電車内や駅構内などの交通メディア広告に特化した広告賞である「交通広告グランプリ」。「交通広告としての特性が活かされている」「広告としての完成度が高い」「新しい試み・視点がある」といった選考基準に沿って優れた作品を表彰しています。
2025年度(第37回)は、2024年4月~2025年3月にJR東日本や首都圏鉄道各線の駅・車両、街ナカサイネージで掲出された広告1,654点の中から、グランプリ1点、各部門最優秀部門賞6点、優秀作品賞30点、およびJR東日本賞1点の計38作品が選出されました。
今回は、その中でも注目の受賞作品を部門別に紹介するとともに、2025年の交通広告に見られたトレンドを分析します。広告・宣伝・ブランディング担当者の皆様にとって、今年度の傾向が今後のキャンペーンのヒントになれば幸いです。
2025年の栄えあるグランプリに輝いたのは、老舗食品メーカー・創味食品によるユニークな「焼肉の部位ジャック広告」です。電車をまるごとを活用した企画で、車内中吊りや壁面スペースのすべてを大胆にも「ハラミ」「シャトーブリアン」「カルビ」「イチボ」「ネクタイ」等、焼肉の部位名だけを大書したポスターでジャックしました。例えば「カルビ」と大きく書かれた文字を目にした乗客は、それだけでジューシーな肉が焼ける音や煙、香ばしい匂いまでリアルに想像してしまうでしょう。商品のビジュアルや詳しい説明を一切排し、「言葉(部位名)」のみで乗客の五感と食欲を刺激する思い切った表現が高く評価されました。真っ白な余白に力強い黒文字というシンプルなデザインで想像力をかき立て、「分かりやすくストレートなのに強烈なインパクトとシズル感を伝える表現力」が秀逸です。電車という閉ざされた空間をまるごと使ったインスタレーション的な手法で、乗客の体験にまで踏み込んだ点も評価につながったと言えるでしょう。
日常の中の小さな善意をテーマにした、心温まるクリエイティブが高く評価されました。学校支援活動でお馴染みのベルマーク財団による本キャンペーンは、JR新宿駅・渋谷駅・両国駅に掲出された駅貼りポスターです。縦書きのキャッチコピー「良い行いは、きっと誰かが見ているよ。」の上部に、横に二つ並んだ赤いベルマークが大きく配されており、それがまるでこちらを見つめる「顔」のように見えるユニークなビジュアルに仕上がっています。シンプルながら「ベルマーク=誰かの善行を見ている目」というメッセージを一瞬で伝えるデザインの妙が際立ち、通行人の足を止めるインパクトを生みました。実際に掲出を目にした人々からは「ポスターに見られてハッとした」「善い行いをしようという気持ちになった」など好意的な声が上がったそうです。企業広告や商品PRではなく公益財団の啓発ポスターですが、アイコンであるベルマークを大胆にクリエイティブ要素に転用し、高速で情報を伝える駅ポスターの使命を見事に果たした点が評価され、最優秀賞に選ばれました。
出典:UQ公式アカウント@UQinfo
JR池袋駅の通路に現れたのは、広告柱にしがみつく巨大なUQ mobileキャラクター“ガチャピン”と“ムック”をモチーフにしたオブジェでした。普段は無機質な駅構内の柱が、突然ピンクとブルーのぬいぐるみキャラクターに抱きつかれることで、日常の風景が一変。通行人は思わず足を止め、写真を撮りたくなるようなインパクトを与えました。広告物というよりも、駅そのものがキャラクターと一体化した体験空間となっていた点が最大の特徴です。この企画は、UQブランドの親しみやすさを若年層へ訴求することを狙いとしており、モフモフした質感や愛嬌ある造形が“触れたくなる広告”としてSNSでも拡散されました。実際に抱きついて記念撮影する来訪者も多く、駅を通る人が広告と自然に関わる参加型のコミュニケーションを実現しています。交通広告は往々にして一方的に視認されるものですが、本施策では“抱きつきたい”“触りたい”といった身体的な体験を引き出すことで、ブランドへの好感度を高めています。
