2019年3月、日本グラフィックデザイナー協会(略称:JAGDA)が毎年選出する「JAGDA賞」10作品が発表されました。この賞が広告業界などから信頼され、注目されるようになった背景をJAGDAの年鑑編集を担当し、JAGDA賞の選考委員の1人でもあるアートディレクター・柿木原政広さんに伺いました。
――まず、JAGDA賞の話の前に、“JAGDA”というのはどのような組織なのでしょうか。
柿木原政広さん(以下、柿木原。敬称略): JAGDAは、日本グラフィックデザイナー協会の略で、東京オリンピックのポスターをはじめ、多くの作品を残したグラフィックデザイナー亀倉雄策氏らが中心となり、1978年に設立 されました。現在、全国に約3000名の会員を擁するアジア最大級のグラフィックデザイナーの組織です。
具体的にやっていることは、デザイン教育や展覧会、シンポジウムの開催など多岐にわたります。特に、JAGDA賞とも関わってくるのが、毎年刊行される年鑑『Graphic Design in Japan』(1981年創刊。今年で39冊目)の発行です。年鑑編集は私も携わっていますが、JAGDAに登録している会員の一年間の仕事(作品)をまとめ、日本のグラフィック作品を国内外に発信 しています。
――ということは、年鑑には、日本のクリエイティブがぎゅっと詰まっているということですね。
柿木原: そうですね。その年鑑に掲載されている作品の中から、亀倉雄策賞、JAGDA新人賞、JAGDA賞も選ばれています。亀倉雄策賞は、年齢やキャリアを問わず、その年にもっとも輝いている作品とその制作者に贈られる賞です。場合によっては、該当なしという年もあります。新人賞は言葉の通り、今後の活躍が期待される、若手のグラフィックデザイナーに贈られる賞で、どちらの賞も一生に一度しか取れません。
一方、JAGDA賞は、その年のデザインやコンセプトが素晴らしい“作品”に対して与えられる賞。いい作品を生み出せば、何度でも取ることができます 。
――JAGDA賞は、広告業界をはじめとするクリエイターの人たちが注目していると伺いました。
柿木原: 一般的にグラフィックデザインというと、ロゴやポスターを思い浮かべる人が多いのですが、今やグラフィックデザインは、“ブランディング”の範囲まで広がっています 。
アウトプットできるメディアも、昔は、CM、新聞、ポスターと限られていましたが、今はそれらのメディアに加えて、映像、モーションロゴ、インタラクティブデザインなど、表現する手段も広がり、複合的になっています。
JAGDA賞が注目していただけているとしたら、そういった時代背景を踏まえながら、10のカテゴリー( メディア )それぞれの特質を最大限に活かした仕事・作品を評価しているという点ではないでしょうか 。
――時代に合う賞だから注目されているということですね。
柿木原: それもあるでしょう。ただ、時代に合っていて話題になる賞は、ネット系が主催するアワードもあります。そのような賞とJAGDA賞がちょっと違うのは、グラフィックデザインの長い歴史を背景に、プロフェッショナル達が選出している ところにあると思います。
――今回受賞した作品の中でも注目したいのが、電通の小野恵央さん、川腰和徳さんとアマナの里見勇人のコンビでクリエイティブを担当した「SINCE1995」(神戸新聞)と、同じく川腰さんと里見さんが担当した「History of The Internet」(ヤフー)なのですが、この2作品についての魅力を教えてください。
柿木原: あくまで僕個人の見解になりますが、まず、神戸新聞120周年記念で作られた新聞「SINCE1995」。このような自社の記念広告となると、過去の歴史をたどりがちですが、そこを阪神淡路大震災にスポットをあてた表現で、とても新聞らしい視点を持った作品 だと感じました。
普通、地震というと何人亡くなったなど失われたものに目が向きがちですが、この作品は、写真下の黒い部分を通して、見る人の想像力が掻き立てられるという表現に価値がある と思いました。
事実を伝えるべき新聞メディアの役割を踏まえて、地震の前後で変わった点を“プラスの変化”としてメッセージしているのもいいですよね。
――ヤフーの「History of The Internet」は実際見てみるとギミックがとても面白く、神戸新聞のクリエイティブとはまた違った魅力がありますね。
柿木原: そうですね。こちらの作品は、黒い背景に浮かぶポールが未来に続くようなワクワク感があります。ドラえもんのタイムマシーンのある引き出しを開けるような。
そして特に優れているのが、UI、UX。上下に動いたり、クルクル回るポールの動きから、下に行けば年代が古く、上に向かえば年代が新しくなるというのが、説明しなくても、画面に触れるだけで理解できる。そして、インターネットに関係した物や人がアイコン化されていることに気付きます。情報が最小限なのに、何を表現し、伝えたいのかが、わかりやすく設計されているのが素晴らしい と思いました。
また、グラフィックデザイン的な要素も丁寧に作り込まれていながら、洗練されており、モノトーンで世界観をしっかりまとめているのも魅力 ですね。
――この2作品を含め、年鑑の作品に触れられる展示があるそうですね。
柿木原: はい。年鑑の発行に合わせ、2019年6月20日(木)から、六本木の東京ミッドタウン・デザインハブで、作品の展示も行う予定です。昨年は2万人を超す来場者となりました。ぜひ訪れて、作品に触れてみてください。
――JAGDA賞は、多くの人に何かを伝えるための、世界観の作り方や、こんなクリエイティブを作る人に仕事をお願いしてみたいという参考になるかもしれません。
※JAGDA賞や展示の詳細についてはこちら
インタビュー撮影:大竹ひかる(アマナ)