食ビジュアルに特化したクリエイティブ集団「hue」は、食関連の広告や商品パッケージなどのビジュアル制作を手がけています。その“食”に強いhueが海外向けにアプローチするグローバルサイト制作にまつわるポイントを紹介します。
太田:私たちが海外向けのグローバルサイトをリリースしたのが2016年2月のこと。リリースのきっかけは、海外の方に日本のシズル表現をアプローチしていきたいという私達の想いからです。日本語サイトの言語だけを変える方法もありましたが、海外の方は日本とはちがう視点で見るので、なかなか伝わらない。それに私達のクリエイティブそのものを海外の方にわかってほしかったので、完全に日本のサイトとはちがう切り口でグローバルサイトを立ち上げることにしました。
近藤:海外に行ったときに、食の広告写真やパッケージのビジュアルを見ると「これのどこがおいしそうなんだろう?」という違和感がありました。ちょっと不自然で、作りものみたいな。私達のシズル表現がもっと世界で通用したら面白いのではないかと考えていました。
太田:シズルという言葉は、日本では「五感を刺激するおいしさの表現」。でも海外ではちがう意味で使われています。事前に海外の知り合いにも、これに代わる言葉がないかリサーチしました。たとえば“デリシャス”などがありますが、シズルの意味をそのまま体現する言葉ではありません。シズルが日本独特の表現なら、この言葉も合わせて伝えることに意義があるのではと考えました。
戸上:「The Best “Sizzle” 100」に掲載した100枚の写真を選ぶにあたって、まず私達の強みにひもづいた“匠”、“美しい”、“迫力”、“斬新さ”、“古典的”という5つのキーワードを設定。それからフォトグラファーの作品を全部プリントアウトして、みんなでその写真を俯瞰しながらキーワードに基づいて分け絞っていきました。
近藤:リリースしてからすでに1年以上経ち、おかげさまで海外からたくさん問い合わせをいただき案件に結び付いています。アジア以外でなぜか継続的に問い合わせの多いのがイタリアです。私の推測ですが、イタリアは広告やパッケージの写真がおいしそうだったんですね。食の感覚や文化が日本人と近いので、ビジュアルとしてのつながりや共通点も多いのかもしれません。イタリアの方がこのサイトを見て、おいしさに納得していただいているのではないでしょうか。
太田:ただ、イタリアに行ってプレゼンテーションをしたときに驚いたことがあって。見せたのはピザを撮った作品で、カットされたピザを持ち上げて上のチーズがとろ〜りと伸びた状態を撮影したものです。この写真表現に違和感があると。「ヨーロッパではピザの表現としてありえない」と言われてしまったんです。ほかの作品についてはクリエイティビティが高いと評価されたのですが、この写真だけ……。日本ではこのポイントがピザのシズル表現なのですが、ヨーロッパでピザを撮るときはちがう表現が求められますね。
近藤:以前、ハワイにロケに行って、フレンチのような料理の撮影をしたときのことです。上に半熟の卵がのる料理で、卵を少しだけ切って黄味が出た瞬間を撮りましょうと提案しました。とろっと出たところにハイライトが入るようにしたら、おいしそうに見えるだろうと考えたわけです。そして、撮影した写真をシェフに見せたら「素晴らしい」と言う前に「君はエロティックだな!」と(笑)。おいしそうではなくて、エロティックと感じてしまったんですね。感覚ってちがうものなんだなと思いましたね。
近藤:食関連で海外に向けてアプローチする際には、商品の魅力や特長をできるだけシンプルに伝えるのがポイントだと思います。それも遠慮気味に伝えるのではなくて「うちの商品がいちばん」みたいに言い切ることが大事。はっきりしないうえにゴテゴテしているのは、中途半端な印象で反応が得られない気がします。
太田:そうですね。「The Best “Sizzle” 100」くらいまで言ってしまったほうが相手には響くと思います。
戸上:サイトを制作する際もいろいろなサイトを見ましたが、シンプルでわかりやすいサイトはちがう言語で見ても伝わることを実感しましたね。
太田:もちろん、ひとえに海外と言ってもいろいろな国があります。特にヨーロッパはひとくくりにするのはなかなか難しいので、私達もミラノに行くときとパリやロンドンに行くときでは、プレゼンテーションの内容を変えています。それぞれ文化もちがいますし、事前にリサーチしてどう相手に響かせるか、その国に合わせていくことが大切なのではないでしょうか。
イギリス系のカフェチェーン、コスタコーヒーの中国での広告写真を撮影しました。中国では作りもののようなビジュアルが多いのですが、こちらは比較的ナチュラルなイメージ。こうした写真が中国でも受け入れられるようになっているのを見ると、クリエイティブの感覚が日本と少しずつ近くなってきているのを感じます。
ブルーボトルコーヒーの創業者であるジェームス・フリーマンさんがhueのスタジオにも訪ねてきてくれました。日本では配布されていない海外向けのルックブックで、hueのフォトグラファーで商品やシズルまわりを撮っています。アメリカ人のアートディレクターが私達のスタジオに来て撮影する形で行われました。「OMOTENASHI」という冊子タイトルも思い切っていますよね。
海外に向けたサイトを制作する際、「現在の日本語のWebサイトにあるコンテンツをどのように変換しようか?」と考える方が多いのではないでしょうか。しかし、日本と海外とでは文化が異なり、”おいしそう”という感覚もまた、そのちがいが現れる1つのようです。
大切なのは、その国の文化に合わせたビジュアル表現をすること。そしてできるだけシンプルに言い切ること。このポイントをおさえながら、世界に日本が持っているおいしさを伝えてください。
プロフィール
株式会社ヒュー レッププロデューサー
アメリカと日本で美術史を学び、海外クリエイターのレップ業務に携わる。2015年ヒューにレッププロデューサーとして入社。数多く海外案件を手掛けた経験を生かしグローバルチームの一員として幅広くプロデュース業務を担当。
プロフィール
株式会社ヒュー 事業開発
ドイツ・ベルリンでコミュニケーションデザイン、広告写真を学。2010年株式会社ヒュー入社、CGチームにてレタッチ業務に従事。2013年よりインナーコミュニケーションツールの制作や自社Webサイト運営を担当。