空撮だけでは時代遅れ!? 2019年ドローンビジネスの最前線とは

2019年3月6日(水)銀座最大の商業施設「GINZA SIX」にあるワークスペース「WeWork」で、2019年のドローンビジネスの最前線についてのセミナーが開かれました。撮影から産業へと移り行くドローン業界。今後のビジネスの展望とは? 大盛況に終わったイベントをレポートします。

ドローンの専門家2人が、ドローンの未来を語る

ドローン講師、岩崎覚史さん、株式会社アマナビの深田康介

今回のセミナーで講師を務めた、『DRONE MEDIA』の岩崎覚史さん(左)と株式会社アマナビの深田康介(右)。

今回のセミナーは2部構成で展開。第1部に登壇したのは、日本初のドローン専門メディア『DRONE MEDIA』を立ち上げた現編集長・岩崎覚史さん。国内外のドローンビジネス事情と、これから必要とされるドローンの産業利用についてレクチャーしてくれました。第2部では、JUIDA(注1)の認定校として約800名の卒業生を輩出する「amana drone school」の講師で株式会社アマナビの深田康介が登場し、ドローンビジネスにおける現場のリアルや、注目の機材について事例を交えながら紹介。

2人の話から見えたのは、今までのドローンビジネスは“撮影”がメインでしたが、これからは間違いなくドローンを使って何ができるかという“ソリューション”の時代が来るいうこと 。さらに、ドローンの可能性は広がると共に、より深い知識と専門的な技術が必要になるということも明確になりました。それではさっそく、第1部からご紹介します。

注1.JUIDAは一般社団法人日本UAS産業振興協議会の略称。日本の無人航空機の新たな産業・市場の創造支援と産業の健全な発展への貢献を目的として、2014年7月に設立された団体のこと。

【第1部 岩崎覚史さん】ドローンは機体性能からソリューションへ

ドローンセミナー、岩崎さん

岩崎さんの最新のドローン事情に耳を傾ける参加者たち。

岩崎さんによると、現在世界におけるドローンビジネスは機体開発からソリューションやサービス開発にトレンドがシフトしているのだそう。

ドローンのハードウェア戦争は、中国の独り勝ち で終了しています。中国の中でも特にドローン開発が進んでいるのが“深圳(シンセン)”エリア 。このエリアは、たとえば、日本で開発するのに1年かかるものが、深圳では1カ月以内で完成できてしまうほど、ものすごいスピードでビジネスが動いているエリア です。ドローンの機体に関する世界シェアNo.1のDJI(https://www.dji.com/jp)もこの深圳に本社を構えています。

とはいえ、現在、深圳に本社を構えるドローン関連企業が、機体の開発ばかりをしているかとそうではありません。機体そのものの性能は一定の水準まで達したため、昨今では ドローンを使ってどんな課題解決ができるかという“ソリューション”に力を入れている のです。ハードウェアのシリコンバレーと呼ばれる深圳も今やソリューション・サービス開発の街に急速に変化しています。

毎年深圳では、産業用ドローンの展示会「UAVEXPO」が開催されています。こちらの展示会でも、ソリューションの紹介がメインに。世界の流れから見ても、これからは機体の性能ではなく、ソリューションやサービスに注目すべきと言えるでしょう」(岩崎さん)

ドローンの操縦・撮影ができるのは当たり前。これからは、ドローンを利用して効率的な仕事を実現する“サービス”の提供が求められるようです。

日本がドローン点検大国に!? ドローンが日本の安全を守る

ドローン専門メディア『DRONE MEDIA』、編集長・岩崎覚史

ドローン専門メディア『DRONE MEDIA』の編集長・岩崎覚史さん。

国内のドローンビジネス市場規模は、2019年は1240億円、2024年には約3倍の3711億円になるとも言われています 。では、これから伸びていくと予想される“ソリューション”はどんなジャンルで必要とされていくのでしょうか?

