デザインは経営・ビジネスに何をもたらすのか? ビズリーチ×アマナ対談

デザインが企業活動にもたらすものとは?「デザイン経営」が政策提言され、改めてデザインの力が注目されています。今まさに、経営・ビジネスに近い最前線で活動している異業種のデザイナー二人に、企業とデザインの関係、その可能性を語ってもらいました。ビズリーチの景山泰考さんとアマナデザインの片柳満の対談です。

ビジネスと顧客の目線を合わせる力

――企業の価値や競争力を高めるために、経営やビジネスにデザインを活用しようという動きがあります。ビズリーチは社会課題を解決する事業に、アマナデザインは企業のブランディングに、デザインによるソリューションを提供していますが、デザイナーのお二人は「デザイン経営」の潮流をどう捉えていますか。

片柳満(アマナデザイン/以下、片柳):ここ1、2年で携わらせていただいている案件を振り返ると、単発的なデザイン案件から一歩踏み込んで、ブランディングやトータルディレクションに関するお仕事が増えており、経営者の方と直接やり取りさせていただくこともあります。

経営層をはじめとしたビジネスのプロフェッショナルの方も、事業を考える上でデザインを最重要要素として捉えており、その力を強く必要としている実感があります。

ビズリーチさんでは、ビジネスの上流からデザインを取り入れてプロダクトを作っていると思いますが、実際はどうですか。

景山泰考さん(ビズリーチ/以下、景山。敬称略):そうですね、特にこの1年は経営とデザインを接続することに力を入れています。ビズリーチはマッチングプラットフォームが主なサービスですが、そのサービスのためのデジタルプロダクトも制作しています。プロダクトの目的もかなりシビアに設定されており、ビジネス戦略とプロダクトの目線がそろっているところが特徴的です。

――ビズリーチはCDO(Chief Design Officer)を筆頭に会社全体で約80人のデザイナーを擁して、体制を強化していますね。

景山:デザイナー数は、もうすぐ全従業員約1100名の1割に届く見込みです。現在は10事業以上あり、各事業部にデザイナーを割り当てていますが、ユニークなのは、最新ソフトフェアの生産性を検証するエクスペリメンタルデザインラボなど、社内の専門的なチームにコミットしているデザイナーもいることです。事業にスピードを出し、技術のタコつぼ化を防ぐために、外部のデザイナーにも入ってもらっています。

デザイン側の責任者が、ビジネス側のプロダクトやマーケティングの責任者とやり取りしていくという動きも日々ありますが、これは片柳さんも同じではないですか。

片柳:同じです。デザインの根本的な強みは、考えやアイデアをカタチにして提示できることです。案件においては概念をどんどん見える化することで、プロジェクト自体を活性化・加速化させていくことを意識しています。また、自分たちのように企業の外側から関わっていくデザイナーは、第三者的な立場となり、これがある種の顧客視点になるなので、ここを起点にデザインを組み立てることを大切にしています。

景山:その通りですね。私もビジネス部門と仕事をするときは、最終的にプロダクトに触れるお客様(ユーザー)の視点を踏まえて、お互いがいい形で事業を進められる状態を考えています。いろいろな文脈を理解してアウトプットとして形に出すことで、それが必ずしも正解でなくても、素地があることによって前へ進めることは意識しています。

 

思いをつなぎ、人を動かす、デザインの効果

――企業が経営・ビジネスにデザインの視点を取り入れる際、ネックになることがあるとすれば、何だと思いますか。

片柳:デザインに対するクライアントの理解度は、その効果と関係していると思います。投資に見合う効果が得られるのか? という疑問に対し、結果で応えていけることが大事です。

景山:定性的な判断ができる決裁者であれば効果の広がりをイメージできるかもしれませんが、そこを、片柳さんのような第三者が、どう見ているのか助言してくれることは重要ですね。

片柳:時流を読んだ新規の事業で成功されているクライアントさんから、ロゴのデザインに関するご相談がありました。お話をきいてみると、通常ではありえないスピードでビジネスを進めてこられたようで、ブランドとしてのフィロソフィーが抜け落ちてしまっていることが見えてきました。

今はあらゆるビジネスが瞬く間にコモディティ化してしまう時代です。そんな中では、そのブランドの独自性やストーリーをユーザーにしっかり伝えて行く必要があります。ロゴは、ブランドのフィロソフィーを形にしたものですので、まずは一度原点に立ち返り、企業のタグラインのご提案をするところから始めさせていただきました。

――デザインの活用が大きな効果につながったと感じる事例はありますか。

片柳:ハーゲンダッツのアイスクリームの新しい食べ方を提案するポップアップショップのトータルデザインに携わった事例があります。

ミニカップのバニラをはじめとするコア商品の魅力をさらにアピールしていくという目的のもと、伝統的な製法を守るベーカリー「メゾンカイザー」と組んで、パンと一緒に食べることを提案をする「ハーゲンダッツベーカリー」を企画。2017年のゴールデンウィークに期間限定で丸の内に出店しました。

