「MAZDA+柿本ケンサク」が見せたもの。企業がアートとコラボレーションする理由

Art by MAZDA and Kensaku Kakimoto

「浅間国際フォトフェスティバル2023 PHOTO MIYOTA」でアート作品でのコラボレーションを果たしたマツダと映像作家・写真家の柿本ケンサクさん。「もしMAZDA2が都市だとしたら」という仮説をコンセプトに作品が制作されました。

この作品は鑑賞者がMAZDA2に近寄ると足元に光が現れ、立ち位置が変わるたびに車体と壁面に総数198の異なるイメージがランダムに投影されていきます。同時に鑑賞者の歩いた軌跡に合わせ音が合成され、イメージと音のオリジナルな組み合わせが生まれました。

マツダの商品広報チーム・シニアエキスパートの田中秀昭さんと、柿本さんに制作経緯や作品の手応えを伺いながら、企業とアートがコラボすることの意義やこれからの表現の可能性について掘り下げます。

Art in collaboration with mazda and kensaku kakimoto
浅間国際フォトフェスティバル「MAZDA+柿本ケンサク」より。

2Dと3D、想像を超えたコラボレーションが実現

――今回はアート写真のフェスティバルへの参加でしたが、どういった経緯でコラボしようと決められたのでしょうか?

田中秀昭さん(マツダ/以下、田中):実は、浅間国際フォトフェスティバルは1回目から拝見していて、何かご一緒したいなという思いはずっとあったんですね。ですが、車というものは3D、かつ動いていないと表情が出ないという立体造形勝負。写真は2Dで静止しているので、どう組み合わせられるのかなと思っていました。今回コラボさせてもらったMAZDA2という車はいままでのマツダ車とは違い、グラフィックで遊ぶことのできる車なんです。若い人たちに対してもポップアートみたいなものを用いて、うまく訴求できるのではと考えました。

Hideaki Tanaka from MAZDA
田中秀昭|Hideaki Tanaka
マツダ株式会社/国内商品マーケティング部/商品広報/シニアエキスパート。1985年の入社以来、エンジン開発、商品企画、ブランディング業務などに従事し、2014年よりデザイン本部にてCMやイベントなどのブランドスタイル統括業務を担当。ミラノデザインウィークなどのアートイベント出展監修を通し、マツダデザインの魅力を内外に発信。現在は広報部門にてロードスター・デザイン・ヘリテッジ領域の広報担当として、メディアを活用したブランド価値訴求を行っている。

――柿本さんとのコラボが決まった時はどう思われましたか?

田中:車のコンセプトをアートに置き換えて表現したいと思っていたところ、フォトフェスのディレクターから、AIを使ってイメージが変わっていく表現ができるアーティストとして柿本さんを推薦していただきました。当初考えていたのが、AIが来場者を認識し、MAZDA2のデザインのバリエーションが198通りなので、それに合わせて198通りの写真の組み合わせから1つずつ出していくという表現は、車の特徴を伝えるには論理的な方法でした。なので、柿本さんがAIを使っていると聞いた時はピッタリだなと思ったんです。

――柿本さんは今回の話があった時は、どう思われましたか? 

柿本ケンサクさん(以下:柿本):直感的に、これは面白そうだなと思いました。身が引き締まると同時に、チャレンジしたい気持ちが強かったです。

Artist Kensaku Kakimoto.
柿本 ケンサク|Kensaku Kakimoto
多くの映像作品を生み出すとともに、広告写真、アーティストポートレートなどをはじめ写真家としても活動。2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』メインビジュアル、タイトルバックを演出。2021年、映画『恋する寄生虫』が公開。また現代美術家としても多くの写真作品を国内外で発表。国際美術展「水の波紋2021」に選出。2022年夏「―TIME―音羽山清水寺」展を開催。浅間国際フォトフェスティバル2023PHOTO MIYOTAに出展。

「もしMAZDA2が都市だとしたら」という仮説はいかにして生まれたのか

――フェスの来場者に、本作を通して何をどう考えてほしい、受け取ってほしいと思いましたか?

田中:理屈を強いることはしたくなくて、ただ感じてもらえればいいなと思っていましたね。そして、マツダがアートに興味を持っている会社だと知ってほしいなとも。
マツダが「アート」という言葉を使い始めたのは2010年からなんです。私たちは車のデザインを作る前にオブジェを作り、いかに実際の車の形にしていくかということをずっとやってきていて、そのオブジェ作りを社内では「アート活動」と呼んでいます。
社外向けに「Car as Art」という言葉を使い出したのは2014年頃。そこから車のデザインにもアートレベルの美しさを求めることを目指すと同時に、心に訴えるエモーショナル・バリューにもこだわり始めました。そのおかげで、マツダはデザインにこだわっている会社だというベースは作れていたので、これからもそういうものを積み重ねていく必要があると感じています。

柿本:今回は、作品を見た人たちに何かを持って帰ってもらわないといけない、と感じていました。完成されている車に別の柄をつけてもいいんだ、写真なんだけど構図を崩してもいいんだといったような、新しい可能性を見つけてもらいたかったですね。

Art in collaboration with mazda and kensaku kakimoto

――柿本さんは今回の企画に際し、テーマや具体的な作品をどのように決めましたか? 

