メタバースビジネスにおける、世界観とコンテクストの作り方。Awwの成功に見る、そのポイントとは?

ビジネスの新たなフロンティアとして期待される「メタバース」。しかし成功事例はまだ少なく、悲観的な声すら耳にすることも。壁を壊すためには何が必要なのでしょうか?immaなどのバーチャルヒューマン事業で実績を持つAwwの佐田晋一郎さんと堀一馬さん、そしてAwwとの協業を進めるアマナの青木裕美が鼎談。ブレイクスルーのカギを探ります。

immaの言葉は、なぜZ世代に届くのか

――「メタバース」はもはやバズワードと化していますが、Awwのお二人は、この状況をどう捉えていますか?

Aww・佐田晋一郎さん(以下、佐田):僕らの事業における「選択肢が広がった」と感じています。

「メタバース空間でプロモーションを展開していくにあたり、バーチャルヒューマンと何かコラボできないか」といった企業やブランドからの相談は、実際に増えていますね。

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佐田 晋一郎 | Shinichiro Sada
株式会社Aww 取締役CMO。2020年にAwwにジョインし、主にパートナービジネス部門、新規事業開発部門を担当。2021年よりWeb3分野への参入を進めており、IPを軸とした複数プロジェクトを進行中。

――Awwがバーチャルヒューマンを通してどのような事業を展開し、価値を提供してきたのか、改めて教えてもらえますか。 

Aww・佐田:時計の針を戻すと、2016年にInstagram上に誕生したlilmiquela(リル・ミケーラ)というアメリカ生まれのCGキャラクターが、世界初のバーチャルヒューマンと言われています。彼女がファッションブランドのモデルや広告に登場して人気を博し、追随するようにヨーロッパでもバーチャルヒューマンが生まれました。

ひるがえって日本では、VTuber(バーチャルYouTuber)が流行していた頃。こうした流れを捉えて創業メンバーの守屋(株式会社Aww 代表取締役・守屋貴行さん)と岸本(同社 取締役・岸本浩一さん)の2人が、日本初のバーチャルヒューマンとしてimma(イマ)を作り上げたのです。

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2018年に誕生したバーチャルヒューマンのimma。Instagramフォロワーは40万を超え、数々の国内外ブランドや企業とコラボレーション実績を持つ。(提供:Aww)※2022年9月時点

Aww・佐田:もっとも、当初は明確なビジネスモデルがあったわけではないんですよ。

――むしろアートプロジェクトのように「こんなことをやったら面白いよね」という形で始まった、と聞いています。

Aww・堀一馬さん(以下、堀):そうですね。SNSなどの広がりにより、個人の発信が大きな力を持つ「個の時代」の到来を、創業メンバーは強く意識していました。

大きな資本やマスメディアの力を借りずとも、クリエイター個人が発信していける。リアルな質感を持った個人(キャラクター)がスタイルや価値観を発信し続けるうちに、共感するコミュニティが生まれるだろうと。

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堀 一馬 | Kazuma Hori
株式会社Aww マーケティングチーム ディレクター。NFTの世界に魅了され、2022年よりAwwにジョイン。マーケティング部門にてWEB3 / NFT領域のストラテジーを担当。前職の株式会社電通では、ブランドの顧客体験を企画するCXプランナーとして活動。

Aww・佐田:実際、immaに関しては、初期は海外のインフルエンサーたちが面白がってくれて、彼らのSNSで反応してくれました。そこから一気に、数万、数十万とInstagramのフォロワー数が増えていったんです。

アマナ・青木裕美(以下、青木):私もその頃からimmaちゃんをフォローしていますが、精緻に作りこまれた世界観に引き込まれたのを覚えていますね。それを日本発でできているのが、すごいなと。

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青木 裕美 | Hiromi Aoki
株式会社アマナ プランニング&デザインデパートメント統括ディレクター。企業のブランディングやプロモーションに関わるコミュニケーションプランやコンテンツ企画/制作を担当。長くデジタルコミュニケーション領域に携わり、現在は新規ソリューション開発や新規事業の立ち上げにも携わる傍ら、アマナのメタバース領域ビジネスを推進。

