今年の夏に電車に乗るあなたも、年間3,100万人を誇るAmtrakの乗客の一人であるあなたも、座席の背面ポケットに用意された「The National」を見つけることでしょう。
隔月発行の車内誌は、2016年10月に創刊されました。中身をちらっと見るだけでも、普通の旅行雑誌と一線を画していることがわかります。
「The National」は、話題のブティックや流行りの飲食店に関する記事を掲載するのではなく、文化的なトピックを長文記事で紹介し、アメリカを活気づけようとしています。最新号のストーリーでは、黒人カウボーイの遺産に関する記事、アメリカのメディアに関するCNNキャスターJake Tapper氏のインタビュー記事、アトランタとニューオーリンズを結ぶCrescent号路線のフォトエッセイなどが掲載されています。
この車内誌はいま、業界内で熱い視線を集めています。「The National」は、創刊されてから1年足らずですが、その文章の素晴らしさから2017年Communicator Awardを受賞しているのです。
私たちは最近、「The National」の編集長であるJordan Heller氏と、Inkの共同CEOであるMichael Keating氏に話を聞きました。Inkは、United Airlinesの「Hemispheres」や「Rhapsody」といった数多くの雑誌・機内誌を発行する旅行メディアの企業です。彼らは、コンテンツでAmtrakブランドを刷新した方法と、現在のデジタル世界でジャーナリストが書いた記事がオーディエンスに好まれる理由について、インサイトを明かしてくれました。
Inkの共同CEOであるMichael Keating氏と、「The National」の編集長であるJordan Heller氏
「The National」が創刊される前のAmtrakの車内誌と言えば、「Arrive」でした。これは、目的地のストーリーに焦点を当てた、ごく一般的な旅行雑誌です。
Heller氏と彼のチームがAmtrakの新しい車内誌の創刊に取り掛かる際に、彼らは根本的に異なる方向性を採用することにしました。
「私たちは、まったく新しいコンセプトを採用することにしました。単に1971年に設立された鉄道会社というだけでなく、国を結びつけ、近代のアメリカを産業大国にした『アメリカの鉄道』としてのアイデンティティを活用することにしたのです」とHeller氏は言います。
そのビジョンは、「新しいアメリカ」の芸術・文化・産業を讃える雑誌を生み出すことでした。
「アメリカの鉄道に関する詩はたくさん存在します。それに、鉄道からインスピレーションを受けた素晴らしいアメリカの音楽もたくさん存在します」とHeller氏は述べます。「多くの企業が、アメリカ人としてのアイデンティティを大切にしていますし、消費者も同じです。彼らは地元で生まれた製品を購入したいのです。消費者は、持続可能な方法で生産された地元の製品を買いたいという意思を示し、そうした製品を意識的に消費しています」。
そして、列車の旅は、他の交通手段と比較すると非常にユニークなものです。
「飛行機でA地点からB地点に行っても、その地域と触れ合える感覚を味わえるわけではありません」とHeller氏は話します。「一方で、電車を利用してシカゴからシアトルに行くと、さまざまな景色が車窓を流れ、その地域と心から触れあうことができるのです」。
「The National」チームはどのようにしてブランドビジョンに命を吹き込んでいるのでしょうか?
まずは「The National」の2月/3月号の記事「Next Stop: New Orleans」を見てみましょう。「Next Stop」のコラムシリーズは、目的地を描写したストーリーの「The National」版です。「どの街を取り上げるにしても、街の真髄に触れ、重要な文化を蘇らせている人物・会社・シーンを掲載しています」とHeller氏は語ります。
「Next Stop: New Orleans」は、伝統的なPontchartrain Hotelの中にある有名レストラン、Caribbean Roomのストーリーを紹介しています。かつてのCaribbean Roomは、俳優Richard Burton、女優Helen Hayes、劇作家Tennessee Williamsなど、錚々たる顧客を魅了してきました。Caribbean Roomの食事で最後に出てくるのは、チョコレートソースがかかった3層の大きなアイスクリームケーキ「Mile High Pie」です。1970年代に入るとPontchartrain Hotelは衰退し始め、ハリケーン・カトリーナ襲来後は回復できないほどになってしまいました。しかし最近、シカゴに拠点を置くホテルグループが1,000万ドルかけてホテルのリノベーションに乗り出したのです。今では、著名なシェフであるJohn Besh氏とChris Lusk氏がレストランを復活させ、「Mile High Pie」をリニューアルしました。
「私たちは、ニューオーリンズのお勧めの旅行プランを提供するのではなく、ひとつのレストランに関するストーリーを伝えたかったのです」とHeller氏は言います。「このストーリーを読めば、20世紀のニューオーリンズ料理に思いを馳せることができるでしょう?」
2017年2月5日午前9時47分(PST)にAmtrak(@amtrak)がシェアした投稿
「Next Stop」は、Heller氏が「The National」のために構築した編集フレームワークのほんの一例です。彼らは、列車の旅というレンズを通してアメリカの芸術・文化・アイデンティティの側面を紹介することで、Amtrakを「アメリカの鉄道」として表現するコラムを執筆しています。
各号には、Amtrakの路線に乗って旅を記録した写真家のポートフォリオも掲載されています。
