「自然を、おいしく、楽しく。」をブランドステートメントとして掲げ、125年にわたって食のあり方を提案し続けてきたカゴメ。これまで作り上げてきたブランドを継承し、さらに先へと続く未来につなげるために、デザインで何ができるのかと考えたことから、今回の「デザインアイデンティティの策定」という取り組みが生まれました。
長い間、カゴメの商品のブランディングや、デザインのディレクションを担ってきた部署であるデザイングループのメンバーが、あらためて考える「カゴメらしさ」とはどのようなものだったのでしょうか。カゴメのデザイングループに所属している野村祥子さん、渡邊理絵さんと、イメージングディレクターとしてこのプロジェクトに伴走したアマナの堀口高士が語りました。
――デザイングループとはどのような部署なのでしょうか?
野村祥子さん(以下、野村):コーポレートのロゴのブランディングや、商品のブランディング、そしてデザインのディレクションを行っている部署です。商品の場合は、デザインコンセプトの作成、調査、デザイン開発、ビジュアルガイドラインの管理など、デザインにまつわるすべてのことを担っています。デザインの専門性を持ったメンバーで構成されていて、飲料や食品、生鮮といった、カゴメの商品すべてを見ているので、ブランドの守り神的な存在だと自負しています。
また、お客様が直に接する商品において、カゴメの思いや提案を魅力的に表現することでブランドの価値向上を促して、ファンを増やすことも目的にしており、最近ではデザインの役割が広がっていて、コーポレートブランディングもデザイン組織として大事な領域と考えています。
野村祥子|Shoko Nomura
カゴメ株式会社/マーケティング本部 ブランドコミュニケーション部 デザイングループ 課長
長くマーケティング分野に従事し、2020年に他の飲料メーカーからカゴメに入社。商品企画部門を経て、現在ブランドコミュニケーション部門のデザインのマネージャーとして在籍。
――そのような部署において、デザインアイデンティティを策定する必要を感じたのはなぜですか?
渡邊理絵さん(以下、渡邊):カゴメには125年の歴史がありますが、そのブランドを継承しつつ今後さらに発展させていくために、またこれからも長く愛され続けるためにデザインで何ができるかということを考えていました。また、部としてファンベースドマーケティングの推進もしており、カゴメのファンを増やすためにも、「カゴメのデザイン」が目指す指針がほしいなと感じていました。
デザインには「つなぐ」役割があると思っています。コーポレートブランドとプロダクトブランド、カゴメのモノづくりへのこだわりとそれを形にする社外のクリエイター、カゴメとお客様、そういったさまざまなモノやコトをつないでいく役割があって、そうした時に「カゴメのデザイン」が目指す大きな指針があると良いのでは、と考えました。組織全体として同じ方向を向くことで、それがブランドを継承して発展させていく道筋になるのではと。
――デザインアイデンティティの策定について、アマナへサポートを依頼した理由を教えてください。
渡邊:デザイングループらしい、ユニークさがあるものにしたいと考えていました。カゴメのユニークポイントであり特徴の1つに、シズルへの強いこだわりがあります。ビジュアルコミュニニケーションをされているアマナさんとの相性の良さを普段から感じていたので、こういったプロジェクトを支援していただけるのか、相談してみました。
当初はゴールのアウトプットイメージがはっきり見えていたわけではなかったのですが、デザインアイデンティティを作って終わりにするのではなく、作る過程も含めてデザイングループのメンバー全員が腹落ちするものにしたいとか、最終的なアウトプットを実務に使いたいとか、文字ばかりでなくビジュアルですぐに理解できるようなものにしたいといったイメージがありました。社内だけで作るよりも外部の方と組んだ方が刺激にもなると考え、アマナさんに参画していただきました。
渡邊理絵|Rie Watanabe
カゴメ株式会社/マーケティング本部 ブランドコミュニケーション部 デザイングループ 担当課長
カゴメ商品のブランド・デザインディレクターとして、「野菜生活100」や「野菜生活100 Smoothie」などの主要ブランドを担当。最近では、ビジュアルを通したコーポレートブランディングにも取り組んでいる。
――カゴメさんからの相談を受け、プロジェクトをどのように進めていったのでしょうか?
