vol.23
パブリックスペースでコトを生み出すために必要ないくつかのこと
道路や公園、駅、広場、空地など、街なかにあるパブリックスペース(公共空間)は、活用法ひとつで大きな変貌を遂げる都市のフロンティア。とはいえ、そこにはさまざまな規制や課題が立ちはだかります。いかにしてフロンティアを開拓していけばいいのか、パプリックスペースに特化したメディアプラットフォーム「ソトノバ」の編集長・泉山塁威さんをお招きし、これまで行ってきた社会実験の実例やデータ、世界のパブリックスペース活用事情をもとに語っていただきました。
泉山塁威(タクティカルアーバニスト、都市戦術家/以下、泉山):私は空間をつくることよりも、使うことに関心を持っていて、タクティカルアーバニスト、都市戦術家としてパブリックスペースの運営や調査分析を行っています。
まず、編集長を務めるメディアプラットフォーム「ソトノバ」をご紹介させていただきます。「ソトを居場所に、イイバショに!」をスローガンにして活動するメディアで、「ソトノバTABLE」という座談会や実践的なプロジェクト、「ソトノバ・アワード」の表彰など、最近は活動が多岐にわたります。
外、つまり屋外の多くは「公共空間」です。私はそうした空間をあえて「パブリックスペース」と呼ぶようにしています。道路や公園など、パブリックスペースは多岐にわたりますが、ユーザー目線に立つと、そこが行政管轄で公共のものであるかどうかはあまり問題ではありません。
屋外空間は街の個性を表現したり、行政や企業がプロジェクトを行うための拠点となったりすることが多く、街づくりにおいて重要です。こうした屋外の空間を管轄の境なく有効に利用することを私は目指しています。
泉山:パブリックスペースの公共性を考えるうえで「パブリックライフ(都市生活)」を理解する必要があります。多くの人は家で生活をしていると思いますが、それとは別に学校や職場、買い物先など足を運んで時間を過ごす場所があります。そうした家や職場以外での豊かな生活を「パブリックライフ」と呼んでいます。
家や職場以外で、都市のなかに生活を豊かにするような場所が増えれば、さまざまなアクティビティが生まれてきます。人が訪れて滞留することで、経済活動が起こり、街全体の価値が高まることにつながる可能性があります。
とはいえ、よく勘違いされてしまうのですが「パブリックライフ」は「イベント」や「賑わい」とは異なります。一時的に人を集めるイベントのもたらす効果もたしかに重要なのですが、都市において365日のうち、1〜2日程度の影響にとどまってしまっては本質的に都市を変えることにはつながりません。日常的に人がとどまるパブリックライフは、1年中絶えず都市に影響を与え続けます。イベントの開催をしながらも、日ごろから屋外のスペースをいかに使うかを考えることがパブリックスペースを形成するうえで欠かせないのです。
たとえば、ニューヨーク・マンハッタンにあるブライアントパークという公園が私の理想とするパブリックスペースのひとつのかたちです。そこでは人が昼寝をしたり、会話をしたり、読書をしたりと多様なアクティビティが行われています。
たとえば、ビアガーデンなどのようなイベントでは、飲み食いをするという目的を持った人々がたくさん訪れますが、目的を果たすと短時間の滞在の後去ってしまいます。ブライアントパークのように多様な目的で過ごすことができるスペースでは、ふらっと訪れた人々が第一のアクティビティをして、第二のアクティビティに移り、長く滞留する傾向にあります。読書をしに訪れた人が、近くの人とおしゃべりを始めたり、昼寝をしたりしますよね。さらに、ブライアントパークのような公園には一度訪れた人が向上的に足を運ぶことも期待できます。
日本にもたくさんのパブリックスペースが存在していますが、ブライアントパークのような空間をつくろうとしても第一段階で「規制」という障壁に阻まれます。小泉政権以降、道路や公園、河川、公開空地など、パブリックスペース活用の規制が徐々に緩和され活用幅は柔軟になってはきましたが、まだ課題は多くあります。
タジリケイスケ(「H」編集長/以下、タジリ):たしかに、われわれがイベントを開催する際にも、規制の厳しさを感じることがあります。パブリックスペースの利用が日本では厳しく規制されているのには特別な理由があるのでしょうか?
