今日、さまざまな業界でCGを活用することは、もはや当たり前のこととなっています。もちろんモビリティ業界でも大活躍。CGなくして、自動車に関連するさまざまなビジュアル制作はかなわない時代になりました。
「モビリティCGにハイクオリティは必要か?【前編】」に続き、デザインジャーナリスト/自動車評論家で日本自動車ジャーナリスト協会理事を務める千葉匠さんと、モビリティCG制作を専門に行うアマナの「croobi(クロオビ)」チームのリーダーでCGクリエイターの坂本直樹、アマナのプロデューサーの鈴木健哉の3名で、AI時代のCG制作について語りました。
「croobi」の作品リール。
――自動車メーカー内のデザイン部門と広告部門の関わり方や、自動車メーカーと「croobi」の関わり方はどのように変化していますか?
鈴木:デザインへのフィードバックという観点では、「croobi」では、広告分野だけではなくて、HMI(ヒューマンマシンインターフェース)の分野での協業も始めています。ハイクオリティな制作によってフィードバックするというよりは、モビリティ業界内でCGを用い得る分野での広がりという面もあります。自動車と運転者との接点がどんどんディスプレイ化されていますが、まだ企業側でも手探りの分野なので、コンセプトを作るところなどを協力しています。HMIの分野は内製化したいというクライアントの要望もあるので、それを目指した協力体制を作っていますね。
千葉:自動車メーカーでは当初からCGの内製化を目指してきました。10年以上前ですが、内製されたCG動画を見た時は、なんだかクルマが宙に浮いているというか、重量感が感じられないようなものだったのを覚えています。
鈴木:自動車のタイヤが地面に接するところは、自動車の重みでつぶれます。そして自動車が移動する地面は絶対に凸凹があるので、実写撮影であれば凸凹に対してサスペンションが機能するでしょうし、自動車も揺れるはずです。CGの場合、こういったことをCG制作に組み込まないと、宙に浮いたような動画になってしまいます。今はメーカーさんの内製でもこういったことを組み込んでいると思いますが、「croobi」では、たとえば凸凹に対して自動車が揺れる様を組み込むだけでなく、それを撮影するカメラ側にも同様のことを行って、より実写撮影と同じ表現に近づくような処理を行っています。
先ほどのハードウェア・ソフトウェアの高性能化に対しては、こういったことも組み込めるようになってより自然なアウトプットを目指せるようになった、という例でもありますね。
――オープンソースソフトウェアのお話がでましたが、制作という面では生成AIの急激な進化も気になります。
千葉:カーデザイン開発では、初期段階でデザイナーたちがアイデアスケッチを何百枚も描きます。商品コンセプトがあっても、それをどう表現するかはさまざま。また、あるコンセプトに対して、自分がどのようなものを「よいもの」と考えているのか、自社ブランドに対してどのようなデザインが適していると考えているのかなど、デザイナー自身の思考は描いてみないと確認できない。だからたくさんのスケッチを描くわけなのですが、そこで画像生成AIを利用してプロンプトに基づいたアイデアをさまざまに提示させれば、最初の「自分は何を正解と考えているのか」に対する方向づけを効率化できると思っています。
広告制作では生成AIをどう活かせるのでしょう? クルマの背景画像をAIに生成させたら、ロケ撮影よりそのクルマに適した背景を得られるかもしれない。カーデザインの現場では、そんなトライも始まっているようです。
鈴木:極論すれば、CG制作の工程をAIがすべて肩代わりする時代がやって来る可能性はあると思います。ただ、どのようなプロンプトを作るかという点は、広告から開発へのフィードバックの話で千葉さんが仰っていたような「自動車の見せ方」の良し悪しがわかっていないと、適切なプロンプトにたどり着かないはずです。そう考えると、制作そのものはAIが肩代わりしても、今、制作に携わっている人々が不要になるということにはならず、人間が関わり続ける部分が残るのではないでしょうか。
坂本:プロンプトが言葉であるということは、すこし問題があるように思いますね。ビジュアルには言葉では表現できないことを表現するという面もあるのに、それを言葉で指示しないといけないというところにちょっと矛盾を感じませんか? 言葉の解釈が人それぞれであったり、生成させるためのインターフェースが言葉だけだったりすると、どう指示を出すのかが疑問だし、指示を出し切れないのではないかという気もします。
――思ってもいなかったアウトプットに触れる可能性がある一方、結局、自分で描いた方が正解にたどり着くのが速いという可能性もあるということですね。
坂本:ツールの中でAIが活用されるということは今でもありますよね。ツールを使っている人がAIを意識しないようなところでAIが使われているケース、例えば自動車に乗っている人の性別や年齢、外見のバリエーションをデータとして一気に100人の人物を作る、というようなことは直近のAIの活用として想像しやすいですよね。
一方で、たとえば今はスマホの登場で誰でも撮影ができる時代になりましたが、プロのフォトグラファーが不要になったわけではありません。では、画像生成AIがCG制作工程すべてを肩代わりできるようになった時の、プロとしての「croobi」ができることは何だろうということは考えなくてはいけないと思っています。
鈴木:作業については、どんどんコンピューターに任せる、AIに任せることができるようになっていくと思うんですね。では何がカッコいいとか、何が美しいとかをAIが判断するのか、もしかしたら判断できるのかもしれないですけど、「クリエイティブなところ」については人がより時間をかけることに意味があるという状況になるのではないかと。
千葉:制作する、手を使って描くということをAIが肩代わりするようになり、人がそうした作業をやらなくてよくなった時に、人は「カッコよさ」であったり「これがよい/悪い」という判断ができるかは疑わしいですよね。人間って、手を動かさないと頭も動かないんです。手を動かして得る経験は、生成AIの時代になっても大事。そこを忘れてはいけないと思っています。
取材・文:秋山龍(合同会社ありおり)
編集:大橋智子(アマナ)
撮影:松栄憲太(アマナ)
AD:中村圭祐
撮影協力:海岸スタジオ
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