vol.73
amana × STYLUS 2022年コミュニケーショントレンド予測
コミュニケーション変革をクリエイティブで実現するアマナが、世界中のさまざまなマーケットの潮流をリサーチし、イノベーションアドバイザリーを行うスタイラスと、トークイベントを開催。2022年に予測されるあらたなビジネス&クリエイティブトレンドをひも解き、これからの企業のメッセージ発信をあらためて問い直すような内容となりました。
第一部では、アマナの佐藤勇太をファシリテーターに、スタイラスの秋元陸さん、アマナのイメージングディレクター、コンスタンス・リカと企業のメッセージ発信について、語っていきます。
佐藤勇太(以下、佐藤):第一部のテーマは「Future Visualization」です。昨今、企業やブランドのあるべき姿を積極的に可視化して、世の中のさまざまなステークホルダーとコミュニケーションをとっていくことが非常に重要視されています。「ワールドワイドにはどのような事例があるのか」「どういった取り組みや心掛けが必要なのか」という点についてトークを進めていきたいと思います。
今回のメインスピーカーとして登壇してもらうのは、さまざまな産業のイノベーショントレンドをグローバルにリサーチしているスタイラスジャパン株式会社(以下、スタイラス)の秋元陸さんと弊社アマナのコンスタンス・リカの2名です。まずは、スタイラスの定量的なリサーチに基づく今後のコミュニケーショントレンドについて、秋元さんからお話をいただきたいと思います。
秋元陸(以下、秋元):よろしくお願いします。まず「今、なぜ企業がメッセージを発信していかなければならないのか」というところから、お話を始めていきたいと思います。
昨今、みなさんも肌で感じていらっしゃると思うのですが、広告においてダイバーシティ(多様性)に配慮することの必要性が高まっています。これは世界的な潮流と言っても過言ではなく、ダイバーシティを求める声というのは日に日に大きくなってきています。
例えば、2020年の「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」でBodyform社の《子宮の物語 (#wombstories)》が世界的に注目を集め、4部門の最高賞を獲得したことは顕著な事例でした。この他にもインクルーシブな社会を目指したブランドのクリエイティブ――例えば身体が不自由な人々を応援する意図のもとに制作された広告などが、非常に多くの人々の賛同を呼んでいるのが近年の広告の動向です。
また、多様性と同じくホットなトピックになってきている気候変動については、43%の人が「企業と事業」に責任があると回答しています。消費者が環境問題について積極的に取り組もうとするとき、政府や自治体と同じくらい、企業を重要なパートナーとして認識しているということです。
ひとつ目の事例として、キヤノンの事業「Truthmark」について紹介します。ごく簡単に言えば、このサービスの目的は既発表写真の真正性を保証し、その撮影者の意図を広く発信することにあります。このサービスに登録した写真は、誰がどのような意図で、どういう状況で撮影したかを示す付帯情報とともにデータベースに格納されます。Truthmarkのある写真について関心をもったユーザーは、データベースにアクセスすることで、その写真に関する真正の情報に閲覧できるというわけです。この事業の背景には、グローバル規模で社会問題化しているフェイクニュースの横行があります。こうした問題に対するキヤノンの取り組みのひとつがこのサービスなんですね。これによって撮影者が意図しない写真利用を減らし、ミスリーディングによる誤情報の拡散を防ぐことができます。
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また、セルフブランディングの観点から見ても、こうした取り組みは有効です。消費者がSNSなどによって自らのメッセージやクリエイティブを発信していくとき、どの企業の、どんな製品を使っているかということは自身の個性を表現するうえで非常に重要な要素になっていきます。「なぜキヤノンを使うのか」という問いに対する答えが、その人の個性を物語るわけです。企業にとって、消費者のアイデンティティ形成に貢献できるか否かは今後の重要なポイントです。また、そのためには「どのような企業か」を明確に打ち出していく必要があるでしょう。
単にいいことをやっているというより、この取り組みがアパレルブランドならではの社会貢献だからこそ、社会に対して強いインパクトとメッセージを投げかけているという点がポイントです。自社のユーザーがいまどんな困難に直面し、何を求めているのか。この問いに答えようとすることは、社会課題に積極的に取り組むことと同義です。そのようなブランドを選択することで、消費者は間接的に「社会貢献」することも可能なわけですね。また「ONE / SECOND / SUIT」の場合、サプライチェーンさえある程度整えられれば、新規投資はほとんど必要ないというのも事業の要点だと言えるでしょう。
佐藤:2つの事例には、まず企業としての社会責任というものが根底にあり、つくるべき未来を明快に可視化しているという共通点がありますね。「社会課題の解決方法」と「企業としてのミッション」がリンクしているからこそ、有効性のある事業や説得力のあるメッセージを展開していけるんですね。
秋元:日本企業が社会課題、例えば環境問題に取り組もうとすると、どうしても「プラスチックをやめます」とか「生分解性の素材を開発します」とか、R&Dの発想に走りがちです。しかし、耐久性があって長く使えるとか、リサイクル可能というだけでも環境負荷を軽減できると海外では認識されています。なので、サステイナブルなマーケットやブランドは日本にもすでにあって、必ずしも新しい商材を開発しなければ立ち行かなくなるというものではないんです。
「いいものを、より安く」という競争が行われて久しく、その点では消費者の目も肥えてきています。ですから、価格以外で「そのブランドを選ぶ理由」というのが消費のインセンティブとして求められている感があります。
佐藤:「ブランドを選ぶ理由」に世代間の差はあったりしますか?
