ジャガーやフォルクスワーゲンなど6事例から見る、自動車ブランドの進化と戦略

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目次:


自動車業界のブランディングは、従来の手法から大きく変化しています。ブランドの世界観をどう表現し、顧客の価値観やライフスタイルと結びつけるかが、競争優位を築くカギといえそうです。

本記事では、新たな市場へのアプローチ、デジタル戦略の活用、ファンとの関係性の構築など、最新のブランディング手法を紹介し、これからのブランド戦略のヒントを探ります。

ジャガーの大胆なリブランディング:伝統と革新のバランス

ジャガーは2024年11月、大胆なリブランディングを実施しました。

従来のクラシックで英国的なブランドイメージから脱却し、新たな市場に向けたモダンで革新的な方向へとシフト。創業者でカーデザイナーでもあったウィリアム・ライオンズ卿の信念「Copy Nothing(模倣しない)」をスローガンに掲げ、唯一無二のブランド価値を訴求しています。ロゴもシンプルでミニマルなデザインに変更され、従来の高級感を維持しながらも、デジタル時代に適したモダンな印象を強めています。

注目すべきは、車を前面に押し出さない広告戦略です。自動車業界では異例ともいえる「車を一切登場させない広告」を展開し、ジャガーのブランドそのものが持つ世界観や価値観を強く打ち出しました。これは、ジャガーが単なる高級車ブランドではなく、ライフスタイルや哲学を持ったブランドとして認知されることを狙った戦略といえるでしょう。

一方で、長年のジャガーファンからは「伝統が薄れてしまった」という声もあり、ブランドの方向性を巡る議論も巻き起こっています。それでも、この全く新しいブランディング戦略は、EV化が進む中、競争が激化する自動車業界でブランドの可能性を広げるためのジャガーの挑戦といえそうです。

BMWは自然と融合するラグジュアリーカーの世界観で魅せる

ジャガーが歴史にとらわれない新たな挑戦を図り新たなポジション確立を進める一方で、BMWは100年以上の歴史と革新を融合させたクリエイティブで、ラグジュアリー市場での存在感を強めています。

ラグジュアリーセグメントのBMW 7シリーズ、8シリーズ、X7、XMを対象にした新たなブランドキャンペーンは、「車」と「壮大な自然の風景」が融合した世界観を作り上げ、ブランドの魅力をダイナミックに表現しました。

特に、電動フラッグシップモデルのBMW i7をフィーチャーした映像「Lifelines」では、車を単なる移動手段としてではなく、ドライバーの個性や自信を象徴する存在として描いています。BMWの技術力とデザインの美しさを、自然の壮大さと共鳴させながら伝えているのです。

キャンペーンは、YouTubeやInstagramなどのデジタルメディアを中心に展開され、CMや屋外広告、紙媒体にも拡大。ドイツやイギリス、中国、日本、中東などで実施されました。ビジュアルでは、各モデルが異なる壮大な自然環境とともに登場し、BMWの歴史と伝統を象徴する「Bayerische Motoren Werke」のフルネームを前面に押し出すことで、ブランドの威厳と信頼感を強調しています。

多様なライフスタイルと共鳴するベントレーの「Gen B」へのアプローチ

ベントレーは、2024年6月に新たなグローバルブランドキャンペーン「How do you Bentley?」を開始しました。

ターゲットは、ベントレーが「Gen B」と称する、新規・既存顧客やブランドのファンなど年齢、性別、人種を問わずベントレーの価値観に共鳴する人々です。キャンペーンを通し、従来の富裕層だけでなく、より多様なライフスタイルを持つユーザーにアプローチする狙いがあります。

キャンペーン映像では、ベントレーの車両が雪山でスキーを牽引するシーンや、音楽愛好家が「Bentley Record Room」でピアノを演奏するシーンなど、顧客の情熱やライフスタイルを反映したストーリーを展開。ベントレーが単なる高級車ブランドではなく、個々の趣味趣向に寄り添うブランドであることを強調しています。

キャンペーンはデジタルメディア、屋外広告、コネクテッドTV、ベントレーのソーシャルメディアなど多様なチャネルで展開され、ブランドへの没入感を提供しました。

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中国市場向け新ブランド「AUDI」で若年層を狙うアウディ

アウディは2024年11月、上海モーターショーにて中国市場向けの新ブランド「AUDI」を発表しました。これは、中国の自動車メーカーである上汽(SAIC)との合弁事業であり、特に若年層をターゲットとしたテック志向のEV「AUDI E」を初のコンセプトモデルとして導入しています。

