Pinterest(ピンタレスト)は、ユーザーが自分の興味のある画像を集めておくための、デジタルスクラップブックサービス。最近では、企業が認知度を高めていくための新たなマーケティング&ブランディングツールとしても注目されています。企業がどのように活用できるのか、ピンタレスト利用の先駆者である世界の有名企業の事例を挙げながら紹介します。
フォーシーズンズ ホテルズ アンド リゾーツは、ピンタレストの巧みな使い手として知られています。ボードは、ホテルそのものの魅力を謳うよりも、地域や目的地ごとの美しい風景写真を駆使して旅情に訴え、「もし、あなたがここにいたなら(Wish You Were Here)」と誘うのです。
ここでのポイントは海、星空、窓からの景色というように、旅行好きのユーザーが興味を持つようなピンを数多く揃えていること。たとえば、窓からの景色のピンからは、公式サイトの「世界各地の同チェーンのホテルからの眺めベスト10」ページへと飛ばされます。このページを見ると、ピンされたもの以外の9つの風景に出逢い、旅に出てそのホテルに泊まりたくなるという仕掛けです。
エッツィーは、手作りアートやグッズの巨大なオンラインマーケットプレイス。ハロウィーンやクリスマスといった年間行事や、アイテムの分野別のボードに加え、ユニークなのが、同サービスでアイテムを販売しているクリエイターの実店舗(ブティックなど)が多く存在する都市に関しては、「シティーガイド」と名付けたボードを用意していることです。このボードは、単にブティックやそこで扱われている製品の紹介だけでなく、その街でぜひ訪れたいカフェやバーなどの情報もピンされていて、エッツィー的な視点で作られたオンラインのスポットガイドにもなっています。実際にその街の魅力が伝わり、ユーザーに「実際に行ってみよう」という気になってもらえれば、結果としてエッツィーユーザーの店舗にも足を運ぶと言うわけです。
さらに画期的な試みは、ゲストユーザーの活用。ピンタレストのグループボードには、ボードのオーナー以外の第三者(たとえば顧客)を複数招待して、自由にピンを登録してもらえる機能があります。エッツィーではこれを利用して、外部の出版社や業界人など、目利きがキュレーションするボードを用意しているのです。
たとえば、大手出版社の「ランダムハウス」がゲストユーザーのボードでは、手作りの書籍やブックシェルフといった、本に関係したアイテムがピンされています。このように、自社以外の力を借りて、より深くユーザーにアピールできることも、ピンタレストならではの特長です。
バーチボックスは、高級ブランドの化粧品サンプルを毎月宅配するサービス。ピンタレストを使った成功例として、必ず引き合いに出される企業です。
購読サービスなので、一度軌道に乗ればビジネスの変動が少ないことが企業としてのメリットですが、その分、ユーザーの囲い込みが重要です。しかし同社は、ダイレクトメールなどの従来型のマーケティングは一切行わず、ソーシャルメディアを通じた口コミで100万人以上の会員を獲得しました。そして今では、本国アメリカだけでなく、フランスやスペイン、イギリスでもサービスを展開するほどになっています。
彼らのピンタレストの特徴は、女性のメイクや生き方に関するインスピレーションを与えているところ。ボードのテーマも、パーツごとの化粧法に加えて、お手本としたい女性の紹介や、バーチボックス本社で人気の名言集というように、ひねりのあるものが揃っています。たとえ、メッセージが文字によるものでも、色使いやフォントなど、ビジュアルに工夫していることもポイントです。
さらに、ユーザー参加型企画として、会員が自分のバーチボックスを投稿することができるボードも用意され、コミュニティが構成されています。こうしたさまざまな切り口によって、バーチボックスは「新しい自分の魅力を発見しよう」というメッセージをユーザーに伝えているのです。
大手ホームセンターチェーンのロウィズは、商品そのものを売り込むのではなく、“便利なツールのある生活”のヒントを与えることに力を入れています。そのため、ユーザーがロウィズで購入した製品や素材を使用し作ったDIY作品などを紹介するためのボードを用意しています。
