「生っぽいリアルさ」をどう見せていくか? NTT東日本のBtoBオウンドメディアの挑戦

日本を代表する大企業・NTT東日本(東日本電信電話株式会社)は、オウンドメディア「Biz Drive」によるデジタル上のコミュニケーション施策を行なっています。同社はネットワークサービスに留まらず、ICTに関わる課題解決ソリューションを網羅。他領域にわたるコンテンツを企画・制作するオウンドメディア「Biz Drive」は、どのようなコンセプトのもとに運営されているのでしょうか。マーケティング部の上石瑞季(かみいし・みずき)さんにお話を伺いました。

 

NTT東日本のメディア「Biz Drive」とは?

 

――本日はNTT東日本のオウンドメディア「Biz Drive」での取り組みについて、メディア設計や企画づくり、運営のコツなどを多角的にお聞きできればと思います。まず、「Biz Drive」はNTT東日本のなかでどのような位置づけのメディアなのでしょうか?

 

上石瑞季さん(以下、上石):NTT東日本におけるお客様とのコミュニケーションの入り口という位置づけです。弊社はネットワークサービスの提供がメインと捉えられることも多いですが、実はICTに関わる様々な課題解決に寄り添えるマルチベンダーです。

そこで、「Biz Drive」ではICTにまつわる幅広いテーマを企画・掲載しています。想定読者は、企業でICTソリューションの検討、選定、意志決定を行う方々。現状では多くのビジネス上の意思決定にICTが関係しているため、ターゲットは広くビジネスパーソン全体になると考えています。こうしたビジネス課題を抱える読者に対して「その課題、実はICTで解決できます」と訴求し、気づきを与えるのが「Biz Drive」の一番の目的です。

 

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マーケティング部の上石瑞季さん

 

――NTT東日本のコーポレートサイトとの役割の違いはどのようなものですか。

 

上石:コーポレートサイトはNTT東日本のサービス・ソリューションが掲載されている「総合ポータルサイト」といった位置づけで、「Biz Drive」はコミュニケーションの入り口としてNTT東日本のサービス・ソリューションに限らないトレンド発信を通じてコーポレートサイトへの送客を行うファネルと位置づけています。コーポレートサイトとBiz Driveを合わせて、「ひとつのウェブ」という構想で戦略を設計しています。

さらに、MA(マーケティングオートメーション)ツールを活用してオウンドメディアとの連携も行っています。1stパーティーデータを収集した上で、メールマガジン配信やコンテンツ企画にも役立てています。Biz Driveチームはコンテンツマーケティングとデータマーケティングの両方を推進しているかたちですね。

 

データと現場の声、2つを活かした企画づくり

 

――「Biz Drive」のコンテンツ企画はどのように行っているのでしょうか?

 

上石:私自身は社内のデジタルマーケティング推進がミッションです。その中で「BizDrive」とMAの戦略およびオウンドメディアを起点にしたWebマーケティングのファネル全体設計を私が担い、コーポレートサイトを含めたweb全体のマーケティング企画・運営を他のメンバーと共同で実施しています。また、コンテンツ制作やMA運用はパートナー企業様と連携して行なっています。

記事企画では、まずインサイドセールスも含めた営業チームとの定期的な打ち合わせから最近のお客様の課題や悩みを収集。その後、パートナー企業様とアイデア出しをして企画を決定していきます。このフローの中では、営業現場からの情報収集が一番のカギだと思っています。MAなどの行動データからもニーズ把握は一定程度可能ですが、やはり現場の生の声を定期的に収集しなければ、お客様の悩みを理解できるとは思いません。

 

――なるほど。では、逆に収集した行動データはどのように企画づくりに活かしているのでしょうか。

 

上石:大きく2つのパターンがあります。ひとつは、純粋にWebのアクティビティデータを見る方法。例えば、「クラウドPBXサービス」を紹介した記事の反応が良い場合は、トップページの見やすい面に配置していくなどのWeb改善施策を行なったり、メルマガのクリック率からニーズを把握して企画づくりに活かしたり、といった流れです。

もうひとつはMAのスコアリングを活用する方法。例えば、「働き方改革」に関する記事が読まれるとスコアがつき、その数値をモニタリングすることによっていまホットなテーマが何かを把握できます。これらのデータを現場の声と突き合わせ、多方面からお客様ニーズの情報を集め、訴求力の高いコンテンツ発信を狙っています。

 

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ビジネスチャンスが掴める最新ICT活用情報サイト「Biz Drive

 

――データと現場の声の両方を常に意識しながら、企画を立てていく。時間と技術が必要な仕事に思えます。そのほか、企画づくり全体で意識されている点はありますか?

