国連が10月11日に制定した「国際ガールズ・デー(International Day of the Girl Child)」。2022年度のアクションテーマは「THINK FOR GIRLS~女の子たちと気候変動」でした。賛同する企業によって「国際ガールズ・デーPLUS」として認知拡大を図る活動にアマナも参加。クリエイティブ開発を担当しました。
SDGsの開発目標であり、誰もが当事者でもある気候変動とジェンダーの関係を可視化することによって、「女の子たちが声をあげ行動することの意義について考える」機会の創出を目指したクリエイティブには、どのような狙いと願いが込められていたのでしょうか? ジェンダー・スペシャリストである大崎麻子さんと、クリエイティブ開発を担当したアマナのイメージングディレクター・ビジュアルコラボレーターである丸岡和世とコンスタンス・リカが、そのビジョンと可能性について語り合いました。
──今回の「女の子たちと気候変動」について、クリエイティブ制作はどのように進められましたか?
丸岡和世(アマナ/以下、丸岡):2012年からスタートした国際ガールズ・デーは、「女の子の権利」や「女の子のエンパワーメント」の促進を広く国際社会に呼びかける日です。今年のテーマには、自分たちが女性として普段から感じている問題点を密かに込めることもできるのでは?と、コンスタンスと対話を重ねて制作しました。国際ガールズ・デーの歴代のクリエイティブを見て2人とも感じたのは、思っていた以上に「かわいいイメージで描かれている」「女の子そのものを表現している」ということです。
コンスタンス・リカ(アマナ/以下、コンスタンス):女の子に起きている問題は、女の子だけの問題ではないのに……という思い、疑問がわいてきましたね。
丸岡:そこから、女の子という存在にフォーカスするのではなく、「女の子に視点を広く持ってほしい」ということがテーマとなり、作ったのが今回のアイコンです。女の子が中心にいて、その背景には地球全体が描かれていて、よく見ると、そこには海や森、街や工場、生き物が存在しています。
コンスタンス:そういう全体像が一気に目に入ってくるようにしたのは、「女の子に広い視野を持ってほしい」というイメージを伝えたかったからです。
丸岡:その後に展開した関連ビジュアル「’If I…’ Affected Collection」では、女の子が住んでいるところが「街だったら」「海辺だったら」「山間部だったら」、気候の変化にどんな影響を受けているか、という多様な環境に想像力を広げてもらうことを考えました。女の子が抱える問題について、その状況をコンスタンスと話し合ったとき、「身の周りしか見えないから」「それ以外の方法を知らないから」じゃないかと。これは都会でも地方でも同じだし、女の子に限ったことでないのですが。
コンスタンス:そこから1歩踏み出して外を見てほしい、という気持ちを込めて、 アイコンや「’If I…’ Affected Collection」の「AFFECTED BY THE CITIES」や「AFFECTED BY THE MOUNTAINS」などのビジュアルが生まれました。
──一連のクリエイティブについて、大崎さんの感想をお聞かせください。
大崎麻子(以下、大崎):いろいろな立場の女の子に、自分の視点で自分の生きている環境を見てほしい、という狙いがとても強く伝わってきました。新鮮に感じたのは、色彩です。女の子のエンパワーメントというテーマのクリエイティブで、こんなに多彩な色使いはあまり見たことがありません。グラデーションやマーブルといった手法を選ばれた点に興味があります。
丸岡:国際ガールズ・デーのイベントカラーはピンクなんですが、メインの色にするという発想はありませんでした。それ以前に、女の子たちが住んでいる現実の環境の色を知りたいと思ったんです。ドキュメンタリーを見たり、Googleストリートビューで世界各地をリサーチしたり……。いわゆる貧困地帯と言われる地域に住んでいる女の子でも、その場所は色彩にあふれた環境だったりするんですね。
大崎:Googleストリートビューでリサーチする作業はいかがでしたか?
コンスタンス:とても興味深くて、かなり時間をかけました。ストリートビューでは、同じ場所を去年、一昨年と振り返り、定点観測的に見られるのが面白かったですね。
丸岡:日常風景も見えてきます。塩害にあった地域では、水のボトルを抱えて持って歩いている家族がいて、井戸が使えなくて飲み水がないんだなとわかります。
大崎:これまで、多くの途上国支援の啓発広告を見てきましたが、こんなにハッとさせられるような表現に、特に日本では出会ったことがありませんでした。水の入ったボトルを見れば「水汲みが大変なんじゃないか」という発見がある。「キレイな水を手に入れるにはどうしたらいい?」という疑問が生まれる。従来の、カメラの方を見て女の子が笑っている写真とは違うアプローチを感じます。
丸岡:写真に撮られるための笑顔では、その人たちの普段の暮らしの連続性があまり見えてこないと思います。その表情は本当なのか、シャッターで切り取られた一瞬だけではわからないですよね。
コンスタンス:同時に、ただ「かわいそうな」見え方にはしたくなかったというのもあります。
大崎:女の子の権利が尊重されていない状況を伝えるために、切実な表情にフォーカスしがちなんだと思うんです。ところが、今回のプロジェクトは、色彩やディテールで情報を伝えてくれている。途上国の貧困や気候変動の状況など、そこに暮らしている女の子や家族の実情が、視覚的に細やかな情報として伝わってきます。問題の見え方が変わってきますね。
コンスタンス:アイコンの女の子の内側がマーブルになっているのは、生まれた環境や周りの人からの影響、自分の体験が色となって、少しずつ女の子を染めていくというイメージなんです。
大崎:たまたま、アイコンの子はこういう色味だったけれど、1人1人の色は違うってことなんですね。ピンクがメインでないことで、性自認がまだ揺らいでいる子にも受け入れられやすくなったかもしれません。アイコンが「女の子」としか解釈できないようなクリエイティブだと、それを見て傷ついたり、違和感を感じたりする子もいると思います。実は、このアイコンを見て頭に浮かんだことがあります。それは、最近、若い世代とジェンダーの話をすると、「性別は男と女だけ、という二元論は違うのではないか。性は多様でグラデーションだ」と反応する人がすごく増えているということ。ノンバイナリーという概念も認知されてきていますし、同性愛も含め性的指向の多様性も理解されてきている。そうした、多様性に敏感で柔軟な捉え方をこのアイコンにも感じました。
丸岡:その見方、面白いです。確かにそうも受け取れるな、とあらためて思いました。問題は女の子だけじゃないっていうことにもつながる新しい発見をありがとうございます。
大崎:こういうふうに可視化してくださることで、ここを起点にして、見た人の中に浮かび上がった直感や疑問をシェアしていくと、きっと女性の社会・経済活動を阻む壁、貧困や暴力、自然災害や感染症に対する女性の脆弱性という、女の子を取り巻くさまざまな問題の繋がりも見えてくるような気がします。その繋がりは、きっと一言で表現できるようなことではなくて、複雑なことではあるんです。でも今、女性と気候の問題を考えるときに必要なのは、その複雑さをあるがままで理解しようとすることではないかと感じています。
丸岡:今回のテーマは、私たち自身も複雑な問題をはらんでいるなと思いながら作っていたので、そのまま受け取ってくださって嬉しいです。
【後編】に続きます。
取材・文:杉村道子
編集:大橋智子(アマナ)
撮影:AKANE(アマナ)
デザイン:中村圭佑
撮影協力:海岸スタジオ
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