秋元:Z世代やミレニアル世代は、SNSで自ら情報発信していくことに慣れた世代です。彼ら自身がセルフブランディングをしていくうえで企業の質は重要ですから、ブランドを選ぶ理由について考える人は若い世代に多くなっていますね。
佐藤:企業が未来を可視化していくうえで大切な考え方があるとすれば、それはどんなことですか?
コンスタンス・リカ(以下、コンスタンス):未来を可視化していくうえで大切な考え方は2つあります。ひとつは「SFプロトタイピング」、もうひとつは「スペキュラティブデザイン」です。前者はサイエンスフィクションを用いて未来のかたちを構想して、そこからバックキャストして「いま、これから何をすべきか」考える手法です。反対に、後者は将来起こりうる重要な問題を特定し、それについて議論するためのデザイン提案を指します。言い換えると、前者はあらゆる可能性を追求する「発散・探求」型の思考、後者は特定の課題を解決するための「収束・議論」型の思考だと言えます。
佐藤:企業がスペキュラティブデザインの手法を導入したいと思ったとき、何が必要ですか?
コンスタンス:まずはエキスパートとのコラボレーションですね。この世にまだないもの、存在しない問いを見つけなければいけないので、高度な知識をもつ専門家との協同は欠かせません。もうひとつ必要なのは、そのコミュニケーションの過程と帰結をビジュアライズするパートナーの存在ですね。
佐藤:なるほど。どのようなマインドがあると導入が成功しやすいと思いますか?
コンスタンス:やはり「アート思考」ですね。スペキュラティブデザインはないものを想像/創造しないといけません。思考を飛躍させ、議論を発展させていくというマインドが重要ですね。
佐藤:一方、スタイラスも世の中のさまざまな企業にイノベーショントレンドをインプットしているわけですが、企業のみなさんがアウトプットのときに「つまずくポイント」というのもたくさん見ているんじゃないでしょうか?
秋元:はい、いくつかありますね。まず「共通言語をつくる」というのは、ほとんどの企業にとって難しいことだと思います。私も常々意識しているのは、ビジュアルベースで議論を進めていくということです。例えば、何かの事例を提示するときでも、動画や写真をベースにして、課題や論調を共有していくことを重視しています。
あと、先ほどコンスタンスさんのお話にもあったように「発散と収束」を往復しながら議論を進めていくというのも必要です。日本の企業にわれわれが事例を紹介すると、ときどき「これは大手企業だから/有名ブランドだからできたことだよね?」と聞かれることがあります。しかし、大切なことはマネできるかどうかではなくて、自分たちがここから学ぶべきことは何なのかを見極めることです。ですから、事例からアイデアを発散させ、自分たちは何が必要か・何をしなくてはならないのかと収束させていく。ここを行ったり来たりすることが大切ですね。
佐藤:コンスタンスさんは、企業の未来予想図を可視化するお手伝いをしているわけですが、企業のみなさんはいま現在、どんなことで悩んでいるんでしょうか?
コンスタンス:未来志向とは言われるものの「結局いま何をするべきかわからない」という悩みを抱える企業は多いですね。ただ、そうは言ってもみなさんモヤモヤは頭の中にあるんですよね。漠然とした方向だけが分かっている。私たちはそのモヤモヤをクリアに可視化するお手伝いをしています。モヤモヤが「ビジョン」になったとき、初めて共通認識が生まれます。そうやって事業が動き出していくと、みなさんすごく喜ばれますね。
佐藤:海外のベンチャーは、何よりもまず「ビジョンの可視化」に投資をしている印象がありますよね。
秋元:はい、そう思います。日本のマーケットは良くも悪くも、同じ価値観や生活水準をもった人々がマジョリティなので、たいていのことは「なんとなく」共有できてしまうんですよね。でも、海外の国々だとそうはいきません。言語、肌の色、宗教、経済状況などさまざまな差異や格差があるなかでは、多くの人々のあいだに共通認識をつくることが最初の大きなハードルになります。
コンスタンス:「こう書けばわかるだろう」「行間を読んでくれるだろう」と日本語ベースでコミュニケーションをしていても、実は分かっていない・伝わっていないということは意外と多いんですよね。
秋元:共通認識をつくるうえで「言語よりも数字をベースにコミュニケーションしましょう」という作法は日本のビジネスシーンにも浸透しつつあります。しかし今後は、ビジュアルやイメージが数字に匹敵する存在になってくると思います。目で見た印象やビジュアルから得る感覚というものは、言語や数字以上に認識のギャップを埋めてくれるんじゃないかと。
佐藤:インナーコミュニケーションにおいても、また対外的な発信においても、この「認識のギャップを埋める」という考え方は重要ですよね。特に生活者の価値観が多様化する現在においては、より重視して取り組むべき課題だと思います。
コモディティ化が加速する現在、「何を買うか」よりも「誰から買うか」に生活者の価値観はシフトしています。言い換えれば、社会課題と向き合い、より良い未来のために努力する企業にこそ、注目が集まる社会になってきているとも言えます。ゆえに、企業にとって今後ますます重要なことは「未来を可視化し、共感を生み出していくこと」です。
自分たちがどんな未来を実現しようとしていて、どのようなプロセスを歩んでいこうとしているのか。そのストーリーを「ビジュアルイメージによって共有していく力」が求められていると言えるでしょう。まずはインナーに対して、次にアウターに対して、イメージによって未来のかたちを提示して共感を生み出す必要があるということです。上質なインプットの仕組み/アウトプットの仕組みをどう構築していくか。この点について改めて考えていただければと思います。
後編に続きます。