京王プラザホテル、日本橋三井タワー、虎ノ門ヒルズなどを手がけてきた、日本を代表する建築設計事務所、日本設計。2017年6月、同社が実施したのが、「全員写真プロジェクト」と名付けたイベントでした。
社員全員に声をかけて皆で「1枚の写真に収まろう」というもの。それは人と人、過去と未来をつなぐ“ビジュアルのチカラ”を感じた試みだったのですーー。
このユニークなプロジェクトを若手と共に作り上げた日本設計の3名と、アマナの担当者にお話を伺いました。
ビジュアルシフト編集部(以下、編集部):「全員写真プロジェクト」で撮影された写真を拝見しました。まず社員の皆さんの笑顔が自然で伸び伸びとしているのが、とても印象的ですね。
岡本尚俊さん(日本設計/以下、岡本。敬称略):正直、当初は「土曜日にわざわざ写真を撮るためだけに集まってくれるかな」と不安でしたが、全社員で約1000人のところ、約500人が撮影会場の集まってくれました。一緒に来てくれた家族を合わせたら約900人ですね。楽しんでもらえたようで、皆リラックスしたいい表情をしてくれました。
平賀縫さん(日本設計/以下、平賀。敬称略):カメラマンの皆さんが被写体を「のせる」のが上手でしたね。当日集まった約900人全員で1枚の写真を撮る、というのがメインイベントではありましたが、1人1人の顔写真も撮ってもらったんです。また家族連れでもぜひ参加くださいという会にして、家族写真も撮っていただきました。
編集部:そもそも、社員全員を集めて写真を撮る「全員写真プロジェクト」には、どのような狙いがあったのですか?
黒田渉さん(日本設計/以下、黒田。敬称略):1967年に霞が関ビルディングの設計メンバーを中心に立ち上げた弊社は、2017年で創立50周年だったんですね。一方で、立ち上げ当時約100人だった社員数は、今は1000人近くになりました。全社員が集まる機会も減ったので、できれば一同に介したうえで、単にパーティで飲み食いをするだけではない、記憶に残る意義あるイベントがしたいな、という話になって……。
岡本:そこで「みんなで写真を撮ったらどうか」と。
編集部:なぜ「写真」となったのでしょう?
黒田:それは50年前に撮った、この写真(下)の存在が大きかったですね。
編集部:創業期の社員の方々ですか?
岡本:はい、創立期の社員集合写真です。今はそれなりに大きな建築設計事務所となりましたが、現在があるのは当時の方々が地道に積み重ねた仕事の上にある。50年前から連綿と続く日本設計の歴史の先端に、私達は立たせてもらっている——。
50年経った今、同じように社員集合写真を撮って、あらためて感じ取り、また次の50年に伝えていく必要があるのではと考えたわけです。写真という形に残すことで、50年後、100年後の社員達に対して、50年前の社員の顔を見て「彼らのおかげで今があるな」と思ってもらえるようにするという意味もある。未来の社員のために、おかしな仕事はできないと気を引き締める機会にもなると考えました。
黒田:人が増えると顔が見えにくくなるけれど、決してそうではありません。全員の顔が映った写真を撮るという行為に意味があると考えたわけです。
編集部:イベントの企画運営は、アマナに任せていただきました。コンペだったと伺いましたが、決め手は何だったのでしょう?
岡本:弊社の社風を把握したうえで練られたプログラムを提案していただいたことですね。たとえば、「一体感を強く生み出す意味でも360度撮影できるカメラを使いましょう」「それだけの人数を集めるための工程表も作ってみました」「実際に手がけるスタッフを写真付きで見せます」などなど。弊社用のオーダーメイドの提案をしてくれたと感じました。
深瀬陽平(アマナ/以下、深瀬):2016年から日本設計のオフィシャルサイトのリニューアルを弊社で担当していました。これも創立50周年を前に、あらためてコーポレートアイデンティティを見つめ直し、働き方も含めて今の時代に合わせたスタイルにしようというものだったのですが、日本設計さんはクライアントと共に“共創”することを明確に打ち出されていました。まさにオーダーメイドですよね。弊社の制作スタイルにも似た面があり、そこに強く共感したうえで提案できたかなと思います。
岡本:オフィシャルサイトで役員の写真をアマナのフォトグラファーに撮っていただいたことも大きかったですよね。仕上がりがとても自然で、皆やわらかい表情に。これなら、集合写真撮影をイベント化できるのではないかと感じました。
編集部:とはいえ、撮影日は休日で、1000人の社員の方々にイベント参加を促すのは、大変だったのではないでしょうか?