アウトドア系カタログ通販の老舗、L.L. ビーンは、歴代カタログの表紙を集めたボードを作っています。歴史のある企業にとっては、さまざまな世代の郷愁を誘うビジュアルでピンを構成することも、ブランドに親しみを感じさせる有効な手段です。
ウォール・ストリート・ジャーナルは、同紙の優れたインフォグラフィックスやイラスト、グラフなどをひとつのボードにまとめました。普通は記事内で使われて終わりと思われがちなビジュアルも、ウォール・ストリート・ジャーナルの価値を表すひとつの資産になります。
ピンタレストの利用に長けたオンラインメディア、マッシャブルのWebサイトでは、ページ自体、あるいは写真の横に、必ずピンタレストのボタンがあります。これは、ユーザーがタッチまたはクリックするだけで、そのコンテンツを自分のボードにピンできるもので、ピンタレストを使って自社サイトのトラフィックを増やす役割を担います。
ユニクロもピンタレストを積極的に活用。フォーマットの制約を逆手に取って面白い製品の見せ方をしているボード「Geek」は、一見、ドライシャツのピンが並んだ普通のボードのようですが、実は、超縦長のイメージをピンすることで、延々と縦スクロールして見せる仕掛け。赤いロゴのコラムが、スクロール中はアニメーション的に動いて感じます。定型的なフォーマットの中に遊びを持ち込むことで、話題作りにも貢献。x1
興味を惹かれるのは、「レトロなソニー製品(Retro Sony Products)」と「あなたが欲しいといったモノ(Stuff You Say You Want)」というボード。
前者は、特定の世代の共感を得るにはよいボードテーマであると言えるでしょう。歴史のある会社や商店などであれば、ロゴマークの変遷や、看板商品の移り変わりなど、同様の切り口で作れるボードのアイデアは他にもあるはずです。
また後者は、ツイッターやインスタグラムなどのソーシャルメディアでつぶやかれたソニー製品を集めており、まさに消費者ニーズを共有するボードに。このようにボードを整備することは、ピナーのみならず販売店にとっても力を入れるべき商品選定の参考になるため、一石二鳥といえるでしょう。
もしアカウント名を隠したならば、これがディスカウトストア、ドン・キホーテのものとは気づかないようなボードが多数作られている公式アカウントです。
実店舗は、商品をあえて雑多に配置し、宝探し感覚で商品を見つけてもらうようにしている同社。最近では高級感をコンセプトにしたプラチナ ドン・キホーテを東京・白金にオープンするなど、個性的かつ積極的な事業展開を行っている企業です。
ピンタレストでは、実店舗のイメージとは異なり、ユニークながらも洗練された画像を、ボード毎に整理してまとめるという利用方法に意表を突かされますが、何があるかわからないビックリ箱的な感覚で、訪れた人を楽しませようとする目線は、彼らのビジネスに共通するものであると感じます。
言わずと知れたサンリオの代表的なキャラクターの公式アカウント。ピナーたちが、公式Webサイトのどのアイテムに多くピンしているかが一目でわかる、「あなたが愛するピン(Pins You Love!)」ボードなどがあります。
歴代のショーカーやコンセプトカーを集めたボードを作っています。ほかでは、なかなか全体像を把握できない先鋭的な車両群をピンタレスト上で公開することで、常に前向きにものを考えている企業であることをアピールする狙いがあります。
ノスタルジックな自動車N600や、ASIMOの紹介もする一方で、エイプリルフールネタなども公開。たとえば、「Honda HAIR」というのは、オデッセイの荷室に装備された真空掃除機機能(これは実在します)のオプションという位置付けの架空のヘアカット・アクセサリーで、クルマの中で移動中に散髪できるから便利という触れ込みです。
こうした一過性のネタもピンタレストのボードにアーカイブしておけば、面白いコンテンツとして再利用できるわけです。
海外マーケットでは多くの企業がピンタレストを活用し、ビジュアルをいろいろな切り口で見せながらプロモーションが行われています。日本国内では“個人のためのスクラップブック”として利用されることが多いですが、今後ますますビジネス需要が高まることは間違いないでしょう。次回は国内マーケットでピンタレストを活用する企業の事例をご紹介していきます。