本記事は企業の広告・ブランド担当者に役立つ本から、気になる一節を数回に分けてご紹介する連載です。読みながら、その本の“考え方”に少しずつ触れていただけます。
強いブランドには、必ず意図された「言葉」があります。ネーミングやコンセプトワードは、感覚的に決められているのではなく、デザインの一部として設計されています。最終回となる第3回では、言葉をどのようにロジックとして組み立てるのか。いいネーミングとダメなネーミングを左右する考え方を紹介します。
〜本コンテンツは、書籍『デザインをつくる イメージをつくる ブランドをつくる』(工藤青石著・宣伝会議刊)から一部を抜粋・編集したものです(この記事は第3回/全3回)。
No.1:なぜ、いま「デザインとは何か」を問い直すのか――成果につながるデザイン、つながらないデザインの違い
No.2:ブランドのイメージは、なぜ思った通りに伝わらないのか――イメージがズレる理由、揃う理由
クリエイティブの仕事は、通常、分業で行います。それは、それぞれの領域でも高度な専門性が必要とされるからです。クリエイティブディレクターやアートディレクター、デザイナー、フォトグラファー、コピーライターなど、案件の目的に応じて各分野の専門家が集結し、チームで成果物をつくり上げるケースが一般的です。
私の専門はディレクションとデザインですが、いつの頃からか、言葉とデザインを切り離すことは難しいと考えるようになりました。デザインの思考活動の中に言葉と直結している領域があり、その範囲においてデザインについて考える時、必然的に言葉が付随するのです。平たく言えば、自分の中に「デザインを言葉でつくる」プロセスがあるということです。
もちろん私は文章を書く専門家ではないので、私がつくる文章やフレーズは、コピーライターのそれとは異なるレイヤーの言葉です。キャッチコピーともコンセプトワードともキーワードとも違う、デザイン要素の一つとしての言葉であり、デザインを形づくる色や形と同じマテリアルの一つとして並列していると言ってよいでしょう。
テーマに対し、最適な色や形は何かを考えるのと同じように、最適な言葉は何かを考える。それは、ビジュアライズされる前段階の、表現として表出するための言葉です。その言葉は私の中でイメージの一角を担い、イメージを具現化して表現へと導く重要な役割を果たしています。
では、いくつか事例を挙げて説明しましょう。
資生堂の男性向けスキンケアブランド「SHISEIDO MEN(シセイドウ・メン)」は、2003年の発売以来、世界各国で販売されているグローバルSHISEIDOブランドの一つです。一般的に商品ラインのブランド名は、「ウーノ」「エリクシール」「マキアージュ」のように、SHISEIDOとは異なる名称をつけるのが通例です。SHISEIDOは資生堂の商品を総括するブランド名であり、商品ラインのネーミングはその一つ下のレイヤーに位置づけられるためです。つまり、SHISEIDOの名をそのまま冠した「シセイドウ・メン」は、商品ラインのブランド名としては特殊な成り立ちと言えます。
では、なぜこの名前になったのか?その説明をする前に、まずプロジェクトの背景について簡単に触れておきたいと思います。
「シセイドウ・メン」のプロジェクトは、当時の社長・池田守男氏からのトップダウンでスタートしました。その頃の資生堂は、「ウーノ」など若い男性向けのカジュアルなブランドはありましたが、高級なメンズラインはありませんでした。池田社長は拡大しつつあった男性用化粧品のグローバル市場を見据え、その中でプレステージブランドのポジションを狙える商品を早急に開発する必要があると考えたのです。
本来、資生堂の商品開発プロジェクトは年間計画に基づいて行われ、研究所の開発もその計画に紐づいているため、突発的にプロジェクトが発足することはまずありません。その点、このプロジェクトは異例であり、チーム編成や進行もイレギュラーでした。プロジェクトメンバーは、全体を統括するリーダーと、商品開発担当が2人、デザイナーが私を含め2人、PR担当が1人で、わずか6人。
進行も通常であれば、初めに企画開発セクションがコンセプトを練り上げ、ブランド名を熟考し、デザインセクションはその提案を受けてどうビジュアライズするかを考えます。しかしこの時は短期間で開発しなければならないという事情から、企画開発とデザインが並行して進められました。そのためデザイナーは、普段はほとんど関与しないネーミングも企画開発と連携して一緒に行うことになったのです。
まずブランド名にはどういう役割があるのかを考えることから始めました。ブランドは、毎年新しいものがどんどん世の中に出ている一方で、なくなってしまうものも沢山あります。むしろなくなる確率のほうが圧倒的に高く、何十年と続いているブランドはごく一握りに過ぎません。
