「#ビールとおしぼりで乾杯しよ 2020年のマーケティングを新年に語る夜」レポート前編

近年オウンドメディアなどの施策に代表されるコンテンツマーケティングや、2019年も盛り上がりを見せたコミュニティマーケティングなどにより、生活者に寄り添ったマーケティング手法が、多くの企業においても広がりを見せています。

一方で、そうしたマーケティング手法は、まだまだ手探りで取り組んでいるマーケッターの方も多いのではないでしょうか?

今回はコンテンツマーケティングやコミュニティマーケティングについてのトップランナーであるキリン・平山高敏さん、IKEUCHII ORGANIC・牟田口武志さんをお招きしたトークイベントを開催。ビールとおしぼりを片手に、2020年より一層広がりを見せるであろうコンテンツ/コミュニティマーケティングなどを中心に、お話をお聞きしました。

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ーー今日はコンテンツマーケティングやコミュニティマーケティングなど、いわゆる”ファンづくり”していきたいマーケッターが、日々のマーケティング活動の参考になる情報を持って帰っていただくことをゴールとしています。最初に登壇されているお二方の活動内容についてお話いただければと思います。

牟田口:こんばんは!IKEUCHII ORGANICの牟田口と申します。よろしくお願いいたします。私がIKEUCHII ORGANICに入社したのは4年半ほど前。前職はアマゾンジャパンで働いていて、その前はカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社にいました。今はIKEUCHII ORGANICで広報をしながらwebの担当や法人営業、お店回り、たまにお店に立って接客もしています。30人くらいの会社なので、色々なことをしていますね。今日来場されてる方の中で、IKEUCHII ORGANICを知っている人はどのくらいいますか?

牟田口:半分くらいでしょうか、今日は多いですね。だいたいこの質問をすると、100人のうち2人くらいしか手が挙がりません。IKEUCHII ORGANICは、今治タオルを作っている会社で、愛媛県今治市に本社があります。今治タオルは皆さんも聞いたことがあると思いますが、実は作っている会社は1社ではありません。今治タオルはブランドなので、100社ほどのメーカーが存在しています。もし今治タオルをお持ちの方がいたら、裏側に4桁の数字が書いてあると思うので、検索してみるとどこの会社が作っているかわかります。1社1社違ったものづくりをしていますね。IKEUCHII ORGANICでは「最大限の安全と最小限の環境負荷」を理念に掲げ、環境に配慮したものづくりをしています。いくら環境に良いものづくりをしていても、実際に使っていて気持ちの良いものでないとファンがつかないので、まずはしっかりと品質の高いものづくりを徹底しています。

ーーありがとうございます。次に平山さんお願いします。

平山:みなさんこんばんは!キリンホールディングス株式会社のデジタルマーケティング部の平山と申します。僕は1社目でインターネット広告の代理店で企画を担当していました。その後2社目でことりっぷという旅行ガイドブックのweb版やソーシャルまわり、コミュニティのプロデュースを5年ほど担当していました。そして1年半ほど前にキリンに入社しました。

入社後は「DRINX」というECサイトの読み物コンテンツの担当として、コンテンツ企画・編集・執筆などを行なっていました。その中でクラフトビールやワインなどの作り手に話を聞く機会があったのですが、とても面白かったですし、強い想いをもって作っていることがわかったんですね。それまではあまり作り手の顔を出したような記事はなかったのですが、担当していた「DRINX」で作り手のインタビューを載せたら反響が良かった。

こういったことをもっと発信することでファンとつながり、ゆくゆくはファンとのコミュニティを作っていくこともできるのではないかと思い、noteを使ってオウンドメディアの展開を始めることにしました。去年の4月からキリンのnoteを始めて、おかげさまで着々と読者の方が増えてきている実感があります。とはいえまだまだ課題はあるので、今日はコンテンツ周りでどんなことができるのかを皆さんとお話できたらと思います。よろしくお願いします。

ファンづくりの施策のはじめ方

ーーではさっそくお話に入っていきます。まず最初のトークテーマは施策のはじめ方。お二人とも東京の大企業と地方の中小企業と会社の規模や地域も違いますが、行っていることは近しいところもあるので、聞いていきたいなと思います。今回はコンテンツマーケティングやコミュニティマーケティングを一括りにすると、ファンづくりが共通かなと。なぜそういった取り組みを始めたのかをもう少し詳しく聞けたらと思います。IKEUCHII ORGANICさんではオウンドメディアの「イケウチな人たち。」がありますよね。

牟田口:はい。オウンドメディアの「イケウチな人たち。」は昨年の2月に立ち上げました。もうすぐ1年くらいで、noteも同じくらいの時期から活用しています。

ーーそれぞれどういった目的で使われているんですか?

