アマナには200人を超えるクリエイターが在籍しています。フォトグラファー、ビデオグラファー、エディター、CGクリエイターなどさまざまな領域を担い、日々の仕事の中で企業や社会の課題に対してそのクリエイティビティを生かし、解決の道を模索しているのです。この連載では、アマナのクリエイターが1人ずつ登場。社会課題を解決するためにどのように動き、何を発信しようとしているのか、そのプロセスと思いを紹介します。
初回に登場するのは、プランナーの中辻梨絵(以下、中辻)です。出版社で女性誌の編集業務に携わり、アマナへ転職。プロデューサーを経てプランナーになった今、企業のさまざまなコミュニケーション施策を行う一方で、フェムテックという女性の健康課題を解決するための動きに大きな関心を抱いています。編集者+プロデューサー+プランナーという、今までに培ったハイブリッドなスキルを活用し発信する先に何が見えるのか、話を聞きました。
――まず、現在のフェムテックの状況について伺います。ちなみにフェムテック(Femtech)とは、女性を意味する「Female」と「Technolgy(技術)」を掛け合わせた造語。女性がライフステージごとに直面する健康課題にテクノロジーを使って解決していこうとする製品やサービスのことを指します。海外では10年ほど前から多くの企業がフェムテックへの関心を寄せていますが、日本に知られるようになったのは、ごく最近のことだそうですね。日本において、フェムテックは浸透してきていると感じますか。
中辻:2、3年前に比べると、雑誌でフェムテック特集が組まれたり、実証事業の参加企業やマスコミの注目度が回を重ねるごとに増えたりと、関心度は上がってきていると感じますが、浸透するには少し時間がかかりそうな気がします。
――なぜそのように思ったのでしょうか。
中辻:日本ではフェムテックの認知度が低いことに加えて、女性特有の健康課題があるのに我慢してしまったり、周りの人に気軽に相談できない空気があるからです。また、フェムテックを「女性だけに特化したアイテム」「女性限定のサービス」と捉える男性がいまだに多く、女性が活動しやすい、働きやすい環境が整っているとはまだまだ言いがたい現状です。
――それらの課題に対して、どのように取り組んでいこうと思っていますか。
中辻:解決策の一つは、フェムテックを女性に限定したことと捉えるのではなく、男性も含めた社会全体がより動きやすく、働きやすくなるためのものと認識することです。企業が女性のライフスタイルに合わせた働き方の提案や健康課題にアプローチすることができれば、離職率は減り、長く働ける女性社員が増える一つのきっかけになると思うのです。
例えば、大企業から中小企業が取り組んでいる健康経営の認定要件には、すでに「女性の健康保持・増進に向けた取り組み」という項目がありますが、フェムテック視点の項目をもう少し増やすことで、経営層の意識も変わっていくのではと感じています。「健康経営優良法人認定制度」に認定されれば、社員一人一人にメリットがあるだけなく、企業価値の向上にもつながる。働く環境が良ければいい人材が集まるのは当然のことです。結果的にそういった取り組みをしているという姿勢は、企業のイメージアップに加え、社会全体の活性化にもつながっていくのではないでしょうか。
――中辻さんがフェムテックに興味を持ったきっかけは何でしょうか。
中辻: 直接のきっかけは、自分自身の経験が大きいですね。私の場合はPMS(月経前症候群)の影響で生理の1週間以上前くらいから、気持ちの落ち込みがひどく、いなくなってしまいたいと思ったり、ひどい時はコミュニケーションが取りづらくなってしまうほど重い症状に悩まされていました。こうした心の不安定は、今では女性ホルモンの影響だと受け入れることができるようになりましたが、当時は自分の考え方やマインドがいけないのではないかと原因がわからず、自己嫌悪になってしまうこともありました。
個人的な問題という意識が強いゆえに誰にも相談できず、一人で悶々とすることが多かったのですが、フェムテックを知ることで「同じような悩みを持つ人は私だけじゃないんだ」「こんな解決法もあるんだ」とさらに興味・関心を持ちました。
――知識を得ることで体だけでなく、心もラクになれますよね。
中辻:そうですね。自分の実体験から、私と同じように悩みを抱える女性を手助けしたい、女性の社会課題にもっと貢献したいという思いがいっそう強くなり、フェムテックについて深く学ぶことにしました。
――中辻さんは今、アマナでどのような仕事をしているのでしょうか。
中辻:女性誌の編集者を経てアマナに入社し、現在はプランナーとして世の中へ情報発信していくための企画を立案しています。前職で得た「読者に寄り添う誌面作りをする」という思いから、対外的に出ている情報を鵜呑みにするだけでなく、本質的な課題は一体何なのか、取材をするような感覚で企業がどのような課題を持っているかを情報収集します。そのうえで、いかに共感を持たせられるか、どう寄り添えるかを第一に考え、企画に反映するよう努めています。
仕事内容としては、ウエディング会社やメーカー、コンサルティング会社のコンテンツプランニング、インターナルコミュニケーションのワークショップ実施など多岐にわたるため、毎回新鮮な気持ちで取り組めますし、自分が携わったことをメディアに取り上げていただく機会も多く、やりがいや達成感を日々感じています。
直近で最も印象に残っている案件は、経済産業省(以下、経産省)のフェムテックに関するサイト制作です。
――経産省へはご自身で連絡したのですか?
