東京メトロ各線の車内に、玉城ティナさんら、さまざまな分野で活躍する著名人が選んだアートフォトを展示。それらの作品を販売するという、かつてないプロジェクトが始まっています。
すべての人が平等に利用できる公共交通機関で、誰もがアートを楽しめる時間を提供するという夢を乗せて走り出した「アート トレイン プロジェクト」の取り組みを、プロジェクトメンバーであるメトロアドエージェンシー、宣伝会議、アマナイメージズの担当者に語っていただきました。
ビジュアルシフト編集部(以下、編集部):「アート トレイン プロジェクト」が始動した経緯をお聞かせください。
吉田和彦さん(宣伝会議/以下、吉田。敬称略):弊社のクリエイティブ誌『ブレーン』で付き合いのあるアマナの広報担当者から、同社がBtoC事業としてアートフォト販売を始めたと聞き、「電車の広告枠のあきをアートで埋めたら、毎日の通勤、通学のときに癒されますね」と夢を見るように話していました。それを、メトロアドエージェンシーの森田さんに、「難しいと思いますけど、実現できたらおもしろいでしょうね」と話をさせていただいたのがきっかけですね。
森田英行さん(メトロアドエージェンシー/以下、森田。敬称略): お話を聞いて、二つ返事で引き受けました。車内がアートで埋め尽くされることは想像するだけで素敵ですし、車両を実店舗のような空間として利用できる仕組みはとても面白いと思いました。広告のあき枠対策としてもいいですしね。
編集部:この企画が実現することで、どのような効果を期待しましたか。
吉田:いちばんに「世の中に、今までにない面白いことを提供できる」というのがありました。日本には、アートを飾ったり、買ったりする習慣がなかなかないけれども、『ブレーン』というクリエイティブ雑誌を出している立場からも、日常にアートがあることは素敵だと思っていて、この取り組みが人の目にとまってアートを飾ることが少しでも日常になったらいいなと考えていました。
新居祐介(アマナイメージズ/以下、新居):弊社の立場からは、ストックフォトというと、一般的に広告やメディアに使われるイメージ写真として普及していますが、私達が扱っている作品の中にはアートフォトもたくさんあるんです。首都圏を走っている電車の中でそれらを展開することで、アマナイメージズが扱っているストックフォトのクオリティや活用の可能性を改めて伝えることができますし、直接的な効果も期待できると考えました。
森田:私の視点からは、東京メトロを利用されるお客様に、癒しや潤いを与えられることがポイントで、同時に事業として運用できないかと考えていました。これまでは、広告枠としてクライアントを探す一元的なビジネスでした。その枠を利用して物販するのは初めての試みでしたが、これを機に、次の商材、不動産でも、車でも、日用品でも、何かに繋げることにチャレンジしていかなければならないと考えています。今回はアートフォトという商材でしたが、通勤・通学という日常の中でどれほど購買に結び付けていけるかは課題ですね。
編集部:今回のプロジェクトには、各社の強みが発揮されていますね。改めて、その強みを教えていただけますか。
森田:東京メトロの1日の利用者数はおよそ724万人ですので、今回のターゲットを考えた際にも、そこに向けた広告宣伝効果は他の路線とは桁違いのパワーがあると思っています。
新居:アマナイメージズの強みは、アート作品も含めた2500万点の写真コンテンツを持っていることです。どれもクオリティが高い写真ばかりなので、キュレーターがどんなテーマを選んでも対応できると思いました。また、我々はeコマースのビジネスを展開しているので、今回のプロジェクトでも車内広告からECサイトに展開していく部分で、知見を生かすことができています。
吉田:宣伝会議はメディアの特性上、多くの人や企業とのリレーションがあります。今回はキュレーター6名を立てていますが、そういう方々ともネットワークがあるからこそ実現できたと思います。
編集部:6名のキュレーターが、今回のプロジェクトのキーになっていますね。人選のポイントを教えていただけますか。
出典:ART TRAIN PROJECT(アートトレイン プロジェクト)
吉田:アートは見る人によってさまざまな捉え方がありますよね。ゴッホやピカソと言われたら「すごい!」と思うけれど、そういった事前情報がなければなかなか判断できない。そんなときに、アートに知見のある方が推薦してくれていると安心ですし、より多くの方がアートに興味を持てるよう、アートだけでなく、さまざまな分野で活躍されている方々をキュレーターに立てました。
編集部:キュレーターが選んだ写真はそれぞれ個性がありますが、どのようなテーマで写真を選んでいただいたのですか。
