なぜ「相撲ガールズ」は世界を二度見させたのか? チーム一丸となって形にした想いが実を結ぶ

女子高生がセーラー服で相撲を取るーー。

 

北國新聞社主催「第101回高等学校相撲金沢大会」のプロモーション用に作られたのは、女子高生が相撲の決まり手を82手披露するというビジュアルです。強烈でセンセーショナルなそのビジュアルは、2017年5月のローンチ後瞬く間に話題となり、テレビ番組やWebメディアで多数取り上げられました。

 

そんな「相撲ガールズ82手(以下、相撲ガールズ)」が、今度は世界の名だたる広告賞で旋風を巻き起こしました。アジア太平洋広告祭(ADFEST)2018プリントクラフト部門でのグランプリ受賞を皮切りに、D&AD、NYADC、三大広告祭の1つOne Showなどで次々とゴールドを受賞。企画・制作を担当したのは、電通とアマナの共同制作チームです。

 

今回は、電通のアートディレクター川腰和徳さんと、アマナのプロデューサー里見勇人に、受賞に至った道のりを伺いました。

粘りに粘り、勝ち取った最高賞

――まずはADFEST2018*グランプリ受賞、おめでとうございます。
*ADFEST2018受賞のタイミングで取材を行ったため、伺ったのはADFESTについてのみ。

川腰和徳さん(以下、川腰。敬省略):ありがとうございます。まさかグランプリを獲れるとは思っていなかったので、正直驚きました。

「相撲ガールズ」のアートディレクションを担当した川腰さん。

里見勇人(以下、里見):うれしいですね。PRINT CRAFT部門 の ART DIRECTIONカテゴリーとBEST USE OF PHOTOGRAPHYカテゴリーにノミネートされていましたが、授賞式ではまず「フォトグラフィー」部門でシルバー賞での受賞が発表されました。

その後に「アートディレクション」部門でグランプリを獲れて……。「フォトグラフィー」発表の後は、完全に油断していましたね。

プロデュースを担当した里見。

――エントリーした際、グランプリを獲る自信はありましたか?

川腰:僕たちにとって思い入れのある作品だったので、よりよい結果を残したいという願望はありました。蓋を開けたらグランプリ、しかも「アートディレクション」のカテゴリーでグランプリを獲れたというのは、アートディレクターとしても、とても自信になる結果でした。

――お2人の作品への思い入れを聞かせいただけますか?

川腰:まずは、このインパクトの強い企画にOKを出していただいた北國新聞さんのご協力含め、皆様には感謝しかないのですが……。

そもそも、この企画は実現できるかわからなかったんです。高校生の相撲大会を告知するためのプロモーションなので、大会の認知度を上げるために、とにかくインパクトを残したかった。そこで「大会イメージガールの女子高生が相撲をする」というアイデアが浮かび、相撲の技82手を実演する企画が生まれました。

ですが、アクロバティックな技もあるため、技をかける方もかけられる方も慣れていないと本格的な相撲の技を表現できません。「そんなことができるモデルは果たして存在するのか?」、それが難題でした。

82手すべてをビジュアル化。チームの粘りとこだわりが詰まっています。

里見:僕はビジュアルのラフを見た瞬間、強烈なインパクトを受けました。まだラフの段階ですが、浮世絵のようなタッチに「これは面白くなる」と思いましたね。

ただ、川腰さんがおっしゃる通り、そもそも技を実演できるモデルが見つかるかどうか見当がつきませんでした。オーディションを始めてすぐに1人見つかったのですが、もう1人がギリギリまで決まらなくて……。

動画も作っていますが、今まで82手すべての技がしっかり表現されている動画資料がなかったようで、クライアントには「教科書のように、相撲82手のお手本となるビジュアルにしたい」という思いがありました。

ビジュアルはキャッチーではあるものの、相撲の本格的な技のクオリティを出すために絶対に妥協できません。度重なるオーディションを経てスケジュールの限界まで粘り、やっとの思いで2人目のモデルを見つけることができました。

川腰:モデルの2人が見つかったとき、「いける!」と確信しましたね。

――撮影にあたって気をつけた点や、こだわりのポイントを教えてください。ムービーとスチールの撮影合わせて4日間に渡ったと伺いました。

川腰:数日に渡る撮影なので、モデルの2人がケガをしないか心配でした。スタッフ全員で細心の注意を払ってケアをして、2人に頑張ってもらいました。

里見:2人の安全を守ることはもちろん、制作にあたっての「想い」を共有することも意識していました。伝統ある相撲大会の告知であり、これからの資産になっていくものでもあるので、「本格さ」も表現したい。その考えをしっかり伝え、撮影に臨んでもらいました。

モデルを務めたのは、千洋さんと神部美咲さん。根気強く撮影に臨んでくれました。

里見:また、元力士の方に監修に入ってもらい、動き1つ1つを指導してもらったので、脚の踏み出し方や体重のかけ方など、本物の勝負の世界を表現できたと思います。

川腰:アートディレクションでは、スカートのなびき方やシワの見え方にもこだわりました。立ち会いの瞬間の躍動的な流れや緊張感を1枚のビジュアルに閉じ込めたかったので、実際に立ち合いをしてもらい、その一瞬を切り取るために何度もフォトグラファーにシャッターを切ってもらいました。

――撮影の苦労が伺えます。この赤から青への色合いも特徴的で目を引きますね。

川腰:立ち合いの瞬間なので、相対するイメージの「赤」と「青」を基調にグラデーションにしています。ポップでビビッドな色合いを選びつつ、伝統的な浮世絵をイメージさせるような表現にしました。

世界を振り向かせたのは超越した「インパクト」

ADFEST2018授賞式の様子。

――ADEFST2018では、審査員からどのような声がありましたか?

