エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ(以下、NTTコミュニケーションズ)が運営する事業共創プログラム「OPEN HUB for Smart World(以下、OPEN HUB)」に、コミュニケーションデザインを担うクリエイティブパートナーとして立ち上げ当初から参画しているアマナ。今回は、OPEN HUB代表の戸松正剛さんと、アマナでPlanning&Design Dept.統括ディレクターを務める青木裕美、同じくアマナでプロデューサーを務める佐藤千尋の3名に、NTTコミュニケーションズとアマナの共創や、イノベーションを社会実装するために必要なコミュニケーションのあり方などについて語り合ってもらいました。
――スタートから約2年が経過した「OPEN HUB for Smart World(以下、OPEN HUB)」ですが、改めて立ち上げの経緯を教えていただけますか?
戸松正剛さん(以下、戸松):10年ほど前から、自前主義の限界を背景としたオープンイノベーションが広がり出し、さらにその後、社会課題の解決と企業活動を両立するCSV経営がますます注目されるようになる中で、「公共性」と「企業性」の双方を求められている当社が、そうした動きを支える存在になりたいと考え、OPEN HUBを立ち上げたことは、ある種、自然の成り行きだったと思います。少し個人的な思いを付け加えさせてもらうと、「社会課題の解決のための共創を支援する」というのは幾分重たい感じがしていて、多くの人がもう何をしても変わるはずがないと思っている事柄に対して、誰かが「いや、そうじゃないよ」と声をあげ、そこから「社会可能性発見の場」になっていけばと、最近は考えているところです。
――OPEN HUBは大企業同士の共創にもこだわっているそうですが、その理由は何ですか?
戸松:よく、日本ではイノベーションが生まれにくいと言われますが、イノベーションには「アイディエーション(着想)」「インキュベーション(育成)」「スケーリング(規模の拡大)」という3つのフェーズがあって、最初の2つに関してはスタートアップを中心にむしろ熟達してきていると思っています。一方で、インキュベートしたものをいかにスケールして社会実装するかという話になると、大企業の出番があろうかと。大企業同士の共創にこだわる理由もまさにそこにあって、スケーリングには、以前はアセットと呼んでいましたが、レガシー(資産)の有効活用が不可欠、つまりヒト・モノ・カネや、知財、研究成果などを必要なときに投入できる大企業にこそ、その実現力があると考えているからです。
――ではそうした事業共創を「支える」手段として、特に場作りに力を入れてきたのはなぜですか?
戸松:限られたキャッシュを使って生き残りを図る必要のあるスタートアップ界隈で企業がピボット(経営の方向転換/路線変更)するのは当たり前のことですが、大企業になるとそういう文化はだんだんと薄れてしまい、成功体験やサンクコストも足枷となって、今あるものの否定や新しいことへのチャレンジが構造的に難しくなります。そうした状況を打破するためには、マインドセットが変えられて、さらに失敗してもいいのでさまざまな形でトライアルできるような場を作る必要があると考えました。OPEN HUBが「未来をひらく『コンセプトと社会実装』の実験場」というテーマを掲げているのはそのためです。
――今回、アマナをプロジェクトのパートナーとして迎えるにあたり、どのようなことを期待されたのですか?
戸松:例えば、まだないものを考えたり作ったりするときに、自分のやりたいことを人に理解してもらうには、具体と抽象をセットで伝えるのが不可欠だと思っているのですが、抽象的なことを伝えるというのはなかなか難しくて、それ自体がとてもクリエイティブな作業です。そこはやはりプロフェッショナルにお願いしたいと考えました。またそれと同時に、そうした自分たちのメッセージはクリエイティブチームにダイレクトに繋ぎたい。実際にそれをPeer to Peerで協力し合える会社はどこかと検討したところ、アマナさんが適しているという結論になりました。
青木裕美(以下、青木):社会実装に根ざしたビジネス構想の早い段階から多角的にクリエイターが携わり共創できる機会というのは、まだ当たり前のように多くはあるわけではないと思っています。プロトタイピングしていく作業や、社会に実装される成果を目指してデザインするという作業を、これほど大規模なプロジェクトでできるというのは本当にありがたいことだと思っています。社会実装の実験場で、私たち自身も実験的な試みをいろいろとさせていただくことができて、日々、成長を実感しています。
――仕事のやり方にも違いは見られますか?
青木:デザイナーやディレクターなどの役職の思考というのは、良くも悪くもゴールを目指して真っ直ぐ問題解決に走るところがあります。でもこのプロジェクトにおいては、余計なように見える道筋も一度は試してみようという意識がいつしか共有されるようになり、当たり前のように行われています。手を動かすスタッフたちからは「もっと明確な指示がほしい」と言われることもまだありますが、遠回りすることの重要性がさらに浸透していくことを期待しています。
佐藤千尋(以下、佐藤):本当に、作る前に考えることがたくさんあるプロジェクトだと感じています。正解というものがないので、毎回、「これは何のためにやることなのか」「目的を叶えるためにはどんなアウトプットが最適か」と試行錯誤を繰り返し、一歩一歩、進めている印象です。
――アマナが加わったことで、プロジェクトに何か変化はありましたか?
