“シズル”で地方創生! 丸の内朝大学で地方の魅力を発信

社会人の朝活の場としてさまざまな講座を運営する「丸の内朝大学」。その一つに「シズル・クリエイタークラス」があります。「シズル」とは、食欲や購買意欲を刺激する“おいしそうな感じ”のこと。すなわち、「伝わる表現」と言えます。

クラスの目的は、伝わる写真の撮り方を学び、現地に行って地域の魅力を発信すること。これまでに青森、熊本、新潟、仙台をテーマに開講し、いずれも定員40名のクラスが受講申し込み受付開始から数分で満席となるほどの人気ぶり。リピーターも続出しています。

写真が上手になって地域活性化に貢献できるってどんなクラス? 講師を務めるシズル・フォトグラファーの大手仁志(ヒュー代表取締役)に話を聞きました。

出典:シズル・クリエイタークラス〜地域の魅力を発信!-青森編-〜

伝わる写真とは、SNSでいいね!がもらえるような写真のこと

ビジュアルシフト編集部(以下、編集部):2015年の春にスタートして5期目を迎える「シズル・クリエイタークラス」ですが、どのような経緯でシズルと地域活性化が結びついたのですか?

大手仁志(以下、大手):僕は食の写真をやっていて、広告というジャンルで仕事をしています。そこで大切なのは、スポンサーやクライアントが持っているテーマや情報を伝えて、課題を解決することです。きれいな写真を撮るとか、カッコイイ写真を撮るとかではなく、それが相手に伝わることにポイントを置こうと考えて、このクラスをつくりました。

近年は、みなさんSNSを利用しているので「いいね」や「コメント」がもらえる写真を撮れるようになることがクラスの目的の一つです。さらに、朝大にはモチベーションの高い人たちが集まるので、培ったスキルを地域活性化や町おこしに活用して、地域の課題解決に繋げてみようと思ったのです。

編集部:地域貢献や情報発信を促す、今の時代に合ったクラスですね。

大手:SNSで発信できることも今の時代に合っています。一昔前の写真教室だったら、撮った写真を展覧会に出すとか、プリントしてみんなで見ながら評価して終わってしまうけれども、このクラスは、毎日、自分がSNSにアップしている写真の延長として活用できます。

だから、クラスは一眼レフのカメラを持っていなくても、カメラの経験がなくてもいいと案内しています。スマホでもOKです。

編集部:どのような授業内容なのですか?

大手:授業は全8回あり、写真の基礎や技術はもちろん教えますが、写真にどういう言葉をつけたら響くかを料理通信の編集者に講義してもらったり、地元の人に来てもらって期のテーマに合わせて現地の情報を聞くものもあります。

前期の仙台は、インバウンド施策として外国人のお客様に伝わる情報発信をテーマに、トリップアドバイザーの広報担当者に「外国人は日本の何に興味があるのか」を授業してもらいました。日本人との興味対象の違いは面白いですね。

現地に行く前に、都内フィールドワークとしてヒュースタジオで授業をします。写真の撮り方をちょっとだけこだわってライティングのために料理を窓際に持って行くとか、スプーンの位置を変えるとか、そういうことに気づくだけで、写真がぐんとうまくなります。

編集部:写真を撮るときの視点が変わりますね。

大手:そうなるだろうと想像はしていましたが、やってみて確信しました。最初のフィールドワーク先の青森でも、観光名所はほとんど行かず、地元の町をぶらぶら歩いて写真を撮っていました。シャッターが閉まっている店も多くなってしまったけれども、昭和レトロっぽい街灯や靴屋の陳列、パン屋の看板などを探してきたり。地域に暮らしている方にとってはなんてことのない日常の光景でも、東京ではなかなか出会えない一コマだからと、生徒の食いつき方が違うんですよ。

講座の最後に青森の方と話をしたときに「青森をこういう目線で見てくれたのは初めてなのでうれしいです」と言葉をいただき、シズルの視点を持つことで地域に貢献できると感じました。

地域の人との交流を、生きた情報にする

編集部:地域を応援する活動がフィールドワーク、というわけですね。

大手:旅行にいくとき、みなさんガイドブックを買いますよね。そのガイドブックに載っている場所に行って写真を撮るだけでは、いわゆる確認旅行で終わってしまいますよね。その地域の固定ファンをつくって何度も行きたくなる場所をつくろうと、地域の人たちとの関係づくりに重点を置いてきました。

アウトプットとして、青森のクラスでは商工会議所の人と組んで地元のフリーペーパーを制作しました。熊本では県の観光課の協力で、市民ボランティアのガイドツアーをモニター体験させていただきながら、街並み、食、温故知新、お土産の4テーマでチーム分けをして写真を撮って小冊子にまとめました。新潟、仙台ではフォトブックを作成。自分たちの活動が形になるとうれしいですよね。