泉山:日本にはパブリックスペースにおける3つの黒歴史があるのではないかと思います。まずは戦後の闇市撤廃です。路上で商売が行われていましたが、行政が道路や公園から私権を制限していきました。
次に、学生運動が盛んになり、人々が広場で集会を開くようになりました。これが社会問題になり、行政が改善に乗り出します。具体的には、集会を規制するために、西口地下“広場”という名前だった新宿駅の地下空間は西口地下“通路”に変わりました。道路は広場ではなく、道であるとして、基本的に止まってはいけないというものになり、広場という概念が日本から消えました。
そして、バンドブームなど原宿の歩行者天国で若者のパフォーマンスが流行ると、交通渋滞と騒音を理由に規制され、最終的に廃止されました。いま、歩行者天国でイベントやパフォーマンスが行われていないのも実はこういった経験があるのではないかと思います。こうした背景によって、日本ではパブリックスペースへの規制が厳しくなったと私は考えています。
タジリ:小泉政権以降、緩和がされるようになったのはなぜですか?
泉山:いま、「PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ:公民連携)まちづくり」と言われるような政策の素地である「官民連携まちづくり」を小泉政権が始めたことにあります。バブル以降に経済が停滞し、都市の活力を上げていかなければいけないという危機感があった一方で、人口減少が間近に迫り、税収も下がっていた当時、何か変化を求める機運がありました。行政が持て余していたパブリックスペースを、民間との協力で有効活用しようという思想がここから生まれことで、規制緩和が進んだ大きな要因でした。
泉山:「公共性」という言葉はよく「パブリック」と訳されますが、実は同じ英語圏のイギリスとアメリカでも捉え方が異なります。たとえば「パブリックスクール(公立学校)」というとイギリスとアメリカで差があり、イギリスでは貴族や富裕層が市民のために開く学校を指しますが、アメリカでは行政が開く学校のことを指します。つまり「公共性」には“Official”と“Open”と“Common”の3つの意味が含まれているのです。
現在日本で起きているパブリックスペースの変化では、行政から民間に開かれていく動きと、民間が持っている土地や場所を公共に開いていくという双方向の動きが同時に起きていると思います。
連携していくなかで行政と民間の関係が曖昧になってきていますが、根本は違うと思っています。パブリックスペースには、市民や利用者が税金を支払う対価として都市で生活できるサービスを享受させるという目的があります。たとえば、道路は当たり前のように存在しますが、これを行政ではなく民間がつくれば、誰もが自由に立ち入ることができなくなります。すると建築や人の移動などができなくなってしまうので、道路は公共のものである必要があります。一方で銀座のソニービル跡地の建設現場に現れた「ソニーパーク」のように、民間企業も土地の暫定利用や広場のテストマーケティング調査などの目的を持って公共の場を設けるようになりました。
泉山:パブリックスペース界隈ではいま、「社会実験」がブームです。通常規制されている路上での出店を試験的に行うといったような、普段できないようなプロジェクトに実験として一次的に挑戦してデータを集め、将来的なまちづくりや行政政策などに反映することを目指す試みです。
日本各地で社会実験は行われており、仮説を検証する目的のもとに行われます。これまでのまちづくりプロジェクトは課題解決型で整備することが多く、参加主体が限られており、ブラックボックスのなかですべてが進行します。たとえば、いきなり「道路整備しましょう」と言ってもそのデザインが本当に人に使われるデザインどうかは検証されませんでした。だからその計画のビジョンの確かさには疑問が残ることもあり、失敗した事例もいくつかありました。そもそも不確実性の高い現代だからこそ、実験を経て、検証を重ねてから実行に移すことが大切だと思います。
実験的な部分でいうと「Tactical Urbanism(戦術的アーバニズム)」というのが有効です。アイデアを社会実験で短期的に検証する小さなサイクル(下部のスライドの右上の図)を回しながら、長期的な都市開発の大きなサイクルをゆっくりと動かしていくことが主流になりつつあります。
タジリ:現在、日本はそのサイクルのどの段階にありますか?
