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2017年末に突然舞い込んできた、『WIRED』日本版・編集長若林恵さんの退任と休刊(プリント版)のニュース。誌面で展開される独自の視点と鋭い洞察力にファンも多く、存続を望む声も多数聞かれました。
そうして数々のメディアが生まれては消えていくなかで、テレビ、新聞、雑誌、ウェブマガジン、オウンドメディアと、これまでメディアは時代の要請に応じて、姿形を変えて私たちのもとに届いてきました。いまではSNSを含めたウェブメディアが強い影響力を持っていますが、「社会性を持たないメディアに未来はない」と若林さんは語ります。メディアにおける社会性とはいったい何なのでしょうか。トークイベントでは以下の事前インタビューを踏まえて、若林さんとその答えを探っていきます。
当日はトーク中にリアルタイムでTwitterから質問を受け付けます。普段なかなか聞けない質問を若林さんに答えていただくチャンスですので、ぜひご参加ください。
―『WIRED』日本版お疲れさまでした。なぜ退任することに? 今後『WIRED』はどうなるの?と疑問を持っている方々も少なくないと思うのですが、その話はイベントで触れていただくとして、今回はメディア論についてお伺いできればと思います。
若林 恵(編集者、『WIRED』日本版・元編集長/以下:若林):その話、当日話すの?話してもいいけど、大して実のある話にはまずならないよ(笑)。
―話せる範囲で結構ですのでお願いします(笑)。今回のテーマは「メディア論」ということで、雑誌の影響力が強かった時代から見てみると、いまでは多くのフォーマットに細分化されました。『WIRED』でも、プリントとウェブで展開されてきましたが、両者の違いって何なんでしょうか?
若林:えーと。まぁ、それをずっと考えながらやってきたわけなんですが、最近ちょっと思ったのは、いわゆる「出版モデル」ってものと「電波モデル」の違いってことでして。出版って基本メーカーなんで生産供給量の設定っていうのが最初にあるんですよ。刷り部数5万部の雑誌だったら、基本その5万人を見てればいいわけです。
一方でラジオ、テレビとかの電波モデルって、これ、まずコンテンツに対して課金ができないシステムだったので、原理的にみんなに届いちゃうわけですよ。そのなかからどれだけのパーセンテージを取れるかっていうのがここでの勝負のキモなわけですよね。ウェブでいう「リーチ」って言葉は、この電波モデルの考え方から来てるんだろうと思うわけなんですが、このふたつってまったくビジネスの成り立ちもモデルも違うものなんですよね。
いわゆる出版モデルが扱っているのが「コンテンツ価値」っていうものだとすると、後者が扱ってるのって「広告価値」なんですよ。リーチが取れるっていうのは「広告価値」が高いってことになるとは思うんですが、逆にそのことによって当然コンテンツ価値は下がるわけです。タダで誰もが見れたり読めたり聞いたりするわけですから。「情報はタダになりたがる」ってセリフ、誰が言ったのかよく知らないですけど、実感としてそう思ったこと一回もないんですよね。それって本当に当ってるんですかね?(笑)
ところが、広告の場合はこれが正当化されるんですよ。ただ、それにしたってタダになりたがってるのかは怪しい気もして。タダにするしか方法がなかったっていうのが電波情報ってものなので、仕方なくそうせざるをえなかったって話かもしれないんですが。
で、要は、ウェブメディアっていうのはいったいどっちなんだっけ?っていう話なんですよね。現状、出版の原理を電波の原理に接ぎ木しようって感じに見えてますけど、まぁ、普通に考えて、それうまくいかないですよね。そもそも相矛盾している価値軸をアラインさせようっていう話なので。
今後どうなるかはわからないですけど、刷り部数っていう概念を、ちゃんとネット内においてつくれないとこの矛盾は解消しない気がするんですが。そもそもプリントはせいぜい5万人とか10万人を相手にやってる商売でしかないんですよ。それが、ウェブになった途端、必然的に全国民が視野に入ってきちゃって数千万とか億みたい数字が飛び交う。これ出版の人間からするとそもそも意味不明な話なんですよ。
―ということは、逆にウェブメディアは、まだ別の可能性がありうるということなのでしょうか。
若林:どうでしょうね。広告に依存しているうちは同じロジックのなかをぐるぐるしちゃうことになると思うので、そのなかで新しいプロダクト性みたいなことをつくれるかどうかってことなんですかねぇ。ブロックチェーンが一般化するとそういうことも可能になるのかなぁ。どうだろう。
若林:それとはまた別の話として、「メディアブランドの価値」っていうものをどういうふうに上げていくことができるのか考えたときに、そのブランドがどれだけ「社会性」を持つかが重要だってあるとき気付いたんですよ。それ、電車で吊り広告を眺めてたときに気付いたんですが、吊り広告って、赤の他人が見てる情報を自分も見てるっていうことがとても重要なんですよ。
情報って、実は一対一での授受の関係ではなくて、そのあいだに社会とか世間とかいう第三項が常に関与してるんですよね。そこを睨みながら、いま自分が見てる情報の相場観が決定されるんですよ。そこでふと思ったのが、これってお金そのものじゃないかと。
―どういうことでしょう?
