哲学思考で企業が変わる! ビジネスツールとして「哲学」を使いこなすには、まず何から始めればいい?

Interview with philosopher Hitoshi Ogawa.

新型コロナウイルス(COVID-19)による消費者行動の変化や、生成AIなどの技術革新によるワークフローの劇的な変化など、企業を取り巻く環境は日々目まぐるしく変わり続けています。そのような中、企業がそうした変化に対応して生き残るためには何が必要なのでしょうか。

「アート思考」や「デザイン思考」などが注目を浴びる中、新たに提案したいのは「哲学思考」です。変化が続く今を生きるビジネスパーソンに、哲学を学ぶことはどのように有効なのでしょうか。

商社、市役所職員、フリーターを経て哲学者&大学教授へ転身した、異色の経歴を持つ小川仁志(おがわひとし)先生に、企業変革に哲学を取り入れるアプローチについて、アマナでコンテンツマーケティングアドバイザリーを担当している野口洋人が伺いました。

Interview with philosopher Hitoshi Ogawa.
小川先生はリモートで参加。野口がお話を伺いました。

「哲学」は「常識を超える」学問

「哲学思考」といっても日本企業においてはまだあまり馴染みのない考え方かもしれません。実は、GAFAをはじめとするグローバル企業においては、企業理念や経営課題の再定義、また組織開発の手法として、以前から哲学が取り入れられてきました。それには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

日本企業は、前例をもとにカスタマイズ、ブラッシュアップすることが得意と言われます。しかし一方で、欧米の企業と比べるとゼロから全く新しいモノを作り出すことはそれほど得意ではありません。これには、「前提を疑う」、「レールを外れる」ことを良しとしない日本の教育方針も影響しています。

「フランスの哲学者、ジル・ドゥルーズは、哲学とは“概念の創造”であると言いました。常識を超えて新しい概念を作り、それを設計図にしてモノやサービスを作る営みのことを哲学とするならば、哲学思考を取り入れることは日本の企業にとって大きなメリットになると思います」(小川先生)

Interview with philosopher Hitoshi Ogawa.
小川仁志|Hitoshi Ogawa
哲学者、山口大学国際総合科学部教授。京都大学法学部を卒業後、伊藤忠商事に入社するも、社会を変えるべくフリーターに。その後名古屋市役所に入庁。働きながら名古屋市立大学大学院博士後期課程を修了して、博士(人間文化)の学位を取得。徳山高専准教授、米プリンストン大学客員研究員を経て、山口大学へ。
「哲学カフェ」やビジネス哲学研修など哲学を社会に実装するのがライフワーク。テレビ出演や著書多数。

哲学を正しく理解することが、企業変革のカギ

哲学思考は特に、イノベーションを起こしたい、新しいことをしたい、方針転換をしたいという企業にとって非常に親和性の高い考え方であると小川先生は言います。ならばすぐに取り入れ、企業の成長に役立てればいいと考えがちですが、哲学思考を浸透させるハードルも存在しています。

「哲学は普遍的なものですので、業種や規模などを問わずさまざまな企業で取り入れることができます。しかし、哲学は役に立たないという偏見もあり、トップダウンで一気に浸透させることが難しいのも現状です」(小川先生)

Hiroto Noguchi of amana interviews philosopher Hitoshi Ogawa.
野口洋人|Hiroto Noguchi
アマナのコンテンツマーケティングアドバイザー。電通テック(現・電通プロモーションプラス)にてグローバル企業に対するデジタルマーケティング全般におけるコンサルティング、Webプロモーション制作を担当。2020年4月にアマナグループに参画。現在はアドバイザーとして米Industry Dive社と協業し、コンテンツマーケティング支援事業(amana Content Marketing)に従事。

哲学思考はすぐにマネタイズできるビジネスフレームワークではないため、時間をかけて思考法をアップグレードしていくことが肝要。また、企業全体に浸透させないと、理解している人としていない人の間でギャップが生まれてしまいます。

従来の商材やビジネスのやり方を根本的に変えていくことには当然抵抗感もあるため、中小企業であればトップが強い意志を持って推進する必要があり、大企業であれば研修などを通じてボトムアップで広げていくのが理想です。

「ある中小企業では、哲学を共通語にするべく、社員全員を哲学者にしようという取り組みを行っています。単にイノベーションを起こそう、というだけではなく、この企業のように哲学の有用性や意義をしっかりと理解することが非常に重要です」(小川先生)

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「常識を超える」思考のコツ“ TX (シンキング・トランスフォーメーション)”

哲学思考において最も重要なのは、私たちが今現在、持ちうるツールや思考法が全てではない、と認識することです。ビジネスにおいて、私たちは普段、できる限り論理的に物事を考えるようにしていますが、哲学は人間の感性や直感をフルに動員し、考える範囲を拡張する営みです。重要ではない、排除される対象となるようなところに視点を転換することで、いつもは見落としているようなものを発見できるかもしれません。

「たとえば、ミシェル・セールの“ノワーズ(ノイズ)”という概念も、まさに普段は聞こえないノイズに耳を傾けることを重視しています。また、レヴィ=ストロースの“野生の思考”も、制度設計を行う思考ではなく、その場その場で対応する思考という意味で、ビジネスパーソンに必要な思考法かもしれません」(小川先生)

Interview with philosopher Hitoshi Ogawa.

