360°VR映像で、ジャーナリズムの表現が変わる!

「ニューヨークタイムズ」も活用する、ノンフレームの”チカラ”

下のイラストは報道に対する有名な風刺画です。一時期ネットでも話題になったので、ご覧になったことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか?

出典:世界の風刺画像 まとめ
ナイフで襲う人と逃げる人が、カメラ越しでは逆になっています。風刺画なので極端に表現されてはいますが、たしかに、ニュースや新聞が伝える情報はさまざまな制限により、うまく伝わらないことがあると思います。

ただ、もしそうした制限を極力減らし、ありのままの情報を伝えることができるとしたら‥、ジャーナリズムの価値も少し変わってくるかもしれません‥!

切れ目のない360°映像によって
「ありのまま」を届けられるVR

今回のテーマは、「VRとジャーナリズム」。上の風刺画でも表現されている通り、テレビや新聞といったマスメディアは現実の情報を、記者の視点や編集といったフレームによって切り取って伝えます。

タレントや政治家の発言の一部がたびたび騒動を引き起こすように、ある部分だけが強調されたり、違ったニュアンスで伝わったりすることも珍しくありません。そのため、「マスコミの言うことは話半分‥」という見方を持つ方も多いのではないでしょうか?

番組の尺や紙面のスペースといった制約があるメディアが、より多くの人に分かりやすく情報を伝えるためには、そうしたフレームに頼らざるを得ないのですが、それに対してVRは、映像部分だけではありますが画角の制限がありません。

仮想空間とはいえ、VRの世界では切れ目のない360°の視野が広がります。「場」を体験することで、より主観的に情報を受け取りやすくなります

実は、最近こうしたVRの特性が注目され、海外を中心にジャーナリスティックなVRコンテンツが登場し始めています。私がこうしたことを考えるきっかけになったのも、ニューヨークタイムズによるVRコンテンツ「The Displaced」でした。

これまでフレームで切り取られていた、
厳しい世界の現実をVRで追体験「The Displaced」

The Displaced」は、世界に約3000万人いるという、紛争によって家を失ったウクライナ国境やスーダンの子供たちを紹介するVRコンテンツです。今年のカンヌライオンズのエンターテインメント部門でグランプリを獲得しました。

WITHIN」というVR動画のプラットフォーム上で配信されていて、「Google cardboard」のほか、単眼モードが付いている「WITHIN」のスマートフォンアプリ単体でも視聴できます。

「The Displaced」は、これまでカメラワークや記者の視点といったフレームで切り取られていた、制限により伝え切れなかった厳しい世界の現実を、360°の空間として提示します。

 

出典:The Displaced | 360 VR Video | The New York Times

多くの日本人にとって、ウクライナ国境やスーダンといった地域は直接接点がありません。そのため、報道番組やネットでその様子がいくら紹介されても、もともと非現実的な世界ということもあり、受け流されがちです。

でも、「The Displaced」では、破壊された家やガレキの山、そこにたたずむ子供が、フレームに切り取られることなく目の前にあらわれます。そして、その子供達が紛争によりどんな生活を送っているのかを、360°の世界でその場にいるかのような感覚で体験し情報をインプットするため、既存のメディア情報よりはるかに強烈なインパクトが残ります。

VRの360°映像によるリアルな問題提起は、「今のままではいけない」、「何かしなければいけない」という当事者意識にもつながります。その場にいるかのように感じられるからこそ、同じ社会の一員としての自覚を促し、具体的なアクションのきっかけを与えることができるのです。

エンターテインメント分野が注目されがちなVRですが、ジャーナリズムのあり方を大きく変え、社会的な価値をもたらす可能性も持っていると私は思っています。


 

最近では、CNNやナショナルジオグラフィックといった世界的な有力メディアも、問題提起や当事者意識が喚起できるVRの可能性に注目し、VRコンテンツに制作に着手しています。VRの「社会的価値」という面に注目すれば、場合によっては企業のCSRなどにも活用できるはず。ぜひVRの可能性を試してみてください!

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