泉山:まだこのサイクルの重要性に気づいた段階で、実験を重ねているひとつ目のステージですね。次のステップに向けて、小さな社会実験を単なるお祭りに終始せずに、定量的にデータをしっかり取って検証し、次に活かさなければいけません。
泉山:アメリカ・サンフランシスコで道路空間に小さな公園をつくる「Park(ing)day」と「Parklet」というプロジェクトが話題になっています。学生がゲリラ的にコインパーキングスペースで行ったイベントが、口コミやメディアで拡大し、最終的に行政まで巻き込んだプロジェクトに発展した例です。
アメリカは路上駐車が多く、しばしば問題になっていました。道路は車のためのものですが、それ以前に人のためのものであるべきですよね。そこでカルフォルニア大学の学生がある行動を起こしました。コインパーキングで料金を払えば、駐車以外でも自由に使えると知ったその学生は、駐車スペースに芝生を敷いてくつろぎ始めたんです。
これがアメリカ中で注目を集め、全米にこのプロジェクトが伝播していきました。そこで、発起人の学生らはマニュアルを作成し、「Park(ing)day」をみんなのものとしました。こうしたオープンソース化によって、専門家以外でもこの運動を手軽に実践し、楽しむことができるようになったのです。そしていまや、9月の第三金曜日は「世界Park(ing)day」となっており、2017年に私が確認しただけでも世界30都市で行われています。
「Park(ing)day」は人々の心をつかみましたが、一つひとつは短期的なイベントにすぎないため、都市全体をよりよくしていきたいと考える行政としては、このムーブメントを長期的なプロジェクトに活かしたいと考えました。そうしてサンフランシスコ市は「Better Street Plan」を策定し、そのひとつに「Parklet」を位置づけました。
実験としてまずは3カ所の路上にウッドデッキなどの構造物を設営し、日常的に運営できるのか効果を検証しました。その結果、現在「Parklet」は審査がとおれば、カフェなどの店舗が合法的に道路上の一部を占有して活用できるようになりました。
タジリ:「Parklet」をお店が設置するメリットはどんなことなんですか?
泉山:「Parklet」は、おおよそ200〜300万円の予算で安全基準を満たした構造物を製作可能です。デザインはそれぞれの自由にできるので店舗と統一感を持たせることで広告塔としての効果を発揮します。また、「Parklet」内での商業活動は禁止されているのですが、テイクアウトしたものを自由に食べることはできるので、実質的にお店の席数を増やすことにもつながります。サンフランシスコには現在60程度の「Parklet」があるそうです。
他にも世界にはパブリックスペースの活用事例があります。オーストラリアではひとりの市民が立ち上がってポイントクックという街で始めた「Point Cook Pop-up Park」という活動が話題です。
メルボルン郊外のポイントクックでは移民の増加によって郊外開発が進み、家やマンションが多く建つようになりましたが、もともとの基盤があった街ではないためコミュニティや人のつながりがありませんでした。そこでスーザンさんという主婦が希薄だった住民同士のつながりやコミュニティを形成するために動きました。社会実験としてショッピングセンター敷地内の通りを公園化し、人が集まる場所をつくりました。
ひとりの始めた活動が、いまでは自治体や財団、公園を設置した付近のショッピグセンター(企業)を巻き込むまでに。協賛を取り込めるまでになったのは、市民のグループ化がうまくできていて、企業や自治体が応援したくなるような共感されるチームになっていたためです。たとえば、場所もショッピングセンター沿いの通りにすることで回遊率を高めるなど、双方にメリットがある仕組みをつくることで協力しやすい環境を整えることができました。
泉山:コトを起こす前段階の検証データを取るために、人の行動を調査する「アクティビティ調査」を行っています。今回は2017年に新宿で行った社会実験の例をご紹介します。新宿に限らず池袋、渋谷など都内の駅にはもう車で来る時代ではなくなっているので、都市の自動車交通量は下がってきています。そのため、都心の空いた車道空間を活用する需要は非常にあって、新宿伊勢丹の前の新宿通りの車道に「Parklet空間」を設置しました。このときはストーキングという手法で人々が周辺施設にどう回遊するのかを主眼におき、「Parklet」がどれくらいの経済効果をもたらしうるのかを調査しました。しつらえとしては、車道の一部にウッドデッキを設けてベンチを設置しています。調査して見えてきたのは、滞在時間ごとに人の行動が変わっているということでした。
新宿の路上にはベンチがひとつもありません。カフェは多いのですが、どこも満席なことが多いです。そんな街において「Parklet空間」は、待ち合わせ場所になったり、おしゃべりの場になったりとベンチの必要性があることがわかりました。新宿は世界一の乗降客数を誇る多くの人が訪れる場所である一方で、歩道が狭いのでベンチなどを置くスペースもありません。そのようなところに「Parklet空間」を置いた場合、どのような人がどう行動するかのデータがうまく取れた実験だったと思います。
タジリ:ひとつここで広告的視点を。先ほどの新宿でパブリックスペースを有効活用した事例について、行政からの出資によって成り立たたせることができたようですが、将来的にはメーカーやブランドの宣伝掲出を行うことで維持費を賄うなど、日本において「Parklet」のような取り組みが民間主導になることは考えられるのでしょうか?