物事に主従をつけず、常に同時に耳を傾けたり目を向けたりすることが重要だと言います。こういうオプションもある、という考え方ではなく、そもそも物事はもっと多様で、さまざまな見方がある、という俯瞰からの意識が大切です。

しかし当然、それは効率的とは言えず、多くの時間がかかるものでもあります。

「“考える”ことは、“環返る”ことだと思います。物事を思考するときは、ちゃんとその周りを何度もぐるぐる回って、四方八方から見てみる。そして、気になることがあったら振り返って見る。時間はかかりますが、これをやらなければ本当の意味で“考える”ことにはなりません」(小川先生)

タイパ(タイムパフォーマンス)が重視される今、哲学をあえてやることに意味はあるのか、と思うビジネスパーソンもいるかもしれません。考えることに時間をかける、そのことすら「時間が惜しい」「無駄ではないか」と感じる人がいることが、日本の企業に哲学が馴染まない要因にもなっています。

では、何かと効率性を求める企業活動において、相反する思考である哲学をどのように捉えれば良いのでしょうか。

「データドリブンに物事を進め効率化するDX(デジタルトランスフォーメーション)と、考え方自体を変革するTX(シンキング・トランスフォーメーション)の両輪が必要になってきます。どちらか片方ではなく、セットで向き合っていくのが重要なのです」(小川先生)

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哲学思考でCSV活動にも貢献

昨今では、企業活動を通じて社会課題の解決に貢献するCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)という考え方が重視されるようになっています。これは温暖化や気候変動といった環境問題にとどまらず、社会全体の公益や倫理を重視しようという動きです。

「ドイツの哲学者、マルクス・ガブリエルが唱える“倫理資本主義”は、倫理をブレーキのように扱うのではなく、むしろアクセルにするべきだと言います。 倫理と資本主義を共存させて新しいお金の稼ぎ方をするという考え方です」(小川先生)

彼によると、法務部門と同じようにどの企業にも倫理部門を設け、全ての意思決定は倫理部門を通じて行う必要がある、そのためにはインハウス・フィロソファー(社内哲学者)を雇うべきだ、と言います。哲学思考を取り入れることで、こうした企業の価値観や倫理観を問い直し、時間的・空間的に大胆に発想を変えていくことができるのです。

「インドの歴史学者であるディペシュ・チャクラバルティは、人間の活動を“惑星”という概念にまで広げて論じています。すなわち、人間中心に考えられてきた“地球”という枠を超え、さまざまな生命が存在する“惑星”という概念で考えると、空間的にも保護しなければならない場所、意識しなければならない場所が増えてきます。」(小川先生)

Interview with philosopher Hitoshi Ogawa.

また同時に、「世代間倫理」「未来倫理」といったものが重要視されるようになっていると小川先生は話します。

「イタリア出身のコッチャという哲学者の“メタモルフォーゼ”という思想があります。全ての生命は、実態としては何も変わらない一つのもの。それが食事などを通じてメタモルフォーゼ(変態)することで、全ての生命は根源的につながっているのだ、という考え方です」(小川先生)

こうした発想は一見すると突拍子もないものに聞こえますが、そこが哲学の面白いところなのかもしれません。


時代は、予測できないことばかりが起こるという、今までの概念を超えたスピードで変化し続けています。そのような中で、現代のビジネスパーソンや企業に求められるのは、まさに哲学が意図する「常識を超えた発想」。「今まで思ってもみなかったようなことを考えるのが哲学の発想であり、それこそが現代のビジネスに最も必要なこと」と語る小川先生。ものの見方を変えるにはどうしたらいいか?と思った時に、哲学思考は企業の社会的価値の向上や変革のきっかけとなる、新たなアプローチとなるでしょう。


取材・文:野口洋人(アマナ)
編集:大橋智子
撮影:松栄憲太(アマナ)
AD:中村圭佑

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コンテンツマーケティングの本場であるアメリカで、業界を牽引するリーディングカンパニーであるIndustry Dive。国内唯一の独占パートナーであるアマナがその集合知を活用し、成果へと繋がるコンテンツマーケティングをサポートします。
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