柿本:まず、車と写真のコラボレーションなので、それぞれがどうあるべきかを考えた結果、僕の作品の中では「Trimming」シリーズが相性が良いだろうと思いました。
写真は基本的に、縦位置や横位置などのフレームが決まっていて、それはレンズを覗いた時に、「この世の中の一部をどうトリミングするか」ということから始まります。そのトリミングのフレームをレンズではなく車でやってみる、という発想を起点にしたんです。僕は映像作品も作っているのですが、映画やドラマは誰かの人生の2時間をトリミングしているわけで、何かに閉じ込めることで物語がぎゅっと凝縮される、そんなことができたらいいなと思っていたんです。だから写真を車で額装とすることに加えて、MAZDA2に乗った先にある生活をトリミングすることを目指しました。
それが「もしMAZDA2が都市だとしたら」というコンセプトの起点です。

田中:車は移動体なので、いろんな場所に行くわけですよね、さらにオーナー1人1人によって、同じ場所でも見え方、感じ方が違う。そういったことを、さまざまな種類のトリミングされた写真によって表現するコンセプチュアルな考え方を提案していただき、そこまで発想を広げてくださったことが嬉しかったです。車を街に例えるコンセプトにも驚きました。

Art in collaboration with mazda and kensaku kakimoto

企業とアーティスト、2者のコラボレーションがもたらしたもの

――浅間国際フォトフェスティバルで「MAZDA+柿本ケンサク」を実際に完成させてみて、いかがでしたか。

田中:当初、懸念していたのは、車を使うことで本来の作品の構図を崩すことになり、写真家がそのことを気にするのではないか、ということでした。しかし、「Trimming」はその偶発性を生かす作品だったこと、さらには柿本さんの作品のモチーフが多岐にわたっていることで、表現の幅が広がって奇想天外な表現が生まれたことがとてもよかったです。

柿本:来場者に新しい可能性を見つけてもらいたかったので、そのための入り口はシンプルでわかりやすいものでないといけないと思っていました。写真とMAZDA2を融合させて両者の境界線を曖昧にして、ユニークでインパクトがあるものにしたかった。そのためにAIの力をうまく利用することができたと思います。

Art in collaboration with mazda and kensaku kakimoto

――鑑賞者の方々の反応で印象的だったものはありますか?

田中:弊社のスタッフが実際に作品を見たんですけど、想像をはるかに超えてとてもキレイだし、面白いし、何よりMAZDA2の形がとてもキュートに見えたと言っていましたね。ただこれは、実際にその場で実体験しないとわからないとも。確かに、このコラボ作品自体を写真や動画で記録しても、立ち位置によって目の前の車が変わっていく感覚は伝えられないと思いました。
あとはデザインジャーナリストの方も、このMAZDA2でマツダのデザインの方向性が広がったように感じると言っていただけて。会社が若い層へアプローチしようとしていること、またアートに関心があることを感じてもらえたように思います。

柿本:SNSに上げている人がすごく多かった印象ですね。実際に足を運んで体験することを、心地よく感じてくれたんじゃないかなと。

Hideaki Tanaka of MAZDA and artist Kensaku Kakimoto

――企業、アーティストの両者に手応えがあったということですね。

田中:そうですね。このMAZDA2という車を使って、マツダのブランディングに寄与していければいいなと。今後もアートへの取り組みを、できれば年単位で継続してやっていきたいと社内でも話しています。またこのようなコラボレーションによって、社内のデザイナーたちが活性化し、新しいことに次々と挑戦するような風土がチームの中で生まれていくことは非常にいいことだと実感しました。

柿本:本当は、もっともっと日本企業の方にアート活動に参画していってほしいですね。日本人はエンターテインメントやアートに対して、わかりやすいものや手にとりやすいものを選びがちで、それから先を考えることに億劫になっている気がしていて。だからこそ、企業の人たちもアートにどんどん触れていってもらいたいし、なぜ作品を作っているのかという作家たちの視点や姿勢を感じてほしいです。

聞き手:太田睦子(IMA)
編集:大橋智子(アマナ)
人物撮影:松栄憲太(アマナ)
アート撮影:佐藤万智弥(アマナ)
AD:中村圭佑

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