もう1つのコラムシリーズ、「Between the Lines」で特集しているのは詩人です。この特集では、アメリカ人としての個人的な体験を描いた詩やアメリカの歴史に対する見解を示した詩を掲載し、背景にあるストーリーを紹介しています。Young Peoples’ Poet Laureate(若者に向けて詩の素晴らしさを広めるPoetry Foundationの役職)のJacqueline Woodson氏は、サウスカロライナ州グリーンビルからニューヨーク州ブルックリンに移り住んだ母親の体験について「Great Migration(黒人の大移動)」という詩を書きました。彼女は、南部の人種差別から逃げ、良い仕事とより良い生活を求めて北部に移住した600万人のアフリカ系アメリカ人の一人です。
また、「The National」の最後には「Train of Thought」というエッセイも掲載されています。このエッセイでは、Ann Patchett氏という著名な作家が列車の旅のロマンスや美しさを伝えています。
「このアプローチは、当社が発行している他の機内誌とはまったく異なるものです。機内誌は、実際に飛行機に飛び乗って、国内外へ移動し、人生を充実させる体験がしたくなるように、読者をワクワクさせることを目指しています」とKeating氏は述べます。「しかし、『The National』では、ストーリーに興味を持ってもらうためにその場所を訪問する必要はありません。もっと文化的なアプローチを取っているからです」。
Keating氏は、「The National」のコンテンツは、人々に旅をしてもらうきっかけとなると考えています。ピューリッツァー賞を受賞した劇作家の紹介記事を掲載すれば、観劇のために電車や劇場のチケットを購入する人が増えるかもしれません。
「電車に乗ってもらうために、演劇が上演される劇場は、ニューヨーク市にあるAmtrakのPenn Stationから徒歩圏内だと記事に記載しています」とHeller氏は話します。
他にも、「Next Stop: New Orleans」の最後には、AmtrakのCrescent号の路線情報にリンクするコールトゥアクション(CTA)が設置されています。
Amtrakは、「The National」チームに大きな編集上の自由を与えていますが、特集する路線を自分たちから提案することも多いといいます。また、AmtrakはCTAに深く関わっています。
Heller氏は、Amtrakが、一見鉄道とは関係がない記事に絶妙なCTAを配置したときのことを教えてくれました。
「私たちは、『全米ドッグショー狂騒曲』というストーリーを制作しました。描いたのは、コメディ映画『ドッグ・ショウ!』の監督を務めたChristopher Guestと破天荒で有名なジャーナリスト、Hunter・S・Thompsonが出会ったハチャメチャな舞台裏です。この記事は、ドッグショー界の予測不可能で強迫観念的な性質を見事に表した、楽しい読み物です」とHeller氏は語ります。「一見鉄道とは関係がないような記事ですが、Amtrakは記事の最後のCTAで、ペット連れで乗れる路線を抜け目なく紹介していました」。
「The National」とInkは、質の高いコンテンツにこだわっています。
Keating氏は、長い間大手メディアからジャーナリストをヘッドハンティングしてきた実績を持っています。「The National」を率いる前のHeller氏は、Gawker、Salon、Men’s Journal、The Wall Street Journal、VanityFair.comといった多くのパブリケーションでライターを務めてきました。
「また、チームでそれなりの予算を使えるようにしています。質の高い作品を制作するためにも、予算は非常に重要です」とKeating氏は言います。「予算を切り詰めていたときも、チームが美しい作品を制作できるように、ある程度の予算を維持してきました」。
「The National」は、早い段階から読者を雑誌にエンゲージさせてきましたが、現在では、印刷とデジタルの総合体験を生み出すために取り組んでいます。
Amtrakの列車がWi-Fiのデータ容量を増やすにつれて、ユーザーは、各列車にキャッシュされた「The National」のコンテンツを、自分のデバイスで読むことができます。また同社は、デジタルアセットを提供するために、Amtrakのソーシャルメディアチームとも密接に協力しています。
「すべてのチームにとって重要なことは、すべての種類のチャネルにコンテンツを配信することです」とKeating氏は述べます。「当社には、印刷雑誌を作成する編集チームに加えて、専用のデジタル編集者も存在します。昨年は、多くの動画や、印刷雑誌の動画アセットも制作しました。これらのコンテンツはそれぞれまったく異なる方法で拡散され、カスタマージャーニーのさまざまな過程で顧客にリーチする可能性があるのです」。
Keating氏とHeller氏は、動画とソーシャルの力が高まりつつあるデジタルの世界においても、常に印刷物の居場所は存在すると信じています。
「人々が飛行機や電車に乗ると、自然と本や新聞を手に取ります」とHeller氏は話します。「スマホ中毒の私でも、飛行機に乗ると、スマホをしまって印刷雑誌を開くことを体が覚えているのです」。
「印刷雑誌は、何もかも切り離してゆっくりしたいときのごほうびです」とKeating氏も同意します。「有名大学と一緒に、長時間フライトに搭乗した人々を対象にしたテストを実施したことがあります。高度32,000フィートにいる人たちは、いつもとまったく違う、幸せで受容的な心理状態にあることがわかったのです。つまり、スマホで気軽に楽しめる短めの情報を消費するよりも、席をリクライニングし、ワインを飲み、雑誌を開き、長文のストーリーをゆっくりと読むのに適した状態にいるということです」。
深く腰掛け、リラックスしてください。旅のお供にこちらをどうぞ
@curlygq #amtrak #500destinations #snowdays2017年2月27日午後3時30分(PST)にAmtrak(@amtrak)がシェアした投稿
Heather EngはNewsCredのエグゼクティブエディターです。
この記事はNewsCred BlogのHeather Engが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。
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