しかしどんな商品も、発売に至るまでには途轍もなく沢山の人たちが関わり、膨大な時間と労力を注いで生み出されています。できる限り息の長いブランドに育てたいと思うのは、商品に関わった者の立場からすれば当然のことです。では、なくならないようにするにはどういうブランド名にすればいいのか?これを一つ目の要件に設定しました。
商品やブランドがなくなるのは、必ずしも売り上げ不振だけが理由ではありません。いろいろ事情はあるにせよ、要はその企業に続けたいという意志があるか、ないかだと思うのです。それであれば、その企業が簡単にやめられないような名前にすればいいのです。この〝廃止しづらいブランド名〟という視点は、マーケティングやリサーチで収集した情報を踏まえてコンセプトやネーミングを考える商品開発セクションには、おそらくないものだったと思います。
そしてもう一つ、私が要件に設定したのは、グローバルに展開するブランドとしてどのような名前がいいのか。資生堂の商品は、日本の市場向けとグローバル市場向けとで分かれているので、海外で販売される資生堂のメンズブランドにふさわしい名前であることも重要でした。
資生堂のメンズコスメブランドは、1960年代に発売された「MG5」をはじめ「アウスレーゼ」「ウーノ」などいくつかあります。いずれも現在まで存続しているロングセラーではありますが、世代の壁を超えることは難しく、ブランドの弱体化は否めません。その課題にチャレンジすべく、グローバル市場で長く生き残り、しかも時代を経てもブランド力が弱まらないようにするにはどのような名前がいいのか考えました。
資生堂という企業のイメージは、女性と男性のどちらかと言えば、間違いなく女性です。つまり、資生堂=女性という揺るぎないロジックがあり、男性はその対極の存在です。それならば、資生堂を象徴する女性に男性を対峙させ、オポジット(対極)な関係に位置づければメンズブランドとして成立するのではないか?グローバル展開することを考えても、ゼロから構築するよりは、すでに認知されている資生堂というブランドや、資生堂=女性というイメージとの関係性において男性ものが存在するほうが、コミュニケーション効率は格段にいいはずです。
グローバルSHISEIDOの商品は、ほぼすべて女性用で、どのラインもブランド名はSHISEIDOで統一されています。これはその男性版なので「SHISEIDO MEN」。menやhommeをつけるのは、ファッションではよくあるネーミングです。非常にシンプルですが、SHISEIDOの名を堂々と背負わせることにより、会社にとって廃止させづらい存在に仕立てることができ、消費者に対しても資生堂を代表するメンズラインとして訴求する効果があると考えたのです。通常はコンセプトに則りネーミングや容器のデザインを考えるケースが多いのですが、この時は「シセイドウ・メン」の言葉が発するものに導かれ、容器のデザインを探り当てていきました。
言葉へのこうしたアプローチは、私にとってはネーミングではなく、デザインの一つです。なぜなら、自分なりのロジックに基づいているからです。色や形を伴うものは世の中にいくらでも存在しますが、それらがすべてデザインかといえば、そうではありません。では何を以てデザインと捉えるかというと、私はそこにロジックがあるか否かが一つの要素だと思っています。デザインとはロジカルに構築されるものであり、思考を一つひとつ積み重ねて最適な言葉を導き出す行為は、まさにデザインのプロセスと同じです。
幸いにして「シセイドウ・メン」は発売から20年間、アップデートしながら時代の主流の中で生き残ってきました。この先も同じようなポジションで存在していてくれたなら、私の意図したことはひとまず成功したと言えるのかもしれません。
(この記事は第3回/全3回)
No.1:なぜ、いま「デザインとは何か」を問い直すのか――成果につながるデザイン、つながらないデザインの違い
No.2:ブランドのイメージは、なぜ思った通りに伝わらないのか――イメージがズレる理由、揃う理由
▼書籍紹介
資生堂でのパッケージデザインやブランドディレクションを経て、イプサのクリエイティブディレクターを務める著者が、ブランドづくりに向き合うためのデザイン思考を実践的に整理した一冊です。デザインの本質から、イメージ形成、言葉の設計まで、具体的事例を通して考え方を学べます。
▼書籍情報
書名:デザインをつくる イメージをつくる ブランドをつくる
著者:工藤青石
出版社:宣伝会議
発売日:2025年3月17日
リンク:https://www.sendenkaigi.com/creative/books/zpz1gqkga/
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