「広告は本来情報を伝えるもの」という常識をあえて覆し、乗客の“休息”を優先した異色の広告が登場しました。睡眠ソリューション事業を手掛けるブレインスリープ社のプロモーション企画「脳が眠る電車」がそれで、年度末の繁忙期である2025年3月に京浜東北線の車内中吊り・窓上・ドア横ポスターとして掲出されました。睡眠不足に悩む現代人に「通勤電車のわずかな時間だけでも脳を休めてほしい」との想いから企画されたこの広告は、ビジュアル要素やコピーを極限まで削ぎ落としたミニマルデザインが特徴です。白地の余白を大きくとり、ごく控えめなテキストとロゴのみを配置したポスターは、一見すると宣伝色がほとんど感じられません。しかし情報過多な車内広告の中で異彩を放つその「主張の少ない静かな佇まい」こそが乗客の目を引き、「逆に気になる」とSNSでも話題になりました。実際掲出後には「ぼーっとポスターを眺めていたら少し眠れた」「疲れた頭に優しい広告」といった声が寄せられたとのことです。企業メッセージを声高に叫ぶのではなく、乗客へのリラクゼーション提供という発想で広告の価値を再定義した点が革新的であり、「新しい試み、新しい視点」の好例として評価を勝ち取りました。
出典:AJINOMOTO ギョーザ好き運営する公式アカウント@iza_gyoza
JR両国駅の普段は使われない“幻の3番線ホーム”が、期間限定で冷凍ギョーザを体験できる「超ギョーザステーション」に姿を変えました。会場にはガスコンロとフライパン付きのテーブルがずらりと並び、来場者自身が同社のリニューアルしたギョーザを焼き立てで味わえるというユニークな試みです。広告は単なる告知にとどまらず、「商品のおいしさをその場で実感させる」というブランド体験設計が核に据えられています。改札内には横断幕や駅ポスターを掲出し、会場に足を運ぶ前から期待感を醸成。さらにホーム内には巨大なギョーザのオブジェや、商品の改良ストーリーを紹介する特設ギャラリーを設け、視覚・嗅覚・味覚を総動員したプロモーションを展開しました。駅という日常的な交通拠点が一瞬にして話題性のある広告媒体へと変貌。広告とイベントを一体化させた新しいスタイルのプロモーションとして、見事最優秀部門賞を受賞しました。
2025年の交通広告グランプリで目立ったのは、「明快さ」と「創意工夫」の両立です。コロナ禍以前の生活が戻りつつあるなか、人々の行動速度や広告との接し方も変化し、広告には瞬時に理解できるわかりやすさが求められるようになっています。審査講評でも「分かりやすく合理的で即物的・機能的な表現が増えている」と指摘されました。実際、今年の受賞作はいずれも一目でコンセプトが伝わり、かつ独自のひねりや遊び心で記憶に残るものばかりでした。焼肉部位ジャック広告のように言葉のみで想像力を喚起する手法や、ベルマークポスターのようにアイコンを直感的に転用する工夫、さらには「脳が眠る電車」のように情報を削ぎ落とす逆転の発想など、「シンプルだからこそ光るアイデア」が際立っています。
一方で、表現の多様化も今年の特徴です。キャラクターが空間そのものに抱きつくように設計された「抱きつきUQ ガチャムク」や、駅のホームを丸ごと飲食体験の場に変えた「超ギョーザステーション」のように、体験を中心に据えたプロモーションが高く評価されました。こうした事例はいずれも、媒体の特性と場所を生かして「広告をどう届けるか」まで設計されており、単なる掲出物ではなく体験価値を創出する場として機能しています。
車両をまるごと活用する展開や、駅空間をイベント化する演出など、インスタレーション的な発想が随所に見られたのも今年の傾向です。デジタルが主流の時代だからこそ、リアルな場で人々を驚かせ、参加させ、共有させる広告の力が再認識されました。2025年は、交通広告が改めて「体験を伴うブランド接点」として進化していることを示す一年だったと言えるでしょう。
今年の交通広告グランプリ受賞作から浮かび上がったトレンドは、企業のマーケティング担当者にとっても多くの示唆を与えてくれます。「自社の交通広告にもこんな創意工夫を取り入れてみたい」と感じた方も多いのではないでしょうか。