牟田口:もともとIKEUCHII ORGANICには幸いなことに熱烈なファンの方々がいたのですが、オンライン上で可視化されていないという課題がありました。そこでBtoC向けにnoteを始めたのが、まずひとつですね。一方「イケウチな人たち。」というオウンドメディアはBtoBのお客様を紹介するメディアになっています。僕らの会社自体は67年目なのですが、今まではずっとOEMで相手先のブランドの製品を作っていました。10年前に自社ブランドの制作に取り掛かり始めましたが、IKEUCHII ORGANICのブランドを一緒に作っていきたいと言ってくださるBtoBのお客様は本当に熱量が高くて、どんどん広めてくれるんですね。とても素敵な取引先が多くてオウンドメディアを始めました。

ーー「イケウチな人たち。」ではどんな方を取りあげていらっしゃるのですか?

牟田口:お取引のある方を載せていますね。レストランで我々のおしぼりを採用してくださっている方や美容院の方など、熱量高く使っていただいている方々です。一部一般のお客様も載っています。

平山:「イケウチな人たち。」は書き手さんなどの記事を作成する人も熱量が高くて、それもひとつのコミュニティだなと思っています。どうしてもコンテンツを作るときには発注する側とされる側に分かれてしまいますよね。その中でファンからクリエイティブなものに変えているのはすごくいいなと思うのですが、何かきっかけがあったんですか?

牟田口:IKEUCHI ORGANICを知らないライターさんにお願いしても熱量がきちんと伝わらないなと思ったので、ライターさんもカメラマンさんも弊社の理念に共感して、商品を実際に使っている熱量の高い人にお願いしています。

ーーキリンさんはマスマーケティングをかなりやっていた中、ファン作りで狭めていった部分がありますね。

平山:そうですね。世の中的には若い方のお酒離れが叫ばれる一方で、クラフトビールなどの新しいカルチャーが注目されていて。そんなときにnoteでの企業からの発信として何ができるかと考えたときにnoteの特性を考えて、こちらから一方的に発信するだけではなく、「一緒にこれからの乾杯を考えませんか」というアプローチなんだろうなと思ったんです。先ほど申し上げたような「作り手の想い」を素直に伝え、読者の方と次のカルチャーを考えていく、そういったやりとりを繰り返すことで最終的にキリンへの愛着を獲得できるのではないかと思って始めました。

目的に合ったプラットフォーム選びをする

ーーIKEUCHIIORGANICさんは世の中みんなが知っているブランドではない中から、アプローチしていくスタイルですよね。

牟田口:noteを使ったのは、まさにそこに理由があるんです。IKEUCHIIORGANICの認知度はまだ2%だし、タオルを自分でわざわざ検索して買う人って多くないと思うんです。だから僕たちは情報を届けなければならない、もっと潜在的なところにアプローチをすることが重要としてnoteのプラットフォームを使うことにしました。

ーーnoteはユーザー同士で繋がったりと、SNS要素も強いのでブログメディアと一口で言えないような機能もついていますよね。コンテンツマーケティングではプラットフォーム選びも大事だとは思いますが、どのように選んでいったのでしょうか?

平山:キリンはInstagramもTwitterも運用していますが、我々が何を考えてどんな商品を作っているのかを伝えるときには140字のツイートでは収まらないほどの長文になってしまいます。さらに言えばキリンのサイトに置いただけでは、見にきてくださる方はステイクホルダーの方やキリンの商品を調べてにきた方など読者が限定されてしまいます。そこで、より長文をより多くの人に届けるには、noteがマッチしていそうだなと思ったんです。noteの読者であれば長文コンテンツに慣れていますし、自身で「言葉をもっている」方たちが多い印象があります。なのでnote開設時は、まずは企業としての考えをきちんと素直に伝えることに重点を起きました。そういった言葉に触れたnoteの読者がポジティブな声をプラスして、リファラルで拡がっていくと期待して始めました。