泉山:難しいことがふたつあります。まず、そもそもサンフランシスコの「Parklet」では広告禁止が原則です。日本では神戸、大阪の御堂筋、名古屋、新宿の4カ所で「Parklet空間」を用いた社会実験が行われました。実験段階なので、本場のようにはまだルールが定められていない状況です。
タジリ:マネタイズ面と、市民第一の取り組みであることとのあいだでバランスを推し量っている途中なんですね。
泉山:もうひとつの問題は、行政発信がための民間管理や投資の点でしょう。サンフランシスコにおける「Parklet」では、行政は許可の仕組みを設けただけで、お金の出どころはカフェなどの各事業者なのです。維持・管理もカフェが責任を持って行います。
民間から起きた「Parklet」のムーブメントを行政が支援したり、都市計画に利用したりしたサンフランシスコ。しかし日本では行政が民間に働きかけ、参加を募っているので、プロジェクトは同じでも入口が違います。だからまだまだサンフランシスコのように「Parklet」を日本で広めるには課題が残っています。
スペースを共有し合う近隣のお店や企業同士の連携や住み分けがなされない限り、行政が規制を緩和し、機会を設けても有効なパブリックスペースの活用にはなりえません。
パブリックスペースに企業が直接関わっていくことは難しい場合が多く、いまのところ「まちづくりのため」というただし書きが必ず付随します。
パブリックスペースに企業が関わる方法として、次の構造をしっかりと頭に入れておく必要があります。まず、地権者という土地を保有する立場として行政あるいは企業がある。そして、その土地を活用するために運営をする組織があります。もちろん、地権者と運営組織が同一の場合も考えられます。
対象とする空間によりますが、たとえば道路などの場合、いち企業が運営者になることは困難です。だから、商店街などのエリアマネジメント組織と連携しながら、企業はプレーヤーとしてイベントを行う必要があるのだと思います。
まちづくりを推進する行政側も財政面などの理由から企業の参入を望んでいます。行政と企業との上手なマッチングが成されれば、本当に豊かなパブリックスペースの活用につながるはずです。
ここまで話してきたパブリックスペースの活用を総括すると、基本的にまずは「私個人の妄想」にすぎないと考えています。ですが、その妄想をどんどん膨らませ、関係者と共有し、プロジェクトの将来像を組み立てていくことで実現できるでしょう。
そのうえでデータなどから、ビジョンと現状のギャップを埋めていきます。そのためのアクションをショートスパンとロングスパンに分け、できることから積極的に実験していくことです。実行しデータを得て、フィードバックを活かして再度実行することを繰り返すのです。その過程で当初の妄想が必ずしも正しくなかったと判明するかもしれません。そうした場合はまた再スタートすればいいのです。
いろいろな企業の方々と話していると「賑わい」というワードをよく耳にします。先に述べた通り、私はやはり単発的な取り組みではなく、ロングスパンで日常的に空間を活用することを目指したいと思っています。
そのためには、先に述べたとおり現状を鑑みてビジョンとのギャップを知り、どんなアクションを長期的にしていけばいいのかを模索しつつ、いますぐできるアクションでアイデアを検証し続けていくことが肝要なのではないでしょうか。
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