エース|顧客の行動から逆算する多ブランド戦略とコミュニケーション設計

エース|企業インタビュー

バッグやスーツケースは頻繁に買い替える商品ではありません。つまり「商品選びに失敗したくない」と思う商品とも言えます。

「ace.(エース)」「PROTECA(プロテカ)」「ZERO HALLIBURTON(ゼロハリバートン)」──。複数のバッグやスーツケースのブランドを展開するエース株式会社は、いかにして顧客に“迷わせない”ブランド設計を実現しているのでしょうか。

マーケティング部 部長の柳 光洋さんに、マーケティング戦略とコミュニケーション設計の考え方を聞きました。

なぜエースは「多ブランド」を展開するのか

――エースは複数のブランドを展開していますが、ブランド数を増やしてきた理由はなんでしょうか。

柳 光洋さん(以下、柳。敬称略):前提として、バッグやスーツケースは「生活必需品」でありながら、購入頻度が低い商品です。そのため、衝動買いではなく、時間をかけた比較検討の末に選ばれます。

この時にお客様が見ているのは、価格やデザインだけではありません。「どんな場面で使うのか」「自分の行動や価値観に合っているか」といった文脈まで含めて判断されています。

マーケティング部 部長の柳 光洋さん

エース株式会社 マーケティング本部 マーケティング部 柳 光洋(やなぎ・みつひろ)さん。

エースが多ブランドを展開している理由は、お客様を細かく分けているからではありません。むしろ、ひとりのお客様が持つ「多面性」にあわせて展開しているからです。

人は、仕事、重要な出張、家族旅行、プライベートな移動など、人生の中で複数の「移動体験」を持っています。それぞれの文脈に最適な価値を提供しようと考えた結果、ブランドが自然と分かれていきました。

――複数ブランドが社内競合となるリスクはありませんか。

:私たちは「商品が似ているかどうか」ではなく、「選ばれる理由が異なっているかどうか」を基準にしています。

たとえば「ace.」は日常からビジネス、短期旅行までを支える機能性が軸ですし、「PROTECA」は日本製ならではの安心感や長期使用への信頼性が強みです。また「ZERO HALLIBURTON」は、“挑戦”を象徴するような情緒的価値が大きなブランドと言えます。

価格帯が近い商品があったとしても、「なぜそのブランドを選ぶのか」という理由が異なれば、お客様の中で競合となりにくくなります。重要なのは、誰に、どんな場面で、どんな価値を約束するのかを明確にし、商品・売り場・コミュニケーションまで一貫させることです。

エースのブランドポートフォリオを示した図。文脈=バッグを使うシーンや目的を起点に、価値=買うべき理由をブランドごとに設計。具現化=表現する際に、最適なクリエイティブを選択している。

エースのブランドポートフォリオを示した図。文脈=バッグを使うシーンや目的を起点に、価値=買うべき理由をブランドごとに設計。具現化=表現する際に、最適なクリエイティブを選択している。

ブランドごとに「人格」を設計する

――ブランドごとの特徴などを、顧客に伝える必要がありますよね。たとえば広告クリエイティブはどのように設計しているのでしょう。

:私たちが重視しているのは、ブランドを「人格」として捉えることです。このブランドが人だったら、どんな価値観を持ち、どんな言葉を使い、どんな場面に立っているのか。そこまで具体化します。

この人格がブレてしまうと、短期的に話題になる表現はできても、長期的な信頼にはつながりません。

キャスティングやクリエイティブも同じ考え方です。知名度や話題性ではなく、ブランドが約束する価値を感情レベルで体現できるかが判断基準になります。これは販促ではなく、ブランドを育てるためのコミュニケーション設計だと考えています。

「ZERO HALLIBURTON」2026年春夏シーズンのクリエイティブ。アンバサダーにプロサッカー選手の三笘薫さんを継続して起用。イギリスのプロサッカーチームに所属し、国際的な舞台で挑戦し続ける三笘選手がブランドの世界観にマッチ。

「ZERO HALLIBURTON」2026年春夏シーズンのクリエイティブ。アンバサダーにプロサッカー選手の三笘薫さんを継続して起用。イギリスのプロサッカーチームに所属し、国際的な舞台で挑戦し続ける三笘選手がブランドの世界観にマッチ。

「PROTECA」は日本製である信頼性や耐久性、滑らかで静粛性に優れたキャスターといった機能的なディテールが特徴。「絶対的な安心感」を伝える人物として、野球の日本代表チーム監督も務めた栗山英樹さんを起用。

「PROTECA」は日本製である信頼性や耐久性、滑らかで静粛性に優れたキャスターといった機能的なディテールが特徴。「絶対的な安心感」を伝える人物として、野球の日本代表チーム監督も務めた栗山英樹さんを起用。

「マス」と「デジタル」の使い分け

――各ブランドを束ねる「エース」という企業のメッセージを発信するときはどのように考えるのでしょうか。創業85年を迎えた2025年にテレビCMを5年ぶりに再開しました。3月のCMでは芦田愛菜さんを起用されていますね。

:認知の入り口として最も強いのはカンパニーブランドです。そのため、テレビCMなどのマスコミュニケーションでは、「エース」という名前を通じて、信頼感や安心感を広く届けることを重視しています。エースは特定の年齢や属性に限定せず、老若男女すべての人に開かれたブランドでありたいと考えています。その思いをイメージできる人物として、芦田愛菜さんにお願いしました。カンパニーブランドの信頼があるからこそ、プロダクトブランドの専門性や個性が理解されやすくなる。この関係性を意識して、全体のコミュニケーションを設計しています。

