世はタピオカミルクティー戦国時代。東京を中心に多くの専門店がオープンする中、ローソン・おにぎり屋、旬八青果店、RINGORINGなどの企画やブランディングを手がけてきたブランドスタジオ・カラスが、タピオカミルクティー専門店「Tapista」を手がけました。一体どんな内容なのでしょう? CDを務めた辻愛沙子さんに聞きました。
ーー2019年4月20日に代官山の旗艦店がオープンしたタピオカミルクティー専門店「Tapista」ですが、なぜこのタイミングでタピオカミルクティーを手がけることになったのでしょう?
辻愛沙子さん(以下、辻。敬称略):「Tapista」のオーナー中野正幾さんから、タピオカミルクティー専門店のブランディングのお話が来たのがきっかけです。最初は個人的に来たお話でしたが、カラスにはプロデューサーや素敵なグラフィック、Webを作るデザイナーもたくさんいるので、個人ではなく会社として受けた方が、よりしっかりとしたブランド作りができると思い、カラスでお受けすることになりました。
辻:弊社代表の牧野圭太が博報堂にいた頃、アグリゲート代表・左今克憲(さこんよしのり)さんと「旬八青果店」という八百屋をゼロから立ち上げているのですが、1店舗からスタートして、今では都内に18店舗ほどを展開、多くの人の生活に根付いています。今も変わらず続くその仕事を見ていて、私も文化として街に根付くブランド作りをしたいという強い想いがあったんです。だからこそ本気でいいお店を作るには、特技を持ったメンバーが集まるチームで挑むべきだと考えていました。
世界観のアイデアだけでなく、的確かつ美しい表現が必要だと思い、弊社デザイナーの楳村秀冬がグラフィックを。クリエイティブだけでなく推進していくパワーや知性が必要だと思い、プロデューサーの水上瞳が全体の進行や管理を。こだわりのWebはエンジニア兼デザイナーの高木理江が、細部にまで「Tapista」の世界観を詰め込んでいます。いい物はいいチームでこそ生まれると、制作の真髄を感じたように思います。
こうして「Tapista」のコンセプトを提案したり、グラフィックや店舗デザインを進めていくうちに、オーナーの中野さんの中でもどんどんスケールが大きくなって店舗数が増え、チームの想いも強くなっていきました。
辻:タピオカってこれまでも何度かブームが来ていて、今はコーヒーで言うところのセカンドウェーブ。台湾の生タピオカが主流で、お店も出資会社も台湾のものが多いですが、一過性のブームではなく、文化として根付くようブランド作りをしているところが少ないと感じていました。
だからこそ、タピオカミルクティーを一過性のブームではなく文化として長く根付かせることは、日本のカフェカルチャーにとってもにとっても本当に意味のある仕事だと思っています。
ーー「文化を作る」というのは、大きなキーワードになっているのですね。
辻:カラスでは純粋な広告の仕事をいただくことも多いですが、広告というものの性質上、どれだけいいクリエイティブだとしても、一定の出稿期間が終わると世の中に残らないものも多い。
もちろん広告であることに意味がある場合もありますが、カラスは“ブランドスタジオ”を掲げているので、一過性ではなく“残っていくもの”を作っていきたい、という想いがあります。そして、いいブランドは必ず文化として根付いていく。私自身も、“ブーム”ではなく“文化”となるブランド作りをしていきたいと思い、このプロジェクトに向き合っています。
ーー「Tapista」のテーマは「French Diner(フレンチダイナー)」ですが、どのような意味が込められていますか?
辻:「Diner」には、リーゼント頭の兄ちゃんと、ロカビリースカートを履いてスカーフをした姉ちゃんが、テーブルに肘をついて見つめ合い、テーブルの下で足を絡ませる、そんなアメリカンなイメージがあります。
そういう男女のロマンチックさも反映しつつ、本来の文化そのものの「Diner」直球だとタピオカに対してイメージが強すぎるので、ヨーロッパのようなフェミニンな世界観も入れたいと思いました。この“ガーリーさ”と“やんちゃさ”のミックスが「French Diner」だと思ったんです。
ーー世界観が伝わってくる店舗作りについても伺えますか?
