デジタルによる観光マーケティングの成功例。YouTube広告を見て宮崎市を訪れた人を測定してみた

Kaeda Valley in Miyazaki City

2023年7〜8月の間、宮崎市がYouTube広告による観光プロモーションを実施しました。それは、動画の視聴数を追いながら、Legolissが扱う位置情報サービスを使用し、動画広告に接触したユーザーの来訪を計測するという手法を使ったものです。かなりの精度で効果測定ができることに手応えを得たという、宮崎市観光戦略課(当時)の長友政憲さん(リモート参加)とLegolissの吉田三璃さん、アマナの栗原拓也の3人に、プロモーションの詳細を聞きました。

宮崎市に人を呼び込むための施策として

――宮崎市が動画広告キャンペーンを実施した背景から教えてください。

長友政憲さん(以下、長友):私は2021年までふるさと納税を係長として担当しており、そこで寄付拡大のためにデジタルマーケティングを実践しました。観光戦略課には2008~2011年に在籍しており、2022年に再び配属されました。旅行者を見ていると、以前は団体旅行ツアーの方も多く見受けられましたが、今は個人旅行者が多く、Web上での検索、予約手配を自分で行ってから来ることが多くなっていますよね。観光戦略課に戻ってきた際、そういった現代の旅行者をどう宮崎市に呼び込むかが課題でした。

一般的に、人は以前に買ったことがあるものを買い、行ったことのあるところに行く傾向があります。何かを購入する際には、頭の中にセットリストがあって、買うための優先順位が決まっています。その際、知っているものでないとリストに入りません。つまり、旅行先を決める際のセットリストに本市を入れてもらうためには、認知を上げなければならないと考えたのです。

宮崎市を認知させるのにどうすればよいかを突き詰めると、マーケティングのフレームワークに則り、まずは認知を獲得するのが効果的という結論に至りました。その最初のアプローチとして、YouTube広告を用いた事業を構築することになったのです。

Masanori Nagatomo, Miyazaki City official.
長友政憲|Masanori Nagatomo
1977年宮崎県生まれ。株式会社ヤナセでのセールスを経て、2003年宮崎市役所入庁。地元バス会社への出向や観光、人事、企画部門での勤務の後、2022年より再び観光戦略課に配属。観光消費額を上げるというKGIを達成するため、観光×マーケティング×デジタルを軸とした事業構築及び展開を推進。2024年より産業政策課へ異動。

――来訪計測の手法決定までにはどのような経緯があったのでしょうか?

長友: 認知を上げることが目的のプロモーションですが、広告によって何人来訪したか、とわかりやすい数値を問われることは多いです。本来のプロモーションの目的はそこではないのですが、広告を見た人が来訪したか計測できるというソリューションを探していたところ、GoogleのセミナーでLegoliss吉田さんと挨拶をし、Foursquareとキャンペーンマネージャー360を通じて課題解決できることを知り手法を決定するに至りました。

吉田三璃さん(以下、吉田):Foursquareの仕組みを説明しますと、広告を配信されたユーザーのデータは、インプレッションとクリックの2つに分けられます。そのデータをYouTubeからGoogleのキャンペーンマネージャーというボックスに格納します。

YouTubeを視聴する際、ユーザーの皆さんは、スマホ、パソコン、テレビなどいろいろなデバイスで見ると思うのですが、このキャンペーンマネージャーの中で特定ユーザーが持っているスマホとそのユーザーが使うスマホ以外の端末をひもづけてくれます。これをクロスデバイス機能と言います。例えば、自宅のパソコン、私用スマホ、会社スマホなどどのデバイスでYouTubeを見ていても、IPアドレスやタイムスタンプなどを追うことで1人のユーザーが視聴していることをつなぎ合わせられます。ここまでがGoogleが行う領域です。

スマホには1つ1つIDが振られています。天気予報など位置情報をオンにするアプリを使用すると思いますが、これによって特定のスマホがどこにいるかというデータをアプリ側が取得し、Foursquareはそういったデータを購入しています。

この位置情報データとGoogleキャンペーンマネージャー360で収集したIDデータを突き合わせることによって、YouTube広告に接触した人がその場所に来た、という計測ができるのです。広告はYouTubeだけに限らずディスプレイ広告やSNS広告なども可能です。

Miri Yoshida, Business Operations Leader, Legoliss.
吉田三璃|Miri Yoshida
新卒で大手国内DSPの会社に入社し、営業として様々な総合/専業代理店のメインクライアントを担当。チームリーダーや営業の傍らでグローバルも含めた新卒採用を行うなど、幅広い経験を持つ。その後、三井物産株式会社に入社。動画広告向けソリューション「ZEFR」や位置情報ソリューション「Foursquare」などをメインで担当し、現在はビジネスオペレーションリーダーとしてLegolissで取り扱うその他プロダクトも担当している。

――位置情報、普段はオフにしていても、旅先で天気予報を確認するときにオンにしたりします。そういう時に、スマホがどこにいるかを計測する、しかもYouTubeの視聴と結び付けられるということですか。
驚きのソリューションですが、この手法を用いることでどんなターゲットを狙ったのでしょうか?

