株式会社リクルートホールディングス(以下、リクルート)のビジョンは「Follow Your Heart」。“一人ひとりが、自分に素直に、自分で決める、自分らしい人生”を送る、そんな世界観の実現を目指しています。つねに革新的なサービスを提供し続け、2014年10月に上場も遂げたリクルートは、同じ年にオウンドメディア「Meet Recruit」をリリースしました。同社のブランデッドコンテンツであるMeet Recruitは、どのようなコンセプトにもとづき、どのように運営されているのでしょうか。担当するPR コミュニケーション企画グループの堀井嗣之(ほりい・つぐゆき)さんと、土屋瑞穂(つちや・みずほ)さんにお話しをお訊きしました。
——まずは改めて、「Meet Recruit」がどのようなメディアかをお聞かせください。
堀井嗣之さん(以下、堀井):Meet Recruitは、リクルートの という目指す世界観や企業の姿勢などを、具体的な事例やアイデアと共に発信するメディアです。ビジョン・ミッション・バリューズの中には色々なキーワードがありますが、言葉だけだと抽象的すぎるので、それを紐解くコンテンツという形でより具体的なイメージが伝わるようにしています。
PR コミュニケーション企画グループの堀井さん
——Meet Recruitを立ち上げた理由や経緯を教えてください。
土屋瑞穂さん(以下、土屋):リクルートには多くの事業があり、「私たちはこんな会社です」というメッセージが伝わりづらかったからです。リクルートは転職サービスの会社だとか、SUUMOやゼクシィなどの多様なメディアを運営している会社だとか、タッチポイントによって持たれるイメージがばらばらでした。
PR コミュニケーション企画グループの土屋さん
堀井:そうですね、イメージのバラつきが立ち上げ時点での課題でした。だから、私たちが注目しているテーマについて自社の言葉でも伝えつつ、外部の方にも取材して語っていただこう、と。コンテンツを通じて、おもなターゲットとしている20代〜40代のビジネスパーソンの方に「リクルートってこんな事をいいと思っている会社です」というメッセージを伝えていきたかったんです。
——Meet RecruitではどのようなKPIを置いているのでしょうか。
堀井:どれだけ多くの人が私たちの情報に接触してくれたかをKGIに設定し、その指標として回遊数を追っています。 オウンドメディア単体でKPIを追うことに頭を抱えている企業って多いと思うんです。ROIが1PVあたり何円かとか、そういう話はあまり本質的ではないと考えています。ですので、PRという大きなくくりの中で、ペイドや社内広報、社外広報があり、その中のひとつのパーツとしてオウンドメディアがあると捉えるべきだと思います。このような位置づけなので、明確なコンバージョンは設定していません。
——回遊数を上げる施策として、どのような取り組みをされていますか。
堀井:情報の接点をいかに作れるかが重要だと考えています。SNSの公式アカウントで拡散したり、他の媒体社に記事を提供したりして、サイトに誘因するなどユーザリーチを獲得するための施策はおこなっています。これだけWeb上の情報があふれる中で、読者と記事・メディアは一期一会になりかねない。回遊数を上げるというのはKGIと言いながらも副次的な結果であって、まずは記事自体に興味をもってもらえるように考えています。
——ライターなど外部の方も含め、編集チームはどのように編成されているのでしょうか。
土屋:社内では私と堀井の2名が編集を担当しています。そこへ外部パートナーの編集者が1人と、ライターが固定で3人。現在はこの6人をメインに編集部の体制をとって運営しています。
Meet Recruitウェブサイト。カラフルな図形が折り重なった背景と、
シンプルなウィジェットが特徴
——もともとお二人は編集の経験があったのでしょうか。
土屋:いえ、編集には携わったことはなく、まったくの未経験でした。ですので、編集者向けのセミナーや勉強会に参加したり、社内外の編集者にヒアリングしたりと、手探りで経験を積んでいきました。
堀井:私も経験がなかったので、まずは社内報(リクルートには1970年代から発行されている社内報『かもめ』の他、数多くの社内報メディアがある)チームの人たちに声をかけて編集会議に参加させてもらうなど、企画の立て方や編集会議の進め方、記載ルールといった細かいところまで学びました。また実際に一冊の社内報を創るプロセスを見ると、社内情報に精通している必要性に気づきました。ただ、ひとりで社内のすべての情報を集めることは難しい。そこで社内のキーパーソンと連携するのが重要だと分かりました。この点を初期に学べたのは大きかったですね。
——では、コンテンツの企画や制作といった運営フローはどのような流れでしょうか。
堀井:現在は2週間に1回編集会議を行っています。社内に閉じて企画を立てているのではなく、外部パートナーの編集者とライターにもそれぞれ企画を持ち込んでもらっています。そして上がってきた企画を揉んで決定し、フォトグラファーやコーディネーターなどをアサインして進めていく流れですね。取材前にもう少し話を詰めた方がいいものは、案件ごとにミニマムの人数で打ち合わせをします。
土屋:以前、編集会議は週1回、2時間で開催していました。しかし2週間かけてネタを探して、練った企画の方が精度は高いと分かってからは頻度を変えました。ライターは企画を考えながら執筆もしていたので、週1回のペースでは企画を作るのに充分な時間が取れていなかったんです。
堀井:このようなフローで企画を立て、コンテンツは月に5〜6本公開しています。いまは多少運営に余裕が出てきましたが、最初はライターの文章のトーンと出したいイメージがすり合わず、戻しが赤だらけになってしまうこともありました。しかし、徐々にお互い勘所が分かってきたので、以前よりスムーズに進行できるようになったと思います。
土屋:取材に同行し、原稿を作り始める前に内容をすり合わせることもよかったのかなと。一緒にお話を聞き、取材後すぐに 記事に使いたい箇所やキーワード、重点を置きたいテーマなどをライターと意思疎通するようにしています。そうすることで、原稿が上がった段階でイメージのズレを減らすことができるからです。
——コンテンツでは、「人生100年時代」などの連載(Series)が特徴的だと感じました。連載はどのように作っているのですか?
