ダイキン工業のデザインチームが、「空気」の可視化で意識すること

コンセプトやメッセージを伝えるための効果的な方法として「写真」を使ったコミュニケーションを「フォトニケーション」と呼んでいます。この手法でユーザーとコミュニケーションを図っている企業の活動を紹介する企画の第3弾は、ダイキン工業の取り組みを紹介します。

ダイキン工業は空気清浄機やエアコンといった空調機器の販売を通し、いわば人の目に見えない“きれいな空気・快適な空気”を扱う企業です。2015年からはDAIKIN designというプロダクトデザイナー出身者でつくるクリエーショングループが発足。プロダクトデザインのみならず、展示会や動画などユーザーの視覚に触れるもの全般のデザイン活動を行い、コミュニケーションを図っています。このDAIKIN designに所属する太田由美さんから、ビジュアルの持つ力、空気を表現することへの想いなどをアマナの児玉秀明が伺いました。

※参照:見えない空気をデザインするには?(ダイキン工業)【見える化チャレンジ】vol.02

DAIKIN designサイトトップキャプチャー

DAIKIN design サイト。

 

ビジュアルでユーザーへ表現することの大切さ

児玉秀明(アマナ/以下、児玉):まずは太田さんについて教えてください。現在、DAIKIN designに所属し、デザインにまつわる活動全般を行っています。どんな経緯で今に至ったのですか?

太田由美さん(ダイキン工業/以下、太田。敬称略):2014年、弊社が初めてミラノサローネ国際家具見本市に出展する機会を得て、それに関わることができたころからビジュアルでの表現についての意識が変わりました。さまざまな企業がデザイン性の高い独自のブランディングをしているのが興味深く、弊社もこうした活動をしたほうがいいなと漠然と感じたのです。

というのも、お客様が当社の製品と接するタイミングが新規購入や買替えだとすると、そのスパンはおよそ10年に一度。ですから、もっと私達が会社のことを外部に発信して、お客様がより製品に触れる機会、会社を知ってもらう機会を増やさないといけないと思ったのです。

もともと空調生産部門の中にデザイングループがあって、2015年にテクノロジー・イノベーションセンターの先端デザイングループに変更されました。そこに所属していたのですが、そのころから少しずつ他部署と連携する機会が増え、出展する展示会のデザインを見てほしいなど声がかかるようになってきました。

ダイキン工業の太田由美さん

太田由美さん:ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 先端デザイングループ 2003年ダイキン工業株式会社入社。プロダクトデザイナーとして空気清浄機などのデザインを行う。2015年からDAIKIN designの一員としてデザインをベースにさまざまなビジュアルによる企業のコミュニケーションツールの作成に携わる。

児玉:太田さんはビジュアルの力についてはどう考えていますか?

太田:目から入る情報はすごく重要で、「あの会社はおもしろいよね」、「いい印象だよね」と最初に人の気持ちや心を動かすきっかけになるものだと思っています。

弊社は化学部門もあって、化学素材の魅力を伝えるのがうまくいかないという課題があり営業ツールを提案しました。結果、お客様の評判はよく、営業担当者も喜んでくれました。また、担当者が一緒に考えたツールを使って生き生きと営業してくれる姿を見ると、気持ちを上げる力や問題を解決する力もあるんだなと実感します。

ダイキン工業の取り組みとは?

児玉:技術を可視化するにはさまざまな方法があると思いますが、太田さん達はプロダクトデザイナーとしてユーザーの視点も持っていて、どんなデザインなら人々が心地いいとか想像しながらアプローチを入れているのですね。太田さん以外のDAIKIN designのメンバーについて教えてください。

太田:基本的には皆プロダクトデザイン出身で、今もプロダクトデザインももちろん行いますが、エクスペリエンスデザイン(体験によって課題を解決する)や、ユーザーインターフェースデザイン(パソコン上の画面構成などユーザーが快適に操作できるようにするデザイン)、サービスデザイン(デザインを通して受け手に良いサービスを発信する)なども行っています。

最近、弊社が立ち上げた新会社のロゴやキービジュアルの作成なども行っていますし、世界の各拠点で製品カタログなどをつくる際のビジュアルガイドライン作成など、デザインにまつわることは関連部門と連携して何でもやっています。

アマナの児玉秀明

アマナの児玉秀明。

児玉:ダイキン工業には海外拠点もあり、デザインの統一を図るのも難しそうです。会社のテイストやブランドのカラーなどの認識はどうしているのですか?

太田:単独で約7,000名、連結で約70,000名が弊社に所属しています。ダイキン工業として外部に発するビジュアルは統一すべきだという考えのもと、総務部とDAIKIN designでトーン&マナーをまとめたガイドラインを作りました。会社としてトーンを合わせるところはもちろん、拠点担当が責任を持って業務を成し遂げてもらえるようにするにはどうやったらよいかを議論しながら作りました。英語版も作成して意識の統一をはかっています。

児玉:ダイキン工業の商品は空気清浄機やエアコンといった製品そのものと、そこから発せられる「空気」ですよね。その空気をデザインで伝えるために、どんな工夫をしているのですか? また、最近の表現の傾向はありますか?

太田:空気清浄機のデザインをしていたときは、きれいな空気を生み出す「箱」を作ろうと思ってデザインしていました。ユーザーの生活の邪魔にならず、部屋の端で静かにたたずむような。極力ムダを省いて、そこにある空気で生活が豊かになったらいいなと想像しながらデザインしていました。見えないからこそ、価値を与えることがすごく難しいですね。また、そこが面白いところでもありますが。

最近では、ムービーを作る機会も増えています。私達が言葉だけで伝えられないこと、紙だけでは伝えられないことを映像にすると、言語の違う海外はもちろん、社内でも伝わりやすいようです。

見えない空気をビジュアルで表現すること

児玉:空気がもたらす生活を視覚的に表現したら、いい空気やきれいな空気がイメージできるんじゃないかと考えますがいかがですか?

太田:そうですね。エアコン本体の写真を見せながら言葉でこんなことができますと製品の特長を説明しても、なかなか伝わらないこともあります。たとえば、東南アジアでは、まだまだエアコン普及が見込める市場でして、この空調機器を導入するとこんな困りごとを解決したり、こんな生活ができますよ、ということを伝える動画を作ったり、中国は既にエアコンは普及していますので、さらに一段上のライフスタイルがどう変わるかというムービーを作りました。

対談中の太田由美さん(ダイキン工業)と児玉秀明(アマナ)

児玉:ビジュアルを作る際、まずキーワードがあると思いますが、一つのキーワードから想像する絵はみんなバラバラだったりする。そこから一つのビジュアルにしていくのは大変な作業ですよね。弊社もエモーショナルスケールというスケールを使って感性を可視化しようという取り組みもしています。

太田さんがダイキン工業の空気の可視化にあたって意識していることは何ですか?

太田:感覚なんですけど、根底にあるのはダイキン工業が作った空気でお客様の生活や心が豊かになるという目的が実現できているかな、皆さんの心にちゃんと響くアウトプットができているかなと意識しています。プロダクトデザイン出身なので、たとえばサービスを受ける人、製品を使う人のことをまず最初に考えて、今の生活より一段豊かになれるようにと思いながら活動しています。

DAIKIN designでも「見えない空気を愛されるものに」というフィロソフィーを掲げていますが、製品や仕掛けの先にいる人のことを考えて、それぞれにフィットした空気を作ることだと思っています。今後もトライ&エラーを重ねながらどんどん進めていきたいです。

テキスト:島村美樹

撮影:中橋広光(UN)

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