長友:関東、関西、九州という大都市圏の、18~24歳、25~34歳に対して広告を配信しました。クリエイティブは以前制作した、「宮崎食堂」キャンペーンの動画とインバウンド向けの動画を短くしたものを使用しました。

SOUND TRAVEL MIYAZAKI
SOUND TRAVEL MIYAZAKI 青島編 

SOUND TRAVEL MIYAZAKI
SOUND TRAVEL MIYAZAKI ニシタチ編

MIYAZAKI restaurant 
『宮崎食堂ムービー』

若い世代をターゲットにした効果と課題

――ターゲットが18~34歳ということですが、若い世代に絞ったのはなぜでしょうか。

栗原拓也(以下、栗原):「宮崎 旅行」という検索数が20~30代に多かったのと、その年代は1年以内に国内旅行へ行く意欲が高いという統計がありました。またYouTubeと親和性の高い世代だというのも理由の1つです。

Takuya Kurihara, media planner at amana
栗原拓也|Takuya Kurihara
アマナ/メディアプランナー。前職は博報堂DYグループのデジタルマーケティングエージェンシーアイレップにて、主にSEM(サーチエンジンマーケティング)を担当。クリエイティブの可能性を追求するため2020年アマナにジョイン。以降、同社でメディアプランニング業務に従事。

長友:結果としては、九州の方が多く来訪してくれたことがわかったのですが、課題も出ました。今回のキャンペーンのターゲットは34歳以下に設定しましたが、関東・関西は視聴数は多かったのに来訪に結びつかなかったのです。関東・関西から見たら宮崎は遠方なので、交通費もかさみます。若い世代にとっては、宮崎市はちょっと遠い位置にあったのかもしれません。

栗原:来訪を計測するには、Foursquareに住所を入れ込みます。そうすると、指定住所で来訪したユーザーデータが出てきます。例えば、関東の18~24歳の人が“ここ”に来たとわかるんです。九州の方は地の利があるので、宮崎市の地元の方も行くような繁華街でよく計測されました。一方、関東・関西の来訪者はほぼホテルとゴルフ場でした。若い世代は、明確に「ゴルフ」という目的がある方は遠方からも宮崎市に来ますが、一般的な観光の方は少なかったのではないかと、推測できます。

長友:若い世代をターゲットにするのは九州なら良いのかもしれませんが、関東・関西では非効率かもしれません。また、クリエイティブが合っていなかったという仮説も出ました。

栗原:アマナはコンテンツ制作からお受けすることが多いのですが、本案件ではすでに動画は用意されていたので、配信だけを担いました。ただ、ロゴを追加したり、最後にキャッチコピーを加えたり、動画に少し手を入れています。配信が始まったら、パフォーマンスが悪い動画をどんどん淘汰していって、最適化していきました。

今、広告配信はAIが最適化してくれるので、以前のようにすべて手動で配信を行うことはほとんどなくなり、配信がスタートしたら運用者による差が出にくくなりました。差が出るところは、配信前です。AIがポテンシャルを最大限に発揮できるよう設計すること。ヒアリングを重ね、知見を総動員し配信設計をする。そこに人が介在する意味があります。扱っていることはデジタル施策なんですが、クライアントが達成したいこと、それによって起こる指標の変化を許容できるかといった、配信前のコミュニケーションが非常に重要なんです。

Miyazaki City Channel
YouTube「宮崎市公式チャンネル

「宮崎市公式チャンネル」に掲載された、アマナ制作の「元気になりにいらっしゃい―加江田渓谷―」の動画。トップ画像は、この動画からの切り取り。

――クリエイティブに関しては、ドラスティックに対応していったんですね。

長友:プロモーションの目的は「認知」で、視聴数のKPIが決まっていました。視聴数を上げるためにすることは何か?と突き詰めた際に、我々が提示したクリエイティブにこだわる必要はないと判断しました。宮崎市として「ここを見せたい」というこだわりを捨てたのです。

というのは、どの動画を見るか、それをおもしろいと思うかは、消費者が判断することなんです。制作側が判断することではありません。市場において消費者が最強であり、彼らが見ないものは市場の評価が低いと見なして、パフォーマンスの悪い動画は落としていこうと考えました。

Three people talk about tourism marketing in Miyazaki City

――施策全体を通して、Legolissの来訪計測ソリューションが役立ったという手応えを感じていますか?

吉田:はい、うまく連携ができたと実感しています。今後もLegolissはクライアント様のデジタルマーケティング施策が、オフラインの来訪に繋がっているかを精度高く計測・ターゲティングできるソリューションを提供してまいります。まずはアイディアベースでもぜひお気軽にご相談ください。

――宮崎市としては、本施策をどう評価されていますか?

長友:視聴数296万とKPIを大幅に超え、来訪は390件と投資額を回収できるほどの結果を残せました。この結果、2024年3月から新たなプロモーションを開始しています。

もちろん課題はあります。ただ観光戦略課として、デジタルマーケティングに一歩踏み込めたことが大変重要なことだし、成功に向けて歩みを始めたとも思っています。私は、そもそも「失敗」はないと思っていて、もたらされた課題や数字は解決へアプローチをすることで成功に近づきます。この施策で関東からの来訪者が数件、と少ないコンバージョンでしたが、次はこの数字にどうアプローチするかが成功への階段。現在、行っているプロモーションで課題解決に向けて動けていることがとても良いことですよね。

大事なのは、プロモーションをし続けること、回を重ねるごとに精度を上げていくこと。その結果、我々が求めている人が宮崎市に来ていただけるようにしていきたいですね。

取材・文:海老原光宏
編集:大橋智子
撮影:西浦乃安(アマナ)
AD:中村圭佑

KEYWORDキーワード

本サイトではユーザーの利便性向上のためCookieを使用してサービスを提供しています。詳しくはCookieポリシーをご覧ください。

閉じる