しかし、実際に人の心を動かすクリエイティブを形にするには、高度な戦略立案と表現力が必要です。そこで頼りになるのが、幅広いコンテンツ制作実績を持つクリエイティブパートナーの存在です。
アマナは、企業のブランド価値を高めるクリエイティブ制作で45年以上の実績を持つビジュアルコミュニケーションカンパニーです。中でも交通広告を含むマス広告領域でも多数の制作経験があります。
例えば Uber Eats Japanのキャンペーン「野球見るなら」のグラフィック制作では、フォトグラファーAKANEのビビッドなビジュアルでJR渋谷駅ハチ公口壁面や山手線車内を彩りました。
また、サントリー緑茶ブランド「伊右衛門」の20周年刷新プロジェクトにおいては、俳優の堺雅人さん・古川琴音さんを起用したグラフィック広告の撮影からOOH用動画制作まで手掛けています。これらはほんの一例ですが、アマナはメディアの特性を踏まえた最適なクリエイティブを提供しています。
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Uber Eats Japan キャンペーンビジュアル制作事例
サントリー「伊右衛門」
その他のアマナの制作実績
こうした実績を支えているのが、アマナの包括的なサービス体制です。プランニング&デザイン部門では、緻密な市場分析に基づくブランディング戦略の策定から、マス広告・Web・アプリ・イベントにまたがる複合的なプロモーション企画までトータルにご提案可能です。
またグラフィックデザインでは、新聞・雑誌・交通広告といったあらゆる媒体の制作をサポートし、社内のフォトグラファーやCGクリエイターの技術も結集してクオリティの高いビジュアルを作り上げます。
さらにビジュアル制作の領域では、長年培ったスチル撮影のノウハウを活かしながら、TVCMからデジタル動画まで幅広い映像コンテンツ制作にも対応し、撮影から編集・CG合成まで一貫して行う体制でスピードと品質を両立します。アマナならではのクリエイティブ力で、皆様の伝えたいメッセージを最適な形で世の中に届けるお手伝いをいたします。ぜひ制作実績ページもご覧いただき、お気軽にご相談ください。
貴社のブランドコミュニケーションを次のステージへと引き上げるパートナーとして、アマナがお力になります。
アマナのサービス
プランニング&デザイン/グラフィックデザイン
ビジュアル/スチル撮影
ビジュアル/TVCM -ムービー撮影
文:小林拓美
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amana visualでは、フォトグラファー、レタッチャー、CGクリエイター、ムービーディレクターをはじめとしたビジュアル制作に携わるクリエイターのポートフォリオや、個性にフィーチャーしたコンテンツを発信中。最新事例等も更新していきます。
amana TVCM/MOVIE
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TVCMやWeb用の動画、企業紹介ビデオなど、幅広い動画の撮影に対応。長年培ってきたスチル撮影の経験とノウハウを活かして、クオリティの高い動画を制作します。撮影スタジオはもちろんのこと、動画の編集・合成を中心に、ナレーション収録も可能な動画編集スタジオを完備。撮影、編集、ディレクションなど、専門性の高いスキルを持ったスタッフが、動画の制作をサポートします。
amana PROMOTION
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お客様の目的や課題を深く理解した上で、最適な媒体やツールを選択。オーダーメイドによるプロモーションの企画を提案いたします。マス広告から、Webサイトやアプリケーションなどのデジタル領域、雑誌メデイア、リアルな空間でのイベントまで、アマナのさまざまなサービスを組み合わせて展開するプロモーションプランニングを得意としています。