「特に需要が増えていくのが、点検、農業、測量といった分野 。中でも点検”は、民間の企業や施設だけでなく、ダムや電線の点検など公共インフラでの活躍も期待 されています。

たとえば、トンネルの点検。2012年の笹子トンネル崩落事故がきっかけとなり、全国のトンネルや橋を対象に、5年に一度、人の“目視”による点検が国土交通省により義務化されました。今年、2019年1月には法改正が行われ、ドローンでの点検が認められるようになったんです。

トンネルだけでなく、道路や橋梁などの公共インフラの老朽化は、今の日本では深刻な問題 になっています。さらに地震大国でもある日本にとって、インフラのにおける“点検”は早急にやらなければならない課題の1つ。効率的に、素早く、安全に点検ができるドローンは、今後の日本に欠かせないツールになるでしょう」(岩崎さん)

さまざまな公共インフラの点検が必要な日本。このピンチを救ってくれるのは、ドローンなのかもしれません。

【第2部 深田康介さん】実際の現場のリアルを語る

ドローンセミナー、深田

ドローンでお台場の花火を撮影した時の映像を用いて説明する深田。

岩崎さん同様、アマナビの深田もこれからは「点検、農業、測量」でのサービス需要が増えていくだろうと話していました。

「大河ドラマ“真田丸”のオープニング映像の空撮やCG加工など、2015年までのドローンニーズは、映像がほとんどでした。2017年からは需要の変化を実感し、施設点検や測量の実験を行い、商業用のビジネスにつなげる準備を整えてきました。

その結果、測量では今まで人の手で1週間かかっていた作業が、場所によってはドローンなら最短1日で完了できる ようになり、時間と人件費が大幅に削減可能に。また、姫路市と行った施設点検実証では、赤外線カメラを搭載したドローンで建物の温度差を測定し、外壁タイルの浮きをチェック。また近赤外線を利用したマルチスペクトルカメラは、農作物の健康状態も色による可視化で認識できるため、農業でも応用 できます。

共通して大切なのは、現状を見るだけでなく、そのデータを分析し蓄積していくこと。農業なら、データを“見える化”し、残していくことで、農作物の収穫時期や収穫量が予想でき、無駄のない仕事ができる ようになります」(深田)

今までのように撮影してデータを渡して完了ではなく、その後のサポートも含めたサービスを対案することが大切。農業でのデータを含めた活用は、大きな農地を所有する製薬や飲料メーカーなどで活用が期待されそうです。

実際に使っている今注目のドローンとは?

ドローン

左上)照明機材を付けた「MATRICE 600 pro」。(右上)「MATRICE 210 RTK」。
(左下)マイクロドローン。(右下)アマナビではさまざまなドローンを持っている。

では、実際に現場ではどのような機材を使っているのでしょうか?  その点についても深田は語っていました。

「多くのドローンメーカーが存在しますが、深圳のドローンメーカー“DJI”に勝るものは現状ありません 。私たちが使用しているドローンも、DJIの機材がメイン。この機体に、光学ズームカメラやサーマルセンサーカメラなどを用途によって組み合わせて使います

例えば、大きいサイズの「MATRICE 210 RTK」に30倍の光学ズームカメラを合わせたものは、対象に近寄らず安全に点検ができるため、電線の点検に最適。狭い場所にも入って行ける手のひらサイズの“マイクロドローン”は、ホビーだけでなく産業利用の可能性に注目 が集まっています。また、「MATRICE 600 pro」にライトを搭載し、照明機材として使うなど、新しい試みも行っています。このように、ドローンはさまざまな機体や搭載する入力装置を組み合わせることで幅広い用途にしようすることができますアイデア次第で、ドローンの可能性は無限に広がるのです 。

とはいえ、高性能のドローンを持っていれば、誰でもドローンビジネスができるわけではありません 。ドローン=空撮という時代から、今後はより高い専門性が求められます。ドローンを飛ばす場所や使用する機器によっては、国からの許可や無線などの資格が必要になる場合も。深い知識や技術が、これからのドローンビジネスを成功させるカギになる でしょう」(深田)

ドローンセミナーのまとめ

ドローン市場はこの1、2年でぐんと進み、映像の楽しみだけでなく産業ビジネスに可能性を広げています。今後のドローン市場には、知識、技術、資格などが必須。ドローンビジネスを成功させるには、まずは専門家から正しい知識を学ぶことが大切 のようです。スキルを身に付けて、ビジネスチャンスをぐっと広げてみてください。

 

取材・文/石部千晶(六識)

撮影/近 秀幸

 

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