戸松:OPEN HUBが目指しているもの自体は変わっていませんが、「場」や「機能」についてはポジティブな意味でかなり「異質なもの」ができあがりつつあります。またその影響は、プロジェクト内にとどまらず、当社の従業員のマインドセットを良い方向に変えるきっかけにもなっています。組織には、普段、ある種の同質性が蔓延していて、何かに違和感を感じる機会はあまりありません。そこにアマナさん自身がまとっている、ある種の異質性といいますか、服装一つとっても、アマナの人たちが社内を歩いているだけで刺激になっているところがあると思っています。だからこれからも、無理に我々の文化を理解したりしようとせず、このまま異質な存在であり続けてもらいたいですね。
青木:コミュニケーションデザインにおいて、不規則さや、ある種の異質性が大事だというのは、本当にその通りだと思います。今回のプロジェクトでは、アイディエーション、インキュベーション、スケーリングという3つのフェーズそれぞれに資する「場」作りをされていて、私たちも広範囲にわたって携わっています。おかげで、「こんなことがしたい」と、常に頭をフル稼働させてきました。もしかするとこのマルチタスクな状態も、そうした異質性に寄与しているのかもしれないと思いました。
佐藤:2年目を迎え、バーチャルスペース「OPEN HUB Virtual Park」の開設をはじめ、Webメディアの全面改修を行うなど、着実に前進し続けられたと思っています。ただし今は、ようやく土台が整いつつある段階でまだ成果と呼べるようなものはなくて、社会実装という言葉で成果の創出が求められていくここからが本当のスタートだと思っています。
青木:以前から、リアルとバーチャルがクロスオーバーするようなハイブリッドな体験はどうすれば作れるかということをずっと考え続けてきて、今回、Virtual Parkの開設に携われたことはとても貴重な体験でした。ただ、バーチャルとリアル、フィジカルとデジタルみたいなことを分けて言葉にしているうちは、まだまだ厳密にはクロスオーバーできていると思っていなくて、それはメタバースなどの話をする際にも、いまだに多くの人たちが「どれくらいリアルの体験に近づけられるか」みたいな発想にとどまりがちなことと似ているように思います。
一方、自分が本当に興味を持っているのは、バーチャルとリアルを掛け合わせてどんな新しい体験が提供できるのかということ。いつか答えを見つけ出したいと考えていますが、これもリアルなOPEN HUB Parkがあってこそ取り組めるのであって、どんなプロジェクトでも必ずできることではありません。そういう意味でもこのような挑戦の場を与えていただき本当に感謝しています。
戸松:バーチャルとリアルを掛け合わせて、今までにない形のコミュニケーションを創造するというのが、当面の我々が成すべきことですね。当社とアマナさんの企業ビジョンにはどちらもコミュニケーションという言葉が入っています。そんな共通点を持つ両社だからこそ辿り着ける答えがきっとあるはずです。
――今後の展望を教えてください。
戸松:どんなプロジェクトであっても、長く続けていくとエントロピーが働き、もともとやりたいこととはずれてきたり、とっ散らかっていくものだと思っています。そこは割り切って、一定の程度、論理的に整理するしかなくて、それが企業の振る舞いとしても正しいはず。ただそうやって整理されすぎてしまうと、クリエイティブが入り混む余地がなくなり、可能性は広がりません。
そこで私は「戦略的カオス」という言葉をよく使うのですが、OPEN HUBのようなプロジェクトでは特に、もともとのビジョンからずれないようにコントロールしながら、一方で水に墨汁を垂らすが如く波紋を起こすということがとても大事だと思っています。もちろんそれはとても難しいことですが、その墨汁を垂らす作業こそ、アマナさんに今後も期待するところで、先程、過度に理解しようとしないでと言ったのもそうした理由によるものです。
この先、力を入れていきたいこととしては、今年新たにグローバルビジネス誌の『Forbes JAPAN』(リンクタイズ)と、未来を実装する共創プロジェクトを評価するアワード「Forbes JAPAN Xtrepreneur AWARD」を立ち上げました。これは、当社が関わっているケースだけでなく、面白い事業共創の事例はどんどん世に知らしめていくべきという思いから始めたもので、私自身、日本の大企業はこんなにも多くの活用可能なレガシーを持っていたのだと驚きました。そういう意味では、OPEN HUB ParkもVirtual Parkも、そして新たに立ち上げたアワードも、「活用されてナンボ」だと思っているので、ここにもっと人が集まる仕組みも早急に整えていきたいと思っています。
青木:私たちもまだまだやりたいことがあふれているので、引き続き、さまざまな視点から体験の企画や設計をしながら、実装から検証までのスピードアップに努めたいと思っています。そうすることで、いままで以上にOPEN HUBが実験場としての機能を果たし、社会実装を加速させることに寄与できればと考えています。
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取材・文:石川遍
編集:大橋智子(アマナ)
撮影:AKANE(アマナ)
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