「あえて」の不規則なデザインが、人との交流を生み出す

やる気が出る、生産性が上がる、心が落ち着く、集客がアップする――オフィスやホテル、美術館など、空間におけるビジュアル戦略は、そこで働く社員や訪れる人々にどんな効果をもたらすのでしょうか。

この連載では、さまざまな建物の空間デザインを見ながら、ビジュアルが人に与える印象やそのデザインを作った狙いについて考察していきます。

第1回となる今回は、2016年10月に東京ガーデンテラス紀尾井町(東京都千代田区)に社屋を移転した、ヤフーのオフィス空間をご紹介。同社の古藤遼さん(働き方改革推進室長)と佐久間貴大さん(オフィス最適化推進部/ファシリティ)にお話を伺いました。

まずは、各フロアの様子を拝見!

▼受付・来客エリア

新社屋移転に伴い、新たな事業やサービスにつながるイノベーションを創出するオフィス空間を目指すヤフー。それはどのような空間作りになったのか、各フロアの様子をご紹介していきます。

まずは18階、受付・来客エリア。会議室もあります。

ミーティングスペースや通路はビルのコンクリートの床のままになっていたり、なんだか工事中のような雰囲気です。

Yahoo! JAPANが提供する100を超えるサービスは、「買う」「知る」「楽しむ」「調べる」「暮らす」「集まる」という6つのカテゴリーに分かれていますが(Yahoo! JAPANのトップ画面の「主なサービス一覧」に表示されます)、このカテゴリー分けを18階の空間デザインにも踏襲。受付・待合いエリアは「知る」をテーマに。会議室は「買う」「調べる」などをテーマに、それぞれデザインされています。

▼コワーキングスペース

17階は「LODGE(ロッジ)」というコワーキングスペースになっています。

ここは社外の人でも仕事場として利用することができ、1Dayは無料(2017年7月現在)。カフェや動画収録が可能なスタジオも併設。社内と社外の人が交流することで、オープンなコラボレーションを促進し、新たなイノベーションが生まれることを期待して設けられたスペースです。

▼ 執務エリア

ヤフー紀尾井町オフィスはフリーアドレス制で、どのデスクで仕事をしてもいいという職場システム。各所に共有モニターがあり、どこでも自分の作業ができる環境が整えられています。

デスクはあえてジグザグに並べられていて、まっすぐに進めないような作り。

畳や芝生スペースなどもあり、靴を脱いで芝生でくつろぎながら仕事をしてもOK。集中して仕事をしたい人用に、個室風に仕切られたブースもあります。

20階の一部は社員用の共有スペース。このフロアも、作業やミーティングが自由に行われるように、デスクや椅子をあえて直線ではない並べ方にしています。

自分達でカスタマイズできるようにすることで、社員の能動性を引き出す

デスクの配置や、社外の人にも開放したスペースなど、これまでの日本のオフィスでは見られなかったデザインや仕掛けがあちこちに施された空間。「イノベーションを生むオフィス」を実現するために留意したのは、3つのコンセプトだったそうです。

「まず1つ目は、“オープンコラボレーション”。1人が持っている情報や知見には限りがありますが、複数になればそれだけ情報量は増えます。オープンコラボレーションによって人と人がつながることで、何か新しいものが生まれるのではないかと思いました」と古藤さん。

デスクがジグザグに置いてあれば、そこに人が滞留して会話が生まれます。共有スペースがあれば、別のフロアの人と気軽に、また偶然会うこともできます。“LODGE”は社外の人ともつながろうという意識から。そうやって“情報の交差点”をオフィスの中にたくさん作ることがオープンコラボレーションに導くのではないかと考えました。

2つ目のポイントは、「グッドコンディション」。

ヤフーでは11階のフロアのほとんどが社員食堂になっていて、ボリュームたっぷりのものからヘルシーなものまで充実したメニューがそろっています。それも心身のコンディションを整えてほしいという思いと共に、食堂に人が集まることでまた情報の交差点が生まれ、人と人がつながることを目指しています。


「執務エリアに畳や芝生スペースがあれば、リラックスして仕事ができるのではないかと思いました。周りがにぎやかすぎると感じた人は、個室ブースで作業ができます。個人のコンディションに合わせて働き方を選べるようにしました」と佐久間さん。

