コンテンツマーケティングにおいて核となるのは、消費者と企業・ブランド間のエンゲージメントです。そこで本コラム『デジタル・エンゲージメント』では、テクノロジーライターの大谷和利さんが「コンテンツマーケティングの元素表」を評価軸にしながら、マーケターたちが創造性を駆使して編み出したエンゲージメントを高めるための工夫を連載形式で紹介。読者の皆さんに新たな視点や気づき、アイディアを提供していきます。vol.6の今回は、大手ゼネコンとして建築の設計・施工を事業ドメインにおく法人顧客対象の企業「竹中工務店」に迫ります。
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まず、コンテンツマーケティングにおけるWp、つまりWebページのトップでは、短めのイメージビデオが自動再生されるようになっており、建築そのものよりも「竹中の人」にスポットをあてた構成になっている点が好ましく感じられる。建売住宅などを除けば、建築はすでにある製品を販売するのではなく、持てるノウハウを駆使して施主と共に新たな空間を作り出していく仕事なので、そこに関わる人々の顔を見せる冒頭のアプローチは正しいといえる。
▲Webページのトップでは、「竹中の人」を中心としたショートビデオが流れ、その下にコンテンツからのピックアップリストが並ぶ。
続いて、企業としての実績を示す、過去の建築作品の紹介コーナーがある。一般企業にとっては製品紹介にあたるが、あくまでも企業の総合力を示すショーケースなので、コンテンツマーケティング的には広い意味でのCs(ケーススタディ)に該当すると考えられる。
リンク先のページでも、建築種別や地域別、竣工年、改修・再生などをボタン一つで簡単にフィルタリングできるようになっており、たとえば建築種別の場合には、さらにオフィス、商業(施設)、住宅、宿泊(施設)などの絞り込みが簡単に行える。この整理されたインターフェースはわかりやすく、建築を志す学生などにとってのアーカイブ的な利用法も考えられるだろう。
▲建築作品のコーナーには、写真としても見ごたえのあるビジュアルが並び、信頼につながる過去の実績を裏付ける役割を果たす。
ソリューションのセクションでは、企業や社会、既存の建物が抱える様々な課題に対して、竹中工務店が持つ解決策を提示している。これは、Cs(ケーススタディ)とRe(リサーチ)を融合したコンテンツとして捉えることができ、同社を様々な建築技術のエキスパートとして印象付ける役割を果たしている。
▲独自の技術や工法を紹介することで、企業としての先進性を印象付けるソリューションのセクション。
繰り返しになるが、建設会社は、すでにある製品を販売しているわけではないため、自然な流れとして、コンテンツもケーススタディが中心となる。竹中工務店のウェブサイトは、意識するしないにかかわらず、このケーススタディを様々な切り口と深さで見せることによって、同社の持つポテンシャルの高さを認知してもらえるように構成されている。以下のプロジェクトストーリーは、建築の背景を深掘りすることで、興味を掻き立てるコンテンツに仕上がっている。
▲プロジェクトストーリーでは、自社の特徴的なプロジェクトの背景を深掘りし、現場の声を拾うことで、建築に秘められた物語が浮かび上がる。
サイトの来訪者に、現場の声やスタッフの姿勢を知ってもらいたいという狙いは、スクロール途中で浮かび上がる「竹中の人」へのリンクにも表れている。思わずクリックしたくなるリンク先の内容も読み応えがあり、建築という仕事の裏側を垣間見て理解を深めることができる。この見せ方は、Int(インタビュー)コンテンツを読ませる工夫として、非常に効果的である。
▲メインページをスクロールしていくと、途中に挟み込まれるように表示される「竹中の人」は、スタッフのInt(インタビュー)コンテンツを興味深く読んでもらうための工夫として有効だ。
同社は、企業としてのメッセージをテレビや新聞・雑誌などの広告を通じて発信しているが、コンシューマー向けの製品に関わる企業と比べれば、それを目にする頻度は少ない。その観点から、Web上のコンテンツとしてアーカイブして、誰もが閲覧できるようにすることには一層の意味がある。
また、一般的にはコンテンツというよりも定型的な情報として扱われがちな会社情報も、切り口の作り方によって、巧みにクリックを誘導するように考えられている。
▲Vi(ビデオ)コンテンツに相当するTV-CMや企業メッセージを発信するスペシャルムービーなどは、ライブラリセクションにまとめられている。