堀口高士(以下、堀口):デザイングループの皆さんが求めていたのは、自分たちの指針というか、仕事の裏付けになるバイブルや武器になるようなものを作りたいように感じました。まずは、皆さんが何を考えているかをひもときたかったし、そのうえで目的を定めようと思いました。
そこで、アンケートを実施しました。「もやもや」「ここが好き!」「これから…」という項目について書いていただいたのですが、ものすごくたくさんの書き込みがありまして。今まで考えていたこと、溜め込んでいた気持ちを言葉にして吐き出してくれたんですね。
その時に出てきた課題が「自分たちは、何をしている部署なのか知られていない、デザイングループの業務が社内に浸透していないという声が上がりました。それを受け、今回は社内外のプレゼンスを高めるのが目的だなと感じて、皆さんが自慢できるようなツールを作ろうと思い立ちました。
堀口高士|Takashi Horiguchi
株式会社アマナ/イメージングディレクター、ビジュアルコラボレーター
グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタート。メインスキルであるビジュアルデザインを応用しながら、さまざまなビジネスシーンで役立つビジュアルの可能性を、日々の活動を通じて研究している。
参考記事:企業の潜在的な強みを引き出し、可視化していく。イメージングディレクター、ビジュアルコラボレーター・堀口高士:Creators for Society④
はじめましてEVOKEです
渡邊:デザイングループへのアンケートによって、デザインに対する「こうあるべき」「こうしたい」というみんなの思いがよくわかりました。最終的に出来上がったのはデザインアイデンティティというアウトプットですが、そこに至るまでにみんなでしっかり話し合ったことがポイントになりました。
堀口:ゴールに向けて必要な要素は何だろうと思った時に、「ありたい姿」が何かを導き出すのがまず大事。そこから「カゴメらしさ」を突き詰めようとワークショップを実施しました。テーマとしてはブランドアイデンティティやコーポレートアイデンティティなども考えられたのですが、考える範囲が広くなりすぎてしまうので、担当業務として多く携わっているパッケージデザインに絞ったのです。
――複数回のワークショップと、ワーケーション(合宿)も実施されたということで、約4カ月にわたる長期プロジェクトになりましたね。
渡邊:「合宿」に憧れがあっていつか実施したいと思っていましたので、その願いがか叶いました。自分やメンバーの意見から共感したり発見があったり、印象的な言葉がたくさん出てきて、日頃抱えていたことの棚卸しになったと思います。
野村:漠然と思っていたことを言葉にすることで、ああ、そういうことが言いたかったんだとあらためて実感したことも多かったです。アマナさんという外部の立場の方がいたことで、言葉を引き出していただいたし、我々の考えも次第にまとまっていったんでしょうね。
堀口:自分のことって言語化しづらかったりするので、外部の人が誘導すると引き出しやすくなったのかもしれません。企業のインハウスのデザイナーさんは仕事内容が社内に見えにくく、同じ課題を抱えている方は多いと思いますよ。
――ワークショップを実施する際に、注力したポイントは何でしょうか?
堀口:皆さんが自分ごと化することをポイントにしました。アンケートやワークショップで抽出された言葉を大事にして、それが「らしい」のかどうかチューニングしていくことに力を注ぎました。
ワークショップ、ワーケーションの様子から。
――ワークショップを実施した結果、どのような成果が得られたのでしょうか。
野村:ワークショップでは4チームに分かれて話し合いましたが、「素材の力」「自然の力」などはどのチームからも共通して出ていた言葉。農家の方や畑など生産者に関連することに対してはとても大切に思っていて、それが共通ワードとして現れたことが感慨深かったです。
渡邊:ブランドステートメントの「自然を、おいしく、楽しく。」に基づいたものになっていましたよね。デザインは本来、楽しいもの。仕事の中では、大変なこともありますが、楽しく作ったものはお客様にも伝わるし、その心を大事にしたいという話がワークショップでも何回も出てきました。この気持ちを忘れずにいたいです。
野村:みんなからいろいろな意見が出たのを堀口さんがリアルタイムに視覚化していくので、より理解が進んだのではないでしょうか。
堀口:たくさんの情報が点在しても、それを概念化して皆さんが腹落ちする共有イメージを作るのはどんなクリエイティブでも大事ですし、イメージングディレクターとしての力を発揮できたかなと。
渡邊:全体の構成の中で、「未来に向けた希望を感じてみんなでチャレンジシしていけるものにしたい」とワークショップの最初の段階で意見をお伝えしていたのですが、それを受けて堀口さんが提案してくれたプログラムの進め方がユニークでした。まずは、もやもやしていた気持ちを発散させるところからスタートして課題の棚卸しをし、「カゴメらしさ」って何だろうと目指す方向を決めてから議論を進める、という流れで。
堀口:「ありたい姿」に近づくためのツールにしたいということがわかったので、最初に未来を考えてバックキャスティングするという手法がいいかなと思ったんですよ。やってみるといろいろな議論が発生して「もっと自分たちのことを知ろう」とする合宿につながり、それがプロジェクトを結実させるポイントになったのかもしれません。
最終的なアウトプットは「カゴメらしさ」が凝縮されて、デザインに対する信頼感に遊び心を加えられたものができたと思います。
完成したデザインアイデンティティの表紙。
――完成したデザインアイデンティティは、今後どのように活用していく予定でしょうか。
渡邊:まずは、年始のブランドコミュニケーション部のグループミッションで発表しました。社内で、業務で関わることの多い企画部へ説明したり、外部のデザイン事務所様へ共有するなど、私たちはこれを目指すという意思表明と理解促進に活用しようと考えています。
デザイングループのメンバーとしては、アイデンティティをそれぞれの実務で体現していく必要があり、できたかどうかを半年に一度、振り返る機会を作る予定。アイデンティティは出来上がって終わりではなく、時代と共に変化させていかなくてはならないので、ドキュメントそのものを見返す機会をまた作りたいですね。
野村:アイデンティティを策定するにあたって、みんなで文章や写真の1つ1つにこだわって吟味しました。その過程もよかったし、濃密な話し合いができたのもよかったなと。
今まで社内に向けての発信もなかったので、他部署に対してデザイングループの意義を知ってもらえるように活用したいですし、それによってより「ブランドの守り神」として信頼される存在になれればと思います。
堀口:外部メディアにも積極的に出て発信していけるといいですね。社内の理解もより強まりそうですし、これからの活動をますます楽しみにしています。
<案件スタッフ>(※クライアント以外すべてアマナ)
クライアント:カゴメ株式会社
プロデューサー:吉田愛、重村美樹
イメージングディレクター:堀口高士
プランナー:福地満帆
アートディレクター:岡田麻由子
コピーライター:眞木茜
<記事制作>
取材・文:大橋智子
撮影:大久保歩(アマナ)
AD:中村圭佑
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CO-CREATING FUTURES.
amana inc.のクリエイティブチームEVOKE。
クリエイティブコラボレーションを通じて、目指す未来を描き出す。
最近は、AIを活用したクリエイティビティの拡張に力を入れている。
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