堀井:「人生100年時代」や 平成を振り返った企画「新元号」は、他媒体でもよく実施されていた企画ではありますが、我々も働き方・生き方などを提案していかなければいけない存在として企画したものでした。「企業とイノベーション」のSeriesは、リクルートもイノベーションを大切にしているのですが、そこに向かうプロセスや考え方って色々あるんじゃないか、と 生まれたものです。世の中に「これが正解だ」という考え方はないと思っているので、聞いてみたら真逆の意見もあるかもしれない。だったら同じSeriesとして連載しようと。
土屋:Seriesで特定のテーマについて聞いていくと、多様な考え方があって面白いなと感じますね。たとえば「人生100年時代」。これからの時代を生きる上でのヒントをいろいろな方の目線で語ってもらっています。共通の問いかけのひとつに「将来の不安にどう立ち向かうべきか?」があるのですが、竹中直人さんの取材では、「不安があってもいいんじゃない?」という答えがかえってきたんです。竹中さんほどのキャリアがあっても、演じる前は不安に感じると。でもいい具合に不安だからこそ面白いんじゃないか?とおっしゃっていて、なるほどそういう捉え方もあるのか、ととても驚きました。
——取材系コンテンツの企画を決定する上ではどのような点を意識しているのでしょうか。
堀井:立ち上げ当初に編集者やライターから提案を受けていたのは、若手で有名な起業家の方や、社会課題にアプローチされている方でした。活躍もされているし、リクルートのイメージとも合っているかもしれません。ただ、メディアとしてそのような方たちばかりを取り上げてしまうと、その考え方だけが正義だと言っていることになってしまいます。ですから、ひとつの考えに偏りすぎないように、少し違うことをされている方や、多様な視点、考え方を持っている方を探すようにしていますね。
——それは、リクルートのバリューズのひとつである「個の尊重」からつながっているのでしょうか?
堀井:もっと引いたところの「Follow Your Heart」から来ています。一人ひとりがそれぞれ、私はあの考え方がいい、自分はこの考え方もいいなと個々に思えること。それを誰かに決められるのではなく、自分で決めることが重要なのではないかという考え方です 。
土屋:Meet Recruitが目指すのは、これがよいのだと言い切らずに、選択肢を提案することです。オウンドメディアは、発信する側の主張や言いたいことが好きなように言える場でもあります。でも実際に受け手側から見てそれが面白いか、楽しいかを考えるための視点も持って運営しなくてはいけないと思っています。こちらが出したい情報ばかりを発信することがないように、つねに客観的な視点を持ち、バランスを保てるように気をつけています。
——伝えたいことをメディアとして持ちつつ、それだけに偏らないようにする、ということですね。
堀井: 「ターゲット読者」はいますが、ペルソナは設定していないんです。たとえば結婚ひとつとっても、友人をいっぱい集めてパーティーをやりたい人もいれば、二人だけ、家族だけで写真を撮るだけがいいという人もいます。家を選ぶにも、都市部が良い、郊外が良いと同じテーマで本当にいろんな考えを持った人がいるわけですよね。記事単体では、寄り添うべき人は誰かと考えますが、メディアとしては記事のバランスを意識し、断定せずに色々な可能性を感じてもらうことが重要だと思っています。
土屋:制作を社内のメンバーに閉じていないことのメリットはそういう点にもあります。外部の人からの意見ももらえるとバランスが取りやすくなると思いますね。
——最後に、Meet Recruitの今後の課題についてお聞かせください。
堀井:今後、人が文字を読む時間がどんどん減っていくと考えられますが、そんな中でメディアをどう見せていくか。代替できるのは動画かもしれませんが、手間やコストも変わってきます。今はまだ色々試行錯誤段階ですが、インスタライブのような簡易な動画配信やポッドキャスティングなどの音声配信、その他のプラットフォームでの配信など、何が文字メディアを代替していくのかは気にしていますね。大きなスパンで未来を考えると、5年先も同じ形でオウンドメディアを運用し続けるのか、形態を変えるのかが課題かなと思っていますね。
—そんな未来に対してどのような展望がありますか。
堀井:技術革新などで時が解決するものもあれば、私たちが動かなければいけないものもあると思います。でも、間違いなく何かは変わっていく。そこに動じることなくいつもと変わらずに、変え続けていくことが重要なのかなと思います。
土屋:個人的にも変えていくのは嫌じゃありませんし、いまを守らねばというわけでもない。日々を楽しみながら、新しいことにチャレンジしていければいいのかなと思いますね。
——多様な考え方を受け入れ発信する、Meet Recruitだからこその回答だと感じました。また、外部パートナーと意見をすり合わせながら企画を練っていく運営システムは、まさにMeet Recruitの思想を表している気がしました。貴重なお話をありがとうございました!
●Interview & Text : 弥富 文次
●Photos : 川合穂波
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