国連が10月11日に制定した「国際ガールズ・デー(International Day of the Girl Child)」。2022年度のアクションテーマは「THINK FOR GIRLS~女の子たちと気候変動」でした。賛同する企業によって「国際ガールズ・デーPLUS」として認知拡大を図る活動にアマナも参加。クリエイティブ開発を担当しました。
【前編】に続き、「女の子たちが声をあげ行動することの意義について考える」機会の創出を目指したクリエイティブについて、ジェンダー・スペシャリストである大崎麻子さんと、クリエイティブ開発を担当したアマナのイメージングディレクター・ビジュアルコラボレーターである丸岡和世とコンスタンス・リカが、そのビジョンと可能性について語り合いました。
※参照:気候変動とジェンダーの関係を、魅力的にビジュアライズすることが「課題に気づく」価値を生む【前編】
──今回のようなビジュアルには、どんな可能性があると思われますか?
大崎:問題を単純化しない、という明確な意思が感じられるビジュアルです。自分はどう解釈するか、そして、そこから一歩進んで、他の人たちはどう解釈するか。多様な人たちとのコミュニケーションを通じて、ファクトにたどりつく、これからの広告には、そんなクリエイティブが求められるようになるのではないでしょうか。
丸岡:無理にわかりやすくすると、誤解を生んでしまうように思います。
大崎:その複雑なものを見せたことで、浮かび上がってきた疑問に答えることも必要です。理解を深めるためのファクトや視点を提供するのは、私たち専門家の仕事。今、世界中の多くの企業が、環境・気候変動、人権、ジェンダーなどの専門家のアドバイスを経営戦略に組み込んでいます。クリエイティブの方々と専門家とのコラボレーションも、これからすごく重要になってくるのではないでしょうか。
コンスタンス:私たちビジュアルコラボレーターも、専門家の方たちと一緒にもう1歩踏み込みたいという気持ちがあります。受け取った情報だけを整理して見せるんじゃなくて、複雑なものを理解してから見せ方を探ってみたいなと。
大崎:最初の入り口が言葉やデータでは、人の心や頭にすっと入っていかないことが多いです。クリエイティブの力で「これは何だろう」という自発的な興味をかき立てることによって、いろいろな角度から話し合いながらも、1つの理解にちゃんとたどり着ける。そういうコラボレーションができるとすごくいいですね。
コンスタンス:私たちも、ワークショップをやったら面白いよねと言ってたんです。
丸岡:今回、制作のプロセス自体もとても大事だと考えていたので、例えば、実際に当事者である女の子に「あなたがここに住んでいたらどう思いますか」と問いかけて答えてもらうとか、そういうこともできたらいいなと話し合っていました。
大崎:たしかに、人によってあのビジュアルから感じるものはかなり違うと思います。日本国内でも、都心で育った女性と、地方で育った女性では感じ方が違うかもしれない。女子の大学進学率を見ても、例えば東京都と鹿児島県では大きな開きがあります。地方に住んでいる若い女性が見たら、何を読み取ってくれるのか、ぜひ聞いてみたい。若い女性の間でも、さまざまな対話を生み出していく、そんな可能性がありますね。
コンスタンス:同じものを見ても感じることが違うのは、丸岡と私の間でもありました。でも、話し合うとわかり合える。だから、見せて終わりではなく、何か話したくなるようなものを作りたかったんです。
大崎:そうすることで当事者としての意識が高まっていきますよね。
実はSDGsの目標の中で、残念なことに日本ではジェンダーと気候変動の2つの目標へのアクションが弱いんです。この2つの目標は、まさに、社会変革を必要とするゴールだからです。
日本は戦後、自動車産業を中心とする製造業で経済成長を遂げました。それを支えたのは、男性が働き、女性が家事育児を担うという徹底的な性別役割分業です。脱炭素とジェンダー平等は、まさに、これまでの日本の産業や社会のあり方の変革を求めるものです。今、政治や経済の中枢にいるシニア男性は、自らの「昭和」の成功体験を否定される気持ちになるのかもしれません。
ただ、SDGsの本質的な目的は、未来世代に持続可能な環境・社会・経済を残すことです。想像力を働かせて、気候変動を放置したらどうなるか、性別役割分業を前提とした制度や働き方を続けたらどうなるか、考えなければいけませんよね。
──ジェンダーギャップに対して、広告は何ができるでしょうか?
大崎:日本の企業は、SDGsへの関心とエンゲージメント自体はとても高いと思います。17の目標も周知されていて、「ジェンダーといえば5番ですね」と知識としてはよくご存知なんです。ただ、それを「女性活躍」という日本独自の解釈をされているようです。5番目のゴールが掲げているターゲットには、直接的・間接的な性差別の撤廃、公的・私的空間での暴力の根絶、家事・育児などの家庭内のケア労働の責任を男性も担うようにすること、などが含まれています。ですから、企業に求められているのは、フェアな人事や評価の仕組みを作ること、セクシュアルハラスメントを防止し、厳しく処罰する仕組みを作ること、男性が育休を取るようにすることなどです。
また、企業広告が社会におけるジェンダーバイアスの形成装置であるという認識は既に国際的に共有されているので、個人の多様性を描く、女性や女の子を尊厳のある人格として描くことが求められています。海外の企業を見るとわかりますが、ジェンダー平等にしっかり取り組んでいる企業は、広告についても一貫した方針をもっています。日本は、SDGs自体を日本独自の解釈で理解し、伝達している印象がありますね。環境に優しそうなことをする、女性の活躍を応援する、みたいな。実際は、構造的な変革を求めているんですけどね。
コンスタンス:問題への取り組みが表層的になってしまうんですね。
丸岡:私も地方の生まれですし、コンスタンスも途上国とされているマレーシアの出身なので、ジェンダーギャップについてはもともと問題意識が強いと思います。今回も、そういう面をストーリー性をもって伝えられないかという点では試行錯誤がありました。
大崎:女の子が描かれた日本の広告を海外に出した時、アウトになるものも多いでしょうね。最近は、国内でも広告が炎上しやすいから「チェックリストを作りたい」と言われるんですが、まずやることが違うのではと思います。女性の人権とか、女の子のエンパワーメントとはどういう概念なのか、ちゃんと理解することが先決でしょう。なぜならば、人権やジェンダー平等の推進は、企業が社会の一員として果たすべき社会的責任であると同時に、昨今よく言われる人的資本の強化に直結している、つまり、「企業価値」そのものだからです。
機関投資家や就活生や転職希望者から選ばれる企業になる、また、海外の企業から取引先として選ばれる企業になるためには、今以上に、環境や人権への取り組みを強化し、効果的に情報発信していく必要があるのです。そこにクリエイティブが応えるには、ディレクションに決定権を持つ人たちが今の世界の動きを理解していなければならないし、ジェンダー、年齢、ルーツといった多様性のあるチームがさまざまな視点を生かせる環境が必要でしょう。それでこそ、これからの社会で評価される企業価値をメッセージとして創出できるのではないでしょうか。
丸岡:そういう意味では、今回の国際ガールズ・デーのビジュアルは「見ることで考えてもらう」というストーリーを私とコンスタンスが作ることで、2つの視点が入って良いバランスが生まれたように思います。
コンスタンス:日本の方に見てもらうことが前提だったので、私が提案したものを日本人にとってわかりやすいように丸岡にアレンジしてもらいながら、理解しやすさと複雑さの間を縫うように作るのは、とても面白い手応えのある時間でした。
取材・文:杉村道子
編集:大橋智子(アマナ)
撮影:AKANE(アマナ)
デザイン:中村圭佑
撮影協力:海岸スタジオ
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