 

上石:単なるICTのソリューション紹介に限らず、時事問題や有識者の視点からのインタビューなど、ICTから遠いような切り口も取り入れるようにしています。例えば、過去には連載形式の特別企画「キーパーソンが語るビジネス最前線」にてスタンフォード大学で睡眠に関する研究をおこなっている西野精治氏をゲストに迎えた『米名門大で睡眠研究を成功させた西野精治氏の仕事術』という記事を制作しました。この記事は仕事のパフォーマンスをあげるための睡眠と仕事術、という一見ICTから遠いテーマの記事ですが、同じタイミングで「ブレインスリープとNTT東日本が挑む、健康経営支援」という記事を出しています。こちらの記事では西野精治氏が最高顧問を務める企業と弊社が睡眠の質をあげたサービス開発話を記事化しており、このようなビジネスパーソンに関連する話題がICTによって更なる進化を遂げるケースもあることから、読者の引き出しが増えるような幅広い話題提供を心掛けています。

また、単に記事を読んで終わりではなく、コンテンツを使ってもらえるのが大事だと思っています。読者の方がコンテンツを上申に活用できるよう調査データや他社事例を盛り込むなど、次の一歩につなげられる記事づくりを意識していますね。

 

多岐にわたる守備範囲、「苦戦した分前進が嬉しい」メディア運営

 

――「Biz Drive」の運営体制について、もう少し詳しくお聞きしたいです。まず、チーム作りの上で意識されている点はありますか?

 

上石:多くのパートナー企業様と協力しているので、「三人寄れば文殊の知恵」ではないですが、集合知を大事にしている面はありますね。「Biz Drive」を使ったソリューションの訴求やデジタルマーケティングを行う際にも柔軟に動けるよう、可動領域を広げておく意識をしています。

また、弊社で考えている課題やコンセプトなどはパートナー企業様にしっかり時間を取って伝えるようにしています。例えばコンテンツ企画では、お客様のビフォーアフターといったシナリオは必ず提示するんです。その上で、アフターに着地するようなアイデアだったら何でも良い、というかたち。ブレない設定を用意することは重要だと思っていますね。

 

――なるほど。ちなみに、「Biz Drive」では内製のコンテンツも制作されているのですか?

 

上石:はい。例えば弊社サイバーセキュリティーチームによる「次世代セキュリティモデル「ゼロトラスト」とは」などの情報セキュリティ対策記事を定期的に発信しています。このようにNTT東日本の持つ知見を活かした記事制作は内製で実施しています。

 

――となると、編集作業もBiz Driveチームで行っているのですね。

 

上石:そうですね。構成や原稿の赤入れ、トンマナを揃えるといった編集作業をしています。MA運用も含めて担当領域は非常に多岐にわたっています。コンテンツマーケティングとデータマーケティングを全て包含してデジタルマーケティングという大きな概念にチャレンジしていると考えています。広い守備範囲が故に時には苦戦することもありますがその分Biz Driveやマーケティング活動が一歩前進するたびにやりがいを大きく感じ、毎日楽しんで取り組めています。

 

――手をかけて作ったコンテンツに反響がなかったなどの、成果が出ないときのつらさ、というのも感じられますか。

 

上石:その点はあまり感じないかもしれません。記事が読まれなかったら、「ニーズじゃなかった」というだけで、次にどう改善していくか、ということの方が大事です。

「Biz Drive」の運営で難しいと感じるのはデータ利活用についてですね。MAやメルマガ配信から得たデータは、これまで気づけていなかったお客様のニーズを発見できる可能性が高いと思っています。それをいかに社内に展開し、仕組みを作っていくかがポイントです。

 

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――SEOやSNS、外部配信など、露出を確保するためのコミュニケーション設計はどのように行っていますか?

