アマナには100人を超えるクリエイターが在籍しています。プランナー、フォトグラファー、ビデオグラファー、エディター、CGクリエイターなどさまざまな領域を担い、日々の仕事の中で企業や社会の課題に対してそのクリエイティビティを生かし、解決の道を模索しているのです。この連載では、アマナのクリエイターが1人ずつ登場。社会課題を解決するためにどのように動き、何を発信しようとしているのか、そのプロセスと思いを紹介します。
第10回に登場するのは、アマナのEVOKE(イヴォーク)部門でディレクターを務めるコンスタンス・リカ(以下コンスタンス)です。企業のブランディングや新規事業開発など幅広いプロジェクトで、クライアントも気付いていなかった課題の発見からプロジェクトのゴール達成の実現までをディレクションしています。携わったプロジェクト事例を通して、彼女が見ていること、考えていることについて話を聞きました。
――「ディレクター」という言葉は業界業種でさまざまな使われ方をしていますが、実際にはどのような業務なのでしょうか?
コンスタンス:私の場合は「イメージング・ディレクター」がディレクターのスタートなのですが、「イメージング」のない、ただの「ディレクター」でありたい、と考えています。Web業界などではディレクターは進行管理的な業務を担うし、映画製作では監督を指しますが、私は言葉通り「ディレクション」、つまりプロジェクトを目的達成する適切な方向に向けることがディレクターの仕事だと捉えています。
イメージング・ディレクターであれば、プロジェクトで制作するCGや撮影で作られたアウトプット、アプリケーションのUIなど、イメージング・ディレクターという立場では、プロジェクトのあらゆる側面について、プロジェクトの目的に合致しているのか、調和しているのかということを確認することを通して、エンドユーザだけでなくチームメンバーもワクワクできるようにプロジェクトを方向づけたいと考えています。
――エナフォワードのプロジェクト「ビーネ」でも、ディレクター業務を担当したのでしょうか?
コンスタンス:「ビーネ」は、ENEOSの新規事業開発プログラムの1つとして始まった、美容師向けのSaaSです。アマナは提案段階から参画していて、事業開発がスタートしてからは、Webサイトの制作、アプリのインターフェースデザイン、UXの設計などサービスのクリエイティブ全般に加えて、イベントの出展企画やユーザの獲得といったサービス全体を育てる領域も担当しました。私は提案段階では提案資料内の各画面のデザイナーとして参加していたのですが、最終的に「ブランド・デザインのリーダー」というポジションになりました。
――ポジションが変わったのはなぜでしょうか?
コンスタンス:各画面のデザインを決めるためには、この画面で利用者がどんなことをするのかということを考える必要があります。いわゆるUXの設計ですね。「美容師向けのSaaS」をなぜ美容師が利用しようと思うのか、という考慮が必要になった時点で、これはブランディングの領域だなと。画面のデザインをするために考えるべきことを明らかにして意見を出していった結果が「デザイナー」にとどまらないポジションに変わったということだと思います。
――自分の担当領域以外についても積極的に参加したということですね。
コンスタンス:担当領域かそれ以外かは重要なことではなくて、プロジェクト全体で、一番よいゴールにたどり着くにはどうするのがいいかを考えます。SaaSを立ち上げるのであれば、利用者が積極的に使ってくれるサービスとは何か、ということをなおざりにできないですし、広告を作るのであれば、商品価値などの広告主のメッセージが受け手にしっかりと伝わった上でブランド認知や購買という広告の目的を達成することを考えずにクリエイティブを作るわけにはいかないですし。どんなプロジェクトであっても、プロジェクトの根本となる課題があるので、そこをしっかり考えようというスタンスですね。
――今回の案件では、具体的にどのようなことをされたのでしょうか。
コンスタンス:議論の中で生まれてくるアイデアなどをその場で可視化して、プロジェクトの中での課題の解決の仕組みを作ったのが1つ。加えて、そこで決まったこともデザインガイドにまとめて、オフショアの開発ベンダーとも円滑にコミュニケーションを取れる状態を作りました。実際には私がマルチリンガルなので、開発ベンダーとの英語でのコミュニケーションも担当できたわけですが。
――分業/専門職化が進んでいると、初めから全体を見る立場にいないと、なかなか「最初に根本の課題をクリアしましょう」というスタンスにはなれないような気もします。当初の担当を進められないということ以外に、「根本の課題」に目がいったり、そのことをプロジェクトメンバーにも理解してもらえるのはどうしてなのでしょうか。
コンスタンス:目の前にあることや、クライアントから提示された課題を一度分解するのは、習慣どころか本能的にやってしまうようなところもあって。あと、マルチリンガルだということも要因の1つかな? 違う言語だと違う視点で考ることができたり、物事の捉え方の粒度を変えることができるので、課題の分解癖が身に付いている要因になっているのかもしれません。例えば、日本語なら「木漏れ日」と一言で表現できるのに、英語では「木々の葉の隙間を通り抜けた日差し」というような説明的なフレーズになってしまうとか、日本語で提示された与件を日本語以外で考えるだけで、必然的に「与件を分析する」ことにつながります。
それと、私の中には「ビジュアル」がベースにあること。可視化するというスキルを持っているから、「プロジェクトメンバーがその場で理解し合える」ことに役立っているのではないかと思います。
――ビジュアル化ができるのは、キャリアをデザイナーからスタートしたからですか?