Aww・佐田:ありがとうございます!青木さんのようにimmaの世界観に共感してもらう方が増えていく中で「モデルとしてimmaを起用したい」とオファーをいただくようになっていきました。ファッションだけではなく、SK-ⅡやIKEA原宿、ポルシェなど多彩なジャンルでのコラボレーションに発展しています。

どんな価値を提供できているかといえば、「immaの等身大のメッセージやストーリーを、ユーザーに向き合って伝えられること」に尽きます。immaが世界中のZ世代に共感いただいているのは、その価値が大きいからだと思っています。

――なぜ、immaの言葉はストレートにZ世代に届くのでしょうか?

Aww・佐田: Z世代の1つの特徴として、企業やマスメディアの発する情報より、個人や自分の属するコミュニティで交わされる情報を信じる側面があると感じています。だからこそ、immaに限らずバーチャルなキャラクターを好む層は、Z世代に多いというマーケティングリサーチも出てきています。

アマナ・青木:世代で一概に語り切れないところはあるものの、確かにZ世代は「共感する個人がいいと思ったモノやサービス」を選ぶ傾向が強い。リアルな個人としてのキャラクターが支持されるバーチャルヒューマンは、そういう意味でも受け入れられやすいんでしょうね。

Aww・佐田: そう思っています。だからこそ、僕らはimmaに対して企業やブランドからいただくオファーを慎重に見極めます。Z世代をはじめとしたバーチャルヒューマンに馴染みのある方たちは、人の内面というか、背景にあるコンテクストまで推し量る側面もある。「immaちゃんはそういうクリエイティブは作らない、そういう考え方はしない」「このブランドは選ばない」とファンが思ってしまえば、絶対にメッセージは届きません。

裏返すと、SNSを通した発言やライフスタイルから見出せるimma自身の「考え方・在り方」にフィットしたモノやサービスならば、ごく自然にナラティブを踏まえながら伝えられ、共感を得やすくなるんだと思います。

デジタルネイティブにとっての“リアル”とは

 ――なるほど。バーチャルヒューマンの捉え方自体も、世代によってある程度差がありそうですね。

Aww・佐田: Z世代を見ていると、インターネットカルチャーとの接し方が、それまでの世代と明らかに違います。

上の世代の感覚からすると、バーチャルキャラクターなどに触れると「中の人はどんな人なんだろう…」という思いがよぎることもありますよね。しかし、Z世代はそうした感覚が薄く、その人が匿名だったり、キャラクターやアニメのイラストだからといって、コミュニケーションを躊躇したりはしない傾向があると思います。

生まれたときからインターネットとスマホが当たり前にあった彼らは、リアルでのコミュニケーションより、オンラインコミュニケーションに費やす時間のほうが長いことも影響しているのでしょう。

Aww・堀:ゲームのアバターやSNSを通して、顔も性別も年齢もわからないまま会話する機会も多い。だからこそ、どんな考え方を持っているか、といった表出するコンテクストこそを重視する面がありますよね。

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アマナ・青木: そうしたコンテクストやキャラクターを作っていく際、何を軸に据えていますか?

Aww・佐田: 比較的クリエイターの裁量が大きいことがポイントでしょうか。Awwのバーチャルヒューマンのプロデュースにおいても、実際に中心的に動かしているクリエイターたちがZ世代なので、当事者の感覚で自然に表現できている面もあるでしょうね。

メタバース領域でのビジネスにおいては、こうしたコンテクストを重視した表現、運用は外せないポイントだと考えています。

コンテンツが世界観を形作り、そこでの体験がコンテクストを生み出していく

――今、Awwとアマナでは一緒にプロジェクトを進めているそうですね。

Aww・佐田: はい。まだ公開していない情報も含まれるので、現時点でお話できる範囲が限られますが、いくつかのプロジェクトでの制作パートナーとして、一緒に進めています。

僕らとして目指しているところとしては、IPビジネスの進化であり、今後グローバルで戦っていけるIPを充実させていきたい。たとえばimmaに関しても、デジタルファッションでの展開を考えていて、imma以外にもWeb3やNFT、メタバースの概念を活用したIPを拡張するプロジェクトを進めています。そのいくつかのプロジェクトにおいて、アマナのチームにジョインしてもらっているんです。

――その経緯や、狙いはどういったところにあったのでしょう?