 

これまではメルマガ配信がメインでしたが、今はSEOやSNSに注力し始めた段階です。ただ、「Biz Drive」でSNSアカウントを作成して運営するというよりも、SNS上で影響力のある有識者の方とコラボして記事を作り、SNSで拡散してもらう方法が効率的かつ効果的だと考えています。また、弊社だけでは語りきれなかった専門知識がBizDriveに集まることで今まで以上に厚みのあるサイト作りに繋がることを狙っています。

例えば、連載形式の特別企画「キーパーソンが語るビジネス最前線」での『なぜデジタルマーケティングは失敗するのか?』という記事では、株式会社才流の栗原さんに寄稿いただきました。この企画は通常記事の3〜4倍ほどPVがついています。今回はデジタルマーケティングというテーマでパイロット的なコンテンツとして制作しましたが、今後は私たちが更に別の話題においてもSNS露出が有効なのか、戦略を練りながら設計していきたいです。

 

「生っぽいリアルさ」をメディアでいかに見せていくか

 

――オウンドメディアの成果について、社内ではどのような認識をお持ちでしょうか。

 

上石:新型コロナの影響によって対面で人と会いにくくなり、Webマーケティングが注目されている状況を肌で感じています。そういう意味で、Biz Driveは社内でも急激に注目度が上がっているという状況です。ただ、メディアとしてはまだまだ発展途上だとも思っています。

また、「Biz Drive」が自社サービス紹介にこだわらずに幅広いビジネストレンド情報を提供している点は社内から「マルチベンダとしてお客様のお悩みをヒアリングするきっかけになる」とお声をいただくことが増えました。ほかにも社内サイトのデジタルマーケティング活用に関連するページのアクセス数は直近で伸びており、営業の現場などで記事を使っていただく機会が増えたことも良い傾向ですね。「使える記事を作る」がコンセプトなので、目的に沿っていて嬉しいです。

 

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――一方で、現在のメディアの課題としてはどのようなものを感じていますか?

 

上石:現在は新型コロナの情勢もあり、世の中のオンライン化は更に加速していることからWebメディアやマーケティング施策は飽和状態です。そのため、数多く存在するWebマーケティングの中でもNTT東日本がお客様と継続的にコミュニケーション取り続けるための仕組みづくりは今後も課題だと考えています。それにはNTT東日本の取り組みや得意領域をもう少し生っぽい、リアルなかたちで広めていく必要があると思っています。メディアとしては「『Biz Driveならでは」を発信できるよう、「メディアの個性化」にトライしようとしています。

 

――考えがいがあるテーマですね。柔らかさとNTT東日本らしさのバランスも難しそうです。

 

上石:そうですね。トライアルしている事例ですとNTT東日本はどのようなテレワークの取り組みをしているのか、というテーマです。これに関して以前、弊社営業支店のテレワークの取り組みや状況をメルマガで打ちました。内容はNTT東日本というイチ企業がテレワークを社内に浸透させていくためにどのようなルール・ツールを用いたのか、実際に社内資料をメルマガ読者限定で公開したものです。反響は上々だったことから、読者と同じイチ企業としての取り組み状況や実践ノウハウがNTT東日本ならではのコンテンツとなりえることを実感しました。「メディアの個性化」という言葉に引きずられて奇抜な発信をするわけではなく、このような生っぽさやリアル感のあるコンテンツを今後も展開していきたいです。

 

――最後に、「Biz Drive」で目指したい方向性や今後の展望をお聞かせください。

 

上石:今後はWebを使ってもっとデータを活用していきたいと思っています。特に、弊社の強みであるAIの分析ノウハウを活かしたデジタルマーケティングを推進したいです。例えば、現在はオウンドメディア内の関連記事をレコメンドAIで表示していますが、その学習効果を向上させ、よりきめ細やかな誘導施策やメールマガジンを打つなど。また、AIを取り入れてスコアリングの精度を上げ、精緻なニーズの分布を把握すれば、よりお客様に刺さる企画につながっていくとも思っています。

BtoCのデジタルマーケティングは感覚的にも定型化してきているとは思いますが、BtoBでは決裁者以外の担当者をいかに動かすかが重要で、まだまだ正攻法が見つかっていない状況かとも思います。これから試していきたいチャレンジ領域はたくさんありますね。多くの方を巻き込みながらトライしていきたいと思っています。

 

 

●Interview & Text : 弥富 文次

●Photos : 多田 圭佑

 

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