川腰:嬉しいことに、審査員は満場一致だったそうです。「二度見するようなインパクトがあり、群を抜いていた」との声があったと記憶しています。みんなで作り上げた1枚絵の強さが評価されたということです。

――確かに、インパクトの強さは他のノミネート作品を見ても比類ないものがあります。他の作品をご覧になって、海外広告賞の傾向や今回グランプリを獲れた勝因をどうお考えですか?

川腰:賞を獲るための表現にはフレームワークがあり、ノミネート作品の多くは、その方程式で作られているものがほとんどでした。既視感から逸脱できたからこそ、審査の中で目を引くものになったのかもしれません。
参照:ADFEST2018オフィシャルサイト

――従来の「フレームワーク」とはどのようなものでしょうか?

川腰:「課題に対して解決するアイデアがあり、結果につながる」というストーリー構造がフレームワークです。それはそれで正しいやり方なので否定はしませんし、広告賞を獲るうえで考えなければならない部分です。実際にADFESTでは広告賞を狙うために作られたと感じるものが多く見受けられました。

「相撲ガールズ」は賞を獲ることより、世の中で話題になることが第一優先だったので、広告賞のフレームワークから逸脱したものになってはいますが、逆にそれが強いインパクトにつながったのかなと思います。

エモーションに訴える表現で評価していただいたのは、とてもありがたいですし、海外の広告賞の評価軸が新しいゾーンに入ってきたことも意味しているのではないでしょうか。

築いてきたチームワーク。これからもーー

――お2人は「相撲ガールズ」以外にも一緒にお仕事をされていますよね。

里見:川腰さんとご一緒するようになって、7年くらい経ちます。僕が1人立ちする前からずっと一緒にやってきているので、その間の自分の成長を知っている人でもあります。

川腰:里見さんは、プロデューサーとして「できない」と言わないところが本当に心強いです。僕たちクリエイターがいくら企画を立てたとしても、実現できなければ意味がありません。

里見さんはたとえ泥臭くても、前向きに実現しようとする考え方や姿勢が素晴らしく、チームみんなのモチベーションを高める能力も兼ね備えています。

里見:僕は川腰さんのファンなんです。川腰さんが描いた企画のラフ画を見るとき、毎回「これは面白くなる」と確信が持てる。しかも、それが制作段階で魅力的に変化していくところも見てきたので、一緒に仕事をしていて面白いですね。目指しているレベルも高いので、こちらとしては常に試されているような気持ちになります。

川腰さんのアートディレクションには「妥協」という言葉はなく、僕も負けじとその気持ちに応えられるよう全力を尽くします。今の僕がいるのも、川腰さんのおかげです。

――「相撲ガールズ」は、アマナグループのフォトグラファー高梨遼平が撮影しています。お2人はこれまでも高梨と一緒に仕事をされていますが、どのような存在でしょうか?

川腰:数年前から何度もお仕事させてもらっていますが、高梨さんとは相性がいいと勝手に思っています。僕が持っているイメージを具体的に、いや、それ以上に表現してくれますし、理解力があって細かい配慮もしてくれる。非常に優秀なフォトグラファーだと思います。

里見:僕はまだ新人の頃、高梨の作品集を見たときにビビッとくるものがあったんです。それ以来、一緒に仕事をしたいと思い続けていました。それから何度も一緒にやっているので、今では何でも言い合える仲になっていますね。

里見がビビッときたという高梨の作品。その他の作品はamana photographersにて。

里見:川腰さんと高梨はお互い忙しく、コミュニケーションを密に取れないこともあるので、そんなときは僕が高梨に「川腰さんはこう思っているんじゃないか」と伝えています。その意見を受けてテスト撮影を繰り返し、完成度を高めてくれるので、作品のクオリティが上がっていくんですよね。

――チームの連携がしっかり取れているからこそ、上質な作品を作り上げることができたんですね。今後このチームで成し遂げたいことはありますか?

川腰:そうですね、もう一度このチームで一緒に納得できる作品を作り、賞を獲りたいです。

里見:僕もそう思います。そう思えるくらい、「相撲ガールズ」はクライアント、クリエイティブスタッフ含め、チーム全員が一丸となって、納得できるまでクオリティを追求できました。キャスティングや撮影は大変なこともありましたが、それだけ記憶に残る仕事となりました。

今後、どんな表現を見せてくれるのでしょうか。これからが楽しみなお2人です。

テキスト:森下夏樹(@natsukilog
インタビュー撮影:渡邉伶奈

プロフィール

川腰和徳 | kawagoshi kazunori

株式会社電通 第3CPR局所属

アートディレクター

1979年生
多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業
2007年電通入社

アートディレクションを軸とした統合プランニングで日清食品や富士急ハイランドなど、これまで100社以上の企業を担当。近年では、湖池屋リブランディングで「KOIKEYA PRIDE POTATO」の商品開発やCIデザインなど手掛ける。

受賞歴:
2018アジア太平洋広告ADFEST Print craft部門グランプリ / 2018NYADC金賞(2年連続金賞) / OneShow2018金賞 / 2018D&ADイエローペンシル(金賞) / 朝日広告賞グランプリ / ACC CM FESTIVAL 金賞 / 2016 Cannes Lionsデザイン部門銀賞 / ADFEST2017インタラクティブ部門金賞 / 2017グッドデザイン賞 / 2018 JPA経済産業大臣最高位 / 電通賞最優秀賞など国内海外多数受賞

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