辻:甘くてファンシーな映画っぽい世界観を作りたかったのですが、ポップすぎないよう、上品さを取り入れたいと意識していました。代官山店のフォトスポットはスペインのモスクをイメージしたり、下高井戸店ではパリのカフェのようなソファ席を再現したりと、いろいろな文化圏から着想を得て、かわいさの中にも上品さや歴史の一片を感じられるよう工夫しています。
また、今までのタピオカミルクティー専門店では、写真を撮るとき、お店をバックに手元とドリンクのみを写すことがほとんどだったと思います。そこで、スペースが確保できる店舗では、座っている状態で写真が撮れるスポットを作りました。店舗ごとに異なるソファ席を用意しています。
ーー先ほど出てきた“映画っぽい”というのは、店内のディスプレイで流れるアニメーションなどにも反映されていますね。
辻:映画のシーンを意識して作っているものが多いです。ディスプレイの向こう側に別の世界が広がっている演出をしたくて、窓の向こうに架空のタピオカファクトリーを作りました。もちもちのタピオカが、まるで魔法のように作られていく様子を3Dアニメーションで表現しています。
辻:アニメーションだけでなく、グラフィックもシーン的に演出しました。無骨な男性の手と華奢な女性の手を入れたビジュアルや、シュッとしたビジネスマンが、結婚記念日にお花と一緒にタピオカを買って帰るシーンをイメージしたビジュアルなど、「Tapista」の周りで起こるストーリーを描いています。
タピオカって“女の子が飲むもの”という認識の人も多いですが、男性にも手に取ってもらいたくて、ビジュアルは中性的に仕上げました。「Tapista」のロゴも、キュートになりすぎないようベーシックかつストリートっぽいテイストを意識しています。
ーー続いて、商品のこだわりを教えてください。
辻:レシピはオーナーの中野さんがとてもこだわって作っています。多くのお店では、小さな硬いタピオカを水で20分煮て、20分蒸らし、黒蜜や黒糖などのシロップに浸けて提供することがほとんど。一方、「Tapista」のタピオカは、黒糖のシロップで60分茹で、20分蒸らし、さらに20分黒糖の液に浸けています。手間と時間をかけているので、噛めば噛むほど味が滲み出てきますよ。
ーートッピングとして選べるストロベリーミルクフォームも、「Tapista」ならではですね。
辻:ストロベリーミルクフォームは中にイチゴピューレが入っていて、ちょっと豪華。ピンク色の見栄えも綺麗で、ふんわり漂うイチゴの香りが癖になります。実は先日、女子高生のお客さんが「ミルクティーなし、ストロベリーミルクフォームだけをトリプルで」って注文したエピソードがあるんです……!
ーーそれくらい、ストロベリーミルクフォームだけでもおいしいんですね。
辻:他にも、抹茶味の商品は抹茶の中でいちばん高品質といわれる宇治抹茶の一番茶を100パーセント使っていたり、ベーシックなプレミアムミルクティーも紅茶鑑定士さんにオリジナルブレンドしてもらったり、とにかくこだわりの素材を使っています。おいしさに自信があるからこそ、他の部分で思いっきり振り切った世界観を作れました。かわいいだけじゃないし、おいしいだけでもない。それが「Tapista」のこだわりです。
ーー「Tapista」もそうですが、10〜20代の女性に向けた企画を作るとき、辻さんが心がけていることはありますか?
辻:作ったものをきっかけに、その背景にある文化を知ってもらえたらいいなと思っています。
私が影響を受けたカルチャーは2つあって、1つは、ミッシェルガンエレファントをきっかけにハマった、UK音楽やモッズカルチャー。2つめはフェミニンで淡いパステルカラーが印象的なガーリーカルチャーです。この2つは一見まったく違うもののように思えますが、どちらも根底に温度感を持ちつつ、その世界観・カルチャーを作り上げてきた人たちがいます。
昨日原宿で買った洋服が、もしかするとパリのメゾンブランドのデザインを二次利用、三次利用したものかもしれません。自分が今手にしているものの奥に、ときめく文化がたくさんあることを知ってほしいんです。そんなきっかけを少しでも作れたら、といつも考えています。押し付けがましくないように魅力を伝えることはなかなか難しいんですけどね。
ーー最後に「Tapista」の今後の展開を教えてください。
辻:御茶ノ水店と下高井戸店がプレオープンしていて、4月20日に代官山に旗艦店がオープン。その後、立川、渋谷、池袋と続きます。また、静岡にはフランチャイズ店舗を出店予定で、今後日本全国に広げていきたいと考えています。いつか、お茶の本場、京都にも進出したいですね!
撮影:劉怡嘉(Kelly Liu/acube)