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出典:Audi

この動きは、中国市場におけるアウディブランドの再構築を意味します。アウディは1980年代後半に中国市場に参入し、長年にわたり外国製高級車の代名詞とされてきました。しかし、近年では中国国内の自動車メーカーが急速に台頭し、世界的な自動車メーカーは市場シェアの維持に苦戦しています。

新ブランド「AUDI」は、そうした市場動向に対応するための戦略の一環です。従来の「四つのリング」のロゴを廃止し、車両のグリルやトランク、ホイールの中央キャップに「AUDI」という大文字のロゴを採用するなど、デザインも一新しています。

顧客とのつながりを深めるフォルクスワーゲンのキャンペーン

フォルクスワーゲンは2024年5月、新たなグローバルブランドキャンペーン「YourWagen」を開始しました。このキャンペーンでは、オーナーやファンのリアルな体験を取り上げ、それぞれのライフスタイルに寄り添うブランドとしての魅力を発信しています。「SurfWagen」「MumsWagen」「TeamWagen」など、車の用途に応じた名称を用い、フォルクスワーゲンが人生のパートナーであることを印象づけています。

オープニングフィルムでは、友情や家族の絆、夢の実現など、人々のストーリーが描かれ、ブランドの存在意義を感情的に訴求。さらに、象徴的キャラクター「ハービー」を登場させることで、長年のファンにも親しみを感じさせる演出が施されています。

フォルクスワーゲンの公式YouTubeでは、キャンペーン映像のメイキング動画も公開し、親近感を与え、ブランドとユーザーのつながりをより強固なものにしています。

このキャンペーンは、ソーシャルメディアやデジタル広告、販売店での展開を通じて、ファンとの対話を活性化。ユーザー参加型のストーリーテリングを軸に、ブランドとの共創を促し、より深いエンゲージメントを生み出すことを狙いとしています。

ポルシェのTikTok戦略:クリエイターと共に築く新たなブランドイメージ

ポルシェはTikTokのクリエイター文化を活用した、高級車ブランドでありながら親しみやすいイメージを確立するキャンペーンを展開。広告色を抑え、エンタメ性を重視したコラボレーションによって、幅広い層へブランドの魅力を伝えることに成功しました。

コラボ事例①:動物×ポルシェの意外性のある組み合わせ

人気のペットデュオ「Andrea & Paquito」とのコラボにより、TikTokで絶大な人気を誇るペットコンテンツを活用しながら、ポルシェのフィードに遊び心をプラス。犬や猫と高級車の組み合わせは意外性があり、可愛らしさとラグジュアリーのギャップが視聴者の関心を引きました。

@porsche The purr-fect driver doesn’t exi… ❤️‍🔥 @Andrea & Paquito ♬ original sound – Porsche

コラボ事例②:車好きコミュニティとのつながりを強化

自動車の性能や歴史に関する誤解を解き明かすコンテンツを発信するクリエイター「@PushingPistons」とコラボ。ポルシェ911の性能や特徴にまつわる神話を、ユーモアたっぷりに検証しながら紹介しました。教育的な要素とエンタメ性を組み合わせることで、ポルシェの技術力を楽しく伝え、車好きのコミュニティとのつながりを強化しました。

@porsche 10/10 would recommend. 👀📼@pushing pistons ♬ original sound – Porsche

コラボ事例③:おしゃれなおじいちゃんが魅せる959スタイル

ファッション業界で話題のおじいちゃんクリエイター「Jaadie’s stylish grandpa」とコラボし、ポルシェ959をイメージしたスタイリングを披露。高級車とファッションを掛け合わせることで、新たな層の関心を引き込みました。

@porsche Fit for a king. 👑 📼 @Jaadiee ♬ Originalton – Porsche

これらのコラボ動画は、合計で数千万回の視聴数を獲得し、数千件のコメントでポルシェに関する議論が活発化する結果に。トレンドクリエイターとのコラボレーションにより、ポルシェはTikTokコミュニティの一員として認識されるようになりました。

まとめ

各ブランドが独自のアプローチでブランディング戦略を進化させています。この傾向からも、自動車業界のブランド戦略は、これまで以上に多様化し、新たな価値創出が求められているといえそうです。車の高級感や性能だけでなく、ブランドの世界観や顧客との関係性をどう打ち出していくかが、競争優位を築く重要な要素となりつつあります。

これらの事例は、ブランドの立ち位置や市場戦略を再考するヒントになります。従来のマーケティング手法にとらわれず、ブランドの「体験価値」や「文化的影響力」をどのように創出できるかが求められるでしょう。

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