3つ目は、「ハッカブル(未完成)」。インターネットサービスは常に未完成で、常に改善されていくことと同様、自分達の手で作り上げていく、そんなオフィスを目指したのだそう。18階の床面が工事中のような雰囲気だったのは、「あえて」のこと。実際に工事の際に寸法の目安として書き込まれた数字などは、今でもそのまま残されています。

執務エリアのデスクには可動式のものもあり、自由なレイアウトが可能。「エレベーターホールの壁には樹木のイラストがあります。これはヤフーが入居している5階で根を張った木が24階までつながっていて、各階にはヤフーが課題解決を行える様々な生活シーンに即した内容をイラストにしています。壁面のあいているスペースは、社員が発信したい情報をイラスト化して、さらに書き足すのも自由です」と古藤さん。

※Yahoo!予約 飲食店は、Yahoo!ダイニングへリニューアルしています。

ベンチャー精神を忘れない、その気持ちを具現化

ヤフーでは社内の環境作りのための専属チームがあり、ファシリティを構築&運用するためのメンバーがそろっています。そのメンバーを中心に、社屋移転の際に新オフィス企画プロジェクトを立ち上げ、空間作りを進めていったそうです。
「施工についてはプロのインテリアデザイナーが担当してくれましたが、たとえば“同じ赤でもヤフーの赤はこの色”“エレベーターホールの樹木はこんなテイスト”など、ヤフーらしさの判断は社内のデザイナーがチェック。社員も椅子選びの投票に参加したりと、自分達のオフィスを自分達の手で作り上げるために動きました」と古藤さん。

古藤さんが社内で一番好きなのは、17階の「LODGE」にあるキッチンスペース。

まっすぐ並んだデスクだとまっすぐな仕事しかできないのでは? そんな疑問から、一定ではなく不均質、未完で常に変わり続けているイメージを空間デザインで表現。長方形ではないデスクやカラフルな椅子など「これは何?」という異質なものがオフィスに入ることで、カオスな雰囲気を醸し出します。ビジュアルとして違和感があることが、社員の意識に刺激を与えて見方も変わるのではないか、と考えた末のデザインなのです。
佐久間さんは、「豆型のテーブルなども、ちょっとしたミーティングや会議でよく利用されています。声高に訴えたわけではないですが、準備したデスクや椅子、スペースがいろいろな用途に多目的に使われていて、うれしかったです」と喜びます。

佐久間さんのお気に入りは、18階のミーティングエリア。

また取材に伺った当日は、18階の各所にメディアアーティスト・落合陽一さんの作品が展示されていました(同展示は掲載時点では終了)。社内で作品展を開催する、その意図は何でしょうか。

メディアアーティスト・落合陽一さん展示(同展示は掲載時点では終了しています)。

古藤さんは、「ヤフーの名前やサービスは広く知っていただけるようになりましたが、新しいものに挑戦したりどんどん変わっていくべきで、ベンチャー精神を忘れてはいけないと思います。社内にも社外にもベンチャー精神を伝えていくために、若手のアーティストの方と組んで“こんなおもしろいことをしている”という精神を知っていただきたかったからです」と言います。
今後の展開について、佐久間さんは「Yahoo! JAPAN」のメディアサービスは、震災など有事の際にも、情報を届け続ける使命を担っています。もちろん、各拠点と連携しながら対応しますが、会社に泊まり込む社員が出てくる可能性もあります。そういったときのサポートになるようシャワールームを設けるなど、リフレッシュ面でのグッドコンディションを実現できる設備を作りたいです」とのこと。

ただビジュアル的におもしろさを狙ったのではなく、働き方やコミュニケーションの仕方に作用する効果を考えた空間デザイン。それをさらに進化させ、働く場所がますます居心地のいい空間になるために、2人のチャレンジは続きます。

 

Profile

プロフィール

古藤 遼

コーポレートグループ コーポレートPD本部 働き方改革推進室長

通信会社やプロジェクトマネジメント会社を経て、2014年にヤフー株式会社へ入社。本社移転プロジェクトを推進。2017年より同社働き方改革推進室長。

Profile

プロフィール

佐久間 貴大

コーポレートグループ コーポレートPD本部 オフィス最適化推進部 ファシリティ

2013年ヤフー株式会社入社。以来、本社移転プロジェクトに従事。

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