アマナには100人を超えるクリエイターが在籍しています。プランナー、フォトグラファー、ビデオグラファー、エディター、CGクリエイターなどさまざまな領域を担い、日々の仕事の中で企業や社会の課題に対してそのクリエイティビティを生かし、解決の道を模索しているのです。この連載では、アマナのクリエイターが1人ずつ登場。社会課題を解決するためにどのように動き、何を発信しようとしているか、そのプロセスと思いを紹介します。
第12回に登場するのは、イメージングディレクターの丸岡和世(以下、丸岡)です。彼女はビジュアルを用いることは、顧客や制作チーム、エンドユーザーなどの「経験」を考え、明らかにする手段と捉え、自身のコミュニケーション手法として「可視化」を行っています。コミュニケーション手法としてビジュアルを活用するとはどのようなことなのか、丸岡に聞きました。
―― イメージングディレクターとはどのような仕事ですか。
丸岡:イメージングディレクターの仕事は、ビジュアルや世界観の提案を行うことが多いです。ビジュアルは、広告やコミュニケーションに使う写真、CG、イラスト、ブランディング、ビジネスアイディアや想いを可視化するために使用されます。
しかし、それだけではなく、ブランドらしさの探求や、ビジネスアイディアを飛躍させるためにビジュアルを活用したワークショップを設計することもあります。この発想は、クリエイティブチームで普段行われているビジュアル的なコミュニケーションを、ビジネスの場にも活用できないかという考えから生まれています。
このように、単にイメージを作るだけでなく、イメージを作る人、使う人、見る人の体験を考慮しながら、ビジュアルのロジックと感性を掛け合わせてイメージを使いこなすことが、イメージングディレクターの役割です。
―― 具体的に、イメージを使ってどのようにプロジェクトを進行させていますか。
丸岡:AInT社のチョコレート菓子「tsutsumu chocolat soie -ショコラソワ-」のオンライン販売に向けたビジュアルブランディング・制作を手がけた案件では、私は「ディレクター」兼「プランナー」として参画しました。このプロジェクトでは、自分らしく、イメージを使った進行ができた例となります。
クライアントから購入者に伝えたい「商品のこだわり」や「美味しさ」、「どのように食べてもらいたいのか」というシーンや、ブランド名「tsutsumu」に込めた想いなど、様々な聞き取りを行いました。これらの大切にしていることが具体的なビジュアルで表現されたとき、どのような形になるのかを、ムードボードやカラーパレットを使いながら進めていきました。
例えば、ブランドカラーを「紫」に決めたときのことです。「紫」という色は難しい中間色です。このブランドらしい「紫」がどのような質感や空気感、ライフスタイルを持つのかを視覚的に定義する資料を作りました。これにより、クリエイターとクライアントが共通の印象を持つことができ、チョコレート菓子としては珍しい「紫」を使いながらビジュアルブランディングを進めることができました。
――ディレクターやプランナーの立場が「可視化」の担当者になっているのは意外ですね。
丸岡:プロジェクトの進行においては、クライアントのオリエンテーションに「抽象度の高い」要素が含まれています。クライアントの思いを具体化しないと、提案をすることができません。私は「簡単に、だけど丁寧に描き出す」という言い方をしていますが、クライアントの「抽象度の高い」要素を受け取りながら、簡単にスケッチして見せ、コンセプトはこういうことですよね、と確認することがあります。その際に「まさにそれ!」となれば、クライアントの意図を正確に捉え、信頼を得られます。
どのようなプロジェクトにおいても、参加者が頭の中で曖昧にイメージしているものを丁寧に捉え、具体的なイメージを共有することは非常に重要だと考えています。実際に描いてみると、描けない内容は実は考えが及んでいなかったということに気づき、アイディアを加える必要がある部分が明確になります。
クライアントに対しても、クリエイターに対しても、ビジュアルを用いることで、コミュニケーションのすれ違いを減らしながらプロジェクトを進めることができます。
――クライアントやチームメンバーとのコミュニケーションでビジュアルを用いるということですね。
丸岡:はい。プロジェクトは多くの人々の協力で進行するため、言葉が不要になることはありません。しかし、一つの言葉に合意していても、解釈が違えば「そういうつもりではなかった」と後戻りする可能性があります。
