アサヒクオリティーアンドイノベーションズ株式会社(以下、AQI)は、アサヒグループの先端開発の拠点として、研究開発の重点領域において新たな価値創造やリスク軽減に向けた商品・技術開発に取り組んでいる独立研究子会社です。
AQIでは中長期的な社会環境や競争環境の変化を見据え、アサヒグループの事業に関連が深いと思われるテーマについて、将来にわたる仮説(未来シナリオ)を策定し、研究テーマに反映しています。未来シナリオの制作において、アマナはSFプロトタイピングの手法を用いたワークショップ設計とドキュメント化でサポートしました。今回のプロジェクトは、アマナが推進する「フューチャライゼーション※」──共創によって未来を可視化するプロセス──の実践でもありました。AQIらしい未来像を描き、研究者の好奇心を刺激することを目指した取り組みの詳細について、プランナーの高橋みずき、ワークショップディレクターの丸岡和世、プロデューサーの瀧野哲史に聞きました。
※「フューチャライゼーション」とは──未来を共創し可視化するプロセス
アマナが未来創造プロジェクトで提唱しているのが「フューチャライゼーション」という考え方です。これは、企業や研究機関と共に未来を描き、そのビジョンを具体的に可視化することで、組織の中に新しい視点や発想を生み出していくプロセスです。本プロジェクトは、まさにその実践であり、ビジュアル・ストーリー・ワークショップを組み合わせながら、共創による未来像を具現化した好例となりました。
※参考記事
・ヒトとロボットの“柔らかな関係”をつくりたい。SFプロトタイピングから見えた、ブリヂストン・新規事業の向かうべき先は?
・丁寧に描くことがコミュニケーションの鍵となる。イメージングディレクター・丸岡和世:Creators for Society⑫
AQIでは、10年後のありたい姿として未来シナリオを作り、バックキャストして研究テーマを設定しています。
「未来シナリオにイラストを加えることにより、より創造をかきたてられるものにしたいということで、ブリヂストンさんでSFプロトタイピングを実施した事例を参考に、ワークショップで出たアイデアをもとに小説を作り、未来がどうなるかを具体的に想像するというアイデアを提案しました」(瀧野)
「今までの資料は、主に文章で構成されていましたので、ビジュアルを添えたいというきっかけからスタートしました。『未来シナリオ』という形を生かしつつ、既存の延長ではなく『想像をはるかに超えた未来』につなげられないか。そういう話に発展していったのです」(高橋)
「未来シナリオを作るというゴールは、これまでどおりAQIさんの中であらかじめ設定されていました。ただ、今回は「いつもよりももっとワクワクさせたい」という課題意識がありました。そこで私たちは、「可視化」だけでなく、「100年後まで妄想を飛躍させてから、10年後をバックキャストする」というアプローチを提案しました。SF的な要素を取り入れることで、想像をはるかに超えた未来を描き出し、AQIさんならではの発想を盛り込むことで、読み手に熱が伝わる、よりワクワクするドキュメントになると考えたからです。そのうえで、ビジュアライズやワークショップ設計など複合的な要素を通じて、研究者の皆さんを巻き込みながらシナリオを形にしていきました。このように、未来を可視化しながら共創するプロセスを私たちは“フューチャライゼーション”と呼んでいます」(丸岡)
こうして、フューチャライゼーションによる未来シナリオ作成サポートが始まりました。
今回のプロジェクトは、以下の4つのフェーズで構成されました。
①プロジェクト設計
②インプット
③SFプロトタイピング・ワークショップ
④ドキュメント化
まずは、AQIの研究者にとって有意義なプロジェクトにするための情報収集からスタート。各分野の有識者による知見のまとめや、著書、レポートなど、多角的な視点をインプットしました。アマナとしてもこのインプットに参加し、得られた情報をもとに、ワークショップでの創造的なアイデア出しにつながる仕組みづくりを進めました。
「専門家が考える未来に触れるだけでも、研究者の知的好奇心は大いに刺激されます。ただし、情報を単に羅列するだけでは、『自分の仕事には関係ない』と捉えられてしまう可能性もあります。
そこでSFプロトタイピングのフェーズでは、未来シナリオ制作のプロジェクトメンバーと参加者によるワークショップを実施。膨大なインプットの中から各自が興味を持ったテーマを選び、それらを掛け合わせながら、学びの断片を未来のストーリーへと育てていくプロセスを重視しました。
たとえば、専門家が予想したこと×自分たちにとって興味があることという組み合わせにして、それらが掛け合わさった時にどんなことが未来に起こるかを予想しよう、としたのです」(丸岡)
普段とは違う新しい発想法を取り入れたことで、意外なアイデアがたくさん生まれ、議論も盛り上がりました。
「このアイデア創出の掛け合わせのシートを強制発想シートと名付けました。この強制発想シートによって、専門家が予測した未来と自分たちが考えた未来とのイメージの交差点を作ることができます。発想したこと、考えたことを書き出してもらい、それが小説のネタになる。皆さんが想像した『あり得るかどうかわからない未来』も、小説によってストーリー化されると『あり得る未来』として受け止められるようになるかもしれません。そうやってイメージの手助けをすることで、現実味を抱きながら未来シナリオ作成にのめり込めるのではないかと思いました」(丸岡)