岡本:そうですね。今回のイベントでいちばん危惧していたのが「ちゃんと集まってくれるのか」ということでした。
深瀬:参加意識を醸成するうえでも、ビジュアルのチカラを意識的に使いましたよね。
黒田:アマナからのアドバイスを受けて、イベントを開催する半年前から、先の50年前に撮った全員写真などを使って社内用の告知ポスターを制作して、社内に貼りまくりました。「わたしたちのいまをのこそう あなたのいまをのこそう」というキャッチフレーズもつくり、社内で作成したニュースペーパーも複数回発行しました。
深瀬:弊社でも社内イベント告知の際は、社員の写真を活用したポスターを作っています。社内規模が同じくらいの日本設計さんには、これもまたフィットする告知スタイルだと思いました。
編集部:そうして迎えた撮影当日は、スムーズな進行のための仕掛けを多数用意していたそうですね。
深瀬:午前と午後におおまかに2グループに分けて会場に来ていただき、個人のポートレートや家族写真は6つのブースに分かれて撮影。時間が重なる正午くらいに全員集まって集合写真を撮る、という効率的な工程を練って、それに従って進行していただきました。
平賀:待ち時間も楽しめるためのレクリエーションを用意していただいたのもよかったですね。ヨガ教室や、スマホを使った撮影教室、さらに子供達にはバルーンアート教室とか。
編集部:撮影の場の雰囲気作りも大事にされたわけですね。
岡本:50周年にあわせ日本設計の「N」のロゴマークを3D化して用意。アマナさんからの提案で、個人ポートレート撮影の際に手に持ってもらったり、ペンダントやイアリングにして身に着けてもらったりしました。それが自然な動きや豊かな表情を引き出すことになりました。3D化は弊社のCG・模型グループ室が3Dプリンターなどを使い作ったのですが、当日の場作りを盛り上げる一助にもなったと思いました。
編集部:当日はメイキングの動画も撮ったんですよね。
深瀬:動画制作のチームががんばってくれて。
黒田:とてもいい仕上りにしていただきました。このビデオを入社説明会で流すと、学生達の目がキラキラと輝きはじめるんですよ。
先日、キャリア採用で入った方に「正直、何を決め手に当社へ?」と聞いたら「ホームページの役員写真です。皆さん、とてもにこやかでこれはいい会社だと思いました」と。よくも悪くも写真や動画は空気みたいなものが正直に映る。これもビジュアルのチカラなんでしょうね。
編集部:参加された社員の方々の反応はいかがでしたか。
平賀:予想以上に楽しんでもらえたのではと思います。撮影した画像は家族写真も含めてデータで渡したのですが、とてもいい家族写真で大変喜ばれましたね。私も家族を連れていけばよかった、と後悔したくらいです。
岡本:次の50年を、皆で力を合わせて進んで行こうというメッセージが伝わったと思います。さらに今後は社内のコミュニケーションを活性化する手立てとして、写真や動画をうまく活用していけたらと感じています。次に行うときは、社員全員が一緒に撮ることを目指したいですね。
テキスト:箱田高樹
インタビュー撮影:豊田佳弘
プロフィール
株式会社日本設計 取締役 常務執行役員
1986年日本設計入社。オフィス、店舗、共同住宅、工場、保養所等、さまざまな用途のプロジェクトに携わる。現在は、インテグレイテッドデザイン部長を務める。
プロフィール
株式会社日本設計 取締役 常務執行役員
1987年日本設計入社。環境設備設計群にて医療施設を中心に設備エンジニアとして従事。現在はコーポレート管理部長として真のプロフェッショナル育成に務める。
プロフィール
株式会社日本設計 広報室主管
2000年日本設計入社。建築設計群に従事、2012年より広報室に。