熊本でのフィールドワークを終えて作成した小冊子

編集部:地域の情報を伝える仕組みも考えられていますね。

生徒のみなさんは一般の社会人なので広告に携わるわけではないけれど、せっかく写真の技術を学ぶなら、もう一歩先の地域のファンになって応援してあげられる仕組みをつりたいと思いました。

Instagramに「SLIZZE TRAVEL®/シズルトラベル」というプラットホームをつくり、青森だったら「#青森シズル」、熊本だったら「#熊本シズル」のハッシュタグで、地域のファンが自分たちの目線でタイムリーな情報をアップするまとめサイトを展開しています。出典:シズル・クリエイタークラス〜地域の魅力を発信!-熊本編-〜出典 : シズル・クリエイタークラス〜地域の魅力を発信!-青森編-〜
シズル・クリエイタークラス〜地域の魅力を発信!-熊本編-〜

朝大生の投稿がベースですが、地元の人や旅行者にもハッシュタグを使ってもらうことで、どんどんその地域の情報が増えていく、ビジュアル版のクチコミガイドになったらいいなと妄想しています。

編集部:旅先で地域の人とよい関係を築くポイントはありますか?

僕が授業の中で言っているのは、「写真を撮っていいですか?」という声がけを最初にやろうね、ということ。それは、許諾を得るための一言でもあるのですが、地元の人との会話の第一歩で、カメラを通したコミュニケーションができるんですよ。撮影の許可をもらったら、商品をちょっと動かしてよりよく見える角度で撮影することもできるし、おすすめの食べ方を教えてもらえたり、伝えたい情報がたくさん出てきます。次に来たときに撮った写真を見せたら自分のことを覚えていてくれたりするんですよ。営業活動で地域に行っても、こんな関係値は築けないでしょうね。

“シズル”視点で旅に出よう

編集部:地域の方にしてみると、自分たちが暮らす町や村の魅力に気付いていなかったり、PRしたくてもどのように発信していいかわからないことが多いのではないでしょうか。こうした課題の解決にクラスの活動が貢献できそうですね。

大手:地域の魅力は探せばいくらでもあります。今までも自治体が地域の情報発信に力を入れてきたと思います。パンフレットやポスターで見ると確かにいい写真なんだけれど、それを自分も体験できるというリアル感がなかったのかもしれません。そのリアル感を伝えることが“シズル”なのだと思います。「SIZZLE TRAVEL®」の写真は、一般の人たちが自分たちの目線で撮っているから、誰もが現地に行けば同じ体験ができます。

実際にそこへ行ってみようと思わせるためには、写真が1枚や2枚ではもの足りなくてボリュームが必要。だからInstagramにアップされて検索したら出てくることが大事なんです。広告写真を頼んだら予算的にもたいへんですが、地域にたくさんの人が来てくれて写真を撮って盛り上がってくれたら地元の人もうれしいですよね。編集部:地域のビジュアルコンテンツも増やすことができますね。

実際に自治体から撮影依頼がありました。朝大OB・OG限定で20名のモニターを募集して「隠岐シズル」というプラットホームを制作しました。フィールドワークと同様に現地集合・現地解散のツアーで交通費は自費。滞在費は島根県が持つ代わりに撮った写真を「隠岐シズル」にアップしてもらうというミッションで、2泊3日で1000枚の素材を集めました。これには島根県の方や地元の人たちも驚かれて、ぜひこの秋もやってほしいいう話をいただいています。

編集部:クラスの活動が継続的に発展していることがうかがわれます。

教室でお付き合いしたみなさんとは、Facebookのグループがつくられ、自主トレと言って自分が撮った写真をそこにアップして、僕がコメントを返しています。撮影会やオフ会にもできるだけ参加しています。

クラスを卒業すると「シズル交友会」に入ることができます。台湾や香港、フィレンツェなどでも現地集合・現地解散の撮影会を企画して、まさに遊びながら学ぶ旅をしています。楽しみながら撮ることが伝わる写真のポイント。僕もあらためて写真の楽しさに気づかせてもらいました。「シズル交友会」の様子

編集部:本当にアクティブなクラスですね。今後の抱負をお聞かせください。

大手:まずは、このクラスで撮影スキルが一般よりちょっと上の人を育てること。インスタグラマーと一般の中間を狙っています。それができたら、その人たちの横のつながりを活用して地域の情報を発信して、クチコミでファンを増やしていくことで、地域の課題を解決できると考えています。

朝大に来ているみなさんは、コミュニケーション力があり、モチベーションも高いんですよ。なにしろ朝の7時15分から何かを学ぼうとしている方たちですから。クラスでは仕事の話もしなければ、ニックネームで呼び合っているので本名も知りません。企業にお勤めの30代から40代の方がメインだと思いますが、そういう方たちと一緒に活動することはとても刺激になります。ここから、また地域への新しい取り組みが生まれそうですね。

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