若林:お金のメカニズムって、岩井克人先生の言葉を使うと「自己循環論法」になっていて、ある通貨が流通するのって、みんなが1万円が1万円であることを信じているから流通するということなんですよね。なので、僕があなたに1万円渡したときに、あなたが受け取るのは、あなたがある未来において「他の誰か」がそれを1万円として受け取るっていうことを信じているからですよね。つまり、一対一のコミュニケーションって、その第三者がいないと成立しないっていう逆説があるんだと思うんですよ。
で、ウェブの情報ってのは、そういう意味でいうと社会性を持ちづらいんだと思うんですよ。つまり「ネットでバズってましたね」っていうような話って、ある閉じたサークルでの共有物にしかならないじゃないですか。「社会化」しないんですよ。なんかデッドエンドなんですよね。ところが街の中をロボットレストランのトラックが走り回ったりしてるのって、存在としてはるかに「社会化」するんですよね。これ、ネットの難しさなんですよ。読む人数が増えたところで社会的なものにならない。
―昨今、メディアが乱立するなかで、企業が運営するオウンドメディアも増えてきています。
若林:うん。そうなんですよね。オウンドメディアってのはただでさえ社会性を持ちにくい環境のなかで、しかも私企業がPRや宣伝のためにつくるものなので、これ二重に苦しいもんなんですよね。自分の会社のブランドを社会的なものにしたいと思って皆さんおやりになるんだと思うんですけど、よくてスーパーのチラシのような機能しか果たせないんですよ。必要な人に情報を届ける役には立つけれども、メディアにはらないんですよね。
―なぜですかね。
若林:うーん。まぁ、さっきの話に即していうと情報の「広告価値」と「コンテンツ価値」っていうものを履き違えるからでしょうね。
―オウンドメディアが繁茂する一方で、出版社や企業がリアルプレイスでイベントをすることも増えてきていますね。
若林:去年、『WIRED』で「WIRED Real World」という、海外のイノベーション最先端の現場をめぐる旅のプログラムをやってたんですけど、これは参加するお客さんもまたおもしろかったりして、結構よかったんですよね。基本僕らの仕事って、情報発信をして、それがなんらかのアクションにつながることを期待してたりするわけなんですが、実際のアクションにより近いところにまでお客さんを連れて行けないかなと思ったのが始まりだったんです。で、実際にツアーをやってみたら、彼らのあいだでプロジェクトが生まれたりして、それが思ってたよりはるかにうまくいったんですよね。
いうなれば一種のインキュベーションプログラムなわけなんですが、ただ、そこでも僕らとしては、あくまでもそれを「コンテンツ」として設計することにこだわったんです。つまり、あくまでもメディアコンテンツの延長なんですよ。みんなで一緒に取材に行くみたいなことなんですけど、僕らは一応は取材のプロなので、何の、どこにコンテンツとしてのおもしろさがあるのかを探すことに関しては一日の長があるんです。それをお客さんと共有するだけで、単なる視察に、もう少しアクチュアリティを与えることができたりするんです。
ものごとからコンテンツとしての価値を取り出すってことは、みんなできるつもりなんですけど、ほとんどできないんですよ。だから情報の価値を数値化しやすい広告価値でしか測れない。オウンドメディアがつまらないと感じてしまうのは、そう考えると当たり前だと思うんですけどね。それ以前に、オーダーする側と実制作する側のどこにモチベーションがあるのか、って話もありますしね。
まだまだ興味深い話は続きますが、今回はここまで。メディアに対する膠着した見方から脱却することで、従来とはまったく違ったメディアの活用メソッドが見えてきそうです。トークイベントでは、ここでは書き記せなかった内容やメディアが生き抜いていくための方法論について、若林さんにさらに深掘りしていただきます。奮ってご参加ください。
住所:〒140-0002 東京都品川区東品川2-2-43
TEL:03-3740-4011 (代表)
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りんかい線:天王洲アイル駅より
改札を出て品川埠頭入口交差点を左(新東海橋方面)へ。 ボンドストリートを右折。徒歩5分。
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