コンスタンス:小さい頃から映像大好きな子どもだったらしいです。「言葉がわからない」状態だけど、映像を構成する要素、色やレイアウト、ライティングなどに分解して喜怒哀楽を理解していたんでしょうね。
仕事を始めた当初は3DCG動画の制作に携わっていたのですが、たまたまドイツでAIを研究している友人の成果を見せてもらう機会があったんです。自分が2週間かけて作っていたものが、AIによって5分ででき上がってしまうというのを目の当たりにして、自分の生き方を考え直さないといけないほどの衝撃を受けました。
その中で、私がどうしても手放せないものは、子どもの時に「映像を要素に分解していた」ということに尽きるのではないかという思いに至ったんですね。UIやUX、AI、メタバースといった、ビジュアル表現を設計したり構築したりするツールをアーリーアダプターとなるタイミングで使ってみたり、業務でも現実世界にこだわらず、CG的な表現もミックスしたインパクトのある世界観・表現を作るのが得意だったり、意図した画像を生成するための生成AIのプロンプトを作れる今があるのは、「子どもの時から自然とビジュアルを分解してしまうような個性」によって「ビジュアルをベースにした」自分自身があるからなんだと思います。
――所属しているEVOKE(イヴォーク)とはどのような部署なのでしょうか。
コンスタンス:EVOKEは、可視化を専門とするクリエイティヴ集団です。私たちの強みは、ビジュアライゼーションを通じて、みなさんの「ありたい姿」を可視化し、プロジェクトを再デザインすることです。プロジェクトの進行や、関わる人の理解など、「メタ」的な部分をビジュアライゼーションすることで、プロジェクトそのものを捉え直すという感じですね。
難しいことに聞こえるかもしれませんが、「ビーネ」では「議論となったら、その場で可視化して進める」を積み重ねて、プロジェクトの「一番よいゴール」への到達を目指す、ということを意識して進めました。このような積み重ね、つまりクリエイティブコラボレーションを通じてメンバーを巻き込み、創りたい未来の実現への伴走するチームがEVOKEなのです。伴走ために「可視化」の手法を身に付けることも大事。今は、生成AIを駆使して、提案や議論、成果物などあらゆる工程をビジュアルで効率化する、という案件も増えています。
――生成AIをどのように活用していますか?
コンスタンス:進歩・進化も早く、スタンダードも変化するので、その時々で最適なツールを使っています。ビジュアル表現をするにはどうしても抽象的な言葉のやり取りになるので、その言葉をお互いに「同じ理解」「同じ視点」という状態にできるかがポイント。
従来はデザイン提案の前段階で、さまざまなイラストや写真を集めてリファレンス(クライアントの求めるトーン&マナーを確認するための資料)を作成していました。例えば「優しい雰囲気で」というお題に対して収集したリファレンスだと、既に存在しているものの中で方向付けることしかできなくなってしまいます。そうすると、新規事業や新商品の場合でも「今まであるものに似た感じ」になりかねません。なので、ディレクターが作り出そうとしているビジュアルや世界観を、正確かつ素早く作成して共有できる手段として生成AIを利用しています。
生成AIでのリファレンス作りには、クライアントが思っている抽象的な言葉もプロンプトに組み込めるので、クライアントの考えていること、私たちが提案することの齟齬を、議論の場で埋めることができます。どんなに小さな齟齬であっても、その場で修正することを積み重ねられるので、最終的な成果物を創るための工程すべての段階で「理解のズレ」を小さくすることができます。
――今後もビジュアルをコアとして、でも「ビジュアルを作る」ところにとどまるわけではないということですね。
コンスタンス:そうですね。画像生成AIを用いてプロジェクトメンバーの思考プロセスを可視化することは、さまざまな面で活用できるのではないかと考えています。ビジュアル起点でのプロジェクトをデザインし直すのは、生成AIで加速している面もありますし、プロジェクトへのアプローチの仕方としてとてもユニークだと思っています。なので、この方法をもっと突き詰めて、例えば「デザイン思考」のような、必要とする業界や領域でのスタンダードの1つを生み出したいですね。
生み出したら終わりではなく、生み出したスタンダードが用いられる時代背景や利用シーンに応じて、常にアップデートし続けることが大前提なので、時代に対しても伴走し続けたいと考えています。
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取材・文:秋山龍(合同会社ありおり)
編集:大橋智子
撮影:盧瑞亭(アマナ)
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