この取り組みでは、商品ビジュアルをはじめ、店舗デザイン、販促ツール、ムービー、Webサイトまでトータルでプロデュースしています。ハーゲンダッツとメゾンカイザーという、2つのブランドが織りなす夢のコラボレーション感を演出し、その世界観を緻密に作りあげることに力を注ぎました。

その結果、「ハーゲンダッツベーカリー」は大きな話題を呼び、約600件以上のメディアで取り上げられ、SNSにも多くの投稿がされました。ショップには行列ができ、広告に換算すると投資額の何倍もの費用対効果があったと聞いています。

企画からアウトプットまで、アイスクリームの新しい食べ方の体験をデザインする、ということが実現出来たのではないかと考えています。

メゾンカイザー×ハーゲンダッツベーカリーの事例。

 

景山:私も前の会社でデザイン業務だけでなく、ビジュアルブランディングも手がけていました。私自身お酒が好きということで、BtoBメーカーがBtoCの事業として酒造に参入する際の、ビジョンをゼロからビジュアル化する仕事をしたんです。実際に、海外で開催されたラムのショーでラベルが評価され、お酒の造り手の気持ちが上がり、デザインが事業を強く牽引していることを感じましたね。

景山さんの制作事例「オンラインリカーストア kindred(キンドレッド)」。

景山さんの制作事例「NINE LEAVESのビジュアルブランディング」。

 

片柳:「企業活動にしっかりと効果を出せてよかった」と評価されることが大事ですよね。

景山:同感です。デザインとしていいパスが出ているから、お客様が商品を買おうという気持ちになるわけですよね。その前後にはいい製品を作ろうと努力している人や、思いを持って事業を立ち上げお客様と向き合っている人がいます。その間に立つ存在として、ちゃんとパスを出す役回りで仕事ができているわけですよね。

デザインは価値創造の経営資源

――企業はどのように経営やビジネスにデザインを取り入れたらいいと思いますか。

景山:プロダクトのお話になりますが、人が課題を解決したいと思ったとき、その方法はものすごく苦労しないと手に入らないことがよくあります。それが全部整理されてひと通りの体験として提示されることに、デザインの付加価値があるのではないかと思います。より研ぎ澄ました答えをお客様(ユーザー)に提示することで、企業やプロダクトが自分を向いてくれていると感じてもらえるのではないかと思います。

片柳:ビジネスにおいてますますブランティングが重要になってきていると思いますが、ブランドとはあらゆるユーザーとの接点におけるデザインによって作られています。「高級アイスクリームといえば?」と考えたときに思い浮かぶ企業のように、自分たちのことをしっかり伝えられている企業は、デザインというものを上手く使えているのではないでしょうか。

ただ、いきなり完璧を目指す必要はないと考えています。デザインは重要な経営資源だととらえ、できるところからスタートして、徐々に大きく運用してみるといいかもしれません。

――デザインを経営に役立てるために、お二人は今後どのような仕事をしてきたいですか。

景山:今、エクスペリエンス戦略室(※)の立ち上げをしながら、課題を解決する方法はたくさんあると感じています。お客様とのタッチポイントを整理することも重要ですが、もしかしたら一緒に働いている人の目線をそろえることに解決の道があるかもしれません。議論されていることを整理したり、形にして共通認識をもつ部分などにデザインの力を活用し、価値は人が生み出すという仕組みを作ることで、事業そのものの価値を創造できるのではと考えています。

※プロダクトデザインおよび社内横断的に事業課題解決に取り組む部門

片柳:北海道の不動産会社の案件を担当した際、日本を観光の視点からリサーチしたのですが、日本のあらゆる面で発揮されている感性や美意識、きめ細かくものを見る力は、世界的にも際立っているし、とても競争力が高いことを再認識しました。こうした個性はクリエイティブの面でも力を発揮するものだと思っています。日本から世界に出ていくブランドを作ったり、育てたりすることにチャレンジしたいですね。

景山:私が仮に、一緒にお仕事をする企業側の立場だったとしたら、片柳さんのように思慮を尽くして形を探してくれる人がいることは幸せに思います。

片柳:私からすると、景山さんのように一つの会社の中で、大規模なデザイン組織を持ち、ビジネスと並走させている環境にもとても興味があります。ビズリーチのような会社がもっと増えると、日本の社会や経済が変わるかもしれません。

景山:デザイン経営の成功例になれたらうれしいですね。

編集:八島朱里
テキスト:さとうともこ
撮影:木本日菜乃(アマナ)

 

プロフィール

景山泰考

株式会社ビズリーチ デザイン本部プロダクトデザイン室 マネージャー

千葉大学法経学部を卒業後、ニューヨークの美術大学でコミュニケーションデザインを学ぶ。帰国後、デザイン制作会社2社(うち1社は起業)、教育系ベンチャーを経て、2017年にビズリーチ入社。プロダクトデザイン部門および社内横断的に事業課題解決に取り組むエクスペリエンス戦略室のマネジメントに従事している。

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