メイクアップアーティスト・MINAさんの仕事哲学。「本来の美しさ」を引き出すことで実現する、色褪せない美しさ

フリーランスのメイクアップアーティストとして活躍するMINAさん。独学でありながら、ファッションショーや雑誌、広告、個人レッスンから商品開発まで幅広い分野でメイクの表現を探求し続けているMINAさんに、人の顔をビジュアライズするメイクアップの哲学について伺いました。

キッカケは、80年代を象徴するスーパーモデルたちの存在

――そもそもMINAさんがメイクに興味をもったのはいつ頃ですか。

MINA中学生になってからですね。私は小学生まで日本で暮らしていて、中学生から父親の転勤でカナダに渡ったんです。カナダの学校に通い始めていちばん衝撃的だったのは、自分の顔が他のクラスメイトと比べてまるで違ったこと。

ただでさえアジア人の顔って幼く見えるのに、向こうの子たちはみんな中学生から当然のようにメイクもしている。「私も同じように大人っぽい顔になりたい!」って思ってメイクに興味をもち始めたんです。

――カナダに行ったことが契機だったんですね。ちなみに、メイクの勉強はどうしたんですか?

MINA独学ですよ。『VOGUE』や『ELLE』を読んで、自分の好きな顔を探して、それを見よう見まねで作っていく。当時はお金もなかったので、お小遣いで買えるドラッグストアのコスメを使っていました。メイベリン、レブロン、カバーガール、ロレアルなど、あらゆるメーカーの商品を片っ端から漁って……メイクオタクでしたね。

ちなみに当時は80年代半ばから後半くらいで、スーパーモデルが全盛期の時代。シンディ・クロフォードやクラウディア・シファー、リンダ・エヴァンジェリスタ、それにナオミ・キャンベルが活躍していた頃です。彼女たちがレブロンやメイベリンの広告塔を担っていて、雑誌の表紙もいつも彼女たちが飾っていた。当時の華やかなスーパーモデルの存在は、私にとっても大きな影響を与えていますね。あの頃のミューズは、いまだに私の心の中に残っているんです。

――中学生の頃から今に至るまで、ずっと変わらずメイクが好きだったんですか。

MINAそうですね。大学生の頃に日本に戻ってからも、さまざまなコスメを買って、雑誌を見て真似をしたり。ずっとメイクオタクでしたよ。ただ、当時は趣味だと割り切っていたし、好きなことを仕事にするという発想も芽生えていなかったから、普通に大学に入学して、就職して、社会人になりました。そこで働きながら初めて「これは私じゃない。私が本当にやりたいことはなんだろう!」って本気で悩んだんです。

 

幼い頃から似顔絵を描くのが好きだった

――社会人として働きながら、自分のやりたいことを改めて考えたと。

MINA昔から私が好きだったのは、やっぱりファッションやメイク、雑誌、そういうものでした。その世界に入りたいなという漠然とした思いだけがあって、中でも人の顔に興味があったので、じゃあメイクを勉強しようかな、と。それでロンドンのメイク学校に入学したんです。

――人の顔に興味があった、というのは美しい顔が好きだったのか、それとも造形自体に関心があったのか、どちらでしょう。

MINAどちらもですね。スーパーモデルの美しいビジュアルももちろん好きだったけど、そもそも人の顔への関心自体が強かったんです。今振り返ってみれば、幼稚園くらいの頃から、雑誌や映画でモデルさんや女優さんの顔を見ながら似顔絵を描く癖があったんですよ。デッサンみたいな。

その人の顔を自分の中で解釈して、この人だったらここがチャーミングポイントだな、という部分を探すんです。「切れ長な目がいいな」とか「ぷっくりとした唇がいいな」とか。それはモデルや女優に限らず、会った人みんなに対してそういう意識で見ていましたね。

――昔から人の顔のチャーミングポイントを見つけることが癖になっていたんですね。

MINAそうですね。そして実際にロンドンのメイク学校で勉強しながら、気になるアーティストのいる事務所に行ってそこでアシスタントの仕事をしたり、「M·A·C」でアルバイトをしながらショーのメイクアップなども担当するプロチームに入って経験を重ねていき、今のフリーランスのメイクアップアーティストという道に進んでいきました。

 

普遍的なものとは、その人のいちばん美しいところ

―― MINAさんがメイクアップをする上でいちばん大切にしていることはなんですか。

MINA普遍的なもの、ですかね。もちろん「今っぽさ」とか「風潮」みたいなものはあるし、今しかできないメイクだってあるんだけど、何年何十年と後になって見ても新鮮だと思える、そういう普遍的な美しさを大切にしているし、追求したいです。