中辻:まずはフェムテックを推奨している企業にアプローチしていく中で、経産省がフェムテック 事業社の実証実験をする情報をキャッチし、担当者に「国としてフェムテック の動き、未来についてどう考えているか、意見交換したい」とメールを送りました。ほかの企業と同じように気軽な気持ちでアプローチしたんです。
編集者時代は、気になったことはすぐ行動に移すのが鉄則。考えすぎて動けないのがいちばん損ですよね。メールをした数日後に経産省の担当者から電話があり、その場で30分くらい話をしました。
――経産省はなぜ、フェムテックに注目していたのでしょうか。
中辻:オンライン上で意見交換していくうちに、当時の担当者だった女性が不妊治療や更年期といった女性特有の健康課題から、キャリアを諦めたり、考え直さなくてはいけない状況の同僚がいるというお話を伺いました。2021年に経産省がフェムテック事業への補助金制度をスタートさせたきっかけは、この女性担当者の実体験だったそうです。私自身も長年、重いPMSで悩んでいたので、女性同士とても共感するものがありました。そうしてご縁があって、経産省のフェムテック実証事業サイトの制作を担当することになりました。
――経産省のサイト制作は、どのような反響がありましたか。
中辻:フェムテックを通して、女性の健康や社会課題に取り組もうとする実証事業社を可視化することで、「フェムテック 」という言葉だけでなく、実際にどんなことをすると女性や社会への貢献になるのかが、理解しやすくなったのではないかと考えています。また、経産省の担当者からも、これまでの省庁が作るような写真表現とは違い、固定概念にとらわれず、多様性を感じられるサイトになったと評価していただき、大きな自信にもつながりました。フェムテックをどのように伝えるのかを訴求していくうえで、デザインの良さも手助けになったのだと思います。
――フェムテックに関する活動の中で、難しいなと感じた点はありますか。
中辻:現状ではフェムテックに明確な定義や業界の統一基準がないので、達成感が見えづらいことでしょうか。また生理痛や不妊治療、更年期など女性特有の健康課題、その症状に個人差があります。性格と同じように個性でもあるんですよね。当事者でないとわかりえないことも多く、相手の状態を100%理解するのは難しいと感じています。
――そうした難しさも感じながら取り組んでいるわけですが、今後、強化したいと思っていることはありますか。
中辻:言葉は伝わりやすい反面、受け取り方や伝え方でどう捉えられるかが変わっていきますよね。出版社は基本的にアウトプットの手法が紙やWeb上でのテキストが主でしたが、アマナの場合は動画やワークショップのようないわゆるビジュアルや「場の共有」など、アウトプットの種類がいろいろとあります。
伝える手法がたくさんあれば、より人に伝わりやすくなる。女性の働き方やPMSなど、特に伝える時の表現が難しいセンシティブなものは、ビジュアルを通して共感を生むコミュニケーションを作っていったほうが伝わりやすいかもしれません。
いつか「フェムテック 」が、特別なものではなく日常に馴染んでいるものになってほしいと思います。そして女性も男性も、自分の健康課題に向き合い、お互いに理解しあえる社会につながることを願っています。
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取材・文:川口ゆかり
編集:大橋智子(アマナ)
撮影:Atsushi Kawashima(アマナ)
デザイン:中村圭佑
撮影協力:海岸スタジオ
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