現場で直感的にとらえることを意識すると、最終的にどのような映像ができるかは不確定になりがちです。制作過程で、クライアントに対してはどのような説明を行っていますか?

福村:コンセプトや、何のために、誰のために作るのかというのは絶対に大事で、そこを起点に企画を説明しています。それがクライアントにきっちり共有できていて納得してもらえていれば、表現や技術に関しては任せてくれることが多いです。あとは、クライアントが外したくない、大事な約束ごとも伺っておきます。

今、すごく動画が流行っていて、マーケティングにも活かされていますが、何をやるにしても「これを表現したい」という強い意志が込められてないものは消費され、流されていくだけ誰でも簡単に映像を作れてしまう時代だから、作っているものにどのような意味があるのか、誰のためにやっているのか、知覚的になってないとダメだと思っています。企画はその部分を明らかにしてから、考えて説明していきます。

――なぜそこまで、こだわりを持つのでしょうか。

福村:すべてを捧げるくらいの気持ちで作って、ようやく見ている人に「いいね」と思ってもらえるかどうかだと思うんです。だから妥協はできない。ディレクター職は作ったものしか残らない、残ったものしか自分を助けてくれないですから。作ったものはいろいろな場所で公開されますが、後から言いたいことがあったとしても言えないですからね。

心残りがあって「現場でこんなこと言われたから仕方なく……」と言ってもしょうがないし、効率よくやるとプロデューサーたちは「うまくやってくれてありがとう」と言ってくれるかもしれないけど、自分のキャリアに責任は持ってくれません。だからこそ自分の中で大切なこだわりを持たないと、続けていくのは多分難しいですよね。

――こだわりを持ち続けた先に考えている、映像ディレクターとしての今後の展開を教えてください。

福村:個人的には、映画を撮りたいという気持ちがあります。少し動きだしている企画がありますが、今後はまだわからないです。

今はジャンルの垣根がなくなっていくような感覚があって、ミュージックビデオで注目された人がCMを作ることも多いし、その逆もあります。映画からCMCMから映画を撮る人も増えてきていますよね。

いずれにしても共通するところは結局、作り手の“人の心を動かしたい”という想いです。それぞれの仕事に必要なノウハウやスキルも大事ですが、私は“作ったもので何かを伝えたい”、“観る人の心を動かしたい”という、根本的な想いを大切にしていきたいと思っています。

 

テキスト:かみむらはるか   撮影:浦野航気

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