大量の情報の整理とワークショップにはMiroを使用。書き出されたさまざまなワードやアイデアを元に、プロのSF小説家が小説に仕立てます。3名の小説家は、アノン(SFプロトタイピングを通じて企業ビジョンを社会実装する共創コミュニティ)に協力を仰ぎました。
小説の表紙装丁は、アマナのイメージングディレクター・田村結佳が作成。
「ワークショップで自由に発言したことが、こんなにちゃんとした小説になるなんて、と感動しました。ビジュアルより抽象度が高い『文章・言葉』で未来を想像するのがとてもおもしろかったし、好評でした。アイデアを出して議論して、とハードなワークショップの中、小説化するという抽象度の高い作業が入ることで、参加していた皆さんも開放された気分だったと思います」(高橋)
テーマはカテゴリーごとに分類され、各カテゴリーは以下の2ページ構成となっています。
●10年後の未来シナリオ
●100年後までの未来年表と10年後の具体的シーン
10年後の未来は、取り組みやすいテーマになりますし、それに紐づいた長期的なストーリーが加わることで、同時に長期的な視野で世の中への影響を考えることができます。
また、それぞれにビジュアルを添えることで、多くの人にイメージしてもらいやすくなっています。
「『こういう未来があると思います』というキャッチコピーに絵が付くだけだと、ピンとこない人がいるかもしれません。なので、想像をはるかに超えた未来の姿とその途中経過をわかりやすく伝えることが大切では、と考えました。たとえば、100年後は月での暮らしが可能になる、そうなったら宇宙空間での飲み物はどうなっているのだろうか。なぜそう思考したのか、どんな環境変化があるのかなど、この資料を読んでこれからの指針にしてほしいという思いで作りました」(丸岡)
完成したものはAQIの社内でシェアされ、またグループ会社にも周知する予定です。
「クライアントからは、想像力を高められるアウトプットができた、とのコメントをいただきました。10年後、20年後を見据えた施策は、どの企業もトライしていると思います。アマナはビジュアルを作るだけではなく、課題に寄り添ったSFプロトタイピングで、場合によっては小説にもまとめられる。プロジェクトを通してアマナ側にも学びが多かったですが、クライアントと協働で視覚的に共有できる資料を作ることができました」(瀧野)
「社内に浸透させたいしそのためのツールも作りたい、内容を中長期視点で落とし込みたい、そうした複合的な課題をまとめて一気通貫でできたのは、アマナの強みだと思います。単に未来を想像しようで終わらず、ビジュアルと文章によるコミュニケーションの提案、また丸岡や田村が遊び心を持ってプロジェクトの構成を練ったおかげで、参加者も我々も楽しい気持ちで進めることができました」(高橋)
「SFプロトタイピングでやってみたかったことを全部盛り込めました。頭の中にある情報を書き出してもらったり整理したり掛け合わせたり、さらに編集してまとめていったのが自分にとってもおもしろい経験でした」(丸岡)
「未来シナリオ」最終ドキュメントからの抜粋。要素をイラスト化して未来をイメージしやすくしています。デザイン制作は田村結佳。
AQIの皆さんと並走しながらまとめた「未来シナリオ」。アーカイブされることにより、まさにこれからの100年の指針となる資産になっていくはずです。
<スタッフクレジット>(すべてアマナ)
プランナー:高橋みずき、井川文恵
ワークショップディレクター:丸岡和世
イメージングディレクター:田村結佳
プロデューサー:兼子丈太、瀧野哲史
ワークショップ映像対応:吉田顕
取材・文:大橋智子
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株式会社アマナ
高橋 みずき
株式会社アマナ
高橋 みずき
プランナー。制作会社での営業としてキャリアをスタート。印刷会社へ転身後は大手メーカーのプロモーションプランニングを担当。アマナでは飲料・食品・アパレル・通信・流通・医療など幅広い業種において、コミュニケーション戦略策定・ブランド開発を担当する。
株式会社アマナ
丸岡 和世
株式会社アマナ
丸岡 和世
イメージングディレクター・ビジュアルコラボレーター。広告分野での写真やCG等のディレクションを中心に活動。近年では、クリエイティブにおける合意形成と対話のプロセスに着目し、共創分野でのビジュアル活用を提案している。人々の想いを読み解き、思考と表現の架け橋となる。
EVOKE
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CO-CREATING FUTURES.
amana inc.のクリエイティブチームEVOKE。
クリエイティブコラボレーションを通じて、目指す未来を描き出す。
最近は、AIを活用したクリエイティビティの拡張に力を入れている。
amana BRANDING
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