Aww・堀: もともと僕が前職時代に青木さんとよくお仕事をご一緒していたご縁もあって、お声がけしたんです。

メタバースやWeb3の概念が広がる時代において、新しいIPのストーリーテリングやファンとの関係作りを模索していくうえで、キャラクターの世界観を高いレベルで構築していけるUI/UXや体験設計は必要不可欠でした。質の高いビジュアルやコンテンツを作れる会社は他にもありますが、たとえば UI/UX思考をもって実際に“手を動かせる”クリエイターがいたり、どう実現するかを僕らと同じ目線で考えながらディレクションをしてくれたり、臨機応変に必要なケイパビリティやアセットを組み合わせてくれるところは大きなポイントですね。

アマナ・青木: アマナ側のモチベーションとしては、Awwが牽引するバーチャル領域やIP領域における知見、コミュニケーションを含む世界観の作り込みなど、そのパワフルな手腕を学びたい面もありました。

Aww・堀: Webサイト1つとっても、たとえばNFTを紐づけて動かしていくような、まだ流動的でさまざまなチャレンジが求められるプロジェクトでは、通常のWeb制作や運用の知見だけでは構築しきれないところがある。そうした経験や意欲のあるメンバーに参加してもらっているので、話が早いんですよ。

アマナ・青木: プロジェクトに関与しているメンバーの一人が、「今、Awwとの仕事が一番楽しい」と先日こぼしていました(笑)。

キャラクターの一挙手一投足が“コンテンツ”であり、その積み重なりが世界観を作っていく。そうした考え方は、アマナのビジネスと共鳴するところがあると思っています。メタバース領域においてはその“コンテンツ”1つ1つを、イチからクリエイターの手で作っていくことができるし、どんな人でもクリエイターになれる。そこには、国内外の幅広いクリエイターネットワークを保有するアマナだからこそ寄与できる領域があるととらえていて、メタバース関連のR&Dを進める新部署を今夏立ち上げました。そうした意味においても、Awwとのプロジェクトは、社内のメンバーにもいい刺激になっていますね。

Aww・佐田: それはまさに大きな狙いの1つでもあります。「そんなふうに新しいクリエイティブができるなら、僕たちも作ってみようよ」と、クリエイターが新しい創作に踏み込んでほしい。

作る人を増やしたい思いがありますし、そうやってシーンが育ち、盛り上がっていくことになりますから。  

――今後、クリエイターの在り方も変わっていきそうですね。

Aww・堀:世界観を作れるスキルの価値は、これからより高まっていくと思いますね。

Aww・佐田:デジタル上で過ごす時間が増えていますが、先ほど青木さんが仰ったように、デジタルは全てが作られたモノ、つまり、クリエイティブなんですよ。その作られたモノが、環境やコミュニケーションの仕方、声の届き方を形作り、それが体験にダイレクトに影響する。それを踏まえると、クリエイターの価値は相対的に上がっていくのかなと感じています。

アマナ・青木:アマナはこれまで、ストックフォト販売事業を通してクリエイターエコノミーを形成しながら、クリエイターと企業をつないできた歴史を持っています。メタバース、Web3の概念が広がった世界におけるクリエイターの新たな活躍のスタイルやコミュニケーション、コミュニティのヒントも、こういった取り組みから得ていきたいですね。

インタビュー・文:箱田高樹
撮影:AKANE(amana)
AD :中村圭佑
編集:高橋沙織(amana)

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