本記事は企業の広告・ブランド担当者に役立つ本から、気になる一節を数回に分けてご紹介する連載です。読みながら、その本の“考え方”に少しずつ触れていただけます。
デザインは、見た目を整えることなのか。
〜本コンテンツは、書籍『デザインをつくる イメージをつくる ブランドをつくる』(工藤青石著・宣伝会議刊)から一部を抜粋・編集したものです(この記事は第1回/全3回)。
No.2:ブランドのイメージは、なぜ思った通りに伝わらないのか——イメージがズレる理由、揃う理由(3月12日公開予定)
No.3:なぜ、強いブランドほど「言葉」を設計しているのか——いいネーミング、ダメなネーミングの決定的な違い(3月13日公開予定)
デザインという言葉がさまざまに使われ始めてから久しく経ちます。グラフィックデザイン、ウェブデザイン、プロダクトデザイン、スペースデザイン、インテリアデザイン、ゲームデザイン、CGデザイン、UXデザイン……。世の中は種々のデザインで溢れ、昨今ではどんな単語も後ろに〝デザイン〟の言葉をつければ、デザインの範疇として認められそうな感さえあります。
それだけデザインが暮らしの中に浸透し、身近になったと考えることもできますが、一方でそうした現状が「デザインとは一体何なのか?」という根幹を見えづらくしているような気がしてなりません。物事は、複雑化してわかりづらくなるほど、真理や本質から離れていきます。なぜなら本質的な事柄は常にシンプルだからです。
デザインとはどのようなことだろう?
仕事を始めた頃、そのことをあらためて考えていました。それは美術大学でデザイン科に在籍しながらいわゆるデザイン教育的なことにほとんど触れないまま、資生堂に入社。そこでデザインの仕事を始めることになったためではないかと思います。
当時の東京藝術大学デザイン科は、デザインの知識や技術は仕事を始めてから習得すればよいのであって、もっと基礎的な造形や色彩に関する感覚を磨くことが優先的なことである、という方針だったように思います。毎日絵を描くとか木を削るとか金属を溶接するとか、そんなことばかりを行っていましたし、私自身そのことに集中していました。
またどのような素材や手法が自分に合うのか?どのような表現が自分の表現となり得るのか?そんなことばかりを考え、自分の手を使ってその都度の素材や技法に朝から晩まで対峙していた時間でした。
資生堂にパッケージデザイナーとして採用され入社した際は、もちろん資生堂は化粧品会社と知っていましたが、化粧品に特別に興味があったわけでもなく、パッケージデザインというカテゴリーに対してもそうでした。ただ美術に向かおうと考えた頃から立体的なものに興味を持っていたので、化粧品の容器という立体的なものを扱うこと、また白い色や透明な素材が生理的に好きであったことも、この仕事に向かうことを違和感なく受け入れられた理由として大きいかもしれないと思います。
初めは与えられたテーマに対して自分の中にある考えをどのように添わせるか?というように発想していました。そうしないと自分がデザインをする意味がないと考えていたからです。ですが結果は何か狭い視点のデザインとなってしまい、多くの人には受け入れられませんでした。それを解消するために、求められる条件を満たすのはどのようなものかと考えるようになりました。それによってある程度受け入れられるものになっていきましたが、今度はこれは自分のデザインなのか?という疑問が自分の中に生じ始めました。
というように自分、デザイン、仕事ということがどのように成り立ち得るのかの葛藤が続きました。また当時の会社は、パッケージ制作、広告制作、店舗制作と部署が分かれており、それぞれの範囲の仕事をリレー方式で行っていました。
一つのテーマであっても、それをデザインする人が変われば捉え方や印象は大きく変化します。テーマが一貫していれば問題ないというのは机上の空論で、デザインをする、何かを形にするということは否応なくそれを行う人に依存してしまうため人が変わればすべてが変わるのが当然です。
私は担当した商品のイメージが広告や店頭において、もともと商品にこめたものからどんどん変化していくことに対してとても悲観的でした。なぜならばそれを受け取る人が結果的に複雑なメッセージを受け取ることとなり、ひいては大元の商品自体のメッセージが伝わりづらくなると感じたからです。
そのために初めはパッケージのデザインからスタートしましたが、ビジュアル、空間、店舗というように仕事の範囲を広げていきました。またそれに付随するプロデュースも行うようになっていきました。それらはすべて商品を最も明快にシンプルにそれを受け取る人に届けたいという思いによるものです。いつの間にか私にとってデザインをするということは、そのようなことも含まれるようになっていきました。
では、あらためてデザインとは何か?
「ものこと」を、結果として美しくすること。
それが「デザインする」ことだと私は定義づけたいと考えます。
どのようなものであってもより美しいことが望まれます。人は本能的にそれを望んでいます。しかし、人がものをつくる上でそれが美しくなることは容易ではありません。強く意識し、注意深くつくり上げる必要があります。
美とは、形ある物質だけに存在するとは限りません。例えば、プロジェクトがうまく機能して集客や売り上げにつながったり、長く継続できたりすれば、それは美しい結果であり、デザインされたプロジェクトと言えます。逆に、頓挫したプロジェクトは、たとえどんなに人の手が加わっていても、結局はデザインしていないのと同じです。
「ものこと」に美を付帯させることがデザイナーの命題です。もちろんそこにはクライアントのニーズがあり、デザイナーはクライアントのニーズをもとに仕事を始めます。どんなニーズであれ、結果は美しいほうがいいに決まっています。仮に目新しいものをつくり、売れることがクライアントのニーズだからといって、それだけを考えてデザインしていては美しさには近づけません。
デザイナーはまず、ニーズを叶えるために適正な方針を考え、そのテーマに沿って美しいものをつくる。それがクライアントのあらゆるニーズに対して最善の価値、最善の結果をもたらすという目標に、より近づくことができる一番の方法ではないかと私は思います。
(この記事は第1回/全3回)
No.2:ブランドのイメージは、なぜ思った通りに伝わらないのか——イメージがズレる理由、揃う理由(3月12日公開予定)
No.3:なぜ、強いブランドほど「言葉」を設計しているのか——いいネーミング、ダメなネーミングの決定的な違い(3月13日公開予定)
▼書籍紹介
資生堂でのパッケージデザインやブランドディレクションを経て、イプサのクリエイティブディレクターを務める著者が、ブランドづくりに向き合うためのデザイン思考を実践的に整理した一冊です。デザインの本質から、イメージ形成、言葉の設計まで、具体的事例を通して考え方を学べます。
▼書籍情報
書名:デザインをつくる イメージをつくる ブランドをつくる
著者:工藤青石
出版社:宣伝会議
発売日:2025年3月17日
リンク:https://www.sendenkaigi.com/creative/books/zpz1gqkga/
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