吉田:今回の企画には「Share Feelings (シェアフィーリング)」という大きなテーマがあり、キュレーターの方々には「あなたがシェアしたい気持ちは何ですか?」という質問の答えを写真選びの際のテーマとしていただきました。たとえば、千原さんがシェアしたいのは「東京」というお答えだったので、アマナイメージズの写真の中から「東京」をテーマに6枚選んでいただいています。セレクト写真に寄せられた手書きのコメントも素敵で、なぜこのテーマでこの写真なのか、それぞれの答えを聞くのもおもしろいんです。より詳しく伝えられればと思い、『ブレーン』の誌面でも月替わりにキュレーターへのインタビューを連載しています。
出典:千原徹也さん セレクト写真 「東京」より抜粋
編集部:一度、形を作ったことで、いろいろな取り組みができそうですね。
吉田:この企画は、改善しながら継続的にやりたいと考えています。多くの人に興味を持っていただくという視点から今後もキュレーターは立てたいと思うのですが、さらにターゲットを絞ったテーマを設定して、どんな写真が購買につながりやすいか、なども試してみたいです。
森田:購買まで結び付けるというのはすごく難しいですよね。リーセンシー効果を売りにしている交通広告としては、空間を利用して物販ができるのはまさに購買直結ですから、どんどん挑戦していきたいと思います。
編集部:「アート トレイン プロジェクト」は車両空間を利用した新たな取り組みとなりましたが、評判は聞こえてきましたか。
森田:お客様からの反響は多く、東京メトロにとってこの取り組みは、利用者との新たなコミュニケーションの形を作れた成功事例だと感じています。さらに、ある企業がホスピタリティの一環として行っているアートプロジェクトチームからも取材の問い合わせを受けました。今は、私達3社で進めているプロジェクトですが、そこにいろんな企業が入って我々のプロジェクトチームとコラボするというのも今後はありかなと思います。
吉田:そういえば、プリンターメーカーからも、協賛の問い合わせがありました。
新居:それは、うれしいですね。アートと聞くと少し敷居が高いイメージもあり、限られたスペースで、そこに足を運んだ人に届けられるもののように思われることも多いですが、誰でも目にすることができる開かれた場に持ってくるだけで、ぐっと身近になり、どんどんビジネスと結び付いていく。今回のプロジェクトを通してそんなことを体感し、改めてとてもおもしろい取り組みだと感じました。
編集部:アートフォトという特性が、さまざまな企業を繋ぐフックになるということなんですね。
吉田:今後は、ECサイトへの動線をつくるために、アートのプレゼントキャンペーンとして投票や「いいね」で応募できるものをやってみたいですね。
新居:Share Feelingsというテーマなので、キュレーターやインフルエンサーにもフォトグラファーとして参加していただくと、さらに多くの人に「シェア」されそうですよね。それをストックフォト作品として発表して販売していくのもおもしろそうです。
編集部:「アートトレインプロジェクト」が企業を結び付けるプラットホームにもなるということですね。
森田:鉄道事業者は、いかに快適で正確かに価値が置かれていますが、私達はそれをコミュニケーションで解決したいと思っています。「通勤電車は辛いな」ではなく「もう銀座に着いちゃったのか」と、思っていただけるように。今回の取り組みはそのコミュニケーション手法として、とても文化的で、ブランディングの観点からも最適でした。
他社路線とくらべて東京メトロは路線への帰属意識は低いのですが、利用している人数はすごく多いので、都心で働く人の生活を豊かにするために、今後もアートを活用して、利用者とコミュニケーションを持ち続けたいですね。
※「アート トレイン プロジェクト」は、2017年10月16日(月)より、東京メトロ各線でスタート。開始から2週間は、東京メトロ銀座線・丸ノ内線で広告貸切電車を運行。2018年4月15日(日)まで、東京メトロ全9線および東葉高速鉄道線、埼玉高速鉄道線の窓上ポスターにアートフォトを展示しています。
プロフィール
株式会社メトロアドエージェンシー 媒体販売局次長兼車両メディア部長
1991年小田急エージェンシー入社。小田急グループの運輸・流通・不動産・観光など様々なグループ会社のプロモーションを担当する営業部門と交通メディアを企画販売する媒体部門を行き来し、2016年8月より、メトロアドエージェンシー。交通広告媒体の企画や事業戦略を担当する媒体戦略局を経て現職。2017年4月より、経営管理局を兼務。
プロフィール
株式会社宣伝会議 執行役員 第一事業部
1975年 埼玉県出身。99年宣伝会議入社、乳がんの早期発見と早期検診を促すピンクリボンデザイン大賞(2004年〜)、宣伝会議のセミナー事業の草分けとなるインターネットマーケティングフォーラム(2006年〜)、オンラインビデオのコンテストBrain Online Video Award(2012年〜)など営業職を通じて様々な企画を立ち上げ、現在まで継続した企画になっている。2008年営業部長、2012年執行役員。現在は営業推進部・中部本部部長を兼務。2015年地域活性化事業である佐世保市九十九島プロジェクトにてグッドデザイン賞受賞。2016年アート×地域活性プロジェクト Saga Dish & Craftにて自走式の地域活性モデルを手掛ける。