▲普通は通り一遍になりがちの会社情報も、概要に加えて「キーワードで知る」、「数字で知る」という切り口を設けることで、関心が高まる。
建設会社の中核をなす設計部門関連のコンテンツは、独立したページ構成となっており、設計者の思いが存分に語られている。このセクションは、様々な視点から設計やデザインにかける同部門の思想や哲学をまとめたRo(ラウンドアップ)コンテンツであり、過去の代表的な16人の建築家の作品集と言葉からは、歴史の重みが感じられる。
▲竹中工務店設計部による「竹中のデザイン」セクションは、独立したページとして設けられ、同社の建築設計哲学を総括し、一望できるRo(ラウンドアップ)コンテンツとして機能する。
竹中工務店は企業活動の一環として、TAKENAKA DESIGN WORKSと呼ばれる冊子を発行しており、電子ブックとしても読むことができる。
ただし、電子ブックがアドビのFlash技術によって提供されているため、モバイルデバイスの標準環境からは閲覧できない点は残念であり、企業として情報発信の機会を逃すことになる。この点では、業界標準規格のHTML5などを利用して、モバイルフレンドリーなコンテンツへと移行していくことが望ましいといえる。
▲「竹中のデザイン」の中のTAKENAKA DESIGN WORKSは、冊子、電子ブックの双方の形式で入手可能な、資料的価値も高いコンテンツである。
そして、竹中工務店が力を入れているソリューションのひとつに、千葉大学と共同で「健築」というタイトルを掲げて展開している「誰もが健やかで、心豊かに生きていける場所を築くための取り組み」がある。Re(リサーチ)としての意義や、Bp(ブログポスト)的な観点からも充実したものであり、デザインを工夫して、本社サイトとは異なる雰囲気を醸し出すことに成功している。
▲「健築」コンテンツの中核をなすのはRe(リサーチ)的な要素も強いCs(ケーススタディ)であり、様々な実践を通じて、次世代のコミュニティ作りのプロセスを見出そうと試みられている。
▲「健築」サイトは本社サイトとは異なるテイストのデザインでまとめられ、アニメーションなども使って柔らかい雰囲気を演出している。
▲「健築」サイトはBp(ブログポスト)も充実しており、更新もしっかり行われている。内容的にもバラエティに富み、長さも適度で読みやすい。
このように、竹中工務店のWebコンテンツは内容的に充実しているだけでなく、レイアウトや動的な見せ方にも知恵を絞って、次々と読み進みたくなるように作り込まれている。この点で、同業種に限らず、他の企業にとっても参考になる部分が多いと思われるので、大いに参考にしていただきたい。
ちなみに、竹中工務店は法人対象ビジネスということから、Sp(ソーシャルポスト)としてのSNSでの情報発信は行われていない。ただ、直接のクライアントにはならないとしても、世間には建築ファンも多数存在している。そうした人たちに、身近な建築物が同社の作品であると気づいてもらい、親近感を持ってもらうためにも、建築写真などを公開するInstagramアカウントなどは開設しても良いのではないかと感じた。
※文中で掲載している写真・図版は、すべて竹中工務店公式サイトからのキャプチャになります。
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大谷 和利(おおたに・かずとし)
テクノロジーライター、AssistOn取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、スティーブ・ウォズニアックのインタビュー記事をはじめ、コンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のアドバイスなども行う。主な著書・監修書に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)、『ICTことば辞典:250の重要キーワード』(共著。三省堂)、『ビジュアルシフト』(監修。宣伝会議)、『インテル中興の祖 アンディ・グローブの世界』(同文館出版)。主な訳書に『Apple Design日本語版』(AXIS)、『スティーブ・ジョブズの再臨』(毎日コミュニケーションズ)。
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