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Z世代を中心とした若年層の価値観の変化に、ラグジュアリーアパレルブランドも無関心ではいられません。伝統や世界観を大切にしながら、若年層と「どう関係を築くか」という問いに、各ブランドがどのような戦略で向き合っているのでしょうか。ラグジュアリーアパレルブランドの5つのリブランディング事例から、若年層に届くブランド戦略のヒントを読み解きます。
ヒューゴ・ボス(HUGO BOSS)は2022SSにリブランディングを実施し、ブランドを「BOSS」と「HUGO」の2ラインに再定義しました。BOSSはフォーマル寄りの印象を刷新し、「Be Your Own BOSS」というスローガンのもと、自己表現を重視する現代的なスタイルへとシフト。
出典:BOSS
一方のHUGOは、Z世代を中心とした若年層に向けてストリートやカルチャー要素を取り入れたブランドとして再構築しました。
出典:HUGO
HUGOはグラフィックデザインやジェンダーレスなアイテム、個性的なスタイリングが特徴で、音楽やアートと親和性の高い世界観を展開しています。TikTokでは、音楽フェスを活用したプロモーションや#HUGOYourWayといったハッシュタグを通じてZ世代との接点を強化。インフルエンサーとのコラボや動画広告も積極的に展開し、SNS上でのブランド体験を設計しています。
@hugo Understanding the assignment 📝🔎✅ From the side quest POV #HUGOYourWay ♬ original sound – HUGO
出典:HUGO(@hugo)
HUGO BOSSのリブランディングは、単なるデザイン刷新にとどまらず、異なる世代に合わせたブランドの「語り方」を再構築することで、次世代との関係性を深めています。
ミュウミュウ(Miu Miu)は2024年に売上を前年比105%増加させ、「世界で最もホットなブランド」と称されるまでに成長を遂げました。その背景には、プラダの妹ブランドという立場から脱却し、自立した若い女性像を軸としたストーリーテリング戦略があります。
2025年春夏コレクションでは、Y2Kカルチャーを現代的に再解釈し、ミニスカートやバレエシューズ、スポーティなトラックジャケットといったアイテムを組み合わせることで、既存のルールにとらわれないスタイルを提案しました。
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出典:Miu Miu(@miumiu)
さらに、ヴィンテージ素材を再利用した「Miu Miu Upcycled」など、サステナブルな取り組みを通じてブランドの価値観を明確に打ち出し、意識の高い若年層からの共感を得ることにも成功しています。こうした複合的な戦略により、ミュウミュウは“かわいいだけじゃない”ブランドとして、現代のラグジュアリーマーケットで独自のポジションを築いています。
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バーバリー(Burberry)は2023年、ブランドの再構築に向けた大規模なリブランディングを実施しました。
新たにクリエイティブ・ディレクターに就任したダニエル・リーのもと、ブランドの原点に立ち返る形でロゴを刷新。近年使われていたモダンなサンセリフ体を廃止し、1901年に誕生した伝統的な筆記体ロゴと、象徴的な馬上の騎士「エクエストリアン・ナイト・デザイン(EKD)」を復活させました。
同時に、ブランドの世界観を再定義するビジュアルキャンペーンも展開。英国の自然や文化を背景に、伝統とモダンを融合させたビジュアルが話題を呼びました。
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出典:Burberry(@burberry)
また、ECサイトも全面的にリニューアルし、モバイルファーストのシンプルで直感的なUXに再設計。プロダクトやストーリーへの導線が明快になり、ブランドへの没入感が高まる構成です。ロゴ・ビジュアル・Webサイトの三位一体での刷新を通じて、バーバリーは若年層に向けた「新たな英国ラグジュアリー」の像を打ち出しています。
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コーチ(Coach)は、かつて「親世代のブランド」というイメージが強かったものの、2020年代に入り、特にZ世代とミレニアル世代を中心にヴィンテージや現行のレザーバッグが再評価されるようになりました。この背景には、コーチが展開してきた巧みなリブランディング戦略があります。
コーチはこれまでのアーカイブデザインを現代的にアレンジし、Y2Kファッションの再流行と親和性の高いプロダクトを展開。若年層のライフスタイルに寄り添うデザインやプロモーションによって、自然とZ世代の共感を集めています。
また、TikTokでは、インフルエンサーなどによるバッグの紹介やスタイリング動画が人気に。PR色の薄いリアルな投稿で、ブランドの魅力を若年層の日常生活に溶け込ませました。
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@kianabonollo THE PERFECT WORK BAG!!🖤⛓️👛 @Coach @Brandon Nguyen #coach #purse #styling #haul ♬ original sound – Kiana 💗
出典:@kianabonollo
さらに、環境配慮型の新ライン「Coachtopia」や、不要になったバッグを引き取り新たな持ち主のもとへ循環させる「Coach Reloved」プログラムなど、サステナビリティへの取り組みもZ世代の共感を呼んでいます。コーチはこうした一連の取り組みによって、若年層との新たな関係性を築くリブランディングに成功したといえるでしょう。
リブランディングによる再定義だけではなく、ユーザーとの関係構築をコミュニケーションから再設計するブランドも出てきています。その代表例が、TikTokを巧みに活用するロエベ(Loewe)です。
コーチが親しみやすさや日常性を活かした自然体の投稿で共感を得ているのに対し、ロエベは視覚的インパクトのあるコンテンツやコンセプト重視の演出によって、ブランド世界観を強く印象づけています。たとえば「Decades of Confusion」キャンペーンでは、俳優たちがロエベの正しい発音に戸惑う様子をコミカルに描き、ブランド名に対する親しみを引き出しました。
@loewe Never a dull moment with Aubrey Plaza on set. Head to IG to watch our new film ‘Decades of confusion’ #AubreyPlaza #LOEWE ♬ original sound – LOEWE
出典:Loewe(@loewe)
また、「When the heels twerk better than you」と題した投稿では、ヒールが踊るように揺れる映像により、製品をユニークな切り口で紹介。
@loewe When the heels twerk better than you. #LOEWE ♬ original sound – LOEWE
出典:Loewe(@loewe)
こうした軽妙なコンテンツ設計によって、ラグジュアリーブランドでありながら堅苦しさを感じさせず、TikTok世代が楽しめる空気感を生み出しています。
ラグジュアリーアパレルブランドにとって、築き上げた伝統や確立されたポジションは大きな資産であるからこそ、大胆なリブランディングを敢行するには慎重さが伴います。今回取り上げたラグジュアリーブランドの多くは、既存の価値を活かしながら顧客との関係を再構築する戦略を設計していました。
Z世代を中心とした若年層は、単なるロゴやプロダクトだけでなく、ブランドとどう関われるか、自分の価値観と響き合うかを重視しています。ロゴやビジュアルの更新、SNSでの発信やストーリーテリングは、その関係性を築くための手段に過ぎません。
これからのブランドコミュニケーションに求められるのは、変化する価値観に順応しながら、ブランドの軸をぶらさずに関係性を設計していく力だといえそうです。
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