――雑誌などを見ていると、ファッションやメイクは常にトレンドが変わり続けているような印象があります。そういった世界の第一線で活躍しながらも、普遍的な部分を探るというのは難しいことのように思えます。

MINA:普遍的なものを探す、というのは、その人のいちばん美しい部分を探す、ということなんです。本来の魅力を探して引き出す、というのが私のメイク哲学のうえでは大前提ですね。最もチャーミングなポイントを引き出して、そこからさらに、今っぽさとか時代のストーリーをのせるんです。

MINAさんworks

 

――モデルさんや女優さんはともかく、一般の人の「本来の魅力」というのは、どうやって見つけるんでしょうか。

MINAそうですね。私、最近個人のメイクレッスンなどもしているのですが、その中でとても原点に立ち戻されているんですよね。要は、一般の方にメイクをするってすごく難しいんです。まず、メイクに慣れていないし、コンプレックスが多くて自信がない人もいる。ただ、そのうえでその人のもっている美しさをどう見つけてあげるか、というのが面白いんです。ご自分のコンプレックスをどう好きになってもらうか、というところですね。

――どうすれば自分のコンプレックスを好きになれるのでしょうか。

MINAコンプレックスって人それぞれだとは思うんですけど、その人が嫌だと思っていても、はたから見たらそれが魅力だったり。私はずっと自分の頬骨の高いことがコンプレックスだったんですけど、周りの人に「しっかりした頬骨があっていいね」とか「アジア人の特徴的な顔が素敵だ」とか言われるんです。

だから、コンプレックスって裏を返せばその人の長所だったりもします。それが何かのきっかけで嫌になってしまっただけ。だから、コンプレックスと感じている部分を、魅力的に見えるようにメイクマジックをかける。そうすると本人の中でも意識が変わったりするんですよね。

――コンプレックスは長所にもなりうるというのは、希望がもてますね。ちなみに、人のチャーミングポイントを探すのが得意なMINAさんにとって、誰かの顔に対して「美しくないな」と思うことはありますか。

MINA外面というよりも、内面から滲み出るものでそう感じることはありますかね。たとえば、どれだけきれいな顔をした人でも、ライフスタイルが崩れていたり、性格がネガティブだったりすると、それだけで顔の印象って変わるんです。逆にコンプレックスがあったとしても、明るく溌剌としていると、それだけで美しく感じたりする。

その人の顔というのは、外側からくるものと、内側からくるもの、その両方から成り立つものです。誰しもネガティブな部分はあると思いますが、それをこじらせてしまうと、あまりよくないかもしれないですね。

 

――それはやっぱりたくさんの人の顔と向き合い続けてきたからこそ確信できる部分ですか。

MINAそうですね。やっぱりメイクってその人と対面してやるものなので、話す機会も多いんです。そうやって相手の顔や内面を見て分析することはメイクアップする上で大切ですよ。かわいらしい顔でも内面がロックな要素があるタイプの女性は、ロックテイストのメイクをするとしっくりくることがありますから。

事前にロマンチックな感じのメイクでお願いしますと言われていても、モデルさんがロマンチックな感じの子でなかったら、ちょっとエッジなエッセンスを与えたり。だから「生き様は顔に出る」って、すごくいい言葉だなって思います。その人の顔は、内面のものがどうしたって滲み出てくるものなんです。

――「メイクアップ」と聞くと、どうしても白いキャンバスに色をつけていくようなクリエイティブを想像していたのですが、MINAさんのお話を聞いていると、その人本来の魅力や内側から滲み出るものによって彩られるイメージです。

MINA:もちろん、たとえばモデルさんは限りなく白いキャンバスに近いイメージで、ブランドのコンセプトなどによって柔軟に変化していく存在だし、そういうケースもあります。ただ、それでもその人たちに合うように変化させてビジュアルを作っていく、というのは大切な作業ですね。

――MINAさんが考える「メイクによって顔を作る」ということは、その人の個性による部分が大きいですか。

MINA:そうですね。あくまで相手の本来の魅力を引き出してあげることこそが大前提であり、ベーシックな作業です。その上で、相手の空気感やキャラクター、時代の流行などを感じて、そのエッセンスを加えてあげる。「今一番最高な自分」を作ってあげる事で、何十年経っても色褪せない、普遍的な美しさにつながると信じているので。

 

テキスト:園田奈々 撮影:上村可織(UN)

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