ディレクターとして「簡単に、だけど丁寧に描き出す」アプローチは、このようなコミュニケーションの齟齬を減らす効果があります。さらに、ビジュアル制作において、ある部分は写真撮影、ある部分はCGを使用するといい効果が生まれるというような、言葉では伝えづらいことも、イメージで検証すると一目で理解してもらえ、説得力もあります。
また、具体的なイメージを共有することで、プロジェクトメンバー間でゴールや目的意識が統一され、全体の見通しが立てやすくなるという大きなメリットも実感しています。このように、ビジュアルを活用したコミュニケーションは、プロジェクト全体の効率と質の向上に貢献しています。
―― 広告制作以外に、イメージを活用するシーンについても教えてください。
丸岡:ビジネスの未来を描くためにもイメージを活用しています。例えば、コンサル組織Anon(アノン)とアマナが共同で取り組んだブリヂストン社の新規事業、ソフトロボティクスのビジョン策定プロジェクトでは、「SFプロトタイピング」という手法を用いました。これは、SF的に未来の姿を描き、そこから現在の事業企画や戦略を逆算する方法です。発想の飛躍が鍵となるプロジェクトで、イメージをいかに活用するかが挑戦でした。
まず、未来のストーリーを創作することからプロジェクトは始まります。「サーキュラーエコノミー」「自然との共生」「使役関係にないロボット」など、ソフトロボティクス事業の未来に対する参加者の想いが反映された小説がAnonの樋口さんによって執筆され、私はその「挿し絵」を担当しました。
この「挿し絵」は、イメージを広げるきっかけとして、発想を妨げないように曖昧さを残しながら描きました。これにより、誰も見たことがないSFの世界の人々の感覚や風景、社会について議論するきっかけを作りたかったのです。
丸岡:未来を妄想する議論は会話だけでも盛り上がりますが、視覚的な体験でもサポートしています。オンラインホワイトボードに発言のメモを取りながら、白熱したポイントでイラストを描き添えると、言葉とイラストの相乗効果で思わぬ議論の発展につながることがありました。
例えば、未来のロボットと人間のパートナーシップについての議論では、理想的な柔らかさを持つロボットと人間の姿を描きました。それが現在の技術からあまりにかけ離れていたことが議論の呼び水となり、現在の技術から理想のロボットに至るまでの段階を、内部構造に着目してイラスト化しました。これにより、人間とのパートナー関係の段階的な進化をイメージすることができました。
このプロジェクトを通して最終的に完成したビジョンイラストは、動画としてソフトロボティクス事業の発信に活用されています。プロジェクトに寄り添いながら議論に応じたイメージを加えることで、ビジョンの解像度が高まっていった例ではないでしょうか。
―― オンラインでの打ち合わせが増えている中で、可視化というコミュニケーションは難しくなっていませんか。
丸岡:確かに、オンラインとオフラインには特性の差がありますが、オンラインと可視化はむしろ相性が良いと捉えています。私が所属するクリエイティブチームEVOKEでは、オンラインホワイトボードのMIROが必須のツールとなっており、プロジェクトに取り組む際は必ず活用しています。デジタルならではの広大なボードを作業場として適切に管理することで、これまでの議論と次のプロセスの両方が一目瞭然になります。これにより、メンバー全員が同じ目標に向かって協力し合うことが可能です。
このように、オンライン環境下では可視化コミュニケーションの効力が一層高まっています。可視化のツールを用いてプロセス設計を行うことで、「エクスペリエンス」についてのデザイナー兼ディレクターを目指しています。
これまで広告制作を通じて、多くの企業の方々とお話しさせていただく機会がありました。各企業の専門分野には、私の知らない深い世界が広がっており、それを聞かせていただくことで新しい視点を得られること、そしてそれを可視化できることがとても嬉しいです。イメージを使ってその世界をさらに発展させたいと思っていただけることが喜びです。これからもビジュアルを通じて、どんな新しい世界に出会えるのかワクワクしています。
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取材・文:秋山龍(合同会社ありおり)
編集:米澤加代子(アマナ)
撮影:五十嵐拓也(アマナ)
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