大胆なビジュアルで印象付ける、企業の強さと鉄壁の年次報告書

テクノロジーライターの大谷和利さんが注目した、世界の先進的なビジュアルユースのトピックを取り上げる連載「VISUAL INSIGHT」。第19弾は、大胆なビジュアル表現で、企業哲学と強固なイメージを打ち出す、企業報告書をご紹介。

頑丈な企業報告書が本当に伝えたいメッセージとは……

年に1度、経営内容の総合的な情報を掲載して発行される企業の年次報告書は、株主などにとっては重要な資料であり、それなりにこなれたデザインが施されることが一般的になりつつある。

しかし、クロアチアのアドリスという多角化企業ほど、この年次報告書を有効に使って、自社の企業哲学を広く認知させている会社はないだろう。

同社は、観光業から保険まで広範囲なビジネスを展開しているが、自らのビジネスが堅調に成長していることや、それが社員と顧客のおかげであることを、年次報告書のビジュアルを最大限に活用しながら株主や金融機関に印象付けているのだ。

その最新作では、報告書自体を火にくべ、海に投げ入れ、車に踏ませ、プレスで挟み、凍らせ、子供のおもちゃにするという具合に、過酷な試練にさらす様子を公開。その迫力ある映像が、経済の波に揉まれても安定した経営を行うアドリスという会社を象徴する、という思い切ったアイデアで関係者を驚かせた。

アドリスの年次報告書は、実際に火で炙っても、

水に浸けても、

押しつぶしても、

-195.79°Cの液体窒素で冷やしても、

6歳児の手にかかっても、

ビクともしない。アドリスのビジネスそのものが、そうであるように。

この映像を見た当初は、あくまでも映像的な演出かと思ったのだが、実はそうではなく、株主用のものを含めて、本当に火や水、圧力、低温に強い特殊な素材を使った年次報告書を作って配布したというから、1本筋が通っている。

それは、水に耐え、

引き裂こうとする力に耐え、

圧力に耐え、

火にも耐える素材でできている。

これが、アドリスのビジネスと年次報告書なのだ。

クロアチア随一の巨大企業であるアドリスは、観光業、食料品、保険などを手がけており、年間の収益は約8億4千万ドル(約950億円)にのぼる。

しかも、この会社は、ここ数年に渡って、ブックデザインの限界に挑むような年次報告書を発行し続けてきており、そのすべてに骨太のメッセージが込められているのである。

アドリスは過去にも、視覚に訴える年次報告書を作ってきた。これは、2010年のものだが、同社が自覚する社会的責任の重さを、あえて何の変哲も無いシンプルな年次報告書の外観と、持ち上げたときの重量のギャップによって表している。

2011年には、自社の業績が社員や顧客の手によって支えられていることを、表紙の色が温度によって変化する年次報告書(iPadアプリによるデジタル版ではタッチしたところの色が変わる)で表現した。

2013年は、折りたたまれた年次報告書を読み進むにつれて拡大していくフォントサイズが、同社の安定して成長するビジネスを想起させるというアイデアを形にした。

2015年は、アドリスが他社を買収しながらステップ・バイ・ステップで成長を続けていることをイメージして、年次報告書の側面が階段状になるように手の込んだブックデザインが施された。

ここまでのコストをかけられるのは、とりもなおさずアドリスのビジネスが順調であることの証でもあるが、地味で裏方的な存在と思われがちな年次報告書でさえも、アイデアとビジュアルの力で企業の哲学や魅力を効果的に伝えるためのツールになりうるということを示している。

日本の企業も、世界をアッといわせるような年次報告書を考えてみてはいかがだろうか。

 

※図版は、すべて公式ビデオからのものです。

 

KEYWORD キーワード

KEYWORDキーワード

本サイトではユーザーの利便性向上のためCookieを使用してサービスを提供しています。詳しくはCookieポリシーをご覧ください。

閉じる