また、「マス」と「デジタル」の役割は明確です。マス広告は「認知と想起」、デジタルは「理解と後押し」です。バッグは頻繁に買う商品ではありませんので、まずは認知していただくことが重要です。認知いただき、検討が始まったときに思い出してもらえる状態をつくりたい。

一方で、検討段階に入ったお客様には、デジタルで具体的な商品情報やキャンペーンなどの情報を届け、意思決定を後押しします。どちらか一方ではなく、お客様の検討プロセス全体を通して役割を分担させることが重要です。

機能価値を支える「エースラボ」

――「ace.」ブランドの、特にビジネスバッグではクリエイティブに人物を起用していませんね。

:「ace.」の特徴は「高機能」であることです。バッグづくりのノウハウや科学的な検証が活かされた機能価値を伝えることが最適と判断しています。よって、イメージキャラクターを立てるよりも商品を際立たせています。

「ace.」は商品にフォーカスし、高い機能性をもつ商品の特徴が伝わるようなクリエイティブを展開している。

「ace.」は商品にフォーカスし、高い機能性をもつ商品の特徴が伝わるようなクリエイティブを展開している。

弊社には「エースラボ」という研究開発部門がありますが、たとえば荷重や摩擦、身体への負荷などを数値で計測しています。感覚ではなくエビデンスに基づいて開発することで、「なぜ使いやすいのか」を説明できる商品づくりを行っています。

新しい事例としては、お客様の体型を計測し、ショルダーハーネスの長さや位置を調整することで、リュックを背負った時の肩や腰の負担を軽減し、快適な使い心地を実現するといった取り組みを始めています。

体型、体格が異なる男性モニターの計測データを元に独自開発した4種類の「4Uハーネス」。ace.のビジネスリュック「ガジェタブルDP2 4U」に採用し、購入時に4種類のハーネスから選ぶことができる。

体型、体格が異なる男性モニターの計測データを元に独自開発した4種類の「4Uハーネス」。ace.のビジネスリュック「ガジェタブルDP2 4U」に採用し、購入時に4種類のハーネスから選ぶことができる。

機能的な裏付けがあるからこそ、情緒的な価値も信頼を持って受け取っていただける。機能と情緒は対立するものではなく、互いを支え合う関係だと考えています。

これからのブランドづくりに必要なこと

――2026年春に向けた新しいCMでは元卓球選手の石川佳純さんを起用されています。どのようなメッセージを伝えたいか、意図をお聞かせください。

:2025年3月のCM「希望を詰め込んで。」編では、「日常も、非日常も、人生いつも。」というメッセージでしたが、今回は「Well-Moving 移動を快適に」という2026年から新たに制定したコーポレートミッションをそのまま使用しました。

石川佳純_2026年3月から公開されたエース企業CM。エースが培ってきた信頼感と、未来へ向かう姿勢を象徴的に伝える構成を想定している。

2026年3月から展開されているエース企業CM。エースが培ってきた信頼感と、未来へ向かう姿勢を象徴的に伝える構成を想定している。

私たちはモノを運ぶための道具ではなく、人生の節目や日常の中で、人が次の一歩を踏み出すとき、そのそばにある存在でありたい。そして快適な移動を助けるものでありたい。その姿勢を伝えることは変わらない軸になります。

情報があふれる時代だからこそ、人々の移動や行動にひとつひとつ寄り添っていく。その中で重要になるのは、丁寧に判断し、想いを具現化し、やり切ることではないでしょうか。

“選ばれ続けるブランド”とは

エースの多ブランド戦略は、ブランドを増やすこと自体を目的としたものではありません。生活の中で起こる様々なシーンに登場する存在を目指し、必要な価値を丁寧に積み重ねてきた結果、複数のブランドが形づくられてきました。重要なのは、顧客を細かく分けることではなく、顧客がどのような場面で、どのような価値を求めているのかを深く理解することです。エースの取り組みは、“選ばれ続けるブランド”をつくるためのヒントを示しています。

取材・文:桑原勲
取材撮影(ポートレート):INFOTO 

この記事も読まれています
相鉄グループ|「安全×安心×エレガント」で企業価値を高めるデザインとは
アドビ|生成AIで広がる「誰もがクリエイター」を現実に
「ギャル式ブレスト®︎」で会議が変わる:固定観念を超えて“一次感情”を起点にする発想法とは?
パルコ|クリエイティブは時代を写す──クリエイターは「共創」パートナー

banner_mailmagazine.jpg

banner_Inquiry.jpg

SOLUTION

amana BRANDING

amana BRANDING

戦略に基づいたブランディングと最先端のクリエイティブで企業の課題を解決

共感や信頼を通して顧客にとっての価値を高めていく「企業ブランディング」、時代に合わせてブランドを見直していく「リブランディング」、組織力をあげるための「インナーブランディング」、ブランドの魅力をショップや展示会で演出する「空間ブランディング」、地域の魅力を引き出し継続的に成長をサポートする「地域ブランディング」など、幅広いブランディングに対応しています。

KEYWORD キーワード

KEYWORDキーワード

本サイトではユーザーの利便性向上のためCookieを使用してサービスを提供しています。詳しくはCookieポリシーをご覧ください。

閉じる