牟田口:IKEUCHIIORGANICはtoC向けでnote、toB向けでワードプレスを使ったオウンドメディアを運営しています。実は僕らはすごく写真にこだわっているので、スマートフォンで流し読みするよりはパソコンでじっくりと見て読んでほしいなという思いがあって、ワードプレスで立ち上げました。

ーーターゲットや施策に合わせて変えているということですね。

平山:TwitterもInstagramもそれぞれのユーザーに刺さるやり方があるとは思いますが、noteのユーザーは今までならコアなファンにはなってくれなさそうだった人が、コアになり得る可能性を感じたことが大きかったですね。

様々な視点からのアプローチでファンが増えていく

ーーファンマーケティングについて話していると、ファンは作るものではなく、自然にできるものだとおっしゃる方もいますが、どう考えられていますか?

平山:正解はないと思いますが…。キリンがnoteとコラボして「#社会人1年目の私へ」と「#あの夏に乾杯」という投稿コンテストを行ったんです。一見キリンとは関係のなさそうなテーマなんですけど、noteの書き手のみなさんの思い出の中にはお酒があることもありますし、そんな「乾杯の周辺にある物語」が想起できて創作意欲を掻き立てることができるお題として打ち出しました。実際に始めてみると「キリンさんありがとう」という言葉がすごく寄せられたんです。さらにはコンテストの受賞者の方を中心に十数人規模のキリンのファンコミュニティが出来上がったりもして。プロダクト起点で好きになってもらう方法は色々とあると思うのですけど、こういう形でもファンになってくれる可能性はあるんだと驚きました。

牟田口:僕らはメーカーなのでプロダクト有りきな部分はありますね。そもそもプロダクトがお客さんに喜ばれなかったり満足してもらえなければ、そもそもファンが作れない。タオルにこだわりがある方や、いいタオルを使いたいと思っている方には、商品を使ってもらっただけで違いがわかるとファンになってくれる場合もあります。

平山:本当に他のタオルとは違うんですよ。感動します。

牟田口:ありがとうございます。例えばIKEUCHIIORGANICでは通販も行っているのですが、オンラインだけでファンになるかというと、ならないんですよね。実際にお店でスタッフと話したり、商品を触ってみるといったオフラインの行動をしてみないと、ファンになりづらいのは感じています。オンラインでもオウンドメディア等で力を入れていますが、お店でのイベントも定期的に開催するようにしています。

ーーIKEUCHIIORGANICさんは工場見学のツアーも実施されていますよね。

牟田口:そうなんです。通常時、一般のお客様はIKEUCHIIORGANICの工場に入ることができません。ただ年に1回だけ開放していて、参加費8,000円で40〜50人の方が全国各地から集まってくださっています。

ーー今治までの交通費にプラスして8,000円なので、すごいですね。

牟田口:僕らも何ヶ月も前から準備をしていて、中には3年連続で来てくださっている方もいます。

平山:東京でもミートアップを開催されていますよね。僕も1回お伺いしたことがありますが、IKEUCHIIORGANICの大ファンの方もいれば、「イケウチな人たち。」に出ている方の世界観に共感された方もいらっしゃいますよね。コミュニティって好きな人たちが集まるので閉じてしまいがちですが、プロダクト起点ではなく、こちら側の言葉に興味を持って来てくれた人は自分自身に言葉を持っているので、プロダクト以外のところに触れて拡散してくれるんです。その拡散までがテクニックなのかなと。何十人から何百人まで広げていくには、ただファンを集めておもてなしするだけではだめなのではと思っています。

実は去年、note起点で「KIRIN BEER SALON」を始めたんです。もともと横浜の工場でビールセミナーを一般の方向けに行っていたのですが、単一のセミナーで閉じるのはもったいないと思い、セミナーの内容を一部リデザインし、オンラインでもオフラインで繋がれる「期間限定のサロン」にしました。さらにその募集記事をnoteで公開することにしました。noteの記事の中では、ビールセミナー講師とビールジャーナリストの方が対談しながら、ビールの面白さを語るだけではなく、ビールの将来について一緒に考えていきましょうと呼びかける記事にしました。

全5回のセミナーで2万円弱なのでちょっと高いのですが、蓋を開けてみれば20代のクラフトビールファンが多く集まりました。そして参加すると皆さん「楽しい!」「ビールって面白い!」」とイベントの様子をシェアしてくれるんです。ソーシャル上の発話数を測ってみるとセミナーが1回終わった段階でTwitterで200万リーチしていて。コミュニティ作りで大事なことのひとつは、発話させる発火点をどう作るかだと思うんです。

ーーIKEUCHIIORGANICさんは年齢層の高い方が長く使っている中で、若い世代にアプローチをしてますが、その理由はありますか?

牟田口:今までIKEUCHIIORGANICの商品は40〜50代の方がメインのお客様でした。タオルは1年中使うものなので、生活のシーンが変わるタイミングでこだわる人が多いんです。1番多いのが出産のタイミングなので、20〜30代の方にもきちんと知ってもらいたいなと思ってアプローチをしています。だたコアなファン方は新しいものに抵抗があるので、昨日も福岡に行って25年来のIKEUCHIIORGANICファンの方にインタビューしに行きましたね。

平山:もうやっていることが営業ですよね。人と人の繋がりを伝搬されていくのがコミュニティなので、人間力みたいなものはベースだと思っています。

コミュニティマーケティングは長期的な目線で見る

ーー特にコミュニティマーケティングは数字に出にくい部分だと思うんですけど、社内ではどのように説明していますか?

牟田口:IKEUCHIIORGANICは中小企業なので、そもそも宣伝予算が少ないんですね。その中でどうマスメディアにアプローチしていくかが大事な一方で、オウンドメディアやnoteもやりたいと思ったらさらにお金はかかってしまいます。社内で予算を確保するのも大変なので、今まで行っていたリスティング広告などをやめて、オウンドメディアを立ち上げました。アクセス数は減ってしまいましたが、売り上げは変わらなくて。熱量の高い記事が上がっているので、むしろちょっと増えたかなと。

ーー一時的にでも売り上げが下がるのではないかという懸念はなかったのでしょうか?

牟田口:短期的な目線で見ると数字的にはうまくいかないかもしれないとお話はしました。またPVや商品のクリック率などを目標にしてしまうとオウンドメディアはうまくいかないという事例も聞くので、「イケウチな人たち。」は成果を見る期間を1年後や3年後と長期的な視点で説明をしました。

ーーキリンさんはKPI目標などを設定されていますか?

平山:noteは始まってまだ半年くらいなので、具体的なKPIは作っているところなんですけど、PVなどの数字はなかなか難しいですよね。ただ、きちんと思いを込めて書いたらTwitter上で拡散されて1記事あたり30〜40万リーチしているものもあるので、数値的な効果はある程度出る見込みがあるというリアルな点がまずひとつ。

マーケティングがインナーブランディングにも繋がる

平山:もうひとつはこれまで中の人が表にでることがそんなに多くなかったので、社内の人にインタビューして記事を書くというのは喜ばれるんですね。よく聞くのは、記事が公開されるとインタビューされた方が社内の関係者にメールでお知らせするらしいんです。そうやって自分たちが日々丹念にやっていることが声として外に届くという実感は嬉しいようで、続けてほしい、今度は私たちを記事化してほしいという声もあがってきています。

ゆくゆくは「KIRIN BEER SALON」などのコミュニティの中にいる方たちを、我々が新しい取り組みなどを発表する場にご招待し、その場で感じたことを自発的に伝えてもらうような仕組みを作り、広報的な観点とマーケティングがクロスしていくことを今後やっていきたいですね。

ーーコンテンツマーケティングやコミュニティマーケティングはそういったインナー向けな側面もありますよね。

牟田口:IKEUCHIIORGANICの工場で働いている人はお客さんの顔がほとんど見えないので、「イケウチな人たち。」で可視化したのはありますね。レストラン「sio」 のシェフである鳥羽さんが出てくださったときは料理の話を一切せず、ずっとおしぼりについて語ってくれて。社内の人もすごく喜んでくれましたね。

平山:それを見て働きたいって思う人もいそうですよね。

牟田口:実はメディアを立ち上げて最初に問い合わせが増えたのは、採用の部分なんですよね。

平山:コンテンツマーケティングやコミュニティマーケティングって、実は採用やインナーブランディングにも繋がるんですよね。そこを踏まえた上で他の部署の方にも話すと「やりましょう」と言ってもらいやすくなりますね。好きだって言ってくれる人